裏金全容は?岸田首相「うーんと…」まともに答えられず 「人数がわからないのに再発防止できるのか」 国会集中審議

 
自民党派閥の政治資金パーティーの裏金事件を受け、衆院予算委員会で「政治とカネ」の問題について集中審議が行われた。岸田文雄首相(自民党総裁)は裏金を受け取った人数すら明確に答えられなかった。
自身が本部長を務める自民党の政治刷新本部は、中間取りまとめを策定しているが、実態を把握せずに再発防止策をまとめたことが浮き彫りとなった。
 
◆全容把握していないことが明らかに
立憲民主党の大西健介議員は「裏金問題の全容を把握しているのか。何人が裏金をもらったのか」と質問。
岸田首相は「うーんと、その、政治資金収支報告書の訂正等を明らかにしている議員、これはこの清和会(安倍派)で30人以上、志帥会(二階派)で7人」と渋い表情で歯切れ悪く答えた。
 
立民・山井和則議員は「実態把握、全容解明なくして、再発防止と言えるのか。人数がわからないのに再発防止ができるのか」と迫り、安倍派幹部6人の参考人招致を求めた。
首相は「実態把握が重要であること、私もそう思っています」と反論したが、具体的な調査への道筋や期限は示さなかった。
 
◆「収支報告の訂正で実態明らかに」
 
衆院予算委員会の集中審議で発言を求める岸田文雄首相=29日、国会で


立民・階猛議員の「訂正があったというが裏金は何人が受け取ったのか」との質問に、首相は「裏金というものの定義を確認しなくてはいけないが、少なくとも訂正を明らかにしている議員を申し上げた」と述べた。
さらに「訂正が行われることによって、実態が明らかになっていく」との考えも示した。
 
 
麻生太郎、万事休す…ブチ切れて「派閥破壊」岸田文雄がついに「無敵の総理」になってしまった
 
 
いつも口数の少ない人ほど、キレたらなにをするかわからない。決められないと笑われていた岸田が、追い込まれた末に決めたのは「みずからの手で自民党を焼き払って、更地に戻す」ことだった。

まずはアンタからだ
異様な光景だった。

口をへの字にした麻生太郎と、仏頂面の茂木敏充のあいだに挟まれて、岸田文雄はこらえきれずに笑みをこぼしている。

宏池会(岸田派)に所属していた中堅代議士は、党の「政治刷新本部」で岸田が見せた表情に、なかば怯えてさえいた。

「怖い。あの人がなにを考えているのか、本気でわからない。先のことを考えているのかどうかも、わからない……」

「正気なのか」「あとは野となれ山となれ、か」

いまだ自民党内では、「派閥の破壊」を決めた岸田への怨嗟が渦まく。

――知ったことか。
 
岸田派解散を知った日、麻生は「聞いたぞ。なんだこれは」と、岸田に電話をかけてすごんだ。が、腹を決めた岸田の耳には、間の抜けた「遠吠え」としか響かなかった。
――どうせアンタに根回ししたところで、口をとがらせて文句を言うのがわかりきってる。言う意味がない。

そもそもこれは、麻生を潰すために岸田がしかけた、乾坤一擲の政局なのである。

俺がやめて、なんになる?
1月21日、ホテルオークラ「山里」での会食。「急遽セッティングされた」と報じたメディアも多かったが、実際には、岸田と麻生の面会は以前から決まっていたという。いつもの個室で、言葉少なに淡々と杯を重ねた。

「うちはやめないから」

「そうですか。うちは解散してケジメをつけますから」

どうぞご自由に。

「総理はブチ切れているんですよ。総理からすれば、ずっと麻生さんにマメに報告してきて『現職総理が自ら長老を立ててやっているんだ』という思いがあった。なのに麻生さんは、次の総裁選で茂木さんに交替させようとしているんだから。

去年9月の内閣改造でも、岸田総理は幹事長を茂木さんから森山(裕)さんに替えようとしたが、麻生さんが猛反対してできなかった。それ以来、麻生さんへの不信がどんどん大きくなっていった」(岸田派関係者)

支持率低下を騒ぐ周囲の政治家に対して、岸田が「衆参両院で多数を持っているのに、なんで退陣しないといけないんだ」「俺がやめて、なんになる?」と繰り返すようになったのも、麻生が自分を「見限った」と察知してのことだった。

岸田が派閥解散を口にしたあと、SNSではこんな動画が出回った。自民党本部のエレベーター前で、麻生が岸田の腹心・木原誠二を呼び止め、なにやら耳打ちをする。

〈きっと「岸田に時間作るように言っとけ」と伝えたんだ〉〈ボスの風格〉

麻生は、ネット世論がそんなふうに自分を贔屓するのを知っている。岸田をしっかりグリップしている、という印象を周囲と世間に与えられる……。そう踏んでの行動だったが、岸田のほうが一枚上手だった。前出と別の岸田派関係者が言う。

「そもそも岸田さんは、木原さんや(自民党事務総長の)元宿(仁)さんと派閥解散について相談し、タイミングをはかっていた。裏金に関して潔白な森山さんが自派の解散を決めたのも、麻生派と茂木派だけが取り残される状況を作れるからだ。菅(義偉前総理)さんや二階(俊博元幹事長)さんと近い森山さんは、麻生さんとはあまり折り合いがよくないしね」

トロイカ体制の終焉
機先を制した岸田は、忌み言葉と化した「派閥」にこだわる守旧派というレッテルを、麻生と茂木に貼ることに成功した。

つまり、岸田が壊したのは自民党のシステムだけではなかった。自身を総理に押し上げたキングメーカー・麻生の支配と、政権を支えるトロイカ体制をも、その手で手仕舞いにしたのである。

――麻生さんも茂木さんも「うちはなにもしていない」と言うが、そういう問題じゃないんだよ。これは戦争なんだ。

岸田には「俺は生まれたときから宏池会」という口癖がある。父・文武の代から籍をおき、故・加藤紘一らに忠誠をつくした自負から出る言葉だ。総理になってからも慣例に反して会長をつづけたのは、「権力を持ちつづけたいという以上に、宏池会が好きすぎるから」(前出の岸田派関係者)ともいわれる。
 
いっぽうの麻生は「いずれは大宏池会」などと言うが、かつて河野洋平とともに宏池会を割って出たのは、ほかならぬ麻生自身である。岸田に言わせれば、なにをいまさらといったところだ。

「今回岸田さんは、宏池会の創始者・池田勇人の義理の孫にあたる寺田稔(元総務大臣)さんにも、前名誉会長の古賀誠さんにも伝えずに宏池会の解散を決めた。さすがに筋が通らない、という声もありますが……」(岸田の地元後援会関係者)

――知ったことか。宏池会は俺のものだ。だから、俺が決めるんだ。

失うものをなくし、孤独をつのらせて捨て鉢になった人を指して、誰が言ったか「無敵の人」と呼ぶ。いま進行しているのは、国の最高権力者が「無敵」になってしまうという異常事態だ。

しかも、ときにそんな「無敵の人」による一撃が、盤面ごとひっくり返して局面を一変させることもある。事実、岸田以外の自民党重鎮は麻生のみならず全員、目算を狂わされてしまった。

途方に暮れる「次期総理」
もっとも動揺しているのは、麻生に次期総理へと押し上げてもらうはずだった茂木だ。国民からの人気がゼロに近く、派閥内の基盤さえ心もとない茂木は、麻生の後ろ盾だけが頼みだった。

「茂木派の議員には、解散した派閥の議員に『うちに入ってくれないか』と声をかけている人もいるが、さすがにこの状況で入れるわけがない。いま派閥拡大をはかるのは、センスがない」(岸田派中堅議員)

一連の騒動の発端となった安倍派は、放っておいても瓦解していたことは間違いないが、加えて従来の意味での派閥そのものが禁じられたことで、萩生田光一や世耕弘成、西村康稔ら幹部もしばらくのあいだ再起不能になった。安倍派にいた若手衆院議員が言う。

「安倍派の再結集はありえないと思う。『五人衆』と塩谷(立)事務総長にはメンバー皆、激怒していますから。

とくに塩谷さんと世耕さんに対しては『あれだけ下には何も言うなと箝口令を敷いておいて、自分たちだけ逃げようとしやがって』『あげく、派閥解散の決断が遅れて岸田さんにしてやられた。ふざけるな』という感じ」

悲哀さえ漂うのが、まもなく85歳になる二階である。二階派にいた衆院のベテランが語る。

「二階さん自身はそれほど落ち込んでいないようだったけど、派閥がなくなればタダの人になるわけだから、まずいよね。二階派はほかに比べてパーティー券のノルマが多くて、派閥で集めたカネが二階さんの威厳の源泉だった。それを封じられればどうしようもない。

しかも、最側近の(秘書の)梅沢修一さんも立件されてしまった。もうじき三男の伸康さんに地盤を継がせて、梅沢さんに面倒をみてもらうつもりだったのに、これじゃあ議席を守ることもおぼつかなくなってしまう」

 

「菅義偉と組む」「金正恩と会う」…派閥と自民党をぶっ壊した岸田文雄が「麻生太郎の退場」のあとで考えていること

 
 
岸田と菅の「大同団結」
いまや自民党のおよそ3分の2が更地になり、地権を持ってショバ代をとっていた大物たちは一掃された。総仕上げとして、総理・岸田文雄が接近をはかっているのが「無派閥のドン」である前総理の菅義偉だ。

自民党政治刷新本部の最高顧問に迎えられた菅は、最初から派閥の解散を言っていた。これまでは、岸田のことをまったく評価していないと言われてきたが、ここにきて態度に変化が生じているという。菅グループのある議員が証言する。

「岸田さんが自分を遇していること、派閥の解散を本当に実行したことを、菅さんはまんざらでもなく思っている。全面的に岸田さんと組むとか、次の総裁選で推すという感じではないけれど、手を貸す可能性はかなり高いと思います。とくに今回は、大嫌いな麻生さんを非主流派に追い込む大チャンスですからね」
 
菅と麻生太郎が水と油であることは周知の事実。麻生は菅の総理在任時にも、菅を「おまえ」呼ばわりで叱り飛ばし、軽んじていた。

菅から見れば岸田は、そんな麻生の息がかかった総理だったわけだが、岸田が自ら麻生と袂を分かったのなら、一転、敵の敵は味方となる。
 
「岸田さんは、このまま麻生体制の下で雇われ総理をつづけていたら、あと半年で絶対にクビ。もちろん、菅さんと真に打ち解けるはずもないけれど、まずは大同団結して麻生・茂木を一掃する。菅さんや河野(太郎)さんとの関係は、それが片付いたあとで考えよう。岸田さんはいま、そういう腹づもりなんでしょう」(菅グループ議員)

岸田の反転攻勢「ふたつの秘策」
泣いても笑っても、今年の9月には総裁任期が切れて、岸田は総裁選を戦わざるをえない。それまでに、解散総選挙を打つ必要も出てくる可能性が高い。

「派閥がなくなれば、個人の戦いになるから」

と、岸田は周囲に「不気味なくらい自信満々」(岸田派議員)な態度を見せている。しかし、仮にこのまま自民党全体が「無派閥議員の集まり」になったとて、政権支持率が相変わらず20%台で低迷するなかでは、岸田についていく者などいないだろう。

岸田の胸中には、反転攻勢に出るためのふたつの策があるという。ひとつめが外交だ。官邸スタッフが言う。
 
「来月19日、東京で『ウクライナ復興会議』を開催します。そこで、ウクライナのゼレンスキー大統領に、サプライズで再訪日してもらうことを模索している。米政府の協力も得て実現せよ、という総理の強い意向です。

また、北朝鮮の金正恩総書記との日朝首脳会談に向けても動いている。総理は、金総書記から能登半島地震の見舞いの電報が届いたことに、いたく喜んでいました。4月には国賓待遇で訪米する予定がすでに入っていますから、そのあと立てつづけに日朝首脳会談を実現し、支持率回復を期しているわけです」

そして誰もいなくなる
ふたつめが、賃上げである。ある経済官庁の幹部が明かす。

「総理は春闘に向けて、大手企業トップに対して昨年の上げ幅を上回る大幅賃上げを要請しています。それだけでなく、各自治体の任用職員のベースアップも検討させている。『時給で50〜100円、ボーナスも倍増させろ』というのですから、聞いたことがないほどの大盤振る舞いです」

ただ、これらを頼みに解散総選挙に打って出たとしても、派閥の傘を失った議員らが大混乱に陥るのは目に見えている。

刷新本部では、政治資金規正法を改正し、これまで「ひとくち20万円以下なら報告不要」だったパー券代を「5万円以上なら要報告」とする方向で話が進んでいる。単純に考えれば、議員らのパー券収入は4分の1に激減するかもしれない。
 
東北が地盤の、元安倍派若手議員が力なく言う。

「地方の議員なら、地元秘書の給与や事務所の家賃、光熱費、車代やガソリン代で年間に3000万円くらいは余裕でかかる。それに加えて、今後は選挙も自分でなんとかしろとなるわけで……。もう借金するか、破産するかしかない。これじゃあ、最初からカネ持ちの世襲議員しかいなくなってしまいますよ」

自民党の権力闘争の基盤となってきた、派閥そのものをぶち壊す。正気を疑われるほどの奇策で並み居る派閥領袖を黙らせ、政局の主導権を握って、いま岸田は高揚しきっている。

しかし、その先に何が待っているのかは、もはや誰にもわからない。確かなのは、最後にこの混沌のツケを支払わされるのは国民である、ということだけだ。

(文中一部敬称略)