政治資金をガラス張りにできない政治では日本の統治を担えない/牧原出氏(東京大学先端科学技術研究センター教授)

 
今回の裏金問題は、政治資金規正法に大きな抜け穴がいくつもあり、赤旗と上脇教授がそれを乗り越えて独自の調査を行った結果、不正が明らかになった。なので、まずは何をおいても政治資金規正法の抜け穴を塞ぐことが最優先されなければおかしい。派閥を解散するよりも、政治資金パーティや企業団体献金を禁止するよりも、まずは政治資金の流れをガラス張りにすることだ。そうすることで、派閥やパーティの功罪が有権者によりはっきりと見えるようになる。パーティや企業団体献金、派閥の解散などは、資金の流れをガラス張りにした上で、どうすべきかを決めるのが常識的な順序のはずだ。 
 
 
 昨年末から政界を揺るがしてきた自民党の裏金問題の材料が概ね出揃ったようだ。しんぶん赤旗のスクープと上脇博之・神戸学院大学教授の独自の調査によって明らかになった政治資金パーティ収入の不記載問題は、安倍派に所属する大臣の辞任と自民党主要派閥の解散、そして最終的には現職国会議員3人の起訴にまで発展した。 

 一連の疑獄の発端はパーティ券収入の記載漏れだった。政治資金規正法は同一者からの20万円を超えるパーティ券収入については、収支報告書に氏名や住所、職業とともに金額を記載して提出することを義務づけている。今回は安倍派だけでも5年間で6億円以上、二階派は2億円以上、岸田派は3年間で3,000万円以上の不記載があったことが明らかになった。 

 また、今回はパーティ券収入の不記載に加え、記載されなかった分が裏金となって議員に還流されていたことも明らかになった。しかし、現行の政治資金規正法は裏金の不記載だけでは立件が難しい建て付けとなっている。この点を含め、今回明らかになった政治資金規正法の抜け穴については、法改正を含めしっかりとした手当が必要なことは言うまでもない。 

 ところが、自民党の政治刷新本部が中間取りまとめとして出してきた法と制度の改正案は、ガラス張りとはほど遠い内容になっている。行政学、日本政治史が専門の牧原出・東京大学先端科学技術研究センター教授は自民党はまだ政治の裏舞台で億単位の裏金が使われていたことに対する国民の怒りが理解できていないのではないかと訝る。 

 昨年10月にインボイス制度と電子帳票制度が導入されたため、多くの国民が1円単位まですべての領収書を丁寧に保管し、確定申告や決算の際に逐一計上しなければならなくなった。そうしなければ仕入れや経費分の消費税の控除が受けられなくなったからだ。これに対して政治の世界では寄付は5万円、パーティ券は20万円までは報告書に記載する義務が免除され、しかもそれが政策活動費の名目であれば、領収書を添付して目的を明示する必要がない。無論すべての政治資金は非課税だ。もともと政治家はこの資金管理に関しては、あり得ないほど優遇されてきたのだ。そこに、更に億単位の裏金が横行していたとなれば、国民の怒りを買うのも当然のことだ。 

 政治資金規正法が1条で謳うような政治に対する国民の不断なき監視を可能にするためには、政治資金の流れをガラス張りにするほかない。今回は現行の政治資金規正法がガラス張りとは程遠い状態にあることが明らかになった。国民の怒りを鎮めるためにはこの際、政治家に対しても一般国民と同等の報告義務を課すことが不可欠になるが、しかし肝心の政治家、とりわけ自民党はどうやらまだそれが理解できていないようだ。 

 政治資金を完全にガラス張りにしたくないことをごまかすためなのか、あるいはそもそも問題の本質がどこにあるのかを理解できていないからなのかは定かではないが、裏金が横行したのは派閥が悪いからだとして、岸田政権はここに来て唐突に派閥の解散を持ち出してきた。たしかに資金集めパーティも派閥を中心に行われてきたのは事実だし、派閥が資金集めや党内人事、政府人事の圧力源となってきたのも事実だ。それが企業・団体献金の抜け穴になっていたり、裏金が物を言う政治風土を醸成してきたことは間違いない。 

 しかし、派閥自体が完全に解散になれば、日本の統治構造まで変えることになりかねないため、注意が必要だ。今のところ茂木派と麻生派だけは派閥として残る構えを見せているが、派閥解散が一つの禊となった今、派閥を残したまま国民の怒りに抗えるかは微妙な情勢だ。仮に自民党が派閥と完全に訣別することになれば、何がどう変わるのか。そもそも1955年に自由党と民主党という2つの大きな党が大同団結して結成された自民党は、それ以来、派閥抗争を繰り返してきた。自民党の歴史が派閥抗争の歴史と言っても過言ではないほどだ。その自民党から派閥が一掃された時、自民党はこれまでのような統治能力を維持できるのか。 

 牧原氏は自民党がすべての派閥を解散すれば、下手をするとかつての民主党のようにばらばらになり、まとまらない党になる恐れもあるという。しかしその一方で、派閥は「政策集団」と名前を変えて、実質的には存続する可能性も高いと牧原氏は言う。いずれにしても、泣いても笑っても今年9月には自民党の総裁選があるので、そこで派閥単位で票が動くのかどうかを見極める必要があると牧原氏は言う。 

 そもそも今回の裏金問題は、政治資金規正法に大きな抜け穴がいくつもあり、赤旗と上脇教授がそれを乗り越えて独自の調査を行った結果、不正が明らかになった。なので、まずは何をおいても政治資金規正法の抜け穴を塞ぐことが最優先されなければおかしい。派閥を解散するよりも、政治資金パーティや企業団体献金を禁止するよりも、まずは政治資金の流れをガラス張りにすることだ。そうすることで、派閥やパーティの功罪が有権者によりはっきりと見えるようになる。パーティや企業団体献金、派閥の解散などは、資金の流れをガラス張りにした上で、どうすべきかを決めるのが常識的な順序のはずだ。 

 むしろ、真にガラス張りな制度を作りたくないがために、国民の目をごまかす目的で派閥解散だのパーティ禁止だのと騒ぎ立てているように見えなくもない。しかも、もし本当に派閥が解散されれば、政治家自身が考えている以上の影響を日本の統治構造に与える可能性すらあり、そこにはもう少し丁寧な検証が必要ではないか。 

 また、このまま政治資金をガラス張りにできず、他の弥縫策に終始した場合、政府から1円単位まで搾り取られて政治に怒っている国民から、自民党は完全に愛想をつかされてしまう可能性すらある。そうなった場合もまた、日本の統治構造が根本から変わる可能性がある。 

 政界を揺るがすパーティ裏金問題の本質は何か、なぜ本質とは関係のない話がどんどん膨らんでいるのか、それは日本の統治構造にどのような影響を与える可能性があるのかなどについて、東京大学先端科学技術研究センター教授の牧原出氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

【プロフィール】
牧原 出 (まきはら いづる) 
東京大学先端科学技術研究センター教授 
1967年愛知県生まれ。90年東京大学法学部卒業。東京大学助手、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス客員研究員、東北大学大学院法学研究科教授などを経て、2013年より現職。博士(学術)。専門は行政学、日本政治史。著書に『田中耕太郎』、『崩れる政治を立て直す』、『安倍一強の謎』など。

宮台 真司 (みやだい しんじ)
東京都立大学教授/社会学者  
1959年宮城県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。社会学博士。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。(博士論文は『権力の予期理論』。)著書に『日本の難点』、『14歳からの社会学』、『正義から享楽へ-映画は近代の幻を暴く-』、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』、共著に『民主主義が一度もなかった国・日本』など。

神保 哲生 (じんぼう てつお)
ジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表 ・編集主幹
1961年東京都生まれ。87年コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。クリスチャン・サイエンス・モニター、AP通信など米国報道機関の記者を経て99年ニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を開局し代表に就任。著書に『地雷リポート』、『ツバル 地球温暖化に沈む国』、『PC遠隔操作事件』、訳書に『食の終焉』、『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』など。 

【ビデオニュース・ドットコムについて】
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「介護施設じゃねーからな」自民党ベテラン議員が“国会で爆睡”に非難殺到、過去の問題発言も再び物議

 

 

「居眠りして大金もらえるなんていいご身分ね。この人、前にも旧統一教会に関しての問題発言あったけど、責任とか一切感じてないんだろうね」

 

「自民党がここまで腐り果てていたとは。お願いだから議員バッジを外してくれ」

 第4次安倍内閣で総務副大臣を務めた、自由民主党所属の衆議院議員・奥野信亮氏(79)。今月6日、国会中継をオンラインで見ていた視聴者から、奥野氏の“ある行動”に批判が集まっている。

国会で自民党議員と旧統一教会を関係が糾弾される中…
 今月6日、衆議院予算委員会が開かれ、世界平和統一家庭連合(以下、旧統一教会)を巡る問題にも触れた。立憲民主党の長妻昭政調会長は、盛山正仁文部科学相が2021年の衆院選にて旧統一教会の関連団体から推薦状を受け取っていたという報道を取り上げ「とんでもないことだ」と批判。盛山氏は「関連団体の行事に一度出席しただけだ」と説明しており、発言との矛盾を突かれたのだ。

 盛山氏は、指摘に対し

「写真があるなら受け取ったのではないか」
「記憶があれば(自民党に)報告していた」

 と口を濁した。岸田首相は本件について危機感を強め「閣僚に対していま一度確認する」と発言し、立憲民主党の山岸一生氏は再点検し報告するよう繰り返し要求した。

 そんな緊迫する国会中継のなか、奥野氏の呑気極まりない姿が見切れ、その画像がX(旧Twitter)で拡散されたのだ。

国会は介護施設じゃねーからな
 画像には、奥野氏が仕事中にもかかわらず、“爆睡”している様子が映っている。これに対し、無責任すぎると激しく非難する声が続出。

《79歳に議員は無理なのでは》
《今日も、けっこう寝てましたね。国会は介護施設じゃねーからな》
《政治家も65歳までとか働ける年齢の制限をつければいいのに……。こりゃ日本がいつまでたっても良くならないわけだ》
《居眠りするくらいなら、その一枠を若い人に譲ってあげてくださいよ。納税者として納得できない》

 議員の居眠り問題は奥野氏だけでなく、

「地方の議会でも居眠りしている議員はたびたび問題になっています。まぁ一般企業で考えても、仕事中に居眠りするなんてあり得ないわけで……。さらには、年収1000万円以上ももらっている国会議員が居眠りなんて、国民が許すわけありませんよね」(全国紙社会部記者)

 奥野氏の居眠りがこのタイミングでやり玉に挙がったことには、過去の旧統一教会をめぐる問題発言が関係しているようだ。

 2022年当時、旧統一協会と自民党の関係が問題視される中、旧統一教会の友好団体と自民党の国会議員らで作られた『日本・世界平和議員連合懇談会(平和議連)』の会長代行だった奥野氏。2022年8月4日に配信されたAERAdot.のインタビューでは「平和議連と旧統一教会とは無関係」「何が問題なのかわからない」と発言。また、安倍元首相を襲撃した山上徹也被告については、

《山上容疑者は家庭がしっかりとしていれば、こういうことは起こらなかったのではないかと個人的には思う》

 今回の居眠り問題が表面化したことで、SNSではこれらの問題発言が掘り起こされ、厳しい声が多くあがった。

《世界平和連合との関係について『なぜ問題なのか分からない』って発言してた人だよね。旧統一教会とズブズブと受け取られても仕方ないことをしておきながら、旧統一教会の問題が再燃した大事な国会で寝るなんてありえないわ》

《安倍元首相を襲撃した山上はもちろん裁かれるべきだけど、彼の立場でこの発言を聞かされたらやり切れないだろうな……》

 奥野氏は問題発言以前に、まずは“居眠りしないこと”を心がけるべきだろう。