「自らの保身のためなら、躊躇せず名門派閥を潰す岸田首相は本当に派閥に思い入れがあったのか疑問です。そもそも、護憲リベラルで軽武装・経済重視を旨とする宏池会の理念を理解していたら、米国のための防衛費倍増なんてやれるはずがない。首相になりたいがために安倍元首相の軍門に下って、宏池会の魂を売ってしまった。自分が生き延びるためなら、国民を犠牲にすることも厭わないでしょう」

 

 

 自民党派閥の裏金問題は、このままウヤムヤになってしまうのか。

 東京地検特捜部が19日、安倍派、二階派、岸田派の関係者を一斉に起訴し、派閥の裏金をめぐる捜査は事実上、終結。しかし、裏金がどう使われてきたのか、誰が始めたのかといった核心はまったく明らかになっていない。中途半端な結末に国民の怒りは増す一方だ。

 

 安倍派の国会議員2人と秘書、派閥の会計責任者ら9人が19日に立件され、前夜に岸田首相が唐突に宏池会(岸田派)の解散を発表したのに追随して二階派、安倍派も解散を決定。怒涛の展開に週末の永田町は大揺れだったが、週が明けて落ち着いてみれば、すべて薄っぺらな茶番劇でしかないことが分かる。


 今回、検察の立件ハードルは3000万円だった。二階元幹事長の事務所では「中抜き」と呼ばれる裏金が約3500万円あったとされ、秘書が略式起訴された。安倍派では、約5100万円のキックバックを政治資金収支報告書に記載していなかった大野泰正参院議員と秘書を在宅起訴、約4300万円をプールしていた谷川弥一衆院議員と秘書を略式起訴した。すでに逮捕されている池田佳隆衆院議員は約4800万円を裏金にしていて、週内に起訴される見込みだ。

 派閥側では、岸田派も不記載のカネが計3000万円に上ったことから元会計責任者が略式起訴された。安倍派の裏金は過去5年間で約6億7000万円、二階派は約2億6000万円とケタ違いだが、刑事処分を受けたのは会計責任者だけ。関与が疑われて任意聴取を受けた派閥の幹部議員は立件が見送られた。

「一般国民からすれば、3000万円で線引きする意味が分かりません。犯罪行為は金額の多寡で決まるものではないでしょう。裏金も1000万円ならOKで、3000万円以上はダメというのは筋が通らない。それに、政治家の指示がないのに会計責任者が勝手に裏金づくりをするはずがありません。少なくとも、6億円以上もの裏金をつくっていた安倍派の事務総長経験者は起訴して、司法の場で経緯を明らかにする必要があるでしょう。巨悪を逃す検察には失望しかありません」(政治評論家・本澤二郎氏)


 裏金問題でダンマリを決め込んできた3派閥の幹部は19日にようやく会見を開いたが、「知らなかった」「分からない」「把握していない」などと繰り返し、しらばっくれた。これで幕引きと安堵し、心の中では舌を出しているに違いない。

 刑事責任を問われなくても、政治責任まで消えたわけではないことを忘れてもらっては困る。

 会計責任者だけが罪を問われて国会議員は無罪放免では、国民は到底、納得できない。権力に忖度する検察への不信が高まっただけだ。

 

裏金集団が派閥解散で「禊は済んだ」と言わんばかりの茶番劇

 相変わらず「秘書が」と繰り返し、責任逃れする裏金集団に、多くの国民は呆れ返っているのではないか。

 安倍派の世耕前参院幹事長は、1500万円超のキックバック不記載について「秘書に任せきりにしていた。秘書が私に報告しないまま、収支報告書の簿外で管理していた」と弁明。しかも、自らが立件されなかったことで「法的な責任については一つの区切りがついたのではないか」と頬かむりである。

 高木事務総長は、派閥の収支報告書を「見たことがない」とまで言ってのけた。

 さらに高木は「亡くなった後も安倍派を名乗らせていただいたことはありがたかった」と語り、派閥解消について「安倍さんに大変申し訳ないと思っている」と涙ながらに“反省”。事務総長を経験した西村もX(旧ツイッター)に〈安倍総理に対し、大変申し訳なく思っております〉と投稿していたが、謝罪する相手を完全にはき違えている。謝罪すべきは国民に対してだろう。

 高木や西村ら事務総長経験者は、裏金化について「会長案件だった」と亡くなった安倍に責任を押し付けていたではないか。それが謝罪とは、どういう思考回路なのか理解不能だ。

 安倍派幹部らは派閥を解消したことで「禊は済んだ」と言わんばかりだが、それで国民が納得するとでも思っているのか。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。

「『秘書がやった』というのは、自民党の“伝統的”な逃げ口上です。しかし、一般社会ではそんな言い逃れは通用しない。本来、なぜ裏金づくりが行われてきたのか、カネを何に使ったのか、キチンと説明し、責任の所在を明らかにすべきです。『禊は済んだ』と思ったら大間違いです」

 連中の釈明は茶番だ。

 

とりわけ許しがたいのは岸田の弁明と自己保身

   裏金事件で当初、岸田の動きは鈍かった。安倍派の問題だと突き放しているようにも見えた。自分も岸田派会長として告発されているのに、無関係みたいな涼しい顔をしていたものだ。

 党内に政治刷新本部を立ち上げ、自ら本部長に就いたものの、わずか2週間で中間報告を取りまとめるという“やってる感”だけのパフォーマンス。派閥の存続を前提にしたなまぬるい議論が交わされていた。

 なにしろ岸田自身が首相になっても派閥会長を離れなかった“派閥大好き人間”である。池田勇人元首相が1957年に旗揚げした宏池会(岸田派)は、党内で最も古い名門派閥。政治家3代目の岸田は、祖父が宏池会の結成メンバーだったこともあり、「生まれたときから宏池会」とかねて派閥愛を口にしていた。


 そのうえ派閥の論理で首相に上りつめ、今も派閥に支えられている。派閥にしか興味のない岸田が派閥解散に踏み込むとは、誰も思っていなかった。

 ところが、朝日新聞が18日の朝刊1面トップで「岸田派の元会計責任者も立件対象」と報じると、その日の夜に突然、岸田派解散を言い出したのである。

 18日朝の段階では「事務処理上の疎漏」「事務的なミスの積み重ね」と愚にもつかない弁明をしていた岸田だが、「安倍派の閣僚は疑惑段階で追放したのに自分は言い逃れで居座るのか」(安倍派議員)などと党内の反発が強まり、批判をかわすために慌てて岸田派解散をブチ上げたわけだ。場当たり感は否めない。

「自らの保身のためなら、躊躇せず名門派閥を潰す岸田首相は本当に派閥に思い入れがあったのか疑問です。そもそも、護憲リベラルで軽武装・経済重視を旨とする宏池会の理念を理解していたら、米国のための防衛費倍増なんてやれるはずがない。首相になりたいがために安倍元首相の軍門に下って、宏池会の魂を売ってしまった。自分が生き延びるためなら、国民を犠牲にすることも厭わないでしょう」(本澤二郎氏=前出)


 岸田は宏池会というブランドが好きだっただけなのだろう。つくづく薄っぺらい男だ。