自民党派閥による政治資金パーティー裏金事件の実態解明が遅々として進んでいない。国民の信頼回復は政策推進の前提にもかかわらず、岸田文雄政権は党内調査に時間を費やし、政治倫理審査会の開催も先延ばしにしている。

 裏金づくりの実態解明はもちろん、再発防止策の立法化に向けた与野党協議も急務だ。これ以上の時間稼ぎは許されない。

 自民党は15日に公表した安倍、二階両派の議員ら約90人の聞き取り調査結果で、安倍派では裏金づくりが20年以上前から行われていた可能性に触れたが、具体的な経緯は不明。裏金の使途も会合費や人件費、手土産代といった項目だけが並び、内容は分からない。

 

回答も匿名で記され、責任明確化の意思を欠くとの批判は免れまい。結果は弁護士チームが取りまとめたというが、聞き取りは党役員が担当しており、身内調査の甘さが露呈したというほかない。
 自浄能力を欠く自民党自身の調査には限界があり、まずは国会の政倫審での実態解明を求める。

 自民党は20日、会計責任者が在宅起訴された安倍、二階両派の塩谷立座長、武田良太事務総長が衆院政倫審に出席すると野党に伝えた。安倍派幹部の松野博一前官房長官や萩生田光一前政調会長ら、5年間で約3500万円の不記載があった二階俊博元幹事長の出席なしに実態を解明できるのか。

 党総裁でもある首相は、安倍派幹部や二階氏が出席を拒むなら、離党勧告も辞さない覚悟で実態解明と再発防止に臨み、必要ならば憲法の国政調査権に基づく参考人招致や証人喚問にも同意するよう党執行部に促さねばならない。

 政倫審は実態解明の第一歩に過ぎないが、自民党は開催を渋り、2024年度予算案の衆院採決への同意を野党から引き出す駆け引きに使っているように見える。

 首相は今国会での政治資金規正法改正を明言したが、その内容を具体的に示していない。予算を成立させ、6月の通常国会会期末まで野党の追及をかわせば、企業・団体献金禁止や政策活動費廃止などの抜本改革は回避できると考えているのではないか。

 報道各社の世論調査で、内閣支持率が政権発足後最低を軒並み更新している。政治資金改革に対する首相の取り組みが不十分だと国民はみている。首相は厳しく受け止めるべきである。

 

 

<視点>「政治とカネ」裏金事件 違和感だらけの派閥 政治部・近藤統義

 
 自民党の派閥の多くが解散を宣言した。半年前に政治部に異動してきたばかりで、特段の感慨はない。その短い間に抱いた違和感を、反省も込めて記録しておきたい。

 政治資金パーティーを巡る裏金事件で、派閥の所属議員らが一斉に立件された先月19日。岸田派が説明の場を設けるというので、議員会館の一室に向かった。テレビカメラはなしで、会場に入るのは岸田派の取材を担当する記者だけ。派閥幹部は冒頭、さらりと口にした。「記者懇(談)という形でお願いします」。違和感その1だ。

 「懇談」とはすなわち、懇(ねんご)ろな会談。記者会見とは性格が異なり、発言者を特定せずに報じる場合もある。永田町や霞が関でよくある取材形式だが、事件の重さに照らせば懇談はないだろう。始まってみれば、質疑を重ねる会見と同じ形になったものの、世論に向けて丁寧に説明しようという意識は希薄に感じた。
 
違和感その2。岸田派の元会計責任者は2018年からの3年間で、約3000万円のパーティー収入を政治資金収支報告書に記載しなかった。立派な虚偽記入罪だ。だが、幹部はこう言った。「いわゆる裏金に該当するものはありません」。頭がくらくらした。

 その説明はこうだ。岸田派はお金を全て預金口座で管理している。収入も支出も全て口座に記録がある。不記載だった収入も口座に残っている。だから、裏金とは言わない―。私的に流用したり、自由に使えるよう不正にため込んだりしたのとはわけが違うと主張したいようだった。

 裏金の定義は一つではない。ただ、いま問われているのは政治資金規正法の違反である。「政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われる」ための法律だ。私たちの監視の目が及ばないお金は「表」か「裏」か。答えは明白ではないか。

 最後に違和感その3。これが最も大きいかもしれない。
 昨年10月から岸田派の担当になった。所属議員たちは週に1度集まり、昼食をともにしながら意見交換する。貴重な取材機会の一つで、会合後に弁当が余っていれば記者にも回ってくる。代金は派閥持ち。初めは面食らった。

 居心地の悪さを感じつつ、うな重やすき焼き弁当を食べながら議員の話を聞いたこともある。政界の文化と言えば聞こえはいいが、世間の目にはどう映るだろう。こうした関係性のもとで、政治資金のずさんな取り扱いを見抜けなかった。今となっては自分の行動も甘かった。

 ある世論調査では国民からの信頼感が最も低い機関・団体が国会議員、それに次ぐのがマスコミだ。「政治とカネの問題を是正することは政治文化を変えること」。政治資金に詳しい専門家のこんな言葉も聞いた。その文化を形作るのは有権者であり、メディアでもある。政治の信頼を取り戻す道筋をともに考え続けたい。