明治神宮外苑が大規模再開発の波にさらされている。

先人たちが厳しい規制をかけて、100年近く守ってきた都心の緑。誰が何のために、開発への封印を解いたのか。再開発に至った経緯をひもとく。(敬称略)

 

 

連載⑥【排除】2015年~

東京都議「ラグビー場と野球場を交換するとのうわさもあるが」

都の担当者「そういううわさはあるが、具体的な内容は地権者と協議中であり、都が言うべき立場にない」

◆3年前からの構想、都議にも答えず
2015年1月、都議会の議員控室。都の担当者は、共産都議から、外苑の再開発について問われたものの、その内容を明らかにすることはなかった。

神宮球場と秩父宮ラグビー場を入れ替えて建て替える構想は、すでに3年前の2012年、元首相の森喜朗のもとに副知事が出向いて報告していた内容だった。

 

再開発事業の利害関係者である三井不動産や明治神宮、日本スポーツ振興センター(JSC)、伊藤忠商事などの地権者らは、都が森に示した構想に沿う形で2013年ごろから再開発に向けた協議を始めており、都とも水面下で調整を重ねていた。

音頭を取ったのは都のようだ。

「関係者皆で協議していきましょう」。協議への参加を呼び掛けられた明治神宮は「千載一遇のチャンス」と飛びついた。

◆都からの誘いは「渡りに船」
20年来、神宮球場の老朽化に頭を悩ませてきた。かつて自前で外苑の再開発を模索したこともあったが頓挫した。

明治神宮によると、外苑の収益事業のうち6割弱を神宮球場が担っているという。ラグビー場と入れ替える計画なら、新しい球場を造ってから古い方を取り壊すので球場収入が途絶えることはない。都からの誘いは明治神宮にとって渡りに船だった。

秩父宮ラグビー場を運営するJSCも、都から「五輪後にこの地域を再開発する検討を始めませんか」と声をかけられていた。ラグビー場も老朽化が進み、現地改修を検討していた。

ただし、こうした地権者と都の交渉内容は明らかになっていない。

◆すでに青写真はできていた
都側は「記録がない」と言い張り、都議会からいくら追及されても明らかにしようとはしなかった。確かなことは、外苑の再開発構想が公になったときには、利害関係者たちの手で既に青写真ができあがっていたということだ。

 

共産都議が都の担当者に問い合わせてから3カ月。2015年4月1日、都は、外苑をスポーツの一大拠点とするため五輪後に大規模な再開発を行う方針を明らかにした。

この日、都は再開発に向けて、三井不動産や明治神宮、日本スポーツ振興センター(JSC)、伊藤忠商事などの地権者と覚書を結んでいる。

地権者が一堂に会した締結式で、都知事の舛添要一は「オリンピック終了とともに、直ちにこの大きな開発計画を前に進めたい。2020年の後を見据えた大きなレガシーとして神宮外苑地区が生まれ変わる第一歩が踏めたことを、大変うれしく思う」と高らかに宣言した。

◆周辺住民は蚊帳の外
蚊帳の外に置かれていたのは、周辺住民たちだった。

 

 

2016年末から工事が始まった国立競技場が徐々に巨大な楕円の形を見せ始めていく一方で、外苑再開発の話題はぱったりと止んだ。

外苑近くの都営住宅で自治会長を務める近藤良夫が高層ビル計画を知ったのは、「平成」が終わろうとしていた2019年4月。開発に当たって環境への影響を調べる手続きの一環で、開発事業者代表の三井不動産が、東京・赤坂にある会議室で周辺の町内会長らへの説明会を開いたときのことだ。

◆「どこがスポーツの聖地なのか」
ここが190メートル、ここが185メートル、球場にはホテルができる──。再開発の中身がスライドで矢継ぎ早に紹介されていく。

球場やラグビー場を建て替えるだけだと思っていた近藤は想像していた以上の大規模な開発に言葉も出なかった。周りからは「話が違う」「どこがスポーツの聖地なのか」といった声が上がった。

説明資料を求めると三井側は渋ったため、近藤はノートに書き写すしかなかった。

 

 

「外苑の景観を乱す」との近藤らの懸念は、開催を目前に控えた五輪や、その後の新型コロナウイルスの感染拡大にかき消されていく。

◆説明会は近隣住民だけ、通し番号で本人確認
「法令に定められた手続きに沿って情報公開を行っている」。都の担当者や開発事業者は、こう述べる。

実際、開発事業者は近藤ら町内会長に説明した後、住民向けに3回計6日間の説明会を開いている。

問題は、そのやり方だ。

参加できるのは近隣の住民だけ。最初の説明会は、対象者宅に通し番号の付いた案内状をポスティングし、当日受け付けで差し出して本人確認を受けないと入場させない徹底ぶりだった。録音録画も禁じた。

 

 

この間、再開発の「起爆剤」だった東京五輪は、コロナ禍で1年延期に。社会がコロナ一色に染まる中、五輪が閉幕すると、再開発に向けた手続きが大詰めを迎える。

◆「今日終わらせないと、今後に差し支える」
2021年12月14日、都は再開発のより詳細な内容を示した都市計画案を公表し、都民から意見を募るパブリックコメントを始めた。この夜、都が開いた住民説明会は紛糾した。

会場となった都立青山高校の体育館の窓は、コロナ禍のため全開。師走の冷たい風が吹き付けていたが、質問は途切れない。

参加者の一人が「1回打ち切って日を改めよう」と提案するも 、都の職員は「今日終わらせないと今後のスケジュールに差し支える」と応じなかった。終わったのは予定を2時間以上も越えた午後10時すぎだった。

 

 

◆「納得してもらうという雰囲気ではない」
会場には、外苑近くで約40年暮らす角井典子の姿もあった。

角井にとっては、初めて聞く話ばかり。それなのに都の職員は、冒頭から「今日は説明会ですから」とクギを刺した。角井は「もう決まったことだから、という感じ。住民に納得してもらうという雰囲気ではない」と受け止めた。

2週間後に締め切られたパブリックコメントは、集まった意見33件すべてが計画に「反対」だった。

すべての説明会に参加したという近藤は「事業者も都も住民の声を聞かず、自分たちで決めたことを粛々と進めるだけ。今でも外苑を開発しなければいけない理由が分からない」と話す。

外苑再開発への懸念を歌ったサザンオールスターズの「Relay 杜(もり)の詩」の一節を引き合いに出し、こうつぶやいた。「まさに、知らないうちに決まっていた」

(この連載は森本智之、中沢誠、市川千晴、押川恵理子が担当します)

 

 

【関連年表】

2012年5月 森喜朗元首相に東京都幹部が再開発の構想を説明

2013年1月 外苑地区の地権者が再開発の検討を始める

   6月 都が外苑地区の高さ制限を緩和

2015年4月 再開発に向け、三井不動産や明治神宮などの地権者と都が覚書

2016年8月 小池百合子が都知事に就任

2019年4月 開発事業者が地元の町内会長に高層ビル計画を説明

   9~11月 国内でラグビーのW杯開催

2020年1月 新型コロナウイルスの国内初感染

   3月 新型コロナの感染拡大で、東京五輪の延期決定

2021年7~8月 無観客で1年遅れの五輪開催

   12月 都が再開発の詳細な内容を示した都市計画案を公表

 

 

小池都知事「女性初の総理」へ自民の混乱は絶好機…茂木幹事長、岸田首相との面会に永田町騒然

 
春の補選、夏の都知事選、総選挙?
 
笑顔で党本部を後にする小池百合子知事
  
 何を企んでいるのか──。東京都の小池百合子知事が元気に飛び回っている。

 2日、小池知事は自民党本部を訪問して、茂木幹事長と面会。その足で首相官邸に出向くと、続けて岸田首相と会談した。小池知事は記者団に「子育て政策について意見交換した」と説明したが、誰もそんなの信じちゃいない。

「衆院補選の話だろう」「小池さんが立候補して国政に戻ってくるのでは?」「宣戦布告か」と臆測が飛び交い、永田町は騒然とした。 

 東京都の江東区長選をめぐる買収などの罪で起訴された柿沢未途被告がおととい、議員辞職。衆院東京15区の補選が4月28日に行われる見通しになった直後だからだ。

 柿沢被告の支援を受けて当選した木村弥生前江東区長も公職選挙法違反で辞職し、昨年12月に行われた江東区長選では、小池知事の都民ファーストと自民、公明が推薦した元東京都政策担当部長の大久保朋果氏が快勝。“女帝”の力を見せつけた。江東区を含む東京15区は、いわば小池知事の“天領”のようなもの。2日は江東区の「豊洲千客万来」オープニングセレモニーに登場し、区長と並んで笑顔を振りまいていた。
 
「江東区長選は小池知事の支援がなければ勝てなかった。今年1月21日の八王子市長選で自公推薦候補が勝てたのも、最終盤に小池知事が応援演説に入ったおかげだといわれています。自民党が逆風にさらされている今、小池知事が15区補選に出てくれば勝てる人はいない。もし総選挙になっても太刀打ちできそうにありません」(自民党東京都連関係者)

■都知事3選出馬について態度を明らかにせず

 岸田首相が9月の自民党総裁選で再選をもくろんでいるなら、引きずり降ろされる前に解散・総選挙に打って出るしかない。有力視されているのは6月23日まで続く通常国会の会期末解散だ。

 ちょうどその頃、6月20日告示・7月7日投開票の日程で都知事選が行われるが、小池知事は3選出馬について、まだ態度を明らかにしていない。タイミング次第で総選挙に乗り込んでくることは十分考えられるし、その前に4月の補選で仕掛けてくる可能性もある。

「不人気首相に裏金問題が重なり、次回総選挙で自民党はかなり厳しい戦いを強いられる。小池知事が新たな都市型新党を率いて『自民党を介錯します』とでも言えば、そこそこ議席を獲得するだろう。自公が過半数割れならキャスチングボートを握り、連立政権で小池首相というシナリオが考えられる。それ以外に、気脈を通じる前原新党や国民民主党、日本維新の会、自民党の一部と組んで政界再編という手もある。派閥解散で自民党が混沌としている現状は、“女性初の総理”という野望を捨てていない小池知事にとって絶好のチャンスなのです」(自民党閣僚関係者)
 
 小池知事は2日、公明党の山口代表とも面会。小池知事と関係良好な公明は連立政権に文句はないだろう。その延長には公明や維新とのパイプが太い菅前首相や二階元幹事長の存在もチラつく。岸田首相を快く思っていない自民党内の非主流派が小池知事を担ぐ可能性も排除できない。

 今年で72歳の小池知事が最後の勝負をかけるのか。岸田首相は気が気じゃないはずだ。
 
 

“ジョーカー”小池百合子が握る衆院解散の行方。岸田首相は「4・28衆院補選」悪夢の3連敗に戦々恐々…

 
 
裏金問題が自民党を直撃するなかで始まった通常国会。岸田文雄首相は施政方針演説で「政治の信頼回復」を声高に叫んだが、派閥の解散や裏金議員の処分を巡っては、早くも自民党内で対立が生じている。そして、永田町では岸田首相が国会会期中に衆議院の解散に打って出るか否かに注目が集まる。その大きな判断材料となるのが、あの政治家の動きになりそうだ。
 
派閥解散の流れをつくった岸田首相の真意は?
「岸田首相は焦っている」

ある自民党関係者は、最近の岸田首相の動きについて、このように評価した。岸田首相と言えば、1月18日に自身が率いてきた宏池会(岸田派)の解散を検討していることを真っ先に表明し、世間を驚かせた。

「裏金問題で矢面に立たされた安倍派は、安倍晋三氏亡き後、リーダー不在の状況で幹部たちの信頼も地に落ち、放っておいても解散していく流れができあがっていた。にもかかわらず、急に岸田派解散を明言してダメ押しをしたのは、首相が自民党の全派閥を解散させる流れを作りたかったからだ」(自民党関係者)

実際に、岸田首相は派閥存続派の麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長には一切相談せずに自派閥の解散に言及している。

「派閥解消で自民党を“浄化した”と見せかけることによって、衆議院解散を打つ道筋を作りたかったのだろう」と関係者は語る。

結局、岸田派と安倍派、二階派、森山派は雪崩を打ったように解散したわけだが、茂木派と麻生派は政策集団として存続する中途半端な結果になった。ただ、残った両派からは派閥離脱者も出ており、自民党内政局はかなり流動的になっている。

こうしたなかで焦点になるのが、実際に岸田首相が衆議院の解散に踏み切るかどうかだ。

岸田政権の内閣支持率は今も低迷状態が続き、時事通信が1月に実施した世論調査では、自民党の政党支持率が14.6%となり、同社が1960年6月に調査を開始して以降、野党だった期間を除いて過去最低を記録した。

現在の状態が続けば、9月の自民党総裁選で「岸田おろし」が起きる可能性もある。しかも、多くの派閥が解散をしてしまっただけに、その流れを作った岸田首相を麻生派や茂木派が支えてくれるとも限らない。

このように先の読めない政局のなかで総裁選に臨むよりも、先に衆議院を解散して選挙をしてしまったほうが、岸田首相にとっては再選できる可能性が高くなるという打算もあるだろう。
 
“ジョーカー”小池百合子、国政復帰か?
仮に衆院選となった場合、相対する野党はうだつが上がらない状態が続いている。前出の時事通信の世論調査だと、政党支持率は日本維新の会が3.8%、立憲民主党が3.5%と続く。

「身を切る改革」を全面に出して勢いづいていた維新は、2025年大阪・関西万博の建設費高騰などの批判を受けて減速気味。立憲は裏金問題で自民党に攻勢をかけるものの、そもそもの政策発信が国民に届いておらず、共感を得られていない状態だ。

ただ、こうした現状を大きく変えるかもしれない政治家がいる。小池百合子東京都知事だ。安倍晋三氏が「ジョーカー」(『安倍晋三回顧録』)と評した小池氏は、2017年に民進党を巻き込んで希望の党を立ち上げ、一時は自民党を震撼させた。

今年の7月7日には東京都知事選が予定されているが、まだ小池氏は出馬を表明していない。永田町関係者は「小池氏ももう71歳。さらに東京都知事の任期を重ねると、年齢的にも国政に戻ってくるのが難しくなる。野党再編という大義名分とともに、次の総選挙で仕掛けてくる可能性は十分にある」と語る。

2017年の希望の党騒動のときに、小池氏とともに民進党代表として動いていた前原誠司氏は現在、国民民主党を離党して新党「教育無償化を実現する会」を立ち上げ、野党結集による政権交代を唱えている。立憲とは違い、旧民主党勢力でありながら維新と統一会派を組み、馬場伸幸代表などと関係が良好なのもポイントだ。

そのなかで小池氏がゲームの流れを大きく変える、まさに「切り札」として、現在の与野党の状況を一変させるかもしれないわけだ。

ここで重要になるのが解散のタイミングだ。通常国会は6月23日に会期末を迎えるが、一方で東京都知事選の告示日は6月20日。

「岸田首相は、小池氏が都知事選に出るかどうかを見極めたうえで、会期末に解散するか否かを判断することになるのではないか」と永田町関係者は語る。
 
補選の行方と衆院解散のタイミング
ただ、そもそも岸田首相が衆議院を解散できる状況をつくれるのかという問題もある。

4月28日には3つの衆院選挙区で補欠選挙が行われる見通しだ。そのうち1つは、昨年4月の江東区長選で区議などに現金を配り、公職選挙法違反の罪で起訴された柿沢未途議員の東京15区。もう1つは、自民党裏金問題について質問した記者に「頭悪いね」と言い放ち、政治資金規正法違反で罰金100万円、公民権停止3年の略式命令を受けた谷川弥一衆院議員の長崎3区だ。

この2選挙区は「政治とカネ」の問題が絡んでいるだけに、自民党にとっては逆風必至。岸田首相も苦戦を強いられると見られる。

残る1つは昨年11月に多臓器不全で亡くなった細田博之前衆院議長の島根1区だが、細田氏も生前にセクハラ問題や旧統一教会との関係を巡りさまざまな批判を受けたため、与党有利の弔い合戦になるとは言い難い。

野党関係者は「自民党が3タテを食らう可能性も十分にある。そうなった場合、岸田首相が解散に臨むのは極めて難しくなるだろう」と話す。

1月31日、衆議院本会議の代表質問では、立憲が泉代表に続く2人目に、長崎3区補選に立候補予定の山田勝彦氏を登壇させ、早くも4月補選に対して攻勢を仕掛けている。

果たして4月補選の行方は。そして、衆院解散総選挙はあるのか。

いずれにしても、各選挙区の国民に問われるのは、これからの国政を誰に委ねるかという選択だ。

裏金問題については、安倍派が2018年から2022年にかけての5年間で、6億7654万円ものパーティー収入が収支報告書に不記載だったことが発表されており、その一部が直近3年間では国会議員91人に裏金として還流されていたことが明らかになっている。

だが、多くの議員は裏金の金額が“基準”である4000万円に満たなかったため、立件が見送られて罪に問われていない。

こうした状況に対して国民はどのような審判を下すのか。政治のあり方が我々国民にも問われている。

取材・文/宮原健太
集英社オンライン編集部ニュース班