ミス日本だけじゃない、ミスコンなんて時代錯誤のイベントは、もうやめちゃいませんか。あらためてミス日本公式サイトを読みこむと、〈日本らしい美しさ〉の定義として「『内面の美・外見の美・行動の美』の3つの美を備えること」とある。

 ほーら、ここにもう答えはあったじゃん。2024年のいま、外見であろうと行動であろうと、もちろん内面であろうと、順位をつけるなんて無理無理無理。かつ無意味。そして、多くの人びとはすでに理解している。カロリーナという女性の美しさを知るために、ミスコンなんて旧い装置も帰化申請も本来必要ないことを。いまこの瞬間からでいい、そんな社会をめざそうよ。

 

 

 

【松尾潔のメロウな木曜日】#69

 今週月曜(1月22日)、『第56回ミス日本コンテスト2024』の最終審査が都内で行われ、愛知出身のモデル・椎野カロリーナさん(26)がグランプリに選ばれた。

 

 ウクライナ人の両親のもとに生まれた椎野さんの容貌は、多くの人びとがイメージする〈日本人〉とは大きく異なる。昨年帰化して日本国籍を取得した椎野さん。彼女が同コンテストの主催団体である一般社団法人ミス日本協会が掲げる〈日本らしい美しさ〉の頂点にふさわしいかどうか、そもそも〈日本らしい美しさ〉とは何か、SNSで論議が巻き起こっている。

 椎野さんは5歳で来日、それからずっと日本で暮らし、中学3年からモデルの仕事を始めたそうだ。明治学院大学卒業後は専業モデル、タレントとして活躍中。ぼくが彼女を初めて知ったのは、昨年だったか一昨年だったか、カー用品チェーン・イエローハットのユニークなCMの出演者としてだった。

 ウィキペディアにも「カロリーナ(モデル)」の記事名で載っているし、インスタグラムのフォロワーは約9万人、YouTubeチャンネルの登録者も5万人超えというインフルエンサーでもある。母親の再婚相手が日本人男性だそう。

 ミス日本協会の公式サイトによれば、応募資格は「日本国籍を持つ17歳から26歳までの未婚の女性」。椎野さんはこれを満たしている。

 だがSNSには「差別ではなく区別」という常套句を用いて、なぜ椎野さんがミス日本にふさわしくないか熱く語る人たちがいる。どうやら〈日本らしい美しさ〉の更新に抵抗をおぼえているように見受けられる。帰化申請を経て日本国籍を取得しているにも拘わらず、グランプリ獲得後も非難の対象になってしまう椎野さんは、じつにお気の毒というしかない。

 ただ、差別か否かという観点で考えるなら、ミスコン自体がルッキズム、つまり外見差別の権化ともいえるわけで、この問題にはいくつかのねじれが含まれている。

■ミス日本コンテストは役割を果たした

 かつてミス日本には大きな社会的役割があったことを、50代のぼくは辛うじて知っている。終戦後の食糧難の時代、アメリカから届いた「ララ物資」は栄養失調の子どもたちを救った。1947年、アメリカ国民に感謝の念を伝えるために衆議院で緊急の感謝決議が採択され、3年後にアメリカへ女性親善使節を派遣することが決まった。

 その選抜行事がミス日本の始まりであり、初代グランプリに選ばれたのがのちの大女優・山本富士子。幼いころ、彼女と同世代である両親からこの話を何度聞いたことか。そうそう、歴代ミス日本としては叶美香や藤原紀香も有名ですね。

 でも、とうの昔に、ミス日本コンテストは時代の役割を十分に果たし終えたんじゃないか。

 椎野さんは応募の動機として「日本人として認められたい思いが最初のきっかけ。人を見た目で判断しない社会づくりをしたいことが最終的に目標になってエントリーしました」という、なかなかにディープなコメントを残している。

「見た目で判断しない社会」形成のためにミス日本コンテストに出るというのは、ぼくには逆説的行為の極みに感じられる。グロテスクとも、日本社会に対しての痛烈なメッセージともとれる。だが椎野さんのYouTubeを観ると、帰化申請に言及しながら「私の最終的なゴールは日本でお墓をつくること」とやわらかい笑顔で語っており、ぼくはまだ彼女の真意が掴めずにいるのだけど。

 はっきり言おう。ミス日本だけじゃない、ミスコンなんて時代錯誤のイベントは、もうやめちゃいませんか。あらためてミス日本公式サイトを読みこむと、〈日本らしい美しさ〉の定義として「『内面の美・外見の美・行動の美』の3つの美を備えること」とある。

 ほーら、ここにもう答えはあったじゃん。2024年のいま、外見であろうと行動であろうと、もちろん内面であろうと、順位をつけるなんて無理無理無理。かつ無意味。そして、多くの人びとはすでに理解している。カロリーナという女性の美しさを知るために、ミスコンなんて旧い装置も帰化申請も本来必要ないことを。いまこの瞬間からでいい、そんな社会をめざそうよ。

(松尾潔/音楽プロデューサー)