【岸田首相の政治資金に重大疑惑】“名ばかり会計責任者”を直撃すると「責任者?誰が?私が?」と何も知らない様子 その後態度一変「お話ししません」の不可解

 
 
 派閥の政治資金パーティーの裏金事件をめぐり、岸田文雄・首相は抜本改革に着手しないまま早期幕引きを図ろうとしているが、それが許されるはずはない。何より、岸田首相自身に発覚した「政治とカネ」の疑惑について、説明責任を果たしていないからだ。岸田氏の政治資金の流れを追いかけていくと、さらなる重大疑惑が浮上した。
 
第2の企業献金の受け皿
 波乱の通常国会がスタートした。岸田首相の施政方針演説は後回しにされ、冒頭から「政治とカネ」をめぐる予算委員会集中審議(1月29日)を行なうという極めて異例な日程だ。
「国民の信頼回復のため『火の玉』となって自民党の先頭に立つ」

 岸田首相は安倍派の裏金事件捜査が始まった時には他人顔でそう改革の意欲を示したが、東京地検特捜部の捜査が岸田派に及ぶと大慌てで「岸田派解散」を表明せざるを得ない事態に追い込まれ、いまや“火だるま”になっている。

 岸田首相自身にも疑惑の火が燃え上がった。本誌・週刊ポストが前号(2024年2月2日号)で報じた岸田首相の「違法パーティー」問題だ。
 
自民党の無派閥議員は不安を隠せない様子でこう口にした。

「岸田総理の就任パーティーは、政治資金規正法違反で立件された安倍晋三・元首相の“桜を見る会前夜祭夕食会”と同じ構図だ。総理は国会での追及を乗り切れるのか」

 違法パーティーの疑いがあるのは、2022年6月に開かれた「衆議院議員 岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」(以下、「祝う会」パーティー)だ。発起人には地元・広島の政財界の有力者が並んでいたが、主催者の実態は不明。パーティー収益の一部は「祝う会」の名義で岸田首相の自民党広島県第一選挙区支部に寄附されていたものの、収支報告書に“会の代表者”と記載された人物は本誌に「代表になった覚えも寄附した覚えもない」と証言した。

 岸田首相の「政治とカネ」にはさらなる重大な疑惑がある。

 岸田首相のもとには、自民党広島県第一選挙区支部の他に、「自民党広島雄翔会支部」(以下、雄翔会支部)というもう一つの支部がある。

 同支部の設立時(1994年)の代表は岸田首相本人で、現在は首相の金庫番秘書が代表を務めており、毎年、地元企業などからの献金を集めて約1200万円(2022年末)の繰り越し金がある。政治資金規正法では、企業・団体からの献金は政党支部でしか受けられない仕組みになっていることから、雄翔会支部は首相の「第2の企業献金の受け皿」であることが窺える。

 なぜか首相の関係政治団体には登録されていないうえに、雄翔会支部の政治資金収支報告書では、政治活動費など支出はすべて金額だけで内訳が一切書かれていない。

A氏に取材すると「会計責任者? 誰が? 私が?」
 この雄翔会支部の会計責任者を2008年から務めているのが、A氏という人物。同支部が事務所を置く会計・コンサル会社B社の取締役でもある。

 本誌が支部の活動内容を取材するため自宅を訪ねると、A氏は留守で応対した夫人がこう答えた。

「(会計責任者は)全然やってませんよ。今は何もしていませんから」

 後刻訪ねると、帰宅していたA氏が困惑した表情で取材に応じた。

「政治団体の会計責任者? 誰が? 私が? ……そう?」

──雄翔会支部の会計責任者として名前がある。

「私はもうお年寄りなんで、全然、(首相とは)縁がないから。確かに、名前を書いたことしか覚えてないけど。会計の責任者? とにかく、質問書いて。そのほうがわかりやすいから」
 
──雄翔会支部が事務所を置くB社の取締役にもなっている。

「(首をひねり)知らないなあ。とにかく(質問)書いて。ここ(郵便受け)に入れといてくれたら、明日(確認して)お答えするから。ええわええわでなったら、私も困るし。そこに入れといてくれたら、私もわからんことはわからんと書くから。申し訳ない。すいません」

 全く知らない様子だ。

 だが、昨年3月13日に提出された雄翔会支部の政治資金収支報告書に添付されている「宣誓書」には、〈この報告書は、政治資金規正法に従って作成したものであって、真実に相違ありません〉と書かれ、会計責任者であるA氏の名前が署名ではなく、印字されており、A氏の姓の捺印もある。

 本人に会計責任者になっている自覚がないとは、どういうことなのか。

 岸田首相の「政治とカネ」を追いかけていくと、A氏は他にも重要な役割を担っていることになっている。

 雄翔会支部の会計責任者に加えて、首相が2021年の前回総選挙後に広島県選挙管理委員会に提出した「選挙運動に関する収支報告書」には、出納責任者としてA氏の名前がある。

 本誌は岸田首相が前回選挙で自分が代表を務める自民党広島県第一選挙区支部から1200万円の寄附を受けて選挙費用に使いながら、残余金約192万円を支部に返金せずに“着服”した問題を報じた(2024年1月1日・5日号)。岸田首相の選挙運動の収支報告書についてはそれ以前にも、宛名のない領収証を大量に提出していたことや陣中見舞いの不記載などが発覚し、昨年10月に報告書の訂正に追い込まれたばかりだ。

 出納責任者であるA氏は対応に追われたはずだが、取材ではそんな様子はなかった。

改めて取材すると態度を一変、「お話ししません」
 質問書を出して後日、改めてA氏を取材すると、態度を一変させた。

「質問書は見たが、説明することは何もない」

──雄翔会支部の会計責任者も、選挙運動費用の出納責任者も覚えがない様子だったが。

「答える必要ないと思うので、お話ししません」

──会計責任者の仕事はしていたのか。

「それはそちらで調べてください。収支報告書に書いてあるでしょうから。それは変更することできないでしょ」

 お話しできないの一点張りなのだ。その後、雄翔会支部の事務所が置かれているB社から文書でこう回答があった。

「A(文書では実名)に確認をしたところ、(雄翔会支部の)会計責任者に就任していること、また法人の取締役に就任している事は承知しております」

 本人は全く知らない様子だったのに、会社を通じた回答では「承知している」になるとは奇妙極まりない。

 実は、岸田首相とA氏とは先代からの関係だ。A氏の父(故人)は岸田首相の支援者で、首相に献金もしていた。雄翔会支部の事務所が置かれているB社の法人登記からは、約30年前に岸田首相や裕子夫人、雄翔会支部代表の金庫番秘書が、A氏とともに役員を務めていたことがわかった。

 この経緯から、岸田首相側が選挙運動の収支報告書や雄翔会支部の会計責任者にA氏の名義を借り、“名ばかりの会計責任者”にしていたのではないかとの疑問が浮かぶ。

 安倍派裏金問題を告発した上脇博之・神戸学院大学教授が指摘する。

「雄翔会支部の会計責任者が、自身が会計責任者になっていることを知らなかった。つまり、勝手に名前を使われていたとすれば、政治資金規正法の虚偽記載に該当する可能性があります。

 このケースは会計責任者がその任を務めていないということですから、同支部の収支報告書は別の人物が書いたものと考えられます。25条では、名前を使われた会計責任者ではなく、実際に収支報告書を書いた者が一義的には罰則(5年以下の禁固または100万円以下の罰金)の対象になります。また場合によっては、刑法の有印私文書偽造、同行使罪が成立する可能性もあります。

 代表は岸田首相の金庫番秘書なわけですから、実質的に岸田首相の関連団体と捉えることもでき、岸田首相も責任を問われるべきでしょう」

 岸田事務所は、「雄翔会支部の会計責任者は選管に届出している通りです」と回答し、あくまでもA氏の名前で押し切る構えだ。
 
 

岸田文雄首相の「就任を祝う会」違法パーティー疑惑 岸田事務所は亡くなった秘書に責任転嫁、脱税にあたる可能性も

 
 
 派閥の政治資金パーティーの裏金事件をめぐり、岸田文雄・首相は抜本改革に着手しないまま早期幕引きを図ろうとしているが、それが許されるはずはない。何より、岸田首相自身に発覚した「政治とカネ」の疑惑について、説明責任を果たしていないからだ。岸田氏の政治資金の流れを追いかけていくと、さらなる重大疑惑が浮上した。【前後編の後編】

誤魔化しの回答
 本誌・週刊ポスト前号で報じた岸田首相の「祝う会」パーティーでも首相は誤魔化しを続けている。

 疑惑を以下に整理する。

【疑惑1】「会の主催は任意団体」と偽装した疑い

 本誌の取材では、「祝う会」は企画・準備段階から岸田事務所が仕切り、その収益の一部が岸田首相の政党支部に寄附されていた。実態は岸田首相の政治資金パーティーであり、本来なら首相は自分の政党支部や政治団体の政治資金収支報告書に収支を記載しなければならない。

 しかし、同パーティーは表向き任意団体「祝う会」主催の「政治資金パーティーではない催し」の形式を取り、収益は「団体からの寄附」として処理された。岸田首相の政治資金パーティーだったことを隠し、収支を明らかにしない意図があったのではないか。
 
【疑惑2】任意団体主催でも報告義務のあるパーティーだった可能性

「祝う会」は会費が1人あたり1万円で、1100人参加したとされることから、収入が1000万円以上だった可能性がある。そうなると政治資金規正法の「特定パーティー」(収入が1000万円以上)にあたり、たとえ任意団体の主催でも政治資金収支報告書の提出が必要になる。違反すれば、5年以下の禁錮又は100万円以下の罰金が適用される。
 
【疑惑3】収支報告書に記載された代表者が「寄附した覚えはない」と証言



 岸田首相の後援会会長で、政党支部の収支報告書上では寄附をした「祝う会」の代表とされた伊藤學人氏が、本誌の取材に「寄附した覚えがない」と証言。これにより、首相サイドの虚偽記載疑惑も浮上している。

 岸田事務所は前号の取材に、1「祝う会は地元政財界の方々に開いてもらった」、2「『祝う会』の開催経緯を知る事務所関係者からは、収入は1000万円未満だったと聞いている」、3「『祝う会』の開催後、数か月してから支部へ寄附する旨の連絡があったと聞いている」──と文書で説明。あくまで岸田事務所の主催ではないと主張したが、「聞いている」という伝聞ばかりで説得力はない。

 本誌の取材では、「祝う会」の会費は広島銀行の「祝う会代表 伊藤様」名義の口座に振り込まれ、「岸田首相の父・文武氏の時代からの秘書のC氏をはじめ、岸田事務所のスタッフが経理を握っていた」との証言を得ている。任意団体の口座を作って参加者に会費を振り込ませ、その収益の一部を支部に寄附したのは、岸田事務所の自作自演だったという疑念が深まる。

亡くなった秘書になすりつけ
 本誌がC氏の自宅を訪ねると、C氏は昨年12月に病死していたことがわかった。そうなると、金の流れを知るのは岸田事務所しか残っていない。同事務所に再度、虚偽記載の問題や「祝う会」への事務所の関与を質問するとこう回答してきた。

「弊事務所の元秘書(故人)が不慣れな事務局をお手伝いしていたのは事実ですが、弊事務所が主催した事実はございません。なお、会費収入は1000万円未満であったこと、支部へ寄附があったことは当時、当該元秘書から聞いています」

 今度は亡くなったC秘書に責任を転嫁した。そのうえ、岸田事務所に寄附する旨を連絡してきた「祝う会」側の担当者は誰なのかという質問には答えておらず、自作自演である疑念は晴れない。

 また、会費収入が1000万円未満だったことを再度強調しているのは、“仮に超えていれば報告義務が生じる政治資金パーティーの性質を持つ会だった”と自ら認めているようなものではないか。

 それだけではない。元立正大学教授で税理士の浦野広明氏は、この「祝う会」が脱税にあたる可能性を指摘する。

「任意団体が収益事業を行なった場合、法人税法に基づいて課税されます。『祝う会』は収益を岸田総理の政党支部に寄附していることから、法人税の課税対象になってもおかしくないし、この団体は法人税を支払う姿勢がありませんから、重加算税や脱税に問われる可能性もある。代表が何も知らず、岸田事務所が実務を担当していたとすれば、岸田総理が主催者だと見なされるでしょう」

 岸田首相自身に“脱税疑惑”がかかってくるというのだ。これだけ杜撰な政治資金の処理をしておいて、「改革の先頭に立つ」とは聞いて呆れる。