「萩生田前政調会長が会長を務める自民党都連も、パーティー収入の不記載が判明し、告発済みです。裏金づくりは都道府県連単位に及ぶ可能性があるのに、手つかずのまま。政治資金パーティーそのものを全て禁止しなければ裏金づくりは途絶えません」(上脇博之氏)

 パーティー大好きの自民党議員がカネを欲しがる限り、裏金の温床は残り続ける


 

 

 

 自民党の政治刷新本部(本部長・岸田首相)が23日、中間とりまとめ案を大筋で了承。派閥について「お金と人事から完全に決別する」とうたいながら、派閥存続が大前提の腰砕け。とりわけ、裏金づくりの温床となった政治資金パーティーの開催は、抜け穴だらけである。

 

 あくまで「全面禁止」の対象は派閥単位のパーティーのみ。2022年分の政治資金収支報告書によると、解散する3派閥を含め、自民6派閥のパーティー収入は計9億2323万円。一方、共同通信の集計だと、国会議員の資金管理団体と関係する政党支部が開いた「特定パーティー」(1回1000万円以上を集金)の収入は少なくとも計52億円で、うち9割超を自民党議員が占めた。

 派閥の開催禁止で途絶える自民党のパーティー収入は全体の約6分の1に過ぎず、8割以上の収入はがっちりキープ。喜ぶのはパー券販売のきついノルマから逃れられる派閥の議員くらいだ。

 

 派閥の領袖にとっても、パーティーは大きな収入源。岸田首相は22年だけで1億5509万円をカキ集めた。いくら派閥単位の開催を禁じても、その実態が派閥の幹部クラスが開くパーティーに移行すれば、集金システムは温存される。ノルマ解放の議員たちも、ぬか喜びとなりかねない。

■規制が強まるほどアングラ化

 裏金事件を刑事告発した神戸学院大教授の上脇博之氏が指摘する。

「収支報告書をつぶさに調べると、パッと見は政治家関連の団体でなくとも、特定の政治家のパーティー開催だけを目的に設立された政治団体も、すでに散見されます。刷新本部は中間報告案に、会計責任者が逮捕・起訴された場合、その団体の代表を務める国会議員の処分を明記しましたが、議員に責任が及ばないよう代表の名義貸しが横行しかねません。それこそ無数の『ダミー団体』だらけになれば、資金の流れが今以上に不透明になる懸念もあります」

 22年には薗浦健太郎・元自民党衆院議員が不記載額4900万円の政治資金規正法違反の罪で略式起訴。端緒は、上脇氏が収支報告書に収入の記載のない薗浦氏の「闇パーティー」を告発したことだった。裏金事件の捜査中には、西村前経産相の「架空パーティー」問題が週刊文春で取り沙汰された。「闇」や「架空」がはびこる悪の組織は、規制が強まるほどアングラ化していくのが世の常だ。

 

「萩生田前政調会長が会長を務める自民党都連も、パーティー収入の不記載が判明し、告発済みです。裏金づくりは都道府県連単位に及ぶ可能性があるのに、手つかずのまま。政治資金パーティーそのものを全て禁止しなければ裏金づくりは途絶えません」(上脇博之氏)

 パーティー大好きの自民党議員がカネを欲しがる限り、裏金の温床は残り続ける

 

 

裏金事件「安倍派5人衆」責任追及の声高まるも…自民執行部「検討」どまりの大甘

 
 
 さすがに自民党内でも、裏金事件で立件を免れた安倍派幹部「5人衆」への風当たりが強まっている。5人衆は東京地検特捜部の捜査が一段落した19日以降、派閥から還流された金額を相次いで公表。釈明しているが、裏金づくりの経緯や関与など踏み込んだ説明はゼロ。秘書に責任を転嫁する発言を重ね、離党や議員辞職も否定している。
 
党内からは「何らかの責任をとることが必要だ」という声が強まり、23日の政治刷新本部でも「党として処分すべきだ」など追及の声が相次いだ。中間とりまとめ案には前日の骨子段階にはなかった「政治責任に結論」との文言が盛り込まれ、安倍派幹部の説明と処分を求める党内の意見が反映された。

■岸田首相も明言避ける
 
 しかし、党執行部は自発的な対応を促すのみ。具体的な動きのない場合の処分は「検討」どまり。岸田首相は刷新本部の会合後、5人組を処分する考えを記者団に問われ、「政治責任のあり方については、党としても対応を考える」と語るにとどめた。
 
 

自民裏金、終わらない不正と制度改正の「いたちごっこ」 自浄能力に疑問符、政治不信払拭の解決策とは?

 
 
 2024年の政界は、自民党の裏金事件と共に幕を開けた。東京地検特捜部は2023年12月、最大派閥の安倍派と、二階派の派閥事務所を家宅捜索。派閥パーティー収入の「キックバック」(還流)を受けたとされる安倍派中枢の松野博一前官房長官、萩生田光一前政調会長、世耕弘成前参院幹事長らの任意聴取も実施した。2024年1月には、現職国会議員の逮捕や安倍派、二階派、岸田派の会計責任者らの立件へ踏み切った。

 「またか」とあきれている国民は少なくないだろう。「政治とカネ」を巡る問題は繰り返されてきた。発覚するたびに制度が改正されるものの、また新たな不正が浮かび上がる「いたちごっこ」が続いてきたのだ。政界、特に自民党の自浄能力に疑問符がつく。

 深まる一方の政治不信を払拭するために、専門家は「根本的に制度を直す必要がある」と指摘する。どう改善するべきなのだろうか。(共同通信=中田良太)
 ▽「政治とカネ」を振り返る:ロッキード事件

 げんなりさせるのを承知で、まず過去の主な「政治とカネ」問題や、制度改正を振り返ってみたい。最も有名な事件の一つはロッキード事件だろう。元首相の田中角栄氏が逮捕される衝撃の展開となった。

 発端は1976年2月に開かれたアメリカ上院の公聴会だった。アメリカの航空会社ロッキード社による旅客機売り込みを巡り、日本への違法な政治献金が発覚した。その後、ロッキード社側から田中氏に5億円が渡ったとして、東京地検特捜部が1976年7月に田中氏を外為法違反容疑で逮捕。8月に起訴した。東京地裁は1983年10月に懲役4年、追徴金5億円の実刑判決を言い渡した。田中氏は上告中の93年12月に死去した。
 
 田中氏は首相在任中も金権政治が国民の批判を浴び、1974年に退陣した。「クリーン三木」と呼ばれた三木武夫氏が次の首相となり、1975年に政治資金規正法を改正。企業・団体献金を年1億5000万円までと制限し、全ての政党、政治団体に収支報告を義務づけた。
 
 ▽リクルート事件:竹下内閣総辞職、政治改革の機運高まる

 1988年6月、リクルートの関連不動産会社の未公開株が川崎市助役に供与されたとの疑惑が報じられた。中央政界に波及し、譲渡先に当時の竹下登首相や、後の首相である宮沢喜一氏ら与野党政治家の名前も浮上。値上がり確実とされた株を政財界の大物らが譲渡され、売却により「ぬれ手で粟」の巨利を得ていたことが判明した。

 法改正もむなしく「政治とカネ」は政治不信を生み出し続けた。1988年には戦後最大規模の汚職事件が発覚する。リクルート事件だ。
 
 東京地検特捜部は1989年5月、藤波孝生元官房長官らを受託収賄罪で在宅起訴した。翌6月に竹下内閣は総辞職。後を継いだ宇野宗佑首相が臨んだ7月の参院選は宇野氏の女性問題も重なり、自民党の大敗となった。宇野氏は首相在任わずか69日で退陣した。

 リクルート事件を機に、政治改革の機運が高まった。自民党は1989年5月、「政治改革大綱」を策定。「政治とカネ」問題は「政治不信の最大の元凶」だと明記し、原因として自民党の派閥や、当時衆院選で採用されていた中選挙区制を挙げた。その上で、派閥解消や小選挙区制を基本とした選挙制度改革をうたった。

 政治改革の議論は与野党で進んでいった。一方、派閥解消は実現しない状況が続いた。
 
 ▽佐川急便事件:「政界のドン」失脚、自民は初の野党転落へ

 政治改革が議論されていた時期に発覚したのが佐川急便事件だ。「政界のドン」と言われた自民党の金丸信元副総裁の失脚につながった。

 1991年、佐川急便グループの「東京佐川急便」から指定暴力団稲川会系企業などへの不正融資が表面化した。これに関連して1992年、佐川急便側から自民党の金丸氏への5億円に上る闇献金が発覚。金丸氏は副総裁を辞任した。東京地検特捜部は9月、金丸氏を政治資金規正法違反で略式起訴し、東京簡裁は罰金20万円の略式命令を出した。10月に金丸氏は議員辞職した。

 なお、1993年3月、金丸氏は巨額の所得税を脱税したとして、所得税法違反容疑で逮捕されている。関係先からは金塊などが押収され、国民に驚きが広がった。
 
 金丸氏の議員辞職を機に、自民党内で政治改革への態度を軸とした対立が顕在化した。1993年6月、宮沢内閣の不信任決議案が提出されると、当時自民党にいた小沢一郎氏らが賛成し、可決。宮沢氏は衆院を解散したが、過半数割れの敗北を喫した。その結果、日本新党や、自民党を離れた小沢氏らが結党した新進党などの連立による非自民の細川護熙政権が発足。自民党は1955年の結党以来、初めて野党に転落した。
 
 ▽日歯連の闇献金事件:迂回献金も問題に

 細川政権下の1994年、政治資金の規制強化や、選挙制度改革を含む政治改革関連法が成立した。政治家個人への企業・団体献金は禁止され、その後、政治家の資金管理団体への企業・団体献金も禁止となった。企業・団体献金は政党、政党支部、政治資金団体にのみ可能となり、額は企業の資本金などに応じ年750万円~1億円となった。
 
 
 一方、政治団体による献金には企業・団体献金のような制限がなかった。2004年に発覚した闇献金事件は、日本歯科医師会の政治団体「日本歯科医師連盟(日歯連)」によるものだった。この事件を契機に、橋本龍太郎元首相が政界を引退した。

 2004年1月、落選中の自民党元衆院議員が過去に日歯連から受けた献金額が、政治資金収支報告書上、日歯連側の記載と1千万円ずれていることが判明した。これがきっかけとなり、当時最大派閥だった橋本派(現在の茂木派)の政治団体「平成研究会」の1億円献金隠しが発覚した。2001年7月の参院選前、日歯連会長が橋本元首相と都内の料亭で面会し、1億円の小切手を渡したが、双方とも政治資金収支報告書に記載せず、領収書も発行されなかったという事件だ。
 
 この事件では東京地検特捜部が橋本派会長代理だった村岡兼造元官房長官を政治資金規正法で在宅起訴。後に有罪が確定した。橋本氏は国会などで「記憶にない」と繰り返し、後に不起訴となった。橋本氏は2005年8月に政界を引退した。

 日歯連を巡っては、迂回献金疑惑も取り沙汰された。日歯連が自民党の政治資金団体「国民政治協会(国政協)」に行った献金が、国政協を中継して個別の国会議員に渡ったと指摘されたのだ。当時、日歯連は年間約5億円を国政協に提供していたと言われる。名前が挙がった山崎拓副総裁や、献金当時の厚生労働政務官だった佐藤勉氏らは政治資金規正法違反容疑で告発されたが、政治家への献金だと立証するのは難しく、不起訴となった。

 一連の問題を受け2005年、政党や政党支部、政治資金団体を除く政治団体間の献金に年5000万円の上限を設け、献金は銀行振り込みとするなどの法改正が行われた。

 ちなみに、自民党は2004年9月、党改革検証・推進委員会で政治資金の透明化を図るアクションプランを策定している。委員長は当時の幹事長だった安倍晋三元首相。また、安倍派裏金問題の当事者である世耕弘成氏のウェブサイトによると、世耕氏は「政治とカネのあり方」部会長を務め、透明化プラン作成を「中心となって進めた」そうだ。
 
 ▽パーティー収入の報告基準は緩い

 安倍派などの裏金事件は、規制と不正の「いたちごっこ」がいまだに続いていることをあらわにした。今回の裏金は企業・団体献金や、政治団体間の献金とは出元が異なるのだ。

 安倍派は所属議員が納めたパーティー券収入のうち、ノルマ超過分を派閥が議員側に還流し、双方とも政治資金収支報告書に記載しないことで裏金化していたとされる。また、一部はそもそも派閥に渡さず、議員側がプールしていたとも指摘されている。
 
 
 パーティー収入は「事業収入」に分類され、報告基準は献金より緩い。券の購入者を政治資金収支報告書に記載する義務があるのは、1回のパーティーにおける購入額が20万円超の場合だ。献金は5万円超で対象となる。企業や個人側に、パーティー券の購入記録を残す義務もない。

 そのため、20万円以下の購入を外から把握するのは難しい。現金購入の場合、銀行の取引記録なども残らない。不正行為が発覚しにくい「抜け穴」に見えてしまう。

 ▽解決の鍵は「緊張感」

 政治資金を透明化するにはどうしたら良いのか。駒沢大の富崎隆教授(政治学)は「その場しのぎの改革は駄目だ」と強調した上で、こう提案する。

 「パーティー券収入は、少なくとも1万円以上を公開対象とするべきだ。政治資金の現金による授受を禁止し、銀行振り込みにする必要もある」

 恒常的に監査する独立した第三者機関の設置も訴える。「関係者の聴聞や関連書類の提出命令、訂正勧告を出す権限を持たせ、不正を行った議員の当選無効・公民権停止の行政訴訟も起こせるようにする」との構想だ。政治家が政治資金を管理する団体を一本化させることも提案している。

 この制度なら裏金をつくりにくくなるだろう。ぜひ与野党で実現してほしい。気がかりなのは、成否は国会で多数を握る自民党のやる気次第と言うことだ。
 
 自民党は過去に政治改革大綱などで政治資金の適正化を掲げておきながら、適正とは程遠い運用を繰り返してきた。裏金事件を受けて立ち上げた政治刷新本部で党改革を進めるとしているが、自身に「不都合」な改革に踏み切れるだろうか。

 目下、自民党内で大きな論点となっているのは派閥の解消だ。岸田首相が岸田派の解消を表明して以降、安倍派なども追随した。ただ政治資金の透明化が派閥解消により自動的に実現することはない。自民党自身の体質改善が問われている。

 富崎教授はこうも指摘した。「政権交代が起こりにくい政治状況が『政治とカネ』問題の根本的な原因だ」。裏を返せば「国民を裏切ると政権から転落しかねない」という緊張感が有効だということになる。

 なるほど、つまり主権者である国民が政治家に対し厳しく目を光らせ、投票を通じて意思表示することが「いたちごっこ」の解決につながるのだ。さし当たっては、小手先の改革で終わらないよう、しっかり注視していくのが重要だろう。