松本人志“活動休止”でも「問題なし」のテレビ局の「意外な名前」…業界関係者が語る「脱・松本」の準備の真相

 
現場のスタッフは「やめたほうがいい」と思っているが…テレ東元プロデューサーが指摘する“バラエティ番組”が“配信サービス”で人気がない納得の理由がある。安上がりの手法から脱却しなければ、吉本興業の芸人オンパレードの番組構成の今を手直す必要がある。
 
 
 お笑い界トップに降ってわいたスキャンダル。芸人からは擁護の声があがるかと思いきや「裁判の行方を見守る」というコメントばかり……。芸人とテレビ局の本音とは。それぞれの内情をレポート。
 
「かなり憔悴しています」
 「ごめんなさい、今回は……。ちょっと控えさせてください。(松本の性加害問題については)いまはコメントゼロで……」

 本誌の電話取材に、吉本興業元会長の大﨑洋氏はそう語った。

 闇営業問題や芸人の独立騒動など、これまでは会社にとって不利益な話題であっても取材を受けてきた大﨑氏だが、今回ばかりはノーコメント。記者の質問に「申し訳ない」と繰り返すその様子からは、『ダウンタウン』の育ての親として知られる大﨑氏の苦悩が伝わってきた。

 松本人志(60歳)を取り巻く現状について、吉本の中堅社員が明かす。

 「松本さんはかなり憔悴しています。文春の報道内容もさることながら、Xでの自分の発言が批判されたことに相当ショックを受けている。いままで、世間からこれだけ叩かれたことはありませんでしたからね。

 不安からか、吉本の幹部社員に毎日のように電話をかけているそうです。ただ、現在の吉本に松本さんと対等に話し、アドバイスができる人間はいない。となると、頼れるのは大﨑さんしかいません。今後について松本さん本人から相談されているからこそ、大﨑さんも『何も言えない』としか答えられなかったんでしょう」

敷かれていた「さよなら松本シフト」
 1月8日に突如として発表された松本の活動休止を受け、テレビ業界ではいま、急ピッチで「脱・松本」が進められている。個人およびコンビとして7つのレギュラーを持ち、多数の特番にも出演していた松本だけに、活動休止の影響は甚大かと思われたが、各局の対応は残酷なまでに冷静だ。

 まずは、フジテレビ関係者。

 「活動休止発表後、松本さんはXで『ワイドナショー出まーす』と呟きましたが、フジの上層部がすぐさま担当プロデューサーに指示を出し、吉本と交渉のうえ出演を取りやめさせた。これまで自分の意見が通らなかったことがなかった松本さんは、このこともショックだったそうです」

 フジテレビでは現在、「人志松本の酒のツマミになる話」が放送されているが、すでに代役を立てての収録も行われた。

 「『千鳥』の大悟を松本さんの席に座らせて収録を行いました。松本さんありの収録ストックも放送3回分ほどあり、そちらから消化したいのが現場の本音ですが、場合によっては大悟MCバージョンで乗り切る。まあ、様子を見ながらですね」(同前)

 TBSの「水曜日のダウンタウン」や「クレイジージャーニー」も松本なしバージョンの準備が進行中。松本が企画・構成に携わり、影響が大きいとされていた日テレ「ガキ使」の現場スタッフも、淡々とした口調でこう語った。

 「とりあえず、浜田(雅功)さんを中心に残ったメンバーで収録を続ける方向です。活動休止には驚きましたが、闇営業やジャニーズ問題で、ある意味緊急対応には慣れていますから。現場は『やれることをやるしかない』という雰囲気です」

 テレビ朝日といえば、松本が審査員を務める年末の「M―1」で知られるが、こちらも動揺は少ない。

 「実は以前から『さよなら松本シフト』が敷かれていました。スキャンダルを見越してというわけではなく、いつ『辞める』と言いだしてもおかしくなかったからです。松本さんと親しい放送作家で固めていた予選の審査員は、'23年末の大会から刷新。歴代のM―1王者のなかから、松本さんの後継者探しも始めていました。そのため、松本さんがいない可能性が高い今年のM―1も、何とかなると思います」
 
 

松本人志が「文春裁判」のあと、芸能界を引退する可能性…テレビ出演を辞めて始めるかもしれない「意外なこと」

 
沈黙するベテラン芸人
もはやテレビから「松本人志」という存在そのものが消えるのも時間の問題だ。民放キー局の編成担当幹部が言う。

「松本の番組はすべて打ち切りになるとみて間違いない。ただ、4月改編はすでに番組のラインナップが決まっているので間に合わない。ひとまず松本なしで収録・放送を進め、10月改編でガラリと変わる予定です」

なぜ、各局の対応はこれほどまでに素早いのか。その理由は、松本や吉本よりもはるかに気を遣わなければいけない存在である、スポンサーの意向によるものだ。実際、すでに松本の番組では、提供スポンサーの表示が消えたり、ACジャパンのCMが流れたりといったことが起きている。

電通に19年勤務した経歴を持つ桜美林大学准教授でマーケティングが専門の西山守氏が語る。

「松本氏の性加害報道を受け、スポンサー各社は『いったん取り下げて様子を見る』という判断をしたのでしょう。芸能関連に限らず、企業のリスク対応のトレンドは、『疑わしきは静観』から、『疑わしきはいったんストップ』へと移行しつつある。ジャニーズ問題の際に、静観自体が批判を招いたことから各社が学び取ったのだと思います。

また、吉本興業と松本氏の足並みが揃っていないように見える状況も、スポンサー各社からすれば印象が悪かったはずです。事務所が活動休止を発表しながら、松本氏がSNSで発信する。これではアクセルとブレーキを一緒に踏んでいるようなものです」
 
若手にとってはチャンスか
テレビマンたちが粛々と「松本離れ」を進める一方、吉本はどうか。前出の吉本関係者が語る。

「松本さんは吉本をここまで大きくしてくれた立て役者ですから、すぐさま契約を解除することはありえない。ただ、事務所としては、他の吉本芸人にこれ以上問題が波及するのは避けたいというのが本音です。吉本としてではなく、松本さん個人で文春との裁判を戦うという判断になったのも、そういった事務所事情を考慮してのことでしょう」

実は吉本内部からは、「松本擁護」の声もあまり出ていないのだという。

「一昔前までは、女遊びは芸人の嗜みという風潮があった。道頓堀でナンパしまくった、泥酔させた女の子を持ち帰った、なんて話は楽屋の笑い話として頻繁に交わされていたし、トーク番組でネタにすることさえありました。そのため、少しでも身に覚えのあるベテラン芸人たちは、自分に火の粉がかからないよう極力大人しくしています。

一方、そういった時代を生きていない若手芸人のなかには、松本さんの活動休止をむしろチャンスと見る向きもある。松本さんは芸人の間で神格化されてきましたが、松本さんの影響を受けていない若手芸人は吉本内に意外なほど多い。松本さんは20年以上にわたりトップに君臨し、そのお眼鏡にかなわなければ売れないといっても過言ではない状況だった。事務所の手前大っぴらには言えませんが、『枠が空いた』と内心喜んでいる芸人も少なくない」(同前)
 

エッセイを執筆か
芸人たちが注目しているのはいわずもがな、松本vs.文春裁判の行方だ。週刊誌を相手取った民事裁判も担当したことがある「加藤・浅川法律事務所」代表の加藤博太郎弁護士が言う。

「文春側は記事に公益性があることを主張し、そのうえで内容が真実であること、あるいは真実だと信じた相当の理由があることについての証拠を出す。松本氏側は、それに対し反論をしていく形で裁判は進んでいくでしょう。結論が出るまでには少なくとも1年、場合によっては2~3年かかる可能性もある。松本氏は億単位の損害賠償を請求するとみられますが、活動休止はあくまで自ら行ったこと。仮に名誉棄損が認められたとしても、賠償額は数百万円程度になるはずです」

決着がどうなるにせよ、1年以上が過ぎたとき、松本の番組は残っていないだろう。そのことは松本自身も百も承知のはずだ。それだけに、このまま引退するつもりではないかと見る向きもある。前出の吉本関係者が言う。

「芸能活動にはいったん区切りをつけるのだと思います。コロナ禍で収録が減ったとき、松本さんは母親についての思いをつづった文章を書き溜めていて、『機会があれば出版してもいい』と近しい人に漏らしていました。松本さんといえば'94年に出版してベストセラーになった『遺書』が有名ですが、家族や仕事など、自身の人生を振り返った『遺書2』のような作品を執筆するつもりなのかもしれません」

退場を余儀なくされた孤高の天才・松本人志……吉本内部では若手たちが下剋上を目指し、虎視眈々と空席を狙っている。では、松本の後釜として各局が注目しているのは誰か。
 
 

現場のスタッフは「やめたほうがいい」と思っているが…テレ東元プロデューサーが指摘する“バラエティ番組”が“配信サービス”で人気がない納得の理由

 
 
 2015年に始まった民放公式テレビ配信サービス「Tver」。利用者は右肩上がりで増え続け、いまも快進撃が続いている。しかし、元テレビ東京プロデュサーの田淵俊彦は、「バラエティ番組」はこのビジネスに貢献できていないという。
 
◆◆◆

番組再生ランキングは「ドラマ」の独壇場
 テレビ局の救世主とも言えるのがTVerというビジネスモデルである。このステージでどんなポテンシャルを発揮できるかが、テレビのゆく末を決めると言っても過言ではない。

 2023年8月、TVerの月間ユーザー数が3000万MUBと過去最高記録をさらに更新したことがわかった。

 MUBとはMonthly Unique Browsersの略で、文字通り月間のユニークブラウザ数を意味している。ユニークブラウザ数はTVerを訪れた重複のないユーザーの数をあらわし、ひとりのユーザーが何度TVerを見ても「1人」とカウントされるため、データの精度と信頼度が高い。

 TVerは2023年に入って、MUBの最高新記録更新が今回で5回目。快進撃が続いている。

 しかし、ジャンル別に見ればバラエティはこのビジネスに貢献できていない。

 みなさんのなかにはもちろん、「バラエティが好きだ」という方もいらっしゃるだろう。まずはデータから分析してみよう。

 2023年8月にTVerから発表された「2023年4~6月期 総合番組再生数ランキングトップ20」に目を向けてみたい。

 表を観てわかるように、1位の木曜劇場『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ)をはじめとして10位内にランクインしているのはすべてドラマだ。

 一方、バラエティは12位に『水曜日のダウンタウン』(TBS)がランクインしたが、20位に入っているのはこの番組を含めてわずか3作品のみ。完全にドラマの独壇場である。

 なぜ配信において、バラエティの再生数が伸び悩んでいるのか。

 その理由は、現在のテレビにおけるバラエティ番組の特徴を冷静に観察してみれば平明である。
 
バラエティの再生数が伸び悩んでいる理由とは
 この再生数ランキングの結果を「バラエティはコンプライアンスが求められ、表現の自由が制限されているから」という理由で片づけるのであれば、それは報道やドキュメンタリーはいわんや、ドラマにおいても同じ条件下にある。

 バラエティに限ったことではないし、コンプライアンスが厳しいのであればその制約を乗り越えて表現できるものを模索するべきだろう。「コンプライアンス遵守」を言い訳にするのは、自らの制作能力のなさを露呈しているようでなさけない。

 コンプライアンスに縛られクレーム対策によって表現の幅が狭まるのは、時代の流れで仕方がないことだ。いまさらそれを言っても始まらない。「グルメ」「ショッピング」「クイズ」ばかりに偏重していることを理由に挙げる人もいるが、視聴率を狙うためにファミリーターゲットの内容にせざるを得ないのは当然である。

 またジャンルが「グルメ」「ショッピング」「クイズ」に偏ったとしても、肝心なのは「何をやるか」や「どう見せるか」である。想像力や創造力が欠けているから、同じような番組が並んでしまうのだ。「同じ出演者ばかりを見る」という指摘もあるが、それもクリエイターのキャスティング能力や演出力の欠如に起因する問題で適切な分析にはなっていない。「バラエティが配信において支持されない理由」として私が指摘したいのは、最近のバラエティ番組のある顕著な傾向である。

 読者のみなさんは、いったい何だと思われるだろうか。

 それは、企業とのタイアップ企画とおぼしき番組が目立つという点である。

タイアップ企画が目白押しのバラエティ
 2023年7月8日放送の『ジョブチューン』(TBS)は、「第2回大人気チェーン対抗! アレンジバトル最強決定戦!」と題してイオン、大戸屋、餃子の王将、串カツ田中、スシロー、ペッパーランチのメニュー開発者が市販の商品をアレンジして対決するという企画だった。

 同年7月4日の『家事ヤロウ!!!』(テレ朝)は、平野レミと和田明日香が大型倉庫店へ行くという企画で、爆買い必至の「常連リピ買い商品ベスト15」を挙げて焼き鳥やスイーツなどのレシピを紹介するというものだが、その大型倉庫店とはコストコであり全編にわたってタイアップの臭いがプンプンとする内容だった。『林修のニッポンドリル』(フジ)は、2022年には業務田スー子が100均のSeriaや激安スーパー・セイミヤ、ベイシアなどを調査するという名目で全面的に店を宣伝するシリーズや池袋東武、西武池袋本店などのデパ地下売上番付を紹介するシリーズなどを頻繁に放送していた。

 3月21日に終了した『所JAPAN』(関テレ)もよく大手チェーン店と食品メーカーをフィーチャーした企画をおこなっていた。
 
タイアップ企業からは多額の「協力金」
 以上のように、民放各局の看板バラエティには企業色が濃い番組がズラリと並んでいる。

 これらのタイアップ企画は、4年前くらいから多く見られるようになった。

 私の分析では、この傾向はコロナ禍に関係している。

 コロナ禍が原因で、店舗やレストランで表立って取材をすることが難しくなったテレビ局と集客や来店が減った企業側の利害関係が一致したのである。

 当時はラテ欄(番組の内容をあらわす番組表)や番組内のサイドテロップ(画面の四隅に表示される文字)にも堂々と企業名や店舗名、商品名を入れていたが、最近では「大型倉庫店」(実は、コストコ)などのようにあからさまな表現は避けるようになっている。これはおそらく、企業側からの要望もしくはテレビ局の忖度のせいだと思われる。

 なぜこのように企業側からの要望がまかり通ったり、テレビ局が企業に忖度をしたりするのだろうか。

 それは、これらのタイアップ企画の裏では多額の「協力金」が企業やメーカー側からテレビ局、番組制作サイドに流れているからだ。

地上波重視のスポンサーの「都合」
 だが、テレビ局から見ればかなり“おいしい”番組企画もこれほど企業色が色濃く出ていると配信には運用できない。

 視聴者側からすれば地上波のリアルタイムで“その場限りに”見るにはよいが、配信で改めて見ようと思ったり、わざわざ放送から時間をおいて見たいと思ったりはしないからだ。

 また、ある企業に偏った内容は普遍性や信ぴょう性に欠ける。

 以上の事象は、逆のとらえ方をすればテレビ局はバラエティにおいては配信よりリアルタイムの地上波視聴率を狙いにいっていると解釈することができる。

 もちろん、そのほうが多額の協力金を払っているスポンサーにとっても都合がいい。

 配信を好む若年層より地上波を見る中高年層のほうが、商品購買力が高いからである。

 テレビ局や番組にCM出稿をしたり協力金を出したりしているスポンサーのそういった「都合」が、先に記したTVerにおいてバラエティの再生数が伸び悩んでいる原因となっている。
 
リアルタイム視聴にこだわる演出手法の弊害
 さらには、これらのバラエティ番組がリアルタイム視聴率にこだわることの弊害が番組内における演出手法に顕著にあらわれている。

 リアルタイムで視聴してもらうために、視聴者が嫌がるとわかっていて、ある「手法」をあえて頻繁に使うことになるからだ。「視聴者が嫌うバラエティの演出手法」とは何か。

 それは次の3つに集約される。

 1.あざとい「CMまたぎ」
 2.過剰な映像の「リフレイン」
 3.おおげさな「あおり」、それによる「ネタバレ」

 以上はどれも読者のみなさんが日頃から感じていることではないだろうか。

 あざとい「CMまたぎ」は思わず「えー、そんなところでCMにいくの~」と叫びたくなるような手法だが、何度も繰り返されるといい加減にその番組を見るのが嫌になってくる。

 何度も繰り返し同じ映像を見せられ、挙句の果てに「スローでもう一回」とか言われるとこれも腹立たしく思えてくる。「このあと、衝撃の事実が!」などとあおりにあおっておいて「衝撃でも何でもない事実」を見せられると興ざめするし、「このあと、ひどい仕打ちを受けた〇〇が答えた言葉が神対応だった!」とあおられても筋書きをすべて語られてしまっているので、ものごとの成りゆきを推測する楽しみもない。それどころか、見ているこちら側の想像力を疑われているような気がしてきて悲しくなる。これら3つの演出手法は視聴者にとって何のいいこともない。

 視聴者を少しでもつなぎとめておきたいテレビ局と、番組という「おまけ」で釣ってCMを見させたいスポンサーだけが得をするのである。

気がついてはいるけれど…
 現場のクリエイターたちは、こういったバラエティの演出手法の弊害に気がついていないわけではない。気がついて「やめたほうがいい」と思っている。

 だが、やめられないのだ。

 彼らは「0.1%でも視聴率を上げなければいけない」という事情に疑問を抱きながら、続けているのである。

 そこには、テレビ局のマネタイズというあくなき欲求がある。

「配信の場では自由な作品が作れるのに、テレビではこんなことをやり続けなければならないのか……」

 そんな虚しさを抱いたクリエイターたちが、テレビの現場から離れてゆくのは当然なのだ。

 

「テレビメディアは『オワコン』になるのかどうか真剣に考えなければならない」テレビ東京・元プロデューサーが明かす“配信サイト”への本音

 
 NHK放送文化研究所が行った「国民生活時間調査」の調査で10~20代のほぼ半数が日々テレビを見る習慣がないことがわかった。インターネットやデジタル機器に囲まれて育った世代デジタル・ネイティヴが増えていくにしたがって、テレビは“オワコン(終わったコンテンツ)”になってしまうのだろうか。

 ここでは、元テレビ東京プロデューサーで、現在は桜美林大学で教授を務める田淵俊彦氏の著書『 混沌時代の新・テレビ論 』(ポプラ社)の一部を抜粋。テレビ業界を生き抜いた田淵氏の考えるテレビの未来について紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆◆◆

「配信」を支えているのは地上波由来の番組
 コロナ禍が収束し始めたいまだからこそ、テレビはその存在意義を示すべきである。また、テレビからすれば「脅威」であろう配信との関係を見直すときである。

 まずは、配信の出現でテレビメディアは「オワコン」になるのかどうか真剣に考えなければならない。

 私はその渦中にいたからこそ「ならない」と考えるし、そう実感もしている。

 そしてその思いはテレビ業界から距離を置いたいま、ますます強まっている。

 地上波と配信の関係において最大の懸念とされる「競合」についてのポイントは、「オリジナル配信」と「地上波の配信化」は違うということである。

 私が大学の授業で学生に「配信の番組を見て、問題点を挙げてください」という課題を出すと、多くの学生が地上波で放送された番組が配信化されたものを挙げる。

 しかし、これは「配信の番組」ではない。配信プラットフォームが独自(オリジナル)に制作した番組ではないからである。だが、学生たちは混同をする。

 この現象は、いかに「地上波の配信化」が多いかをあらわしている。「やっぱり配信はおもしろいなぁ」と思って見ている番組のほとんどは、テレビ局が作って地上波で放送したあとに配信に転売した地上波由来のコンテンツなのだ。

 その事実にこそ、テレビが生き残るためのヒントが隠されている。
 
視聴者はテレビのコンテンツから離れているのではない
 まずは、以下に配信と比較したテレビの優位性を3つ挙げたい。

 1.テレビは最強のコンテンツ
 ホルダーテレビは、放送をすることで著作権をクリアにしたコンテンツを365日24時間蓄積できている。
 2.テレビにはコネクションがある
 テレビは、コンテンツを作るためにキャスト事務所や制作プロダクションとの間に長年のコネクションを蓄積してきた。
   3.テレビは無料放送
 無料放送ということが続く限り、高齢者や生活弱者にとっては重要なメディアテクノロジー(情報収集の手段)たり得る。

 私は「テレビのコンテンツから視聴者が離れている」のではないと考えている。

 知らず知らずのうちにテレビ局が作った番組を配信というプラットフォームで見ている視聴者が多いということを鑑みると、まだまだ魅力的な番組やコンテンツがテレビには溢れている。

 視聴者はテレビという「システム」から離れているのだ。

 決まった時間にテレビの前に座り、家族そろって同じ番組を見るといったような視聴習慣に魅力を感じなくなっている。核家族化や生活スタイルの変化、家族間の嗜好性の多様化も理由としてあるだろう。

 私が子どものころには、土曜の夜8時には家族そろってブラウン管テレビの前に座ってTBSの『8時だョ!全員集合』を見るといったような決まりごとがあった。

生き残りの鍵は「リテラシー」と「オリジナル」
 しかし、そんな習慣も過去のものである。配信時代にテレビが生き残ってゆくためには

 テレビが生き残るためのヒントは何か。

 それは2点に集約される。

 1.「リテラシー」を磨く
 2.「オリジナル」の確保を目指す

 放送や配信の世界においていま、「リテラシー」や権利に関する問題が多発している。「リテラシー」とは、元々「字が読める」とか「読み書きができる」という能力を示す言葉であり、「文字」を意味するletterに由来している。そこから転じて、ものごとを「解釈」「分析」して「理解」し、それを駆使して「表現」や「発信」をすることができる能力を意味する。

 テレビが生き残ってゆくためには、テレビに携わる者すべてがこのリテラシーを磨く必要がある。
 
著作権侵害に関わる、現場でのある出来事
 以下は実際にあった話である。ドラマの撮影の際に、居酒屋でのシーンを撮るために制作陣がある店にロケハンに行った。芝居場となる背景がさみしいとのことで、監督が「何かポスターのようなものをここに貼って」と要請した。「わかりました」と助監督は答え、美術にポスターを発注した。

 撮影を終え、放送は無事にすんだ。

 と思っていたら、ある日突然、視聴者から局に電話がかかってきた。

 聞けば、そのドラマで使われたポスターの図柄が自分の作り出したキャラクターそっくりだというのである。

 美術に確認したところ、助監督が持ってきた図案通りに作っただけで何がどうなっているかまったくわからないという。助監督に聞いてみると、サイトを見ていたらちょうどよさげなデザインがあったのでそれをプリントアウトして美術に渡したが、そのときに「くれぐれも著作権に引っかからないようにお願いします」と何度も念押ししたはずだの一点張りだった。

 結局、電話をしてきた視聴者には事情を正直に話して丁重に謝り、いくばくかの著作権料を支払って納得してもらうことでことなきを得た。もし相手が無茶を言ったり悪質なクレーマーだったりしたら大変な事態に発展していたかもしれない。

 問題のポイントは、発注した助監督、ポスターを作った美術、そしてそのチェックを怠ったプロデューサー、以上の三者全員に瑕疵があったということだ。

 まず助監督が「著作権に引っかからないようにしてほしい」とお願いしている時点で、そのデザインを無断で使うことはヤバいと認識していたということがわかる。

 美術もそうお願いされたら「それってヤバくない?」と言い返すこともできたはずなのに、それをそのまま看過して使ってしまった。

 私がもっとも罪が深いと考えるのが、プロデューサーである。

 プロデューサーは最後のチェック機関である。上記に挙げたようなことをすべて気づいて排除してゆくのがプロデューサーの仕事だ。それを見逃したのか、もしくはチェックを怠ったか、どちらにしても番組の最高決定権者としての責任は重い。
 
リテラシーの能力を上げていくことが急務
 ライツ(権利)関係は作品にとっての生命線であり、もしトラブルなどになった場合には多額の損失をこうむるだけでなく、未来永劫その作品が日の目を見ることがなくなってしまう。

 こういったリテラシーを身につけているかどうかが、そのクリエイターが生き残ってゆけるかどうかのボーダーラインであり、だからこそテレビ業界全体としてその能力を上げてゆくことが急務なのだ。

 テレビの制作者は「日本民間放送連盟 放送基準」というものに従って番組を制作し、放送している。その10章に「犯罪表現」という項目がある。

 そこには「犯罪を肯定したり犯罪者を英雄扱いしたりしてはならない」「犯罪の手口を表現する時は、模倣の気持ちを起こさせないように注意する」と記されている。

 (ビートたけし氏が主演を務めた特別ドラマ)『破獄』を私が作ったときには、この放送基準にのっとって充分な配慮をおこないながら制作を進めた。

 具体的にはこうだ。

 ドラマは吉村昭氏の小説を原作としているが、その読ませどころのひとつは「脱獄の手法」である。手に汗握るような詳しい描写がおもしろい。

 だが、ドラマでは「破獄の手法」が重要なのではなく「破獄の理由」が物語の主軸と考え、脱獄の手口を細かく映像化することは避けた。それは視聴者に模倣の機会を与えないようにという配慮であった。

 また当初は脚本上になかったセリフを足すという措置もおこなった。

 ビートたけし氏演じる看守の浦田が、山田孝之氏演じる脱獄犯の佐久間を網走刑務所に移送するシーンである。「網走は寒いから嫌だ」と愚痴を言う佐久間を浦田が「お前は人を殺した。その罰は受けなければならない」と諭すのだが、この浦田のセリフは当初の台本にはなかった。しかし、「犯罪を肯定したり犯罪者を英雄扱いしたりしてはならない」という基準に沿った判断から、つけ加えることにしたのだ。

 このようにテレビの創り手は、細かなルールや決めごとをすべて理解したうえで、そのときの状況に合わせた臨機応変な対応を“迅速”かつ“適切”におこなう必要がある。

田淵 俊彦/Webオリジナル(外部転載)
 

岩田明子氏、「めざまし8」で週刊文春「松本人志」報道を受けた吉本興業の「変化した」対応に見解…「続報が出て被害の輪が広がってくると厳しい」

 フジテレビ系「めざまし8」(月~金曜・午前8時)は25日、お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志が女性に性的行為を強要したとする「週刊文春」の一連の報道を巡り、所属先の吉本興業が24日に当事者を含む関係者に聞き取り調査し、事実確認を進めていると発表したことを報じた。

  昨年12月27日に同社は今回の報道について「当該事実は一切ない」として今後、法的な措置を検討していく予定だとしていたが、23日、外部の弁護士を交えたガバナンス委員会を開き、経緯や現状を報告。出席者からは「当初の『当該事実は一切なく』との会社コメントが世間の誤解を招いた」などの指摘が出たという。同社は今回の報道について会社として「真摯(しんし)に対応すべき問題であると認識している」としている。

 コメンテーターで元NHK解説委員の岩田明子氏は、当初は「当該事実は一切なく」と発表していた吉本興業が「真摯に対応すべき問題」と対応が変化したことへの感想をMCで俳優の谷原章介から求められ「第一弾の報道が出た時にすぐに全否定したことで迅速な対応をアピールしたかったんだと思うんですね」とし「だけどこれだけ続報が出て被害の輪が広がってくるとなかなか厳しい」と指摘していた。
 
 

ジャニーズ裁判は「同じ証言でも裁判官が違うと…」松本人志VS文春 裁判での気になる「今後の展開」

 
 
 
お笑いコンビ『ダウンタウン』の松本人志が1月22日、性的行為を強要されたなどと主張する2人の女性の証言などを掲載した12月27日発売の『週刊文春』の記事を名誉毀損として約5億5000万円の損害賠償を請求して、発行元の文芸春秋社と『週刊文春』編集長を東京地裁に提訴した。
 
『週刊文春』編集部は同日に

《一連の記事には十分自信を持っています》

などとコメントを発表。全面対決の裁判闘争に突入することになった。

裁判はどう展開するのか――。

これまで何回も名誉毀損裁判の傍聴や取材をしたことがあるが、名誉毀損裁判には表現の自由と名誉毀損の調整をするものとして「免責三要件」があり、要約すると

「記事が公共の利害に関する事実にかかわるものであり、もっぱら公益を図る目的で出た場合には、適示された事実が真実であると証明されたときにはその行為に違法性がなく、不法行為は成立しない。

また、その事実が真実であると証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるに相当な理由がある時には、その行為には故意もしくは過失がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当である」

という解釈が定着している。

記事にある「性加害」問題は、公共性や公益性は認められると予想され、真実性・真実相当性が証明されれば損害賠償請求は棄却され文春側の勝訴となる。

逆に裁判官が記事に真実性、真実相当性がないと判断すれば、文春側に一定額の損害賠償が命じられ、松本側の勝訴となる。

松本は「性的行為」そのものを否定していることから、裁判では性的行為があったかどうか、さらには女性に対する性的強要があったかが争われることが予想される。

第1回公判では松本側の訴状に対して文春側が反論する準備書面を提出するか、または争うことだけを表明して次回に準備書面提出となることが予想される。

1ヵ月半ぐらいの間隔のペースで裁判が進行して、お互いに準備書面で主張しあい、関係者の証言を記した陳述書などを提出して争うが、カギを握るのは性的行為を強要されたと主張している女性の証言と予想される。双方の主張を裁判官がどう判断するのかが注目される。

ちなみに故ジャニー喜多川氏の性加害を報じた’99年の一連の文春のキャンペーン記事をジャニーズ事務所(現:SMILE-UP.)が名誉毀損で提訴した裁判について、裁判を担当した“文春の守護神”といわれる喜田村洋一弁護士が、月刊『創』のインタビュー記事

「『週刊文春』裁判でジャニー氏は何を証言したのか」(’23年10月13日配信)

で詳しく語っている。

それによると、少年2人が法廷でジャニー氏の「ホモセクハラ」を証言したが、1審の東京地裁判決では、記事の中の性被害の部分は真実性・真実相当性がないとして文春側が敗訴して損害賠償を命じられた。ところが控訴審で東京高裁は一転して記事の

「重要な部分では真実であるとの証明があった」

として文春側が実質的に勝訴。ジャニーズ側は上告したが、最高裁は上告を棄却して高裁判決が確定している。

裁判官によって同じ証言の判断が分かれるというケースもある例で、単純に今回の裁判に当てはめることはできないが、予断を許さない展開が続く可能性がある。ジャニーズ対文春の裁判は提訴’‘99年11月)から最高裁判決(’04年2月)まで約4年3ヵ月かかったという。

名誉毀損裁判では双方が主張を尽くしたところで裁判官から和解勧告が出て、判決を待たずに和解(和解内容は非公開)するケースもあるが、今回の裁判は途中での和解は考えにくく、仮に1審判決を不服としてどちらかが(あるいは双方が)控訴して、さらに最高裁まで続くとなると、4~5年はかかることが予想される。松本は1月8日に

「様々な記事に対峙して、裁判に注力したい」

として芸能活動休止を発表したが、裁判の間活動休止を続けるのかも注目される。

いずれにしても松本と文春の長い裁判闘争が近くスタートすることになった。

昨年社会的に大きく問題になったジャニー氏の性加害問題をきっかけに、企業が性加害や人権問題に積極的に取り組み、またメディアも積極的に報道するようになっている。それだけに、今後の裁判の行方が注目される――。

文:阪本 良(ライター、元『東京スポーツ新聞社』文化社会部部長)
Webマガジン『PlusαToday』を始め、芸能、映画、ハリウッド情報などの記事を執筆。日本映画ペンクラブ会員

FRIDAYデジタル
 
 

松本人志騒動に佐賀新聞社長が「恐ろしいのは吉本がジャニーズ化すること」持論展開で集まる賛否

 
 
佐賀新聞社の中尾清一郎社長(写真・共同通信)

1月24日、「文春オンライン」に性加害疑惑の第4弾が報じられた松本人志。次々と出てくる被害者からの告発に、当初「当該事実は一切なく」法的措置を検討していく予定としていた吉本興業は、同日、あらためて「週刊誌報道等に対する当社の対応方針」を公式サイトで発表した。

発表文のなかで同社は、ガバナンス委員会から《当初の『当該事実は一切なく』との会社コメントが世間の誤解を招き、何を指しているのか不明確で混乱を招いたように思う》と指摘を受けたとして、当事者を含む関係者への聞き取り調査をおこない、事実関係を進めているところだと説明した。

そうしたなか、佐賀新聞社の中尾清一郎社長の発言が話題を呼んでいる。中尾氏は22日、脳科学者・茂木健一郎氏のYouTubeチャンネルに出演。茂木氏への質問に答える形で、松本人志騒動への持論を展開した。

お笑い界の頂点である松本に対して、後輩芸人らが、松本に女性をアテンドしていたとされることについては、「自分が駆け出しの芸人だったら気に入られたいじゃないですか。そこでいちばん、気に入られる方法はお金でもなく、松本さんの気に入る女の子を何人集められるかということで『お前、やるな? 便利やな』というふうに言われて頭角を現していくというか、“ひな壇芸人”の中の数合わせに使われていく」と私見を述べ、「すごくわかりやすいシステム」と語った。

また中尾氏は、松本が「記者会見をすぐやるべきだった」というビートたけしの発言に同調したうえで、「吉本が恐ろしいのは、これがジャニーズ化すること」と語り、その意図を「吉本は『松本はこういう人間だから仕方がない。でもみんな知ってたじゃないか』っていうのはジャニーズと同じ構造」と説明。「ジャニーズだって、そうじゃないですか。『みんな知ってた』って。『何言ってんの? いまさら』みたいな」と、問題の共通点を指摘した。

この動画に対して、コメント欄には、

《至極まっとうなご意見ですね。中尾氏のおっしゃる通りと思います》

《松本さん、気が小さいから記者会見なんか開けないだろうね》

と、松本の対応に疑問を抱く視聴者から、同調する意見が寄せられた。一方で、

《中尾さんはこの事説事態を分かり易く説明されていると思いますが途中から文春記事の内容が正しいと云う前提に偏り過ぎていて誤解を招く様に思います》

と、「文春」の報道に乗りすぎている、という批判の声も見られた。

まずは被害を訴える女性の気持ちを知ることが、いちばん重要だと思うのだが……。
 
 

松本人志vs.「文春」の「5億5000万円」裁判で「白黒つく」とはいえない理由 事実でも名誉毀損は成立する

 
 
密室での出来事
 ダウンタウンの松本人志と週刊文春との争いは、誌面やSNSではなく、今後は民事裁判の場で展開されることになる。1月22日、松本が所属する吉本興業は、彼が文藝春秋社と週刊文春編集長を相手取り、名誉毀損(きそん)などに関する訴訟を起こしたと発表した。損害賠償の請求額は5億5000万円だという。
 
 これについては「裁判で白黒つければいい」と口にするコメンテーターなどが多い。ヤフーなどでもそうしたコメントが数多く見られる。

「本当に女性に対して犯罪的な行為が行われたのかどうか、密室の中の出来事で、第三者には判定のしようがない。双方の言い分が真っ向から対立している以上、裁判で明らかにするのが良いではないか」

 というわけだ。

 しかし、実際には名誉毀損の裁判で、「白黒」がつくとは限らない。

 すでに法曹関係者らが指摘しているように、そもそも民事裁判で認定されるのは「真実相当性」になる可能性が高い。

 ごく大雑把にいえば「完全に真実とは証明できなくても、真実であると信じるに足る根拠がある」となれば「真実相当性」が認められる、ということになる。密室での行為などでは物証があることのほうが少ないので、「真実性」ではなく「真実相当性」で判断されることになりそうだという見立てだ。

 この場合、何が「真実」かは示されないままになる。つまり完全な形で白黒がつくわけではない。

真実イコール「名誉毀損ではない」とはならない
 ややこしいのは、たとえ記事に書かれていることが本当であっても、名誉毀損が成立する可能性があるという点だ。

 名誉毀損や著作権侵害の専門家である弁護士の鳥飼重和氏の監修した『その「つぶやき」は犯罪です 知らないとマズいネットの法律知識』から、名誉毀損罪関連の解説の重要ポイントをピックアップしてみよう。

「名誉毀損罪について、法律には何と書いてあるでしょうか。

 刑法230条1項をみると、『公然と事実を適示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する』と書いてあります。

 ここでいう『名誉を毀損した』とは、人の社会的評価を低下させることと考えられています。また、『人』には個人だけでなく会社などの団体も含まれるとされています(昭和56年1月29日東京地裁判決)。
 
 それでは、『公然と』とはどういう意味でしょうか。判例によれば、『公然と』とは、不特定または多数の人がその事実を認識できる状態を指すと考えられています(昭和34年5月7日最高裁判決参照)」

「前提として、名誉毀損罪は、その内容が真実であるかどうかは関係なく成立します。

 ただし、公共の利益のための真実の情報であるか、あるいは真実であると信じる『相当の理由』があれば、その対象からは外れることになります」

 つまり、真実かどうか、あるいは真実相当性があるかどうかは、名誉毀損にあたるかどうかを判断するうえでとても重要な要素ではあるけれども、真実だからといって名誉毀損にあたらないとは限らない、ということになる。

公共の利益といえるかどうか
 たとえば、政治家でも芸能人でも何でもない一般のご家庭が、不倫問題で大変なことになっているという情報を、実名で報じたらどうか。真実であっても、「公共の利益」とはいえないので、名誉毀損にあたる可能性は高い。

 今回の件でも、大物芸能人が犯罪的な行為を行ったという報道ならば、「公共の利益」になると見なされるだろうが、単に性的に奔放な振る舞いをしていたとか、ゲスな合コンをしていたというだけの場合、「公共の利益」になる情報かどうか、ということは論点になりうる。

 もともと、若い頃から松本は品行方正をアピールしていない。人気芸人なので、準公人とされるだろうが、性癖などについてどこまで伝えていいのかは見方が分かれるところだろう。

「週刊文春」の記事中に登場する告発者の中で、明らかに犯罪被害を受けたと見なされそうな女性は少ない。そして吉本興業が発表したお知らせによれば、訴えた対象は「12月27日の一部週刊誌報道」で、「『性加害』に該当するような事実はない」とされている。これは、私生活の性癖等は争点としない、というスタンスを表明したことになる。松本側は今後、「週刊文春」の第1弾記事に書かれていたような犯罪的な行為の有無に絞って争点にしていく可能性が高い。

 では、仮に「犯罪的な行為」が裁判で認められなければ、スッキリと白黒つくだろうか。

 実はそれでも「灰色」決着になる可能性があるのだ。

 一体どういうことか。
 

松本人志と文春、「5億5000万円訴訟」で双方が「勝利宣言」をするシナリオは

 
 
新聞に根も葉もないことを書かれた
 松本人志vs.週刊文春の対決は民事裁判の場で展開される可能性が大である。ただし、前編で見たように、そこで「真実」が明らかになるかはかなり怪しい。

「裁判で白黒つける」というのが「真実が明らかになる」ことだと思っていると、見誤ることになることについては、前編でもお伝えした通りである。

 しかも民事の裁判の場合、原告と被告、双方が“勝利宣言”をするようなことも珍しくはない。直近の実例を見てみよう。

 元官僚でコンサルタント業などを営む原英史さんが毎日新聞を名誉毀損で訴えたケースである。

 事の経緯は以下の通りだ。

 2019年6月11日付の毎日新聞記事は、原さんの顔写真入りで、国家戦略特区をめぐる「疑惑」を報じた。特区の提案者から原さんが現金と会食接待を受けたという印象を読者に与えるものだった。

 これについての原さんは、著書『国家の怠慢』(高橋洋一氏との共著)で、率直な感想をこう述べている。

「この件で本当に驚いたのは、新聞って全く根も葉もない記事を書くことがあるんだなということですね。新聞報道に間違いのあることはこれまでも知っていました。しかし、そうはいっても、大々的にスキャンダルを報じる記事をみたらこれまでは、すべてが真実かはともかく、少なくとも何らかの不正があったんだろうと思っていました。

 ところが、この記事に関して、私には何ひとつ不正がないわけです。それにもかかわらず、私が不正な金をもらったとしか読めない事実無根の記事が出ました」

 こうした気持ちから、原さんは毎日新聞社を訴えた。事実関係をめぐる双方の主張などは省くとして、この裁判の判決が1月10日確定した。一審では原さんが敗訴したが、二審では逆転勝訴、そして最高裁が双方の上告を退けたため、高裁判決が確定。つまり、名誉毀損(きそん)であることが認められたことになる。賠償額は220万円だ。

 この件を伝える朝日、読売、産経の見出しは以下の通り(いずれも1月12日付朝刊)。

「毎日新聞記事の名誉毀損、確定」(朝日)

「戦略特区記事 毎日新聞敗訴 最高裁、上告退ける」(読売)

「毎日新聞の逆転敗訴確定」(産経)
 
毎日新聞は「事実」をアピール
 原さん自身もX上で「私の勝訴が確定しました」と述べている。

 普通ならば、原さんが勝ち、毎日新聞が負けで「白黒ついた」となるだろう。

 実際に、毎日新聞もさすがに無視はできないので、自社が敗訴したことを記事にはしているのだが、その中にはこういう文章がある。

「国家戦略特区を巡る今回の報道は、警察や検察などいわゆる当局の発表によらない毎日新聞の独自の取材による調査報道でした。

 判決では、WG(ワーキンググループ)委員の協力会社が特区の提案者からコンサルタント料を得ていたという報道が事実だと認められました。一方で、会食費用の学校法人負担について、より慎重に学校法人幹部に確認すべきでした。懇談場所の描写も誤解を招くものでした。一部の取材が十分ではなく、記事も正確ではなかったとの判決の趣旨を真摯(しんし)に受け止め、今後の取材活動に生かしていきます」(1月11日 Web版)

 つまり、ここで毎日新聞は「裁判では負けたけれども、一部の取材が不十分で、記事が不正確だったことが理由で、それ以外のところは事実だった」と主張している。つまり全面的に負けたのではない、というのが判決確定後もなお毎日新聞側が見せているスタンスだ。

 記事が最初から最後まで全部真っ赤なウソというケースは少ないので、敗訴してもこのようにメディア側が主張することは珍しくない。

 もしも毎日新聞のみがニュースソースだという熱心な読者がこの記事を読めば、「毎日、頑張れ」とエールを送りたくなるところだろう。

 では、これを松本vs.週刊文春にあてはめるとどうなるか。

勝利宣言の行方は
 松本側がもっとも否定したいのは、週刊文春の第1弾記事で指摘されている犯罪的な行為だとみられる。直撃取材に対して、比較的余裕で対応していた彼が、性加害について問われた時に「無茶苦茶やな」と強い反発を示したと書かれている。だからこそ、1月22日に公表された松本の代理人コメントでも、訴える対象を「令和5年12月27日発売」の記事に限定し、争点が「性加害の有無」である旨が書かれている。

 一方で、週刊文春がその土俵で戦うかどうかは不明である。

 記事の第2弾以降では、新たな犯罪行為は示されていない。

 記事の焦点は後輩ら取り巻きによる女性の「上納システム」になっている。要するに後輩らが若い女性との合コンをセッティングしていたことに焦点が移っているのだ。

 つまりこの段階で週刊文春側が問題視しているのは、性加害だけではなく、「女性を“モノ扱い”するかのような所業」(同誌より)なのだ、という主張にも読むことができる。若い女性をホステス的に扱うこと自体が「モノ扱い」だ、というのは一種の論評に近いので、否定するのは難しいだろう。この部分こそが、一連の記事のメイン・メッセージだと文春が法廷で主張したらどうなるか。

 松本側が勝利し、もっとも否定したいポイントについては「白」となったとしても、後輩らを使って合コンをしていたことは、「白黒つかない」あるいは「黒」となるかもしれない。

 この場合、松本側は「やっぱり犯罪行為はなかった!」という点を強調するだろうし、週刊文春側は「上納システムはあったのだ!」という点を強調することになる。

 仮に賠償金を支払えといった判決が出たとしても、双方が別の主張をすることがあるのは、毎日新聞の事例を見れば明らかだろう。法廷外の情報戦も予想されるのである。


玉川徹氏、松本人志「週刊文春報道」で吉本興業の「対応」で見解…「吉本興業側で調査…その結果を裁判とは別に公表」
 
 テレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」(月~金曜・午前8時)は25日、お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志が女性に性的行為を強要したとする「週刊文春」の一連の報道を巡り、所属先の吉本興業が24日に当事者を含む関係者に聞き取り調査し、事実確認を進めていると発表したことを報じた。

 昨年12月27日に同社は今回の報道について「当該事実は一切ない」として今後、法的な措置を検討していく予定だとしていたが、23日、外部の弁護士を交えたガバナンス委員会を開き、経緯や現状を報告。出席者からは「当初の『当該事実は一切なく』との会社コメントが世間の誤解を招いた」などの指摘が出たという。同社は今回の報道について会社として「真摯(しんし)に対応すべき問題であると認識している」としている。

 コメンテーターで元テレビ朝日社員の玉川徹氏は、今回の吉本興業が発表した「対応」に「吉本興業が当初『当該事実は一切なく』ってなんで言ったのかなと思うんです。こういう新たな声明が出てくると」と疑問を投げかけた。
 さらに声明の中でガバナンス委員会から「所属タレントが提訴した訴訟の経過も注視しつつ、事実確認をしっかり行った上で、何らかの形で会社としての説明責任を果たす必要がある」と指摘されたことに「ということは、事実確認をしっかり行わないで『当該事実は一切なく』と言ってしまったのか?というふうにこの声明から読み取れます」と指摘した。その上で「この文書からの解釈ですけど、吉本興業側は事実確認をしっかりしない上で事実無根的なことを言ってしまった、と読み取れちゃうんです」などとコメントした。

 続けて、今回の一連の「文春報道」について「実際にこういうことが複数回、それも長い間にわたって行われていたという報道があるとすれば、吉本興業側のいろんな人がそれを本当に知らなかったのか?」と疑問を投げかけ、声明の中で「コンプライアンスアドバイザーの助言などを受けながら、外部弁護士を交えて当事者を含む関係者に聞き取り調査を行い」と明かしていることから玉川氏は「つまりマネジャーさんとか、いろんな関係者にこれから話を聞いていくと『実はそういう話、聞いていたんです」という話なんかが出てきた場合には吉本興業側はこういうことがありました、と言わざるを得なくなりますね。裁判とは別に」と指摘した。

 さらに「吉本興業側でこういうことが実際にあったのか、なかったのかをちゃんと調査して、その結果を裁判とは別に公表しなきゃいけなくなってくるんじゃないでしょうか」と示していた。
 
 

古市憲寿氏、吉本の声明に「万博を控えているので火消しに躍起」文春側にも「清廉潔白か」

 
 社会学者の古市憲寿氏が25日、フジテレビ系「めざまし8」で、24日に出した吉本興業の声明について「不信感を与えるんじゃないかと心配」としつつ、対する文芸春秋社に対しても「より厳しい世間の目が向けられる」とも指摘した。

 この日は、24日に松本人志の問題について出した吉本の声明を取りあげた。古市氏は、このタイミングでの声明に「万博という国際イベントを吉本は控えているんで、そこで火消しに躍起だと思う、松本さんと自分たちは関係ないと…」とコメント。

 吉本側は昨年末には「当該事実は一切無い」と強い言葉で記事を否定していたが、今回はこの「当該事実は一切なく」にガバナンス委員会から「誤解を招き何を指しているのか不明確で混乱を招いたように思う」などの指摘があったとも記されており、コンプライアンスの徹底を訴えている。

 古市氏は「だったら第一報でこういう声明を出すべきではなかったし、逆に立場を変えてしまうことで、タレントを結果的に守れない企業なんだなってイメージも印象づけられた」「結果的に一貫してない態度が不信感を与えるんじゃないかと心配」と語った。

 一方で「最近思うのは、文春という出版社は清廉潔白なのかとすごく思う」と文春側についても言及。今回も世間の耳目を大きく集める結果となっていることから「これだけ力を持ってしまった以上、社員に対し、より厳しい世間の目が向けられる」とも語った。