こんな腐れ切った買収人間は議員辞職だって!

「公選法で禁止されている買収や、選挙区内の人に寄付する行為の公訴時効は3年。今回の件は時効が成立しているとはいえ、言語道断です。私の見解では議員辞職すべき事柄で、副大臣の職を辞すべきだというのは言うまでもありません」

 

 

 岸田総理と麻生副総裁の戦いの帰趨が決するのを待つことなく政権を自壊に導くかもしれない人物がいた。自民党、愛知4区選出の工藤彰三内閣府副大臣(59)。彼が抱える“議員辞職級”のスキャンダルとは。
 

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 岸田政権発足以来、不祥事で辞任した政務三役はすでに3人を数える。不倫問題の山田太郎前文科政務官、公選法違反の柿沢未途前法務副大臣、税金滞納問題の神田憲次前財務副大臣。そこに連なる可能性がある工藤副大臣は名古屋市議を2期務めた後、2012年の衆院選で初当選を果たした。現在4期目。18年には国交政務官に就任し、昨年9月からは拉致問題や少子化対策などを担当する内閣府副大臣を務めている。

 麻生派所属のため、「派閥パーティー裏金事件」のあおりを受けることはなかった工藤副大臣。昨年12月14日に放送された地元CBCテレビの「チャント!」では、“金の管理”について問われてこう答えている。

「管理がずさんということは当然ながら次、『自民党もういいや』『工藤彰三、選挙もういいや』と(なって)当たり前の話ですから、きちっともう一度精査する。これはもうお約束だと思います」

「買収行為にも手を染めたことが」
 政治資金の管理をきちんとするのは当然のこと――そう述べる工藤副大臣を冷めた目で見ていたという名古屋市議会関係者は、

「よく言うよ、と思いましたね。工藤さんのところの政治資金の扱いは極めてずさん。18年には会員制集会の収支を政治資金収支報告書に全く書いていなかった、と大きく報じられています」

 として、こうささやく。

「そんな工藤さんは有権者への買収行為にも手を染めたことがあるのですが、それは表沙汰になっていません。しかも、選挙運動を頑張ってもらったお礼として、選挙の約2カ月後に愛知県議や名古屋市議を韓国・ソウル旅行に連れて行っているのだからあまりにもあからさま。旅行代金は全て工藤さん持ちです」

 その選挙とは、17年10月22日に行われた衆院選のこと。ソウル旅行の期間は、同年12月17日から19日までである。

「旅行に行ったのは工藤さん本人の他、愛知県議の直江弘文氏、名古屋市議の横井利明氏、坂野公壽(ばんのこうじゅ)氏(当時)、藤沢忠将氏(故人)、藤田和秀氏、服部慎之助氏、吉田茂氏の7名。愛知県議の伊藤辰夫氏は行く予定だったものの、直前にキャンセルとなっています。直江氏は当選11回を数える愛知県議会の重鎮で、17年と21年の選挙で工藤さんの選対本部長を務めています」(同)

 

請求金額は約176万円
 旅行代金の全額を工藤副大臣が払ったことを示す「証拠」が手元にある。その一つが旅行会社「ツーリストラボ」社からの請求書。宛先は工藤副大臣が代表を務める「自由民主党愛知県第四選挙区支部」で、請求金額は175万9638円となっている。そこには〈ソウル視察旅行代金〉とも記されている。

 また、請求明細書には、藤沢氏12万8千円、横井氏17万9千円、藤田氏11万2千円、工藤副大臣9万2千円など、各議員にかかった費用が細かく記されている。

「費用に若干の差があるのは、全員が同じ便で向かったわけではないから。直江、坂野、服部、吉田の4名は旅行会社が組んだ旅程通りにアシアナ航空便で行って帰ってきたので、料金は同じ11万5千円となっています」(同)

 旅行会社が作成した〈ご旅行日程表〉によると、1日目は〈着後、ソウル市内観光〉、夕食は〈景福宮にて生カルビコース〉。2日目は〈市内及び郊外観光〉で夕食は〈龍水山にて韓定食〉となっている。使用する交通機関は全日〈専用車〉、〈利用予定ホテル〉は〈ミレニアム・ヒルトン又はロッテホテル本館〉。

「日程表が作成されたのが11月17日になっています。選挙が終わってから急いで旅行の計画を立て始めたのでしょう」(同)

キックバックも
 旅行に行ったメンバーと工藤副大臣の関係の深さは、彼が代表を務める「自由民主党愛知県第四選挙区支部」の収支報告書を見ても明らかだ。17年の報告書には、旅行直前の12月3日、直江氏が代表を務める自民党の支部に200万円、横井氏が代表を務める支部に100万円を寄付したとある。

「これらの寄付は、その年の9月に行われた工藤さんの政治資金パーティーのパーティー券を売ってもらった分のキックバックです」(愛知県議会関係者)

 これは自民党愛知県連の手法を踏襲したものだという。県連のパーティーは、例えば1枚3万円の券を50枚までは1枚につき5千円のキックバック、それを超えたら1枚1万円、といった形式で1枚販売するごとにキックバックが発生するシステムとなっており、

「工藤さんの事務所でもパーティー券を売ってくれた人に同じやり方でキックバックしているのです。工藤さんが旅行を計画したのは、選挙だけではなく、パーティー券販売のお礼の意味も含まれているのでしょう」(同)

 

「買収目的と断定できなくとも違法」
 旅行に行ったメンバーは工藤副大臣の選挙を手伝っただけではなく、全員が彼の選挙区の有権者でもある。

「選挙運動を頑張ってもらったお礼に旅行に連れて行ったのが事実なら事後買収にあたり、公職選挙法違反となります。買収された側も被買収の罪に問われる可能性がある行為です」

 そう指摘するのは、自民党派閥の裏金問題を告発した神戸学院大学教授の上脇博之氏だ。

「また、公選法では候補者が選挙区内の人に対して寄付することを禁止しています。ですので、買収目的の旅行と断定できなくとも違法ということになります」

 ちなみに工藤副大臣が代表を務める自民党支部や政治資金管理団体の収支報告書を調べたが、この旅行についての記載はなかった。

「記憶がない」と繰り返す参加者たち
 旅行の参加者たちは何と言うか。坂野元市議は、

「ソウルかー。行った記憶はあるけど、工藤君おったかなぁ。カジノは連れて行ってもらったけども。(旅行代金は)俺は覚えとらんなぁ」

〈専用車〉にて移動し、〈生カルビコース〉や〈韓定食〉を堪能したばかりか、カジノまで楽しんでいたのだ。

「ヒルトンに泊まった時に、セブンラックというカジノがあって、行ったことは覚えています。せっかくなので体験で賭けてみたのも覚えています」

 そう話すのは服部市議。

「(旅行代金は)いや、さすがに昔の話なんでね。(自分で払ったことを示す)領収書があればそれを見せれば済む話だと思うんですけど、そもそもそこまで前のことの証拠を見せてくれと言われても……」

 吉田市議は「記憶がない」と繰り返すのみ。

 藤田市議も、

「記憶にないなぁ」

 と繰り返していたが、費用が工藤副大臣持ちだったことを指摘するとなぜか、

「おお~」

 そう驚いてみせた上でこう強弁するのだった。

「俺は工藤とはそういう付き合いしてないので」

“確か返した”
 彼らの“ボス”的な立場で、工藤副大臣も頭が上がらないという直江県議は自宅で取材に応じた。

――旅行代金を支払っていないと聞いているが? 

「俺は払ったと思っとるよ」

――“思って”いる? 

「うん」

――韓国に行ったのは覚えている? 

「行ったかなぁとは思うけど、覚えてないわ」

――いつどのように払ったかは覚えている? 

「払った覚えはあるけど。どういう形でかは……」

――工藤氏の事務所に? 

「だろうなぁ」

――払っていれば領収書などをもらうのでは? 

「証拠はないわ。覚えがないんだから。そそそ、それが事件になるの?」

――自分で持って行って支払った? 

「そういうような思いがあるな。うっすら記憶がある。確か返したと思うよ」

――もし払ってもらっていたら公職選挙法違反になる。

「おごってもらったらいかんというのは分かっとる」

――返した記憶はない? 

「返したという思いだわ。気持ちだ、今思うと」

 返したという明確な記憶はないものの、その“気持ち”はあると言い張るのだ。ところが、しばらくして再び自宅を訪れると、

「やっぱり思い出したけど、返したわ。事務所へ。確か、封筒に入れて秘書に渡したわ。女房も“確か返したと思う”って言ってるし」

 急に記憶が喚起されたとは、いかにも怪しいと言わざるを得まい。

 

副大臣も怪しい弁明
 工藤副大臣本人はどう弁明するのか。

「これは言っておきますけど、買収でも何でもない。そもそも前から(韓国に)行こうという話はあったんです。でもそれが延びて、この日付じゃないと行けないわなといって行っただけ」

――選挙のお礼ではない? 

「全くない。あの時は僕も空いている日程がなかったから、夜に韓国に入って、食事してそれっきりなんです。次の朝に日本に帰ってきている」

――旅費は工藤さんが最初に全額支払った? 

「そう、まとめて払った。でも2泊の人だったり前乗りの人だったりで、料金がバラバラじゃない。だから(議員)それぞれ(後で)払うからってことで、(私が)全部払ってるんで」

――請求書の宛名は「第四選挙区支部」になっている。

「ちゃう……第四選挙区支部(で支払った)というわけではなくて、一応送り先をそういうふうにしておいてとしただけ」

――カジノにも行った? 

「夜にワーッと韓国に入ってご飯を食べて、先輩たちがカジノをやってるからハアハアと見てそれだけ。そもそも博打が好きじゃねぇ。あれは根気がいるから」

――(請求書を見せながら)176万円を工藤さんが払ったということでいい? 

「払ったと思う。(出どころとして)どこから払ったのかは定かじゃない」

旅費の徴収方法は「分からない」
――各議員の分は後で工藤さんが徴収したのか? 

「各議員に請求してよねという話をツーリストラボにした」

――ツーリストラボが各議員から徴収した? 

「全部こっちが集めに行くの面倒くさいもん」

――ツーリストラボが各議員から集めた金を工藤さんが受け取ったということ? 

「うんうんうん。そういうふうに相殺したはずだ。(ツーリストラボの)社長と直接会って現金の受け渡しをした覚えはないけど、確かそうだったと思う」

――私的な旅行だから収支報告書に載せていない? 

「そういうことだ。愛知県第四選挙区支部の研修だったらそれで出して、計上するけれど、みんなで和気あいあいの旅行だった。だから“工藤ちゃん出しておいてくれ”と」

――ツーリストラボが各議員から徴収した金をどうやって戻してもらったのかは分からない? 

「分からない。振り込みなのか現金で持ってきたのか、覚えてない」

――金を受け取ったなら通帳などに記録が残されているはずでは? 

「いや、ないんじゃないかなぁ。前回の選挙が終わった後に金庫番が辞めて、通帳がシュレッダーされちゃったから困ってんだ」

 

どちらか、あるいは両方の言い分が虚偽
 直江県議の証言と同様、怪しいことこの上ないのだ。しかも肝心の旅行代金について、直江県議は工藤副大臣の秘書に渡したと言い、工藤副大臣は、旅行会社が各議員から徴収したと主張する。どちらがうそをついているのか。あるいは、両方共に虚偽なのか……。

 前出の上脇氏が言う。

「公選法で禁止されている買収や、選挙区内の人に寄付する行為の公訴時効は3年。今回の件は時効が成立しているとはいえ、言語道断です。私の見解では議員辞職すべき事柄で、副大臣の職を辞すべきだというのは言うまでもありません」

 麻生派の工藤副大臣の罷免を巡って、岸田総理と麻生副総裁の戦いはさらに激化するのか――。

「週刊新潮」2024年2月1日号 掲載