重ねるが世代の問題でも地域の問題でもなく、町長個人の行動が大勢の職員を苦しめ、声を上げなければならないほどに追い詰められるという最悪の事態を招いてしまった。時代のブラッシュアップ、アップデートを以前からルポルタージュやコラムを通して伝えてきたが、町長の場合はどちらかというと思想家ウィリアム・ジェームズ言うところの、

〈思考が言葉となり、言葉が行動となり、行動が習慣となり、習慣が人格となり、人格が運命となる〉

 に尽きるように思う。世代や地域、男性女性関係なくこうした「運命」にならぬよう、他山の石としたい。

 

 

 

 ハラスメントの問題が浮上すると、それを男女や世代、地域などの社会的な要因からくる受け止め方の差によるものだと結論づける人が多いだろう。だが、本当にそれは問題に関わる人たちの属性の違いが引き起こす摩擦なのだろうか。涙を流して辞任を決めたと会見したことでも話題の岐阜県岐南町の小島英雄町長(74歳)が起こしたセクハラ行為とパワハラ行為の数々をめぐり、世代や時代が違うからという弁明は事実と合っているだろうか。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、時代や世代を理由にしがちなことに対する高齢者の本音と不満を聞き、問題の本質を考える。

 

* * *
 

「年寄りだって他人の頭、まして大人の女性の頭をなでたりなんて普通はしないよ。年齢とか時代じゃなくて、岐阜の町長がおかしいだけだ」

 東京都心、筆者と高齢者の方々の集まり。参加した70代から80代男性の方々から出た声は「普通はしない」だった。

「普通しないよ、高齢男性だからって決めつけられたくない」

 その「普通しない」行為を始めとする行為の数々、いやそれ以上の行為の数々を繰り返していた彼らと同世代、74歳の町長がいた。彼は当初「私らの時代は頑張った子の頭を撫でた」としていた。

 その岐阜県羽島郡岐南町の小島英雄町長(本稿、肩書きは2月29日当時とする)が女性職員ら複数に日常的なセクハラ行為、男女問わずのパワハラ行為を続けていたとされる問題である。

 岐南町は弁護士らによる第三者委員会を立ち上げて全職員(退職者含む)271人(男性134人、女性137人)にヒアリング(回答者205人、男性102人、女性103人)した結果、少なくとも99件のセクハラ行為があったことを認定、そのセクハラ行為の内容の詳細を2月27日、「調査報告書」並びに〈町長による不必要な身体接触・不快な言動の一覧〉というリストとともに公開した。

(※以下、本稿〈〉内はすべて2月27日発表の調査報告書より抜粋)


〈「頭をポンポンと触る」行為が、回数としては最も多く見受けられ、各人において回数の差はあるものの、ヒアリングに応じた女性職員の内22人から不快であるとして、被害申告があった。〉

〈多かったのは、女性職員の手に触れる・触れさせようとする行為であった。手法としては、「手相を見たる」等と言って女性職員に手を出させ触れる、あるいは「俺の手は白いやろ(すべすべやろ)、さわってみ」などと言って手を触らせようとするという方法〉

〈「俺の足は白いやろ(「すべすべやろ」と言う場合もある)」などと言ってズボンを膝近くまでまくりあげ、みせつける又はさわってみろと言う行為も多く、これはヒアリングに応じた女性職員の内7 名から不快であったとして、被害申告があった。〉

 

 
〈被害内容は「町長から、突然、胸を触られ、お尻を触られた。」というものであり、刑法上の強制わいせつ罪(刑法 176 条。なお、令和 5 年 7 月 13 日以降の行為に関しては、「不同意わいせつ罪」として新設されている。)に該当する可能性がある行為も認められた。〉

 報告書について伝える報道の中には、「町長と同世代なら普通のこと」と考えていると受け取れるような街の声をとりあげたものがあった。だが、それはあまりに恣意的ではないだろうか。

職員の人事にも影響か
 ともあれ調査報告書の概要は〈強制わいせつ罪に該当する可能性がある行為〉と指摘される厳しいものであった。報告書ではセクハラ認定99件の大半を町長の行為の内容とともに列挙している。

〈町長は上司のみを帰室させ、女性職員と二人きりになってから、頭をポンポンと触る〉

〈女性職員に対してだけ、露わにした脛を、単に見せつけるにとどまらず、「触ってみ」と申し向ける行為〉

〈パンツルックの女性職員と会話する中で、「じゃあ、下に履いとるものはなんていうんや」などと質問し(中略)「パンツ」という言葉を言わせようとした〉

〈女性職員が残業している際、後ろから近づきポニーテールにしていた髪の毛に手を触れ揺らす〉

〈女性職員に対して「更年期じゃないのか、生理は終わったのか」などと聞く〉

〈突如、立ったまま電話対応していたA(女性職員)のお尻を触った。後日、町長はAに対して、「まあ、あれは挨拶みたいなやつや、嫌やったらごめんな」「何か俺がお尻を触ったと爆サイ(匿名掲示板)で噂になっとるらしいけど言ったのAじゃないよな」〉

〈C(女性職員)を町長室に呼び出し、胸のあたりに違和感があるから診てほしい旨を言って、シャツのボタンをはずし、胸のあたりを露わにする。(中略)Cが立ち上がった瞬間、突如、Cのお尻を触った〉

〈ロングスカートを履いていたF(女性職員)に対し、スカートから見えているくるぶし辺りを指し、「寒くないか」などと言って、さするように触った〉

 あまりに多く紹介しきれないためここまでとするが、女性職員のAからHまで具体的な内容の8名はとくに〈深刻なセクハラ行為〉としている。
 
 またセクハラだけでなく男女問わずのパワハラについても〈時間外朝礼の強要〉〈育休取得(男性職員)の際の不当発言〉〈お茶菓子の買出しに関する同行の強要〉などこれまた辛辣な内容が列挙されている。

 とくに〈(町長の)私的な理由による会計年度任用職員の更新拒絶〉にあっては〈町長とトラブルのあった親族であったという理由だけで、辞めさせるように担当部長に指示をした〉〈あえて評定点数操作をさせた〉としている。いっぽうで〈女性職員について「可愛い。特別だ。」と話し、「その子の言うことなら」とそのまま聞き入れて、そのお気に入りの職員の良いように人事を動かしていました〉とある。

〈岐南町役場は町長の言う事が絶対みたいなところがあり誰も逆らえない〉

〈町長は職員を自分の所有物と勘違いしている〉

 職員のこの言葉通りとするなら、このような町政が2020年11月16日の就任から続いていたということか。岐南町に限らず非正規公務員の問題はこれまでも報じられてきたが、同町では町長自ら非正規公務員の更新という「彼らの生活」ひいては「彼らの人生」を「気分」で決めていたと言われても仕方のない報告内容となっている。調査報告書でも、

〈町長が人事を掌握し、人事管理の面から職員を統制している実態があった〉

 と指摘している。

 これらについて、とくにセクハラとされる行為について「私らの時代」と世代の問題とした町長だったが、冒頭に紹介した都心に住む高齢者のみなさんは口々「世代や時代の問題じゃない」と憤る。

「若い女性の頭なんか触らないよ。いまでは子どもだって他人様の子どもは気を使う、というか、なるべく関わらないくらいだ」

 町長は会見で「私らの時代は頑張った子の頭を撫でた」と時代=世代の問題として釈明したが、そうではないということか。

「世代じゃなくて町長個人がおかしいんだよ。赤の他人の女性に触るなんて、こっちだって逆に怖いよ。高齢者で若い女性を狙う人もいるかもしれないけど、それは世代じゃなく『「そういう変なの』だよね」

なぜ地方自治体で暴走が目立つのか
 確かに、みなさんの周りの高齢者、身内でも構わないが、この町長(当時)の行為を繰り返す高齢者男性などほとんどいないはずだ。というか、いてもかなり特殊例というか、明らかに世代の問題でなく、その人の問題だ。

 これまで町長は2023年6月の週刊誌報道で辞職を否定、町長に対する辞職勧告決議案も1票差ながら否決された経緯がある。これについて報告書によれば〈町長が辞職されたとしても、町長が町民である限り、議員を通じて不利益が生じることがあるのではないかと恐怖です〉と回答した職員の声がある。世代の問題、都会と田舎の違いとかでなく町長の問題、それによって〈異常な町政〉のまま来てしまった岐南町の不幸、ただその一言に尽きると思う。
 
 それにしても町長はなぜ、調査報告書の通りとするなら、まるで中世の暴君のような行為を繰り返し、君臨してしまったのか。

 思想家ミシェル・フーコーは「権力」についての論考でも知られるが、その中には「権力は上からでなく下から作られる」という言葉がある。もちろん誰もがそうなるわけでなく、本人のパーソナリティも重要な因子のひとつではあるが、なるほど町長も選挙で選ばれた。1票差とはいえ辞職勧告決議案は否決された。否決もまた、選挙で選ばれた町議会議員の多数決によるものだ。

 実のところ、多くの地方自治体でここまで酷くなくとも首長や市町村議員の暴走が目立つ。いや、政府・自民党そのものが政治資金パーティー収入の裏金問題と税金逃れという状況、結局のところ同根のように思う。

 実際、第三者委員会の調査報告書には職員の証言としてこうもある。

〈町長からの食事の誘いを断った職員に対して、町長お気に入りの部長を介して、女性職員に食事に行くよう強要したと後輩から聞いております。応じたくないと一生懸命に対応する後輩にそのようなことを強要していると思うとただただ不快です。そのような協力者がいるからこそ、助長されていたところもあります〉

 まさに「権力は上からでなく下から作られる」そのものだろう。歴史上で否定的に語られる権力者の中にも、どれだけこうした〈不快〉な「協力者」がいたことか。世代関係なく、みなさんの会社組織や地域コミュニティ、ともすれば家庭にもそうした身に覚えがあるかもしれない。

 第三者委員会の認定を受けての会見では泣き出してしまった町長、それでも当初は5月末まで町長を続けるとしていたが「心が折れた」と3月5付で辞職することになった。報道によれば実兄に怒られたことも理由だったようで、世代の問題でなく実兄はちゃんとしていた、しかるに町長は、ということか。

 重ねるが世代の問題でも地域の問題でもなく、町長個人の行動が大勢の職員を苦しめ、声を上げなければならないほどに追い詰められるという最悪の事態を招いてしまった。時代のブラッシュアップ、アップデートを以前からルポルタージュやコラムを通して伝えてきたが、町長の場合はどちらかというと思想家ウィリアム・ジェームズ言うところの、

〈思考が言葉となり、言葉が行動となり、行動が習慣となり、習慣が人格となり、人格が運命となる〉

 に尽きるように思う。世代や地域、男性女性関係なくこうした「運命」にならぬよう、他山の石としたい。

【プロフィール】

日野百草(ひの・ひゃくそう)/日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経て、社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。