「派閥を解消するのは情勢としてしかたがない面もあるが、政治資金の受け皿となる政治団体がなくなってしまえば、カネの流れはかえって見えにくくなる。これまでよりも裏金づくりに走る議員が出てくることにもなりかねない。派閥のガバナンスが効かなくなることによる弊害もあるはずだ。今の情勢ではこんなことも大きな声では言えないのだろうが……」
政界を覆う「黒い霧」は我々庶民が想像する以上に濃いのかもしれない。

 

 

 

裏金ランキング上位3名に共通することとは…?
 

昨年末から自民党を直撃している派閥の政治資金パーティー裏金事件は、国会にも波及している。通常国会は1月26日に召集されたが、通例では初日に行われるはずの首相の施政方針演説をはじめとする4閣僚による「政府四演説」が1月30日先送りされ、初日となった1月29日には「政治とカネ」をめぐる衆参両院の集中審議が行われる波乱の幕開けとなった。
 

その直後、永田町関係者に一斉に広まったのが、「裏金議員ランキング」と銘打たれた“怪文書”である。
 

リストアップされた議員は25人。自民党派閥の政治資金パーティーの売り上げのうち、議員各自に課された「ノルマ」を超過した資金の環流部分、いわゆる「キックバック」を受けながら政治資金収支報告書に記載していなかった資金が「裏金」と指摘され、その金額が多い議員をランキングにしたものだ。
 

裏金の金額と、議員の名前、所属派閥と選挙区、さらには「これまでの主な役職」として過去の党内での役職や大臣、副大臣、政務官の「政務三役」の経験の有無などが一覧できるようになっている。
 

「裏金の額が最も多かったのが大野泰正参議院議員の5100万円。ついで池田佳隆衆院議員の4800万円、そして、一連の事件の発覚を受けて辞職した谷川弥一前衆院議員の4355万円と続きます。上位3人に共通するのは金額が4000万円以上と突出して多いことと、いずれも『安倍派』である点、さらに大野氏が在宅起訴、池田氏が逮捕、谷川氏が略式起訴という刑事処分を受けたところにあります。
 

怪文書の中では、特に4位以下の残り22人について『4000万円以下未だお咎めなし』と強調しています。作成者が誰なのかは判然としませんが、収支報告書の虚偽記載で、会計責任者だけが処罰対象となる政治資金規正法の問題点を指摘したいという意図はうかがえます」(全国紙政治部記者)
 

 

派閥に足並み揃え、所属議員は一気に収支報告書を修正
 

実はこの怪文書が出回った1月31日、永田町では大きな動きがあった。この日、政治資金制度を所管する総務省に、自民党の「清和政策研究会」、つまり裏金事件が直撃している「安倍派」が過去3年分(2020~22年)の修正申告を行ったのだ。
 

これにより、これまで収支報告書に記載していなかった議員へのキックバック分が明らかになり、安倍派に所属する各議員も一斉に自身の収支報告書を修正。具体的な裏金の額が一気に明るみに出たことが、怪文書拡散の背景にあったようだ。
 

安倍派については、すでに政治団体としての解散をする方針を決めており、2月1日には自民党本部で最後の総会を開催。これに先立って所属議員が派閥の動きに足並みを合わせて収支報告書の修正に動いた格好だが、永田町を取材現場とする記者たちからはこんなブーイングも漏れていた。
 

「安倍派の所属議員のなかには、政治資金について沈黙を貫いた議員が少なくなかった。『派閥の指示があった』といち早く明かした宮沢博行衆院議員のような例外もありましたが、所属議員の多くは取材に対してダンマリを決め込んでいた。
そのために記者たちは総務省に出された収支報告書を手がかりにして各事務所に問い合わせるしかなく、タイトな時間での作業を強いられました。
 

なかには事前に『キックバックはないかもしれない』とシロをアピールしながらも、多額のキックバックを受けていたケースもあった。国会では『政治とカネ』についての野党からの追及を受けていますが、本当に反省しているのかと問いたくなりましたよ」(前出の政治部記者)
 

 

「派閥解消でより裏金づくりがしやすくなる面も…」
 

裏金事件をめぐっては、野党側が、「実態解明のため」として裏金を受領した議員リストの提出を求めるなど、国会での攻勢を強めている。
 

世論の反発も受け、岸田文雄首相が、自身を本部長とする「政治刷新本部」を立ち上げて政治不信の払拭に躍起となっており、総裁派閥の「岸田派」(宏池会)をはじめとして、「安倍派」(清和政策研究会)や「二階派」(志師会)、「森山派」(近未来政治研究会)が次々と解散を発表。森山裕総務会長ら党幹部が収支報告書の不記載があった議員からの聴取も始めた。
連立を組む公明党側からは、収支報告書での不正があった場合、議員本人も法的責任を負う「連座制」の適用を提案されるなど、身内からの圧力も日に日に強まっている。政治資金規正法の改正も含めた抜本的な対策が不可避の情勢だが、議員側からはこんな声も漏れ聞こえる。
 

「派閥を解消するのは情勢としてしかたがない面もあるが、政治資金の受け皿となる政治団体がなくなってしまえば、カネの流れはかえって見えにくくなる。これまでよりも裏金づくりに走る議員が出てくることにもなりかねない。派閥のガバナンスが効かなくなることによる弊害もあるはずだ。今の情勢ではこんなことも大きな声では言えないのだろうが……」
政界を覆う「黒い霧」は我々庶民が想像する以上に濃いのかもしれない。
 

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

 

 

<社説>自民の裏金事件 野党結束して改革迫れ

 
 岸田文雄首相の施政方針演説に対する衆参両院の代表質問で、野党4党は政治資金規正法改正の具体案を示し、賛同を求めた。各党の主張には重なる部分が多い。自民党の自浄能力に期待できない以上、野党が結束して改革の実現を迫るべきだ。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、立憲民主はパーティー全面禁止を掲げ、維新、共産は企業・団体へのパーティー券販売禁止を主張した。国民民主も与野党合意を前提に企業・団体への販売禁止に賛同する姿勢だ。

 政治家や政治団体が支持者と懇親する場としてパーティーの存続を認めるとしても、企業・団体が政治家個人や政治団体に献金する抜け道となっている現状は改めなければならない。購入者名の公開基準額引き下げも必要だ。

 罰則強化に向け、会計責任者だけでなく議員も処罰される連座制の導入を立民、維新が提唱した。裏金に手を染めた安倍派幹部らが罪に問われず、議員の地位にとどまっていることに国民は不信を深めている。連座制の導入は有効な再発防止策になり得る。

 政党が議員個人に支出する政策活動費は使途公開の義務がなく、不透明と指摘されてきた。立民、維新、共産は廃止を唱え、国民民主は使途公開を提案。野党側の主張はほぼ一致している。

 自民党は政治資金改革の具体案を依然取りまとめておらず、首相は与野党の協議会が設置されれば「真摯(しんし)に議論する」と述べるにとどめた。人ごとのような姿勢では改革の意思を疑われて当然だ。

 ただ、与党の公明党は連座制の導入や政策活動費の使途公開を主張している。野党側が改革案を一本化して実現を迫れば、自民党も拒否できないのではないか。

 裏金事件の背景には、野党側が小党に分立して政権交代の可能性が低くなったため、自民党におごりや緩みが生じたことがある。

 野党には、小異を捨てて大同につき、政治に緊張感を取り戻す努力を尽くす政治的責任がある。

 立民の泉健太代表は、各党が共通政策をまとめて実現を図る「ミッション(使命)型内閣」を提唱した。4日の党大会では次期衆院選で第1党を目指す姿勢を打ち出すが、政治改革を巡り野党が大同団結できなければ政権交代など見果てぬ夢だ。野党第1党として指導力を発揮すべき局面である。
 
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