裏金を透明化しても「政治活動の自由」は脅かされない

 

 

自民党腐敗の根源は合法的な裏金「政策活動費」にあり
使途を明らかにしなくていいとされ、裏金の温床となっている政策活動費。

約5年にわたって自民党幹事長を務めた二階俊博氏は、党からこれまでに約50億6千万円も受け取っていたことが明らかになっている。

茂木幹事長は2022年の1年間だけで約10億円である。

 

政治資金規正法は、なぜこんな秘密資金を許しているのか。そう思って、法の条文をくまなく探してみても、そこに「政策活動費」という言葉もないし、使途不明でいいとも書いていない。つまり、法による明確な規定はないのである。

石井紘基氏の戦いは今も続いている
政策活動費の本質的な問題に気づき、初めて国会で質問をしたのは、前明石市長、泉房穂氏が恩師と仰ぐ石井紘基氏(故人)だった。特別会計という国家の“隠し金庫”に厳しく切り込もうとしたことで知られる政治家だ。

2002年3月13日の衆議院行政監視委員会。沖縄及び北方対策・科学技術政策担当の尾身幸次大臣に対する次の質問。

「尾身大臣は、鈴木宗男さんの前任者として総務局長をやっておられた。自民党の財務には、たしか政策活動費という費目がある。これを尾身大臣も受け取られていた。そこで三点伺います。まず、この使途は何なのか。二つ目は、このお金を何かに使って、その支払い先の領収書を提出するようになっているのかどうか。三点目は、個人に渡されるお金だから、当然、個人の雑所得になるが、この税務申告というものをしたのかどうか」

政策活動費について、現在でも問題になっている点をあげて追及したのだが、尾身大臣は「自民党の政治活動の話であり、内閣の一員として私が説明することは適当でない」とかわし、答弁を拒絶した。

その後の石井氏の国会における足跡を国会議事録でたどると、独立行政法人通則法改正案など三つの法律案を他の5人と共同で議員提案し、同年10月18日に衆議院災害対策特別委員会の委員長に選任されている。

「与党がひっくり返る」直前に刺殺された石井氏
その直後の同年10月25日をもって、石井氏の政治活動は突然、ピリオドが打たれる。この日、東京・世田谷区の自宅駐車場で迎えの車に乗ろうとしたとき、右翼団体代表の伊藤白水によって刺殺されたのである。

伊藤は当初、恨みによる殺人であるかのように供述していたが、のちに「ある人物から依頼された」と話を変えたといわれている。しかし真の動機が解明されることがないまま、2005年11月、最高裁で無期懲役の判決が確定した。

石井氏は10月28日に予定されていた国会質問で、「特別会計」の問題を取り上げる予定だったとされ、「これで与党の連中がひっくり返る」と周囲に話していたという。

石井氏は膨大な資料を集めて分析を進めていたが、ほぼ単独行動であったため、生きていれば質問したであろう内容は定かではない。ただ、尾身大臣にただした自民党の「政策活動費」の問題についても、追及をやめることはなかったと推測できる。

 

 

自民党の「巨額秘密資金」に2つの抜け道
「政策活動費」という“抜け道”は、政治資金規正法のなかに仕組まれている。企業・団体から政治家個人への寄附をいっさい禁止する一方で、政党が政治家個人に行う寄附については認めていること。政治資金収支報告書は政治団体の会計責任者が作成すること。この2点が“抜け道”をつくっている。

つまり、収支報告書は政治団体が提出するのであって、政治家個人には求めていない。そして、政治家個人に対して、政党は何の制限もなく寄附をすることができる。

したがって、自民党本部から幹事長個人が「政策活動費」という寄附を受け取っても、収支報告書をつくって使途を公開する必要がないということになってしまうのだ。

自民党はこれを利用し、巨額の秘密資金を支出してきた。

一般企業でいえば、社長に支給して、精算しない「渡切交際費」に当たる。本来なら、これを受け取った政治家が雑所得として申告し、税を納めるのがあたりまえだが、あくまで政治活動に使うカネだとして課税を逃れているのだ。

何に使っても自由なカネが、なぜそんなに必要なのか。自民党幹事長室は「党勢拡大や政策立案、調査研究のため」というが、誰も納得できないだろう。そのような正当な目的のためなら、「使途不明金」にしておく必要などさらさらないはずだ。

今年1月29日の衆院予算委員会で、この問題が取り上げられ、野党議員から「二階元幹事長に渡った政策活動費の使途を公開すべきではないか」と問われたさい、岸田首相は次のように答弁した。

「政治活動の自由と国民の知る権利のバランスで議論が行われ今の扱いに至っている」

不思議な理屈だ。「政治活動の自由」と「国民の知る権利」のバランスとは何か。使途不明の政治資金をなくし、全ての資金の流れを国民に公開すると、なぜ政治活動の自由が脅かされるというのだろうか。

 

政治を監視するはずのメディアが「裏金容認」の茶番
フジテレビ上席解説委員、平井文夫氏は2月1日の夕刊フジ「ニュース裏表」で、次のように書いている。

 

岸田首相の言う「政治活動の自由」は非常に重要だ。(中略)30年ほど前の政治改革では、政治家と特定の団体や企業との癒着を断ち切るために、献金やパー券の規制を厳しくして額を減らし、その分を政党交付金として税金から配ることになった。この改革を否定はしないが、「政治活動の自由」が制限されたというのも事実だ。すなわち支援したい政治家に自由に支援できなくなった。三十数年ぶりの「政治改革」という大きな流れの中で、「透明化」「厳罰化」のために「政治活動の自由」はさらに失われることになるだろう。

支援したい政治家に好きなだけカネを提供することが「政治活動の自由」だというのだ。筆者などは、むしろ政治がカネに縛られて不自由になるのではないか、民主主義にとってマイナスではないかと考えるのだが。

異常に多額な渡辺博道氏「1億3250万円」の使途は?
自民党の収入は、国民の税負担で賄われる政党交付金が70%近くを占め、あとは企業・団体献金の受け皿である国民政治協会や所属議員からの寄附などによるものだ。そこから、政策活動費が支出されてきた。

自民党の2022年分の収支報告書によると、政策活動費を受け取ったのは15人で、合計14億1630万円。金額の多い順に6人を並べてみた。
 

茂木幹事長:10億150万円
渡辺博道衆院議員:1億3250万円
遠藤利明(当時の総務会長、選対委員長):7900万円
麻生太郎副総裁:6500万円
関口昌一参院議員会長:5350万円
高木毅国会対策委員長(当時):3470万円
もちろん茂木幹事長が突出しているわけだが、注目すべきは渡辺博道氏であろう。

渡辺氏は茂木派の副会長で、文字通り茂木氏を支える存在。2022年5月18日に7500万円、12月7日に5750万円を受け取っている。

同年12月27日に二度目の復興大臣に就任するまで党の経理局長だったとはいえ、総務会長や国対委員長と比べればわかるように、異常に多額だ。茂木幹事長がどんな目的で側近にこれほどの“つかみ金”を党の金庫から出したのか、ぜひ知りたいものである。

 

政策活動費は「政策」以外に浪費されている可能性大
さて、1年に10億円を超える秘密資金を手にした茂木幹事長がどのようにそれを使ったのかは、想像するよりほかにないが、「政策」とはあまり関係はなさそうである。

 

自民党は、政策でつながっているというより、人間関係で成り立っている集団だ。仲良くなるための飲み食いや贈り物が欠かせない。

それが常識的な範囲なら、収支報告書に記載すればいいのだが、そうではないから、裏金でということになる。

最も大きな使途は選挙がらみだろう。昔から、いかに数多くの議員を選挙で当選させるかが自民党幹事長の値打ちだと相場が決まっている。

国会議員にしても都道府県の知事にしても、地方議員や土地の有力者と仲良くし、いざ選挙が近づけば集票のためにしっかり動いてもらわなければならない。

そのために大勢の秘書を雇って日常的な地元活動をやらせるわけだが、喉から手が出るほど欲しいのはやはり軍資金だ。

そこで、目をつけた議員には、幹事長が資金援助をする。裏金だと、収支報告書に書かなくていいので、依怙贔屓してもわからない。幹事長からもらったカネを国会議員が地方議員に配るにも、裏金なら「俺にはこの額かよ」と思われる心配は無用だ。

無所属が多い地方議員のほうでも、特定の政党からカネをもらっていることを他党に知られたくないから、裏金はありがたい。

もちろん、これを選挙期間中とか、それに近いタイミングでやると、買収と見なされることがある。

2019年の参院選広島選挙区で起きた河井克行元法相夫妻による大規模買収事件でも、政策活動費が使われた可能性がある。

 

裏金を透明化しても「政治活動の自由」は脅かされない
22年前、石井紘基氏が国会で指摘した「政策活動費」というインチキは、法に違反していないという理由で、野党の一部にも伝播して継続されてきた。

パーティー券売上をめぐる裏金疑惑が持ち上がったことをきっかけに、ようやく廃止や透明化を求める声が上がりはじめたが、岸田首相は「使途を公開すれば、個人のプライバシー、企業団体の営業秘密を侵害する」などと、消極的な姿勢を崩さない。

国民の血税による巨額の政党交付金をもらっている政党が、「政策活動費」と名づけさえすれば、政治家個人に対していくらでも裏金として渡すことができる仕組みはどう考えてもおかしい。違法でないからやっていいということにはならないはずだ。

真剣に政治改革を進めているように見せかけても、裏金づくりのための法の抜け穴を残すかぎり、国民の信頼は取り戻せない。

 

 

《なぜドリル優子が?》自民党による裏金問題聴取は疑問だらけ 岸田首相が言う「信頼回復」に足りない3つの要素

 
 
 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップする連載。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、派閥の政治資金パーティー裏金事件に関し行われた、収支報告書の不記載が判明した国会議員への聴取などについて。
 
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“ドリル優子”という言葉を久方ぶりに聞いた。2014年10月、政治資金収支報告書への虚偽記載が発覚した時、小渕優子選挙対策委員長につけられたあだ名だ。当時経産相だった小渕氏は不祥事の発覚後、東京地検特捜部の家宅捜索前に証拠隠滅のため、事務所にあったパソコンのハードディスクをドリルで破壊した疑いがもたれ、そのように揶揄された。元秘書2人は政治資金法違反で有罪となったが、小渕氏が立件されることはなかった。

 その小渕氏が派閥の政治資金パーティーの裏金事件に関して、2月2日から関係議員の聞き取り調査を始めた。党内で党の議員が裏金疑惑に関係する議員らを聴取するというだけで、自民党のやり方に?がつくのに、ここでなぜ小渕氏が?と思うのが普通の感覚だろう。小渕氏もなぜ辞退しないのか、政界を引退した日本維新の会前代表の松井一郎氏は、メディアやSNSを通じて度々「永田町の常識は世間の非常識」と述べていたが、その通りだ。

 ところがさらに驚くことが5日に起きた。この事件を徹底的に解明するためアンケート調査が始められたが、その質問がわずか2問なのだ。「派閥による政治資金パーティーに関する全議員調査」という仰々しい表題がついた用紙には、収支報告書への不記載があったか、なかったかに〇をつけ、あれば2018~2022年の隔年で金額を記入しろというたったこれだけ。裏金議員のリストはすでに党内にあるとか、アンケートは野党が要求したとか、予算審議の途中だとか、彼らなりの言い分はあるかもしれないが、こんなアンケートを見せられれば自民党の本気度を疑えと言っているのと同じだ。

 岸田文雄首相はことあるごとに「国民の信頼を回復する」と意気込むが、首相も自民党もなぜこんなにも国民の信頼を失墜させ続けるのか。なぜ自分たちの首を絞め続けるようなことをするのか。同志社大学の心理学部教授、中谷内一也氏の研究によると、信頼を決めるとされる要素には「能力認知」「動機づけ認知」、それに加えて「価値共有認知」があるという。
 
 能力は専門的な知識や経験、権威であり、動機づけは公正さや誠実さ、努力や行動などに対するモチベーションであるが、肝心なのはそこに「認知」がつくことだ。そうみなしていいのか、それで任せていいのか相手に認知させることが必要になる。さらに中谷内氏の研究の結果、信頼の形成に重要なのは価値の共有だということがわかっている。同じ方向を向いているのか、何が大事なのか、自分たちと意見や見方が一致しているかが認知されなければ、信頼は形成できないというのだ。

 首相をはじめ閣僚や党幹部の能力をとやかくいう気はない。だが度重なるトラブルや不祥事の対応に公正さや誠実さは感じられず、動機付け認知は低い。価値共有認知となればもはや底辺スレスレだろう。首相や自民党が世間と違う方向を向いているのは裏金疑惑だけではない。2021年の衆院選で、盛山正仁文部科学相が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の友好団体から推薦状を受け取っていたというではないか。旧統一教会の解散命令請求を控える所管閣僚がそこから推薦状をもらっていたというのに、本人も辞任せず、岸田首相も盛山氏の更迭を否定。首相が更迭しないのは毎度のことだが、「信頼を回復するには、早めに監視と制裁体制を申し入れるべき」と中谷内氏はある講演で述べている。

 だがそもそも回復できるような信頼があるのか、そこが疑問だ。