政界を大きく揺るがしている自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件。
「そもそも論」から、深まった疑惑、東京地検特捜部の捜査、それに自民党の「派閥解散」をめぐる政局、国会の政治改革の最新の議論まで徹底解説します。
一連の取材では、生々しく問題の実態を語る証言も入手しました。
いったい何が起きているのでしょうか?
(※2月6日午後現在、新たな動きを入れて更新しました)

【目次】

●「政治改革」は実現できるのか?
●捜査はどういう結論に?
●そもそも政治資金問題のきっかけは?
●「キックバック」とは?
●捜査当局はどう動いたのか?
●その後実態解明は進んだのか?
●派閥幹部から任意で事情聴いたが?
●4閣僚交代の人事をどう見る?
●岸田首相はどう対応?
●岸田首相が「派閥解散」表明
●野党側の対応は?
●国会論議は?今後の政治は?

Q.国会は「政治改革」が焦点の1つだ。改革は実現できるのか?
A.政治資金の透明性確保と罰則強化という大きな方向性は与野党の共通認識になっていると言えますが、具体論では自民党とそのほかの政党で温度差もうかがえます。

 

 

例えば、今回の事態を踏まえれば、抜本的な罰則強化が必要だとして、多くの党が求める「連座制」の導入について、岸田総理は1月29日の国会質疑で「党の考え方をまとめる」と従来より踏み込みました。

「連座制」は、政治資金収支報告書に虚偽記載があった場合に議員も責任を負うというものです。

自民党内にも導入に前向きな意見がありますが、個別に議員に取材してみますと、次のような慎重論、いわば本音も聞かれます。

「どんな場合でも、あらゆるケースの責任を議員が負うのは厳しすぎる」(自民党内)

 

また、政治資金パーティーの取り扱いは、自民党が派閥によるパーティーの禁止を盛り込んだ一方、立憲民主党は政治家個人のものも含め全面禁止を打ち出すなど、隔たりがあります。

いずれも国会議員の処遇や資金に直結しますので、合意形成が難航することも予想されます。

2月5日、国会は、衆議院予算委員会で新年度予算案の実質的な審議が始まりました。

立憲民主党の岡田幹事長が、自民党の派閥の政治資金をめぐる問題を受けた政治改革の実行を迫ったのに対し、岸田総理大臣は今の国会で政治資金規正法の改正を実現すると強調しました。

6日も衆議院予算委員会で質疑が行われ、立憲民主党など野党側は、政治資金規正法を改正し、企業・団体献金を禁止することなどを求めました。一方、自民党は、岸田総理大臣が今の国会で法改正を実現するとしていて、党内に設けた作業チームで具体的な検討を進めることにしています。

Q.捜査はどういう結論に?

 

 

A.1月19日、自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件で、安倍派と二階派について、東京地検特捜部は、おととしまでの5年間で、安倍派の会計責任者は合わせて6億7503万円、二階派の会計責任者は合わせて2億6460万円のパーティー収入などを派閥の政治資金収支報告書に収入として記載していなかったなどとして、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で両派の会計責任者を在宅起訴しました。

 

 

また特捜部は、安倍派や二階派だけではなく、岸田派「宏池政策研究会」についても、元会計責任者は、2020年までの3年間で、合わせて3059万円のパーティー収入などを派閥の政治資金収支報告書に収入として記載していなかったとして、罰金刑を求める略式起訴をしました。

 

 

一方、特捜部は松野 前官房長官ら安倍派の幹部7人や、二階派の会長を務める二階 元幹事長など派閥の幹部からも任意で事情を聴いてきましたが、いずれも派閥の会計責任者との共謀は認められないとして、立件しない判断をしました。

 

 

ただ、二階 元幹事長の事務所がおととしまでの5年間で3000万円を超えるパーティー収入を派閥側に納入せず、元幹事長の資金管理団体の収支報告書に派閥側からの収入として記載していなかったとして、特捜部は二階 元幹事長の秘書を略式起訴しました。

 

 

Q.一方で安倍派の池田佳隆衆議院議員は逮捕された。なぜか?
A.東京地検特捜部は、池田議員を逮捕した理由について「具体的な罪証隠滅のおそれが認められたため」と説明しました。

 

 

実は、特捜部が去年12月、池田議員の関係先を捜索した際、関係先にあったデータを保存する記録媒体が壊されていたというんです。

特捜部の調べに対し池田議員の別の秘書が「議員の指示で事務所のパソコンをドライバーなどの工具で壊した」などと話していて、池田議員の指示で証拠隠滅を図った疑いがあるということです。
関係者によりますと、記録媒体には、工具のようなもので壊された跡があったほか、事務所関係者でやりとりした携帯電話の一部のメッセージなども消去されていたということです。

そして、1月26日、特捜部は、キックバックを受けたにもかかわらず、資金管理団体の政治資金収支報告書に寄付として記載しなかったとして池田佳隆 衆議院議員と政策秘書を政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で起訴しました。

2月5日夜、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で起訴された池田議員が保釈されました。
弁護士の請求を受けて、東京地方裁判所が5日、保釈を認める決定を出し、検察が不服として準抗告しましたが、東京地裁が退けました。
保釈金は1500万円で、全額納付されたということです。

Q.ほかの安倍派議員の捜査はどうか?
A.特捜部は、多額のキックバックを議員側の資金管理団体の収支報告書に記載していなかったとして、1月19日、5000万円を超えるキックバックを受けたとされる大野泰正 参議院議員を政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で在宅起訴し、4000万円を超えるキックバックを受けたとされる谷川弥一 衆議院議員を略式起訴しました。

在宅起訴された大野参議院議員は自民党を離党しました。

略式起訴され自民党を離党した谷川衆議院議員は24日、議員を辞職しました。
先立って22日、記者会見した谷川議員は「自身の認識の甘さがあったと深く反省している。おわび申し上げます」と謝罪しました。

 

 

関係者によりますと、特捜部の任意の事情聴取に対し、大野議員は関与を否定していますが、谷川氏は虚偽記載を認めているということです。

 

Q.そもそも、今回の「政治資金」をめぐる問題のきっかけは?
A.こちらをご覧ください。

 

 

自民党の5つの派閥は2021年までの4年間にあわせておよそ4000万円分の政治資金パーティーの収入を政治資金収支報告書に適切に記載していなかったとして、大学教授が告発状を提出し、各派閥は対応に追われる事態となったんです。(※総額など告発内容は2023年11月18日時点)

Q.なぜ政治資金パーティーなどの収入をめぐって問題が相次ぐのか?
A.私たちは取材を進めました。まず、こちらを説明します。

 

 

政治資金を集めるために行われる「政治資金パーティー」。
参加者は、一口2万円程度のパーティー券を購入。何口も買うケースも少なくありません。

 

数千人規模になることもあり、多いときで数億円のカネが集まります。

法律で認められた集金の手段ですが、特定の団体などとの癒着を防ぐため、次のような決まりがあります。

 

 

しかし今回、派閥の政治資金パーティーの収入をめぐって、適切に記載されていないケースが相次いで明らかになったのです。

 

Q.一体なぜなのか?
A.自民党の派閥のパーティー券を毎年購入してきたという業界団体の関係者の証言を得ました。

 

「業界としてみれば、何かあったときにいろいろお願い事をすることもあるだろうと。もしもの時のためというか、『保険』じゃないけどかけておくみたいな」

 

 

各派閥のパーティーが開かれる時期になると、男性のもとにはパーティー券の購入を求める依頼が次々に舞い込むといいます。

 

「いろんなところから『お願いします』って電話がかかってくるわけですよ。(全然知らない人からも?)すごい数が来ます。本当に」

 

男性の証言から、不記載につながる要因の一端が見えてきました。

 

 

団体は、同じ派閥の複数の議員から同じパーティー券の購入を別々に依頼されることも少なくないといいます。

 

 

団体はパーティー券を議員ごとに購入。
その多くは、派閥側には記載義務のない、20万円以下だったということです。

 

 

ただ、元は同じパーティー。同じ団体からの支払い金額の合計が20万円を超えていれば、派閥側には記載の義務があるにもかかわらず、この団体のケースでは、記載されていなかったのです。

「正直なところびっくりしました。当然、正直に適正に報告はされているんだろうと思って、漏れているものがあるなんて思いもよらなかった」

Q.パーティー券を販売する側の事情はどうなのか?
A.自民党の関係者は、パーティー券を販売する側の事情について、こう明かしました。

 

「それぞれの議員が、どこに(パーティー券を)売っていてるかっていうのは分かりませんし、議員同士も、自分たちの大切な支援者をほかにあんまり言いたくないという心理も間違いなく働くんですね。結果として記載義務の必要があるものを記載できなかったというケースがあると思います」

Q.どういう事情かは分かってきましたが、今回の問題をどう考えたらいいのか?
A.政治資金の問題に詳しい専門家に聞きました。(※インタビューは2023年11月下旬)

 

「もしパーティーに関する不記載が故意に、あるいは組織的に行われたということになれば、政治資金収支公開制度の根幹を失わせるといったような非常に重大な問題だと言わざるをえない。やはり、こういうことがないようなチェックやコントロールの仕組みというのを今後考えていく必要があろうかと思います」

Q.きちんと記載がされていなければ、不透明な金のやりとりや癒着が起きても、外からチェックすることはできなくなってしまうということか?
A.政治資金パーティーの収入の不記載について、さらに取材を進め、あることがわかってきました。自民党の関係者の1人は取材に対し、こう話しました。

「パーティー券の販売にはノルマがあり、ノルマを超えた分の収入は慣習として議員側に派閥からキックバックされていた」(自民党の関係者)

Q.「キックバック」とは、具体的にはどういうことか?
A.自民党の最大派閥、安倍派「清和政策研究会」の政治資金パーティーに関して、わかったのがこちらです。

 

複数の関係者によりますと、安倍派は、所属議員の役職や当選回数などに応じてパーティー券の販売ノルマを設定していました。

 

 

そして、所属する議員がパーティー券の販売ノルマを超えて集めた分の収入を、議員側にキックバックし、派閥の収支報告書にパーティーの収入や議員側への支出として記載していなかった疑いがあります。

 

 

議員側にキックバックされた資金の総額は、2022年までの5年間でおよそ5億円に上るとみられます。

そして安倍派は、▽議員ごとのノルマ額、▽実際に集めた金額、▽議員側にキックバックした金額を記したリストを作成していたということです。

 

 

安倍派の所属議員のうち、複数の議員が、2022年までの5年間に1000万円を超えるキックバックを受けていたとみられています。

 

 

安倍派は、パーティー券の収入を専用の口座などで管理していたということで、口座への入金額と、安倍派の政治資金収支報告書に実際に記載されているパーティー収入の総額には食い違いがあり、議員側の政治団体もキックバックされた資金を収入として記載していない疑いがあるということです。

Q.安倍派でのキックバック、徐々に実態が明らかになってきましたね?
A.安倍派の所属議員の元秘書が取材に応じ、派閥のパーティー収入をめぐるキックバックの実態を生々しく証言しました。

 

「政治の世界に秘書として入って1年目から、キックバックというものがあると先輩秘書や派閥の事務局などから聞いていた。当たり前のように感じていたので、事務所の中でも悪いという認識はなかったと思う」

そして、元秘書は「年末が近づくと派閥の幹部から議員の事務所に連絡があり、本人が議員会館や派閥の事務所に出向いて幹部と面会していた。面会を終えた議員の胸ポケットには封筒が入っていて『先生、その胸ポケットのやつって、何かの資料ですか』と聞くと、『これは派閥からのキックバックだよ』と言っていた。封筒の中身を見たことはないが、現金以外には考えられない」と証言しました。

 

「キックバックを受けた分は本来、政治資金収支報告書に記載すべきだと思うが、派閥から『記載しないでください』と明確な指示があったので、一切記載していなかった。派閥の事務局に『これは裏金なのではないか。記載しないとやばくないか』と聞いたところ、『なので、逆に記載しないでください。記載してしまえば、裏金ではなくなってしまいます』と言われた」

Q.裏金化された資金は、いったい何に使われているのか?
A.事務所費の不足分やパーティー券の販売ノルマを達成できなかった分の穴埋めなど、永田町関係者から様々なケースの証言が出る中、自民党で議員活動への支援や選挙対策に携わっていた関係者が取材に応じ、実態を明かしました。

 

この関係者は「政治には金がかかるというが、どこにかかるかというと、大きくは、選挙と議員を支える秘書をどれだけ多く雇っていくかにかかっている」と話しました。

このうち秘書については「公設秘書以外は私設秘書として雇わなければならない。支援組織がある党はそこから送り込むことができるが、自民党は昔からよく『自分党』と言われるように組織があるようでないので、お金も人も自分で集めてこないといけない」と話しました。

 

さらに、こうした事情は選挙でも同じだとしたうえで「選挙で宣伝車を走らせる場合、ドライバーとウグイス嬢を雇用しなければならないが、いずれも適性のある人がそれほど多くないため争奪戦になり、甘くはない。さらに、永田町では陣中見舞いということばを使うが、自分の子分となる選挙区内の地方議員に金を配るので、それも相当な額になる。裏金がなければ、じゃあその金はどこから捻出するのかという形になる」と証言しました。

 

そして「裏金というのはどんな形にも使える自由な金なので、それを人件費に使おうと、銀座のクラブでの飲み食いに使おうと、選挙に使おうと、自由にその財布から出せる。裏金がなければ何もできない。今回の事件を受けて政治資金規正法を厳しくしてもいたちごっこだと思う」と指摘しました。

そして、みずからも選挙対策を通じて裏金に関わってきたことを反省しているとしたうえで「自民党にお願いしたいのは、政治とカネの問題や裏金づくりについて正直に有権者に謝罪することだ。このような使途不明の金は作りませんと宣言し、立党以来のうみをこの機にすべて出してほしい」と語りました。

Q.キックバックについて、連日、安倍派幹部の名前が挙がりましたね?
A.そうですね。
去年12月8日、事態が動きました。

 

安倍派幹部で官房長官を担っていた松野氏側が、2022年までの5年間で1000万円を超えるキックバックを受けていたことが関係者への取材で明らかになりました。
松野氏側の政治団体は、政治資金収支報告書に収入として記載していない疑いがあるというのです。

松野氏は、国会の質疑や記者会見で「みずからの政治団体の政治資金は適正に対応してきた」と述べる一方、具体的な説明は避けてきました。

 

そして14日、辞表を提出した松野氏は官房長官として最後の記者会見に臨み「政治資金について、さまざまな指摘がなされ、結果として国民の政治に対する信頼が揺らいでおり、国政に遅滞を生じさせないよう職を辞することにした。責任を感じている」と述べました。

 

そして、さらに深刻な事態が…。

 

 

松野氏のほか、いずれも安倍派幹部で、事務総長を務める高木国会対策委員長(当時)や世耕参議院幹事長(当時)など、10人以上の議員側が、2022年までの5年間で1000万円を超えるキックバックを受け、政治資金収支報告書に収入として記載していない疑いがあることがわかったのです。

さらに、安倍派の座長を務める塩谷元文部科学大臣や萩生田政務調査会長(当時)、経済産業大臣を担っていた西村氏など、派閥の幹部6人を含む安倍派の大半の所属議員側が、パーティー収入の一部についてキックバックを受けていたとみられることが関係者への取材でわかりました。