支持率最低でも岸田首相が国民の声を聞かない理由 「諸悪の根源」国会議員票で決まる自民党総裁選のルールを変えろ! 古賀茂明

 
私は自民党事態を解体させる方に力を注ぎたい。自民党内にはもうすでに良心派といわれた『ハト派」は存在しない。しかし民意を少しでも反映される体質に自民党を変貌させるには…。アメリカという大国が財界・富裕層が自民党を動かし、地方議員はそのボスたちに踊らされ…。難しい課題である。
 
 
 安倍派、二階派、岸田派などの裏金疑惑で自民党への信頼は地に落ちた。

「火の玉になって」改革に取り組むと言った岸田文雄首相は、派閥を政策集団に衣替えすれば存続可能という信じられないような方針に後退。政党や個人の政治資金パーティーも温存、企業・団体献金の禁止に反対、政策活動費の廃止も拒絶というように、はっきり言って、ほとんど改革する気がないかのような言動を続けている。

 このままでは、支持率はさらに下がり、4月の3つの国政補欠選挙でも大敗して岸田おろしにつながりかねないという話さえ聞かれる中で、岸田首相がここまで改革に抵抗しているのはなぜなのだろうか。

 とても大きな謎のような気がするのだが、結局のところ、2月9日の本コラムで指摘したとおり、日本の総理大臣は、国民ではなく、ほとんどの場合、事実上自民党員と自民党の国会議員が選んでいるということが最大の原因なのではないかと思う。

 さらに言えば、自民党員と国会議員で選ぶと言っても、総裁選の決選投票では、党員票は都道府県票として加算されるもののそのウェイトが非常に低い。結局は国会議員票で決まるのが現実だ。それが諸悪の根源なのではないか。

 このルールを前提にすれば、結局国会議員の仲間を増やすことが、国民はもとより一般の自民党員の支持を集めるよりも重要だということになってしまう。

 したがって、今回の政治資金問題への対応でも、一般国民世論や自民党員の声に耳を傾けるよりも、自民党の国会議員の声を重視することがより合理的だということになるのだ。

 そこには、無理に改革を進めると岸田政権を支えてくれている麻生派、茂木派が怒るという事情がある。彼らは、いまだに派閥解消に舵を切っていない。また、それ以外の議員にとっても、企業・団体献金を禁止されれば収入が激減して大きな痛手になるし、政策活動費が廃止されれば、外部の目を気にせずに自由に使う金が少なくなるので、これまでの活動のやり方を根本から変えることを強いられる。

 だから自民党国会議員から見れば、どう考えても大きな改革には反対ということになるわけだ。とりわけ、巨額の政策活動費を使っていた派閥の領袖たちが猛烈に反発するのは必至だ。

 このように考えて、岸田首相は、国民の人気を取るために無理に改革を進めるよりも、支持率が下がっても、国会議員の激しい反発を買うことを避けようということになってしまうのだと思われる。

 本気での改革ができない原因の根底に自民党総裁選のルールがあるのなら、それを大きく変えなければならないということになる。

 そこで、まず、現行の(2021年の総裁選の)ルールを見てみよう。

 総裁選に立候補するには国会議員20人の推薦が必要だ。

 その上で、1回目の投票が行われる。投票できるのは自民党の全国の党員・党友(党員は約110万人。党友は資金集めの団体である自由社会を守る国民会議と国民政治協会の会員。2万人程度と言われる)と自民党の国会議員だ。その票数は、国会議員は1人1票で、党員・党友票(以下党員票と呼ぶ)には国会議員票の総数と同じ票数が割り当てられる。
 
21年の総裁選では、国会議員が382人いたので国会議員票が382票で、党員票も382票が割り当てられた。投票が行われた後、党員票については、各候補者に「ドント方式」(各候補者の総得票数をそれぞれ1、2、3、4……と自然数で割っていき、得られた商(得票数)の大きい順に議席を配分する方式。参議院・衆議院の比例代表選挙などで用いられている)で票数が割り当てられる。

 各候補者の国会議員票と割り当てられた党員票の合計がその候補者の得票数になる。1人で過半数の得票(21年の場合は383票)が集まれば、その候補が総裁に選ばれる。

 一方、1人で過半数の得票を取る候補者がいない場合は、得票数の多かった順で1位と2位の候補者のみによる決選投票が行われる。

 決選投票で集計されるのは、国会議員票と47の都道府県票だけだ。
 
 割り当てられる票数は、国会議員も都道府県もそれぞれ1票ずつ。都道府県分は全部合わせても47票しかない。それが2人の候補に分かれるわけだ。したがって、勝敗は国会議員票でほぼ決まってしまう。

 21年の総裁選では、河野太郎、岸田文雄、高市早苗、野田聖子の4氏が立候補した。

 河野氏は、国会議員票86、党員票169、合計255票。岸田氏が議員票146、党員票110、合計256票。高市氏が議員票114、党員票74、合計188票。野田氏が議員票34、党員票29、合計63票だった。

 どの候補も有効投票総数762票の過半数の382票に達しなかったので、上位2人の岸田氏と河野氏による決選投票となった。

 決選投票では、岸田氏が議員票249、都道府県票8、合計257票。河野氏が議員票131、都道府県票39、合計170票だった。岸田氏の勝利だ。

 この結果を見ると、1回目の投票では、河野氏が党員票の44%を取った。決選投票でも河野氏は、都道府県票の83%を取っている。

 しかし、国会議員に嫌われていたので、そちらで大差をつけられ、岸田氏に負けたのだ。党員の意見だけで決めれば、もちろん河野氏の大勝だっただろう。

 この結果を受けて、河野氏は次期総裁選に向けた作戦を考え直したようだ。

 まずは派閥の親分である麻生太郎氏に忠誠を示して、できれば麻生派として河野太郎を推してもらおうとする作戦だ。それと同時に、お酒も飲めないのに毎晩国会議員との飲み会を重ねて「お友達」を増やそうと「精進」を重ねているそうだ。

 総理になるためには仕方のないことかもしれないが、河野氏が議員仲間に嫌われても正論を吐くという場面は急速に減ってしまったように見える。脱原発発言も完全に封印されてしまった。

 こうした行動を続けた結果どうなったか。

 党員の支持を失い党員票が大きく減少しかねない状況となっていることは、2月9日の本コラムで紹介した自民党員調査にもくっきりと表れていた。

 ちなみに、12年に安倍晋三元首相が総裁に選ばれた総裁選では、5人の議員が立候補したが、1回目の投票では、石破氏が党員票165票(55%)だったのに対して安倍氏は87票(29%)と石破茂氏の半分強しか取れなかった。

 しかし、安倍氏と石破氏の決選投票では、国会議員票のおかげで安倍氏が逆転して総裁に選ばれたのだ。党員票を完全に無視した結果だとして当時も問題になった。

 このように、自民党員の意見に反した総裁選びが行われて、その人が半自動的に日本の総理大臣になるということは、大半の国民が最初から支持していない首相が常に日本の政治を取り仕切ることになりかねないということを意味する。

 やはり、自民党総裁選のルールを根本から変えて、一般党員の支持によって総裁が選ばれるものにしていくことが求められるのではないだろうか。

 ルールの変更を具体的にどのように行うかについては、さまざまな考え方があるだろう。

 一番わかりやすいのは、1回目の投票では、党員だけの投票とし、過半数を取る候補がいない場合の上位2人による決選投票でも党員だけで投票するという仕組みに変えることだ。

 そのほかの考え方が、国会議員票の割合を少し減らすだけというものだろう。減らす度合いを高めていけば、党員だけの投票に近づいていくが、あまり減らさなければ現行とあまり変わらない。

 次期自民党総裁選は、一番遅くても今年の9月に行われる。直前にルールを変更するのは困難だろうから、急いで変更を行うべきだ。

 これまで問題とされてきた派閥は総裁選のためにあったという側面もある。また金がかかるのは、総裁選に向けた多数派工作のためとも言われてきた。それらを勘案すれば、総裁選における議員票の割合は、極力小さくして、議員の声を聞くよりも国民(党員)の声を聞くことの方が、総裁選を勝つためには重要だという構造を作ることが必須である。

 再選を狙う岸田首相やポスト岸田の候補だと目される茂木敏充幹事長はいずれも、そのような改革には後ろ向きだと思われる。なぜなら、彼らのライバルである石破氏や河野氏、さらには高市氏や今人気急上昇中の上川陽子外相などの方が岸田氏や茂木氏よりも多くの党員票を獲得できると見込まれるからだ。

 1月22日の東京MXテレビの番組で、石破氏が党総裁選のルール見直しを提起した。「党を支えているのは地域だ。総裁の決め方も党員票の比重が上がっていいのではないか」という趣旨の話をしたという。もっともな主張ではないか。

 ただし、石破氏がこれを主張しても、岸田氏や茂木氏など総裁選を取り仕切る立場にある党幹部は、石破氏が、自分が有利になるように動いているだけだとして相手にしないと考えられる。

 河野、高市、上川各氏らの有力な候補者や小泉進次郎氏など世論に影響力のある議員が、できれば若手議員を巻き込んで、総裁選ルールの改革を提言すれば、国民の支持が得られ、岸田氏らも無視できなくなるのではないだろうか。

 都道府県連などもそうした提言をすることが期待される。

 自民党政権が続くことを期待するわけではもちろんないが、仮に国会で自民党の過半数の状況が続く場合に、少しでも民意を反映した事実上の首相選びが行われるように今述べた改革が実施されることは有益だ。

 2月9日の本コラムで紹介した調査では自民党員の自民離れが進んでいることが示されたが、党員の中でそれだけ不満が高まっているのであれば、総裁選改革を求めて、自民党の党員が声を上げてくれる可能性もある。

 さらに言えば、この改革を自民党員の行動に委ねるだけでなく、国民も自分たちの問題として、民意を反映するための総裁選ルールの抜本改革を自民党に要求していくことが必要なのではないだろうか。