ウクライナにNATOからの支援がなくなった場合の「最も危険なシナリオ」…懸念されるゼレンスキ―大統領の動き

 
 
ゼレンスキーがNATOを戦争に引きずり込む
現在、戦況は膠着していると見られる。それもウクライナへの欧米諸国からの支援のおかげだ。

国際政治学者で慶應義塾大学総合政策学部准教授の鶴岡路人氏が言う。
 
「最近では、ロシアはミサイルやドローンの生産供給ができており、またイランや北朝鮮からも武器を調達して空からの攻撃を強化しています。一方、ウクライナ側の頼みの綱はNATO(北大西洋条約機構)諸国からの支援です。支援が続き、防空システムが機能している前提なら、戦況はこのまま膠着するでしょう。

怖いのは、支援がこのまま継続しない場合です。米国では昨年末、ウクライナ支援の予算案が与野党で合意できませんでした。さらに中東のガザ紛争で、ウクライナに対する国際的な関心が低下しているのも問題です」
 
最悪のシナリオ
追い詰められたウクライナのゼレンスキー大統領(45歳)が暴走して、ロシア国内への攻撃を強化する可能性がある。そうなると、ロシアの反応次第では戦争が拡大しかねない懸念が生じる。

地政学に詳しい経済産業研究所コンサルティングフェローの藤和彦氏が「最も危険なシナリオ」を解説する。
 
「ウクライナの戦闘能力は落ち、国民の士気も下がっていることから、ロシアに占領された4州を奪還するのはもはや難しい。ゼレンスキー大統領は相当焦っています。彼はロシアに敗北したら、すべてを失う。それを避けるためにゼレンスキー大統領が暴走しないかが心配です。
 
ロシアのメドベージェフ前大統領は、ウクライナが軍事基地を攻撃したら戦術核を使って報復すると警告しています。ゼレンスキー大統領にしてみれば、ロシアに核兵器を使わせ、被害を国際社会にアピールすれば、NATOを戦争に引きずり込める可能性がある。その可能性に賭けてゼレンスキー大統領が無謀なことをするというのが、最も危険なシナリオです」

 

トランプが大統領になると世界のバランスが崩壊する…欧州の「米国離れ」が進むと言えるワケ

 
政治家を有権者の多数決で決める。言うまでもなく、これが選挙の仕組みだ。今年は世界各国で大型選挙が予定されている。民意が選んだトップが、世界を大混乱に陥れる。激動の一年が幕を開けた。

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ロシア「日本侵攻」の可能性
もっとも、ゼレンスキー大統領がここまで過激なことをしなくても、戦争が終結する条件が一つある。それが、トランプ前大統領が大統領選で勝利することだ。前出のイアン・ブレマー氏が言う。

「私の予想どおり、トランプ前大統領が勝利すれば、ウクライナ戦争はすぐに終わります。米国がウクライナへの支援を中止し、ロシアの勝利で終わります」
 
その結果、どうなるか。前出の手嶋龍一氏は、世界が著しい混乱に陥ると予測する。
 
「プーチン大統領が国連憲章や国際法規を踏みにじり、力で奪い取った領土をロシア領と認める結果になってしまいます。そうなれば米国が築いた国際社会における威信は瓦解してしまう。核をちらつかせたプーチン大統領の脅しにも屈したことになる。欧州の同盟諸国は『米国は信頼に値しない』と米国離れが起きる可能性もあるでしょう」

これは台湾海峡の危機にもつながってくる、と手嶋氏は続ける。

「バイデン政権は、中国が台湾侵攻すれば、米海軍第7艦隊を台湾海峡に派遣することを躊躇わないとしています。しかし、トランプ氏が政権に返り咲いても、同じように対応するかは不透明です。ウクライナを見捨てようとしているトランプ政権が、台湾防衛の責務を果たさないこともありえます。習主席も金正恩氏同様にトランプの復活を望んでいるはずです」

一触即発の国際情勢
台湾危機、ウクライナ戦争、中東紛争、米中対立—複雑なパワーバランスのなかで、そのすべてがつながっている。そして、大きな局面変化をもたらしかねないのが、米国の大統領選なのだ。

「バイデン政権が継続した場合、日本とロシアの間で、軍事的なアクシデントが起こる可能性があります。ロシアは軍事的に北極海や北方領土近辺にかなり積極的に進出していて、この地域でのリスクが高まっていると考えられ
 
ウクライナ戦争の長期化や中東紛争の拡大で、東アジアから米軍のプレゼンス(存在感)が低下し、日本を守る態勢が脆弱になってしまう。その間隙を突いて、中国が台湾に、ロシアが日本に、北朝鮮が韓国に侵攻するという最悪のシナリオもありうる。そのうえ、今回の能登半島地震のような災害が加わってしまうと、自衛隊もなす術がなくなってしまう。そういう意味で、実は台湾よりも日本のほうが危機にあると考えることもできるのです」(前出・川上氏)

残念ながらこうした危機的な国際情勢の現状に対して、日本の政治家はあまりにも頼りない。

「日本の政治家は自国の進路を米国、いまならバイデン政権に追随して決めてきました。厳しさを増す国際政局に自らの判断で対峙するリーダーシップを持ち合わせていません」(前出・手嶋氏)

激動の'24年を日本は果たして乗り切れるか。

「週刊現代」2024年1月27日号より