要綱に賛成した委員の一人が「共同親権が望ましい場合と単独親権の方がよい場合の基準や運用について十分な議論ができなかった」と言っている。そんな大事な議論をせずに、なぜ賛成できたのか?(木村草太さん)

 

「DV加害者が子どもを確保して親権者となり、被害者が子育てから排除されることもあるという」と言いながら、DVは裁判所が除外するから大丈夫だと主張する?

 

安易過ぎるし安直…。

 

 

離婚後の子どもの養育について法制審議会の部会は、父と母双方に子どもの親権を認める「共同親権」の導入を柱とした要綱案をまとめました。法務省は、民法などの改正案を今の国会に提出し、成立を目指す方針です。

法制審議会の家族法制部会がまとめた要綱案によりますと、離婚後は父と母のどちらか一方が子どもの親権を持つ、現在の「単独親権」に加えて、離婚後も父と母双方に親権を認める「共同親権」を導入するとしています。

そして父母の協議によって共同親権か単独親権かを決め、合意できない場合は家庭裁判所が親権者を定めます。また、裁判所がDV=ドメスティック・バイオレンスや子どもへの虐待を認めた場合は、単独親権を維持するとしています。

ただ、DVや虐待への懸念が根強いことから、子どもが不利益を受けないように行政や福祉などに充実した支援を求める付帯決議もつけられました。

今後は、具体的な運用や支援のあり方に加え、役割が大きくなる家庭裁判所の体制整備などが課題となります。

法制審議会は、2月中旬にも総会を開いて要綱を決定し、小泉法務大臣に答申することにしています。

これを受けて法務省は、民法などの改正案を今の国会に提出し、成立を目指す方針です。

要綱案のポイント
親が離婚したあと、子どもをどう育てていくのか。家族や子育ての在り方が多様化する中、法制審議会の部会が3年近く議論を行い、まとめられた要綱案のポイントです。

【父母の責務を明確に】
まず、大前提となる考え方は「子どもにとって最善の利益となる」ことです。

このため大原則として、親権の有無にかかわらず、父と母には子どもの人格を尊重し、子どもを養育する責務があり、親と同程度の生活を維持できるように扶養しなければいけないこと。父と母は離婚後も含め、子どもの利益のため互いに人格を尊重して協力しないといけないことなどが明記されました。

 

 

【共同親権を新たに設ける】
「単独親権」と言われる今の制度では、父と母が離婚した場合、親権はどちらか一方が持つことになっています。

要綱案ではこれを見直し、父と母の双方が持てるようにする「共同親権」を導入することでまとまりました。

離婚する際、共同親権にするか、単独親権にするかは父母が協議によって決め、意見が対立する場合や協議できない場合は家庭裁判所が判断します。

その際、裁判所は親同士や親子の関係などを考慮することになっていて、特にDV=ドメスティック・バイオレンスや子どもへの虐待が続くおそれがある場合、単独親権にしなければならないとされています。

 

親権者が決まったあとでも、裁判所が子どもの利益のために必要があると認めるときは、子どもや親族からの請求で変更することが可能だとしています。

【養育費の規律も新たに】
養育費の不払いが問題となっていることから、支払いが滞った場合はほかの債権よりも優先的に財産の差し押さえができるようにする規律を設けるとしています。

また、養育費の取り決めをせずに離婚した場合でも、一定額の養育費を請求できる「法定養育費制度」を設けることになりました。

【親子の面会交流は】
別居する親子が定期的に会う面会交流についても新たな試みを提案しています。

調停などで話し合いが続いている途中でも、家庭裁判所が面会交流を試しに行うことを促せるようにします。

親子の面会交流を早期に実現するねらいがありますが、虐待やDVのおそれがある場合などは認めないとしています。

また、親だけでなく、祖父母も子どもの養育に携わる機会が増えていることから、祖父母なども面会交流を求める審判を裁判所に請求することが可能だとしました。

専門家 “家裁の体制・運用 ある程度ガイドラインを”
家族法の専門家で、部会の委員の1人でもある早稲田大学の棚村政行教授は「離婚後もできるだけ協力するという理念を掲げ、単独親権以外の選択肢が新たに入ったことは大きい改革だ」と評価する一方、「共同親権が望ましい場合と単独親権の方がよい場合の基準や運用について十分な議論ができなかった」として、課題が残されていると話しました。

具体的に指摘したのは、家庭裁判所での体制の充実や、判断のための基準づくりです。

家庭裁判所は共同親権か単独親権かなどをめぐって夫婦間で争いがある場合に判断する役割を担い、DV=ドメスティック・バイオレンスや子どもへの虐待が続くおそれがある場合は単独親権にしなければならないとされています。

そうした点を踏まえ、棚村教授は「親権の判断に子どもたちの安全への配慮が入ったことは意味がある。今後は、家庭裁判所の体制や運用について、ある程度ガイドラインなどを示していく必要がある」と指摘しました。

面会交流の取り決めなどにも家庭裁判所の役割が大きいなどとしたうえで、「共同親権を含めた新しい制度を本当に子どもの利益になるために生かすには、法整備だけでなく、運用や支援についてもしっかりと体制を整えて基盤を作っていく必要がある」と話していました。

DVの被害者からは懸念の声
要綱案では、DVや子どもへの虐待が続くおそれがある場合、家庭裁判所は単独親権にしなければならないとされています。

しかしDVの被害者からは、裁判所が適切に判断するか懸念する声が上がっています。

要綱案のとりまとめを前にした1月16日、DV被害を受けた当事者や支援する弁護士らでつくる団体が都内で会見を開き、内容に不安があると訴えました。

夫と離婚し、現在は幼い子どもと暮らす40代の女性は「怒って物を壊したりどなったりする元夫から面会交流の調停が申し立てられ、『面会に行きたくない』と泣き、自傷行為をする子どもの状況を伝えても、裁判所から面会を強要された。このような判断基準では共同親権も強要されてしまうのではないか。子どもの利益について加害者と話し合うことは不可能で、なぜ子どもを危険にさらさなければならないのか」と訴えました。

夫との離婚裁判を控え、子どもと暮らしている30代の女性は「監視されたり、ののしられたりするなどのDVを受けたが、その証拠を残せなかった。共同親権の例外となるDVを誰がどういう基準で認定してくれるのか分からないのでとても不安だ」と話していました。

会見をした「『離婚後共同親権』から子どもを守る実行委員会」は30日、要綱案に強く反対するとした声明を発表しました。

導入に積極的な立場の団体代表 “国会の議論を注視”
法制審議会の部会の委員で、共同親権の導入に積極的な立場をとる団体の代表は、要綱案を評価する一方、面会交流の要件などで懸念が残るとして、国会での議論を注視したいとしています。

「親子の面会交流を実現する全国ネットワーク」代表の武田典久さんは30日の部会の終了後、取材に応じ、共同親権の導入を盛り込んだ要綱案について「一定の前進をしたと感じている。離婚したあとも、親子関係と夫婦関係を切り離して子どもと関わりたいと思っている人たちが養育に責任を持つことができる」と評価しました。

一方、懸念する点として「離婚後、親子の面会交流についての要件などが明文化されていない。別居する親子がなかなか会えない状況が変わるかというと定かではない」と話しました。

そのうえで「今後、国会で面会交流などの運用をどのようにしていくかの議論が進むと思う」と述べ、国会の議論を注視したいとしています。

 

 

「共同親権」導入へ議論3年、欠けていた「子の利益」の視点 離婚を経験した親たちの不安は消えず 

 
 
 法制審議会(法相の諮問機関)の家族法制部会は30日、離婚後も父母双方が子の親権を持つ「共同親権」を導入する民法改正要綱案をまとめた。離婚後は父母の一方のみが持つ「単独親権」に限る現行法を改め、父母の協議や裁判所の決定により共同親権の適用も可能になる。離婚後の子育てのあり方が大きく変わろうとする中、3年弱に及ぶ検討作業に携わった関係者や、離婚・離別を経験した親らは今、何を思うのか。(大野暢子)
 
◆DVなど念頭に共同親権を適用しない場合も
 離婚後の父母の双方に親権を与えることを可能にする民法改正は1898年の明治民法施行後、初めて。要綱案に沿った法改正が行われると、父母は協議離婚の際に、共同親権か単独親権かを選ぶことができるようになる。
 
 協議が整わなければ、裁判所が子の利益のため、親子や父母の関係などを考慮して「単独」か「共同」かを決める。要綱案ではドメスティックバイオレンス(DV)や虐待を念頭に「子の心身に害悪を及ぼすおそれ」や「父母の一方が他方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれ」などが認められた時、裁判所は共同親権を適用しないと整理している。
 
◆子に関わる権利と義務を協力して果たす
 要綱案では、父母の一方が単独で親権を行使できる場面として
(1)一方のみが親権者であるとき
(2)他の一方が親権を行うことができないとき
(3)子の利益のため急迫の事情があるとき
の3つを定義した。
 
 親権とは、子の身の回りの世話や教育、どこに住むかの決定、財産管理などを行う親の権利と義務のこと。要綱案に沿った法改正が行われれば、離婚後に共同親権となった父母は、一方の親権行使が不可能な場合と急迫の事情がある場合を除き、双方が協力して、こうした権利・義務を果たすことになる。法務省幹部は「共同親権となった父母は、離婚後も子の重要なことはできるだけ話し合ってもらう必要があるだろう」と見通す。
 
◆3委員が要綱案に「反対」
 
 
 家族法制部会では30日、要綱案への裁決が行われ、賛成多数で了承された。参加委員21人のうち、3人が反対を表明。慎重派委員の訴えをきっかけに加わったDV・虐待を防ぐ取り組みの必要性などを盛り込んだ付帯決議は、内容が不十分だとして2人が反対した。
 
 部会の議論は非公開。出席者によると、部会長の大村敦志・学習院大法科大学院教授は了承に当たり、「全会一致が望ましかったが、今回は(異論が残り)採決になったほか、通常ではあまり実施しない付帯決議も付けた。異例だと思っている」との所感を語った。
 
 要綱案は、2月の法制審総会で決定された後、小泉龍司法相に答申される見通し。政府は今国会への法案提出を目指している。
 
 要綱案の中身について、離婚・離別を経験した人々からはさまざまな思いが聞かれる。
 
◆子と会えていない男性、いずれ裁判も検討
 「妻との関係が破綻したことは受け入れる。ただ、子どもとの関係は別だ」。約3年半前、妻が2人の子を連れて家を出て以来、子と直接会えていないという関東地方の男性は、取材にこう心境を述べた。
 
 男性は「子には父母の両方に育てられる権利がある」と考え、共同親権の導入に賛成してきた。今後、裁判で妻が親権者となったら、将来的に共同親権を求めて家庭裁判所に申し立てることも検討している。
 
 「離婚後も2人で子育てするという選択肢を法的に保障するのが共同親権。父母の話し合いも、親権争いに重きを置いた対立一辺倒ではなくなるはずだ」と期待する一方、要綱案には不安も抱く。「親権を決める際、子の意見を尊重するということが書かれていない。親に会いたくない子が無理に会わされ、会いたがっている子が会えないということが起きるのではないか」
 
◆転居も元夫の許可制になる恐れが…
 
 
 離婚後に元夫とトラブルになり、現在は住所を伝えずに高校生の子を育てているという女性は「共同親権になったら転居も元夫の許可制になるおそれがある」と危機感を強めている。「今の生活で精いっぱいのひとり親を、これ以上追い詰めないでほしい」というのが願いだ。
 
 実務家らの懸念も根強い。弁護士有志は1月24日、特に非合意型の共同親権は子へのリスクが高いとして、要綱案了承に反対する申し入れ書を法務省に提出。30日には、司法書士約2000人が参加する「全国青年司法書士協議会」も共同親権導入への反対を表明した。
 
◆父母双方の署名を求める場面が増えると…
 要綱案の了承を受け、元家裁調査官の熊上崇・和光大教授(司法犯罪心理学)は「共同親権が導入されると、医療機関や教育機関がトラブルを避けようと、子への対応に父母双方の署名を求める場面が増えるだろう」と指摘。父母の合意に時間がかかれば、子が不利益を受けると危惧し、「部会の議論は、これらのリスクへの検討がまったく不十分だ」と批判した。
 
 法制審部会は2021年春以降、離婚後の親権のあり方を計37回にわたって検討し、賛否を巡って時には激しい議論が交わされた。22年12月~23年2月に実施されたパブリックコメント(意見公募)では、共同親権と単独親権が併記され、団体からの意見では「共同」、個人からの意見では「単独」を支持する意見が多いなど賛否が割れた。
 
◆福祉分野の議論はほぼ手付かず
 部会は23年4月、複数の委員が最後まで慎重意見を訴える中、共同親権導入の方向性をまとめた。当時は話し合いで合意した父母への適用が想定されていたが、法務省は23年6月、父母が対立状態でも家裁の判断次第で共同親権の適用を可能にする制度案を示した。
 
 法務省幹部は取材に「慎重論にも配慮しつつ、丁寧に議論を重ねてきた」と強調する。要綱案には離婚後に養育費が支払われない問題への対策として、別居親への「法定養育費」の義務化も盛り込まれたが、委員の一人は「部会の性質上、民法の範囲内での議論にとどまった。子の利益に直結する福祉分野の議論はほぼ手付かずで、忸怩(じくじ)たる思いだ」と語った。