「政権の見解を報道する場合にはできるだけ多くの角度から論点を明らかにする」といった内容を定款に追加する▽政権などの「介入」と疑われる事態が起きた場合は第三者委員会を設けて検証する▽番組審議委員の任期に上限を設ける▽前川氏を社外取締役に推薦する、といったことを検討しているという。

 会見で前川さんは「テレビには、権力のありようを鋭く見つめて、実態を暴いて、人々に伝える役割を期待しているが、そのテレビが逆に権力者に取り込まれてしまっているのではないか。そこに強い懸念を抱いている」と述べた。

 

 

 田中優子・法政大学前総長(72)と前川喜平・元文部科学事務次官(69)が共同代表を務める市民グループ「テレビ輝け!市民ネットワーク」が5日、都内で会見し、テレビ朝日を傘下に持つテレビ朝日ホールディングス(HD)の株主総会で、株主提案を行うと発表した。団体に賛同する個人株主らの意見をとりまとめて、テレビジャーナリズムの萎縮を防ぐための具体的な提案を行うという。

 

 昨年9月末までに、田中氏や前川氏、弁護士ら50人超が同社株を計約5千万円分(当時)購入し、提案に必要な量の株式を取得したという。今後他局でも同様の取り組みを行う方針。

 

提案内容は、「政権の見解を報道する場合にはできるだけ多くの角度から論点を明らかにする」といった内容を定款に追加する▽政権などの「介入」と疑われる事態が起きた場合は第三者委員会を設けて検証する▽番組審議委員の任期に上限を設ける▽前川氏を社外取締役に推薦する、といったことを検討しているという。
 

 会見で前川さんは「テレビには、権力のありようを鋭く見つめて、実態を暴いて、人々に伝える役割を期待しているが、そのテレビが逆に権力者に取り込まれてしまっているのではないか。そこに強い懸念を抱いている」と述べた。

 事務局の梓澤(あずさわ)和幸弁護士(80)は「普通の市民が言ってもなかなか答えてくれないけれども、会社法に基づく提案については、会社は応答しなければならない」と語った。(滝沢文那、中沢絢乃)

 

 

前川喜平氏らがTV局株取得で目指す〝メディア改革〟 意外なメリットを専門家が指摘

 
元文科事務次官の前川喜平氏と元法政大学学長の田中優子氏が共同代表を務める市民ネットワーク「テレビ輝け!視聴者からのメッセージ」がテレビ朝日ホールディングスの株式を3万株取得していることが5日、明らかになった。健全なテレビ局の報道を呼びかける同団体は他の民放在京キー局の株式も取得する意向で、かつて村上ファンドを率いた村上世彰氏のような〝物言う株主〟となれるのか――。

5日、日本外国特派員協会で会見した前川氏は「メディアは民主主義に不可欠なもの。そのメディアが正しく機能しないと民主主義が死に絶えてしまう。政治が見えなくなると主権者は権力者を制御できなくなる。権力者は見えないところで権力を私物化する。今回の(自民党の)裏金問題もその一つの表れ」と訴えた。

前川氏といえば、安倍政権時の2016年に文科省で事務次官に就任するも翌年に天下り問題で辞任。その後、加計学園問題で安倍政権を真っ向から批判していた最中に出会い系バー通いが報じられ、政権側と徹底対立した過去があった。
前川氏と田中氏が昨年末に設立した「テレビ輝け!視聴者からのメッセージ」は、安倍政権下でのメディアへの圧力問題やジャニーズ問題でのメディアの沈黙など、とりわけテレビへの信頼が著しく低下している現状に危機感を持ち、結成されたものだ。

実効性を持たせるために取る手段が、株式取得による株主提案権だ。会社法で総株主の議決権の1%以上の議決権、または300個以上の議決権を6か月以上保有した株主は議題を株主総会で請求することができる。

同団体は既にテレビ朝日ホールディングスの株式3万株(5日時点で時価約6285万円)を取得し、今年6月にも行われる株主総会で株主提案できる権利を得たという。他の民放の在京キー局の株式も取得する意向を明かした。

テレ朝を最初のターゲットにしたのは15年に「報道ステーション」で起きた元経産官僚の古賀茂明氏の降板劇だ。「有力なコメンテーターとスタッフが『報ステ』という影響力のある番組から消されたということが、テレビ報道の危機で典型的な例としてあった」(同会の梓沢和幸弁護士)

今後は番組の改善など同会でまとめた意見を株主提案で代弁していき、さらに前川氏を社外取締役として推薦する。前川氏は「経営側は番組の制作や報道の自由に余計なことをするな、外部の権力に忖度や迎合をするなと。権力には政治権力もあるが、民間もある。ジャニーズ事務所や吉本興業は民間の権力。そういうのに忖度するのもいかん。放送事業者の独立性を担保する」と語気を強めた。

同会による働きかけはどこまで効果があるのか。株式評論家は「株主総会で議案を提出できても、内容次第だが社外取締役にしてくれだの番組内容に抗議しても却下されるのがオチ。大量保有したとしてもTBSを除く、新聞社系のテレビ局は一族が占め、ひっくり返すことなどできない」と指摘する。

一方で、同団体がテレビ局の株式を取得するのは、投資の観点からは時流に合っているとする。

「東京証券取引所は株主を軽視しているとして、昨年からPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に是正勧告している。テレビ各局は軒並み1倍割れしていて、資本効率改善や配当の引き上げが見込まれることで、昨年から右肩上がりのチャートで、新NISAでも有望な投資先として注目されている」(同)

意見が反映されなくとも、閉鎖的なテレビ局に直接モノが言え、株的にもうまみがあれば、前川氏らの団体の狙いは賢明ともいえるだろう。

 

テレビ朝日ホールディングス(株)

テレビ朝日、ビーエス朝日、シーエス・ワンテンなどの放送局を傘下にもつ持株会社。略称はテレビ朝日HD。テレビ放送事業、音楽・出版事業、インターネット事業、イベント事業、映画事業、ショッピング事業などを行う連結子会社・持分法適用会社を統括・運営する。1957年(昭和32)11月に日本教育テレビ(2003年テレビ朝日に社名変更)として設立。放送のデジタル化や通信との融合が進むなか、グループ経営の効率化などのため、2014年(平成26)4月、株式会社テレビ朝日から認定放送持株会社へ移行し、同時に現社名となった。認定放送持株会社として日本で5番目に認可された。本社は東京都港区六本木(ろっぽんぎ)。資本金は366億4280万円で朝日新聞社や東映などが主要株主。連結で売上高3025億円、純利益158億円、従業員4938人(2018)。