「300人以上の宗教2世が協力してくれて…」自身も洗脳された監督が“宗教虐待”に斬り込んだ思い

 
恵まれた家庭に育っても、自己肯定感が高くとも、ふとしたスキに宗教は入り込んでくるーー実体験を伴うリアルさに、思わず背筋が寒くなった。
 
 
友人だった「宗教2世」の遺書の一言が…
安倍晋三元首相襲撃事件を機に、「宗教2世」の存在が注目されるようになった。

そんな中、ある宗教2世の遺書をもとに、その友人で自身も新興宗教で洗脳された過去を持つ監督が“宗教虐待”に斬り込んだ問題作が登場した。映画『ゆるし』だ。
 
本作の監督と主演を務めるのは、当時まだ立教大学の学生だった平田うららさん(22)。いったいなぜ本作を? そのきっかけや、本作に込めた思いを聞いた。

「きっかけは、私自身が一時入信した新興宗教で出会った友人・Aちゃんが遺書を置いて自死したこと。 Aちゃんは、集会に通っていた時もずっと仲良しで、一緒にご飯に行ったり、私が教団に違和感を覚え反論し、教団から距離を置かれていた時、『大丈夫?』とこっそりLINEをくれたりしていた教団内で唯一の友達でした」

平田さん自身は、家族の支えなどにより、11ヵ月でなんとか脱会できたが、気がかりだったのは、その宗教で唯一の友人・Aちゃんのことだった。

「Aちゃん自身が宗教2世で、信仰しているわけではなく、違和感を抱えながら生きてきたので、私の辛さをわかってくれたんですね。

でも、一度脱会したら、家族でも信者とは連絡を取りづらくなるので、そのうちにお母さんが死んじゃって、人生を奪われたと言って2世の方も自殺したようなケースが結構あって。2世の方で違和感を持つ方もいましたが、虐待や差別が怖いし、親への愛が捨てきれないから逃げられない方がかなり多いんです。

教団は、神様を信仰しないと家族を引き裂くし、家族が抜けるとその残った家族が虐められる場合もあります」

そんな折、Aさんが自死したという噂を耳にした平田さんは酷く動揺し、自分を責めた。

「Aちゃんは私の気持ちを理解してくれ、支えてくれていたのに、私が見捨てて一抜けしちゃったから、居場所が本当になくなっちゃったんだと思いました」

◆生まれた瞬間に「教団に親を奪われる」宗教2世

平田さんは何があったのかを知るために、その教団にいた信者に電話をかけ続け、ようやく連絡がついたとき、遺書があると聞いたという。

「私が映画を撮ったきっかけの一言があって。 あの子の解釈だからねって、信者が言ったんです。 教団の教えによる虐待が人の命を奪ったのに、あの子の解釈だからと。何が神様の愛だ、何が救いだ、と」
 
自殺という言葉は絶対に使いたくない、自分で殺したわけじゃなく、死に追いやられたから「自死」なのだと平田さんは強調する。

「Aちゃんは生まれた瞬間に教団に親を奪われるんです。生まれてからは自由を奪われるんです。その後友達を奪われて、生活を奪われて、人生を奪われて、命まで奪われているのに、 自殺って言うなよと」

Aさんの自死を知り、しばらく寝込んだと言う平田さん。

だが、「このまま私がAちゃんの遺書にしたためられた思いを届けなかったら、その思いがなかったことにされるし、Aちゃんの人生もなかったことになる」と思ったことから、映画を作ることを決意。

’21年10月から取材をスタートした。

最初はTwitter(現)で宗教2世の方をフォローし、DMで取材依頼するところから始め、「宗教二世の会」とつながり、そこで出会った2世の方にまた他の2世を紹介してもらうという形で、取材を進めていった。

◆安倍元首相の襲撃事件…「それが統一教会絡みだと知った時、正直、『ついに、起きてしまったか』と思ってしまう自分がいて」

さらに、安倍晋三元首相の襲撃事件以降は、逆に取材してほしいという連絡がたくさん来るようになったという。

「もちろんどんな理由があっても人を殺しちゃいけないですから、その痛ましい事件には私も心が痛みました。 ただ、それが統一教会絡みだと知った時、正直、『ついに、起きてしまったか』と思ってしまう自分がいて。

取材でも、国が味方してくれないと嘆いていた統一協会2世の方もいましたし、それがどういうことか当時はわかっていなかったんですが、あの事件が起きて、鈴木エイトさんの本を読ませていただいた時に全部がつながった気がしました」

多数の新興宗教団体延べ300人ほどの宗教2世に取材してきた平田さんは、それら全てに共通していることとしてこう述べる。

「宗教虐待って、他に性的被害や虐待、教祖の世話など、複合的に犯罪に近いことが必ず行われているんですよ。 それと、カルト宗教に共通しているのは、“カリスマがいること”、“何らかの方法でお金を搾り取ること”、“自分たちで聖歌や聖書を作っていること”。 私は宗教を否定したいわけじゃない。でも、取材していくうちにわかったのは、どの宗教であっても、傷つく人がいる以上、その声に耳を傾けるべきだと思いました」

さらに、取材を進める中で「Aちゃんも、私だけの責任じゃない。悲惨なこの宗教虐待に殺されたんだ」ということがわかり、心が軽くなる一方、そんな自分を責める思いもあったという。
 
さらに、いざ撮影が始まると、今度はトラブルが続いた。

「センシティブな内容ですから、主演が2回降板したんですよ。それでも人間としてこの映画は届けなければいけないと思った。だからスポンサーに土下座する勢いで『主演は代わりに私がやりますから、この覚悟でお金をいただけませんか』とお願いしたんです」

ちなみに、映画で非常に強い印象を残しているのが、主人公・すずの母親で宗教1世の恵を演じる安藤奈々子さん。

実は実年齢では平田さんの2歳上なのに、母親を演じたのだ。

「安藤さんはもともとすず役のオーディションで来ていたんですが、『絶対恵だろ!』と。普段はすごく明るくて綺麗な方なんですが、オーディションで演技を見せてもらったところ、すごく目が怖かったんですよ。

すずは可哀想じゃなきゃいけないのに、むしろすごい恐怖を感じて。その前の作品は高校生の役をやったそうで、『いきなり高校生のお母さんですか』と戸惑っていましたが、『満場一致だったのでお願いできませんか』と言うと、受けてくれました。

それで、老けメイクができるメイクさんだけは雇ったんですが、それでも完全には老けないんですよ。逆にそれが年齢の分からない不気味さ・怖さがあって良かったと思います」

◆300人以上の宗教2世が取材協力してくれ、人を紹介してくれ、寄付で応援もしてくれた…

映画ではすずが小さな頃に恵の布教活動に連れて行かれる様や、マラソン大会、誕生日のこと、学校でのイジメなどが描かれるが、これらは全て2世への取材で聞いた実際のエピソードだとか。

「他に、親にナイフを向けられるシーンや、レイプのシーンなども、取材で聞いた話で、全部嘘がないんですよ。個々のエピソードや実際に聞いたセリフなどは、許可をとりながら使っています」

亡きAさんに捧ぐ映画として作った本作には、300人以上の宗教2世が取材協力してくれ、人を紹介してくれ、寄付で応援もしてくれた。

「主演が2回交代したけど、私が主演をやると言ったら、逆にすごくお金が集まったんです。こんなに覚悟を持った監督って見たことないと言ってくれて、応援してくれる人がたくさんいて。

それで、長編映画にできました。私が入信したのは、同じ宗教の信者以外全員サタンとみなす宗教だったので、当時は周りからいろいろ言われても、頑なになっていて『サタンが言っているな』くらいに思っていたんですよ。でも、人間捨てたもんじゃないな、全然サタンじゃないなと思いました(笑)」

公開はアップリンク吉祥寺で3月22日から。平田さんはここに至るまでにたくさんの嫌がらせや誹謗中傷があったことを明かし、笑顔でこう言った。

「公開までまだ日にちがありますし、毎日舞台挨拶で登壇するので、怖いですよ。催涙スプレーを持ち歩けとも言われます。 でも、私は絶対に自分が間違ったことをしていないと信じているから、戦えるんです」
 
 

「神様のおかげでこの会社に」OB訪問で出会った信者…「一歩間違ったら誰でも」新興宗教勧誘の罠

 
 
就職活動がうまくいかなくて…メンタルが本当に落ちていたので『そういうこともあるかも』と思って
ある宗教2世の遺書をもとに“宗教虐待”に斬り込んだ映画『ゆるし』が3月22日に公開される。
 
本作の監督・主演を務めるのは、平田うららさん(22)。テキパキと明るく話し、意志が強く、自信に溢れた平田さんが宗教に取り込まれていったのは、不思議な印象もある。

なぜ宗教にハマってしまったのか。前編の映画の話に続き、後編では平田さん自身の入信と脱会の話を聞いた。

「私は大学2年生の時から就職活動をしていたんですが、うまくいかなくて。 唯一理由を教えてくれた会社によると、『協調性がない』ということでした。 私は小学校4年生から6年生という人格形成に一番重要な時期を上海で過ごしたので、自己主張も強いし、気も強くなってしまって。 日本に帰ってからは中学・高校を立教女学院というお嬢様学校で過ごしましたが、あまり馴染めなかったんです」

さらに、就職活動で落ち続けたことで、自分を全否定された気持ちになった。そんな時、ある企業のOB訪問で出会ったのが、新興宗教の信者だったという。

「『あなたは素晴らしい人格で素晴らしい人生を歩んでいるんだから、誇りを持っていいんだよ。それをわかってくれない会社があるなら、そこには入らなくていいんじゃないかな』と私を全肯定してくれたんですね。

それで、『神様のおかげでこの会社に受かった』とか、奇跡でケガが治った話などをしてくれたんですけど、普通は誰も信じないじゃないですか。でも、メンタルが本当に落ちていたので『そういうこともあるかも』と思ってしまって。

私はプロテスタントの学校に6年間通って、神様が近い存在だったことも信じてしまった理由にあるかもしれませんが、一緒に祈ってもらうと、たまたま就活で受かっちゃうんですよ。そこから、どんどん自分の居場所になっていったんです」

◆友人や彼氏と別れることを強要されて…

しかし、友人や彼氏と別れることを強要されるようになると、違和感を覚えるように。

「私は協調性がないから、なぜ別れなければいけないのかと反論して、びっくりされました。 そこからいじめが始まったんです。もう集会に参加させないと言われ、無視され、聖歌も歌わせてもらえなくなって。 もともと孤立している人間が、居場所になっている場所でハブられたらどうなると思います?

すごく不安になって『ごめんなさい』となるんですよ。DVから逃げられない女の人とたぶん同じで、それでまた病んじゃって、そうするとまた、就職活動で落ち始めて。 メンタルが落ちていたらそれが出るから、落ちるし、逆に信仰している時は『神様の力があるから大丈夫』と自信満々でいるから、受かるんですよ。

今考えたら当然のことだけど、当時は全部神様に反抗したから、こんなことになったんだと思っちゃって。 社会で孤立して、友達や彼氏と縁を切れと言われて、反抗したけど、いじめられて、屈服して、結局縁を切って、戻る場所がなくなっちゃって、戻ったんです」
 
脱会を決めてからが暗黒期の始まりだった…
そんな平田さんだが、11ヵ月で脱会できたのはなぜなのか。

「家族がすごく良い人で、私をずっと支えてくれたからです。 双子の姉はパワフルで、集会場所に殴り込むくらいの勢いで一緒に集会に参加したことがあって、そこですさまじい姉妹ゲンカをしたら、周りに距離を置かれました(笑)。 でも、お姉ちゃんが私をそこまで守ろうとしてくれているんだと感じたら、居場所があると思えたんですね。

それに、母親はカトリックの幼稚園で働いていて、私もプロテスタントの学校に6年間いたので、セカンドオピニオンのような形でプロテスタントの牧師さんのところに意見を聞きに行くように勧められました。 当時の私からしたら、カトリックとかプロテスタントのほうがサタンだと思っていたので、怖かったですけどね」

かくして11ヵ月という短期間で脱会できたわけだが、実は脱会を決めてからが暗黒期の始まりだったと振り返る。

「強迫性障害のような症状が出て…。 宗教を抜けるというのは、神様を疑うってことじゃないですか。 そしたら、電柱が落ちてきて私が火傷するんじゃないかと思って、空を見て歩けなくなったり、全てのものが怖くなったりして。

プロテスタントの牧師さんから『神様は愛の人なのに、その信者以外をサタンってみなすのはおかしくない?』って言われたんですよ。『汝の隣人を愛せよと習ったでしょ』と。

それで牧師さんも家族も励ましてくれて、父親なんて電車に怖くて乗れなかった私のことを大学まで送り迎えしてくれ、お母さんはカウンセラーみたいに話を聞いてくれて、徐々に乗り越えて自分の生活を取り戻していきました」

とはいえ、個人の脱会だけでも大変なのに、映画を撮るとなると、危険な目に遭ったのでは。

「取材、撮影を通して危険な目に遭ったことはないです。私のことは叩けないんですよ。私がTwitter(現X)で散々言っているのは、私は特定の宗教を参考にしているわけじゃないのに、これで叩いたら逆にあなたの宗教が公式で虐待を認めていることになるよ、ということ。 DMでも『信仰の自由を否定するな』とかすごくたくさん来るので、1人1人に返信するんです。アンチの中には、意見が言えないから直接危害を加えようとする人もいるじゃないですか。だったら正面で戦ってやる、説得してやると思って。私は正しいことをしているんだから」

全部に返信していたら、やりとりが永遠に終わらない気もするが。

「永遠に終わらないですよ。ただ、私はどこの宗教も否定していないし、信仰の自由を否定していないし、なんなら私自身が現役のプロテスタントだけど、私は宗教虐待を否定しているだけだと伝えています。 それでも、『勘違いする人もいる』みたいなことも言われるので、1件1件丁寧にお答えしていくのが誠実な対応だと思ってDMを開放しているんです。 丁寧に対応していくと、アンチってファンにもなるんですよ。ちょっとメンタル病みますけど(苦笑)」

この強気の戦い方には、誰かのアドバイスがあったのだろうか。

「いいえ、誰にも教えてもらわず、自分で考えたものです。自分の命を守れるのは自分だけだと思っているから。 それに、馬鹿とか死ねとかには返信しませんが、私の映画で傷つけてしまっていることに対しては、責任を持たなきゃいけないと思っているから。そういうことを積み重ねていかないと、22歳で監督になんてなれないですよね。

あまちゃんだとは、よく言われますけど(笑)。 1回人生のどん底に追い込まれた人は、戦い方を身につけてから帰ってくるというのは、自分の経験から得た持論で。それに、1回大事なものを失った人、メンタルを壊した人って、治し方を知っているんですよね」
 
「なんでこの問題が日本でこんなにはびこっているんだろうと憤りを感じます」
いわゆる「親ガチャ」に恵まれ、何不自由なく育ったように見える平田さん。なぜ宗教にハマったのか。

「私はもともとタフですが、協調性がないとはずっと言われてきて、それで就活で落ち続けたら、弱くなってしまった。 そしたら、逆に家族が強くなって、家族のおかげで私も強くなれたんです。 でも、取材で2世の方々の話を聞くと、あまりに壮絶なので、家族に恵まれている私が撮っていいのかなとも思いました。

2世のほうがずっと大変だと思います。2世は脱会すると、家族を捨てさせられる人もいるから。 私も家族を捨てろと言われたら、絶対脱会できていなかったし。宗教2世として活動してる人で、何も犠牲にしてない人はいないです。命か家族を失ってる。これが私が見てきた宗教2世の現実です。

なんでこの問題が日本でこんなにはびこっているんだろうと憤りを感じます。みんな税金とか汚染の問題とかいろいろ言うけど、いやいや待ってよ、まずカルトだろうと」

ところで、映画では宗教1世の恵と2世のすずのほか、祖父母という存在が印象的に描かれている。祖父母をキーパーソンとして置いたのはなぜかと聞くと、こんな思いを語ってくれた。

「宗教2世の方でメンタルを病んでいる人はすごく多いけど、その中で自死を選ばなかった理由を聞いていくと、おじいちゃんおばあちゃんが優しかったとか、すごく多いんですよ。

そういう救いの存在がある人は、苦しみながらも人生をちゃんと取り戻している。逆に今もずっと苦しんでいるのは、誰も助けてくれなかった人が多い気がしました。 それですずにも祖父母の存在が必要だと思いました。平和な祖父母像にしたのは、新興宗教に入信する子が生まれないような家庭にするためでした。

すごく幸せそうな家庭でも、一歩間違ったらカルトに入るんだよと伝えたかったから。 あのおじいちゃんおばあちゃんは、私の両親を参考に書きました。だから、私の両親そっくりなんです」

恵まれた家庭に育っても、自己肯定感が高くとも、ふとしたスキに宗教は入り込んでくるーー実体験を伴うリアルさに、思わず背筋が寒くなった。

取材・文:田幸和歌子