ペテン師維新に騙されなるか!

日本維新の会・馬場伸幸代表は1月16日、会見で「北陸と大阪は歴史・地理的に絆が深い。万博成功が震災復興や経済活性化につながる」と述べている。絆が深いから、万博が成功すると復興につながる。よく意味がわからない。正直、意味なんてないのだろう。そういう雰囲気を高められればいい。東京五輪も大阪・関西万博も「機運醸成」に悩まされた(悩まされている)。どんな要素でも醸成に使おうとする悪癖が、今回も「復興」に向けられている。許容してはいけない。
 

 

 

能登半島地震の「復興」が、大阪・関西万博の「機運醸成」に利用されようとしている。

 

復興五輪の後は、復興万博?
2月6日、「東北復興、そして先にある未来へ」と題したシンポジウムが開かれた。東京オリンピック・パラリンピックでは、復興を横取りするように「復興五輪」との名称を走らせ、国民からの支持を得ようと画策していた。まもなく東日本大震災の発生、そして、福島第一原子力発電所事故から13年の日を迎えようとしているが、福島県のウェブサイトによれば昨年11月の時点で、避難者数は26609人(県外避難者20558人・県内避難者6046人・避難先不明者5人)と出ている。この人数に驚いてしまう自分の認識が情けない。原発事故後の燃料デブリの取り出しも依然として進んでいない。「復興五輪」は、まさに言葉だけを借りて、民意を引っ張ろうとした。そういった活用ではない限り、東北の復興、そして未来を考え続けるのは大切なことだ。

だが、シンポジウム「東北復興、そして先にある未来へ」が、「宮城県×大阪・関西万博 機運醸成シンポジウム」と銘打って開催されていたと知ったらどうだろう。案内文には「東日本大震災という逆境から力強く立ち上がる東北の姿を世界に発信するため、『宮城県×大阪・関西万博』について皆様とともに考えます」と書かれている。東京五輪がそうだったように、大阪・関西万博も「復興」を活用し始めているのだ。自見英子万博相がビデオメッセージを寄せ、「震災という逆境から力強く立ち上がる被災地の姿を世界に発信していく」(毎日新聞)と述べたそうだが、この、逆境から立ち上がるというシンプルなストーリー作りを再び試みている。

「2011 年に東日本大震災が発生し、世界各国から多くの支援を受けたことを踏まえ、未曽有の災害から復興しつつある被災地の姿を世界に示す絶好の機会になるとともに、震災時に世界から受けた支援に対する感謝の気持ちを示す場となるよう取組を進め……」、これは東京五輪開催前のプレゼンテーションではない。「TOKYO2020 アクション&レガシーレポート」、つまり、大会終了後にまとめられたレポートからの一節。あの東京五輪は復興五輪としてもうまくいった、とまとめられている。だから、また、万博でも使う。果たして、本当にあの五輪は復興五輪だったのだろうか。

2020年の東京五輪招致について、東京都が「復興」という言葉を使い始めたのは、なんと震災から1カ月後のこと。4月11日の記者会見で、当時の石原慎太郎都知事が、五輪招致を始めるかどうかについて、「(震災から)復旧、復興していくプロセスの中で、夢をもう一回持ち直すというのは日本人にとっていいこと」と述べている。そして、震災から3カ月後の6月、正式に招致を目指す意向を発表した。早々に復興を利用したのだ。

 

今年1月1日に発生した能登半島地震は、いまだに多くの人が不自由な暮らしを余儀なくされている。都市部とは異なり、過疎化や高齢化が進んでいるため、住まいや街の再建には時間もお金もかかる。裏金問題の追及から逃れることを最優先に考える岸田政権や、五輪招致時にIOC委員に「想い出アルバム」を配布した疑惑が発覚するなど、表で陣頭指揮をとるのに難がある馳浩石川県知事など、自己保身で震災対応が遅れているのではないかとの疑念が払拭できない。

今回、SNSを中心に、万博なんてやめて震災復興に専念しろ、そっちにお金をまわせ、との意見がたくさん出た。話を単純化させすぎではないかとの指摘もあるが、大半のものは作って壊すだけになる万博よりも、壊れてしまった生活を再建してほしいと考えるのは真っ当だろう。少なくとも、今回の震災から「復興」というワードだけ引っこ抜き、開催に賛同の声が集まらない万博に活用するのだけはやめてほしい。

ところがもう、その活用は進み出している。日本維新の会・馬場伸幸代表は1月16日、会見で「北陸と大阪は歴史・地理的に絆が深い。万博成功が震災復興や経済活性化につながる」と述べている。絆が深いから、万博が成功すると復興につながる。よく意味がわからない。正直、意味なんてないのだろう。そういう雰囲気を高められればいい。東京五輪も大阪・関西万博も「機運醸成」に悩まされた(悩まされている)。どんな要素でも醸成に使おうとする悪癖が、今回も「復興」に向けられている。許容してはいけない。

武田砂鉄
1982年生まれ、東京都出身。 出版社勤務を経て、2014年よりライターに。近年では、ラジオパーソナリティーもつとめている。『紋切型社会─言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、のちに新潮文庫) で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。著書に『べつに怒ってない』(筑摩書房)、『父ではありませんが』(集英社)、『なんかいやな感じ』(講談社)などがある。

編集・神谷 晃(GQ)