主張

GDP4位に低下

内需を温めて「成長する国」へ

 
 かつて「経済大国」などと言われ、米国に次いで世界第2位だった日本のGDP(名目国内総生産、実額=ドル換算)は、2023年、ドイツを下回り4位になりました(15日、内閣府発表)。2010年に中国に抜かれて3位になって以来の“転落”です。

 ドイツの人口が日本の3分の2であることを考えると、国民1人当たりでは、ドイツと日本で1・5倍の経済格差がついたことになります。この間の日本の経済停滞を象徴するものとしてショックをもって受け止められています。

「コストカット」型経済
 世界のGDPに占める日本の割合は1994年の17・8%をピークに低迷しました。1人当たりGDPでは、2022年にイタリアに抜かれ主要7カ国(G7)で最下位です。

 日本のGDPが4位になったのは、最近の円安でドル建てだと低く評価されるとともに、「失われた30年」とよばれる停滞に陥り、「成長しない国」になったことがあります。

 この間、大企業は「コストカット」のために、リストラと労働者を非正規雇用に置き換える「構造改革」をすすめてきました。日本経営者団体連盟(日経連)が1995年に発表した「新時代の『日本的経営』」は、雇用を短期の「雇用柔軟化グループ」をはじめ、中期、長期の三つに分け、雇用の流動性を高める提起をしました。それを受けて、労働法制の規制緩和が実施され労働者派遣が原則禁止から原則自由に変わり、非正規雇用は4割を占めるまでに拡大しました。低賃金・不安定雇用の非正規公務員や、ギグワーカー、フリーランス、クラウドワーカーなど不安定・無権利状態で働く人の多い職種が広がっています。

 非正規労働者の拡大は、非正規だけでなく正規労働者の賃金も下げ、日本を「賃金の上がらない国」にしました。企業の社会保険料負担を減らすことにつながり、社会保障の連続改悪を招きました。消費を冷やす消費税は連続的に増税され、法人税減税の穴埋めに消えました。財界の要求に従ったこれらの政策が暮らしを痛めつけ、GDPの過半を占める消費を抑制し、内需を低迷させました。

 自民・公明与党の2024年度の税制改正大綱は「(法人税減税という)近年の累次の法人税改革は意図した成果を上げてこなかった」「『コストカット型経済』の下で、賃金や国内投資は低迷してきた。賃金水準は実質的に見て30年間横ばいと他の先進国と比して低迷」とこれまでの自らの経済・財政政策を問題にしています。ところが、両党は、依然として消費税減税に背を向け、社会保障の改悪と大企業優遇の税・財政政策を続けています。

賃上げと待遇の改善を
 内閣府の2023年度版の日本経済レポート(『ミニ経済白書』)は、「収益など企業部門は好調である一方、これが賃金や投資に十分に結び付かず、内需は力強さを欠いています」とのべています。

 内需を温めるためにも、最低賃金を時給1500円に上げることや、ケア労働者の賃金を国の責任で引き上げること、非正規ワーカー待遇改善法(仮称)をつくり待遇改善と正社員化をはかるとともに、暮らしを支え格差をただす税・財政に転換すべきです。
 
 

GDP4位転落 「一過性」では済まされぬ

 
 経済大国と胸を張れた時代は、もはや昔話なのか。

 2023年の名目国内総生産(GDP)が、日本の人口の3分の2に過ぎないドイツに抜かれ、4位に転落した。

 10年に中国に抜かれ、2位から後退して13年。ドイツとは00年に2・5倍もの開きがあったのに逆転され、3年後にはインドにも抜かれる見通しというから残念だ。

 転落の要因は、歴史的円安でドル換算の数値が目減りしたことが大きい。ただ、円ベースでは折からの物価上昇もあり、前年比5・7%増と1991年以来の高い伸びでもある。「一喜一憂しない」という政府の受け止めも、分からなくはない。

 しかし、今の円安は政府が招いたものだ。物価高などの副作用は深刻で「円安による一過性の現象」と強調したところで、市場が円高に戻るとも限らない。岸田文雄首相はもっと真剣に、成長を促す対策に取り組むべきだろう。

 日本は少子化と高齢化で生産人口が今後も減り続ける。その状況下でGDPを増やし、国民生活を豊かにしていくことは並大抵ではない。賃上げと設備投資を積極的に進め、経済の実力を表すともいわれる「潜在成長率」を高めることが不可欠になる。

 安倍政権の轍(てつ)を踏んではならない。アベノミクスは円安と株高でその機会を創出したが、結局は企業が内部留保を増やしただけだった。

 90年代には5%近くあった潜在成長率が1%を割ったままなのは、企業が設備や人への投資をせずに内向きな経営に終始してきた結果だろう。巨額の財政出動をしながら国民生活が向上するどころか、低下してしまった失敗を繰り返してはなるまい。

 現下の経済情勢は楽観できない状況だ。国民が物価高に疲弊したのか、個人消費が落ち込み、直近のGDPは2四半期連続のマイナスに沈む。景気腰折れの懸念さえある。

 岸田首相は賃上げを声高に連呼するが、大幅賃上げがあった23年も実質賃金は2・5%もの目減りだった。物価上昇を大幅に上回る賃上げが実現できるかは、極めて微妙と言わざるを得ない。

 日本の1人当たりのGDPは既に経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中21位、先進7カ国(G7)では最下位と目を覆いたくなる。経済大国を自負できるどころか、国際社会、とりわけアジアでの発言力低下が避けられないことを直視すべきだろう。

 成長には、労働市場の流動性を高め、ITやデジタル技術などの分野を深化させる挑戦がなにより重要になる。人手不足を補うために定年制を廃止して高齢者の就労を促進し、女性や外国人の雇用拡大にも力を入れねばなるまい。成長分野に人材や資金が十分供給できるような制度改革も必要になるはずだ。

 日本の株価がバブル期を超えるような上昇機運に乗っていることは追い風には違いない。春闘での賃上げも含め、将来の成長につながる経済の好循環が本当に実現できるかどうか。岸田政権の浮沈が問われる正念場である。