岸田文雄首相に322万円「違法パーティー」疑惑 政治資金収支報告書にパーティー開催の記載なし、会の代表は「知らーん、そんなもん」

 
企業献金を辞めさせる。政党助成金は廃止にする。そうなれば少しは疑惑真っ黒ケッケの政治も買わざるをえなくなる。
 
 
 自民党の「政治資金パーティー裏金事件」を受け、岸田文雄首相は「宏池会(岸田派)を解散することを検討している」と述べたほか、「政治刷新本部」を立ち上げて“改革アピール”に躍起になっている。そうした中、ほかならぬ岸田首相が「違法パーティー」で多額の収入を得ていた重大疑惑が浮上した。1月22日発売の『週刊ポスト』が報じる。
 
 岸田派では、3年間でパーティー券収入など約3000万円が政治資金収支報告書に記載されていない疑惑が浮上し、東京地検特捜部が岸田派の元会計責任者を立件する方針を固めた。それを受けて岸田首相が打ち出したのが「岸田派解散」だが、今回の疑惑は「派閥」ではなく岸田氏自身の問題となる。

『週刊ポスト』の取材によると、問題となったパーティーが開かれたのは2022年6月12日。岸田首相の地元・広島の「リーガロイヤルホテル広島」で開かれた「衆議院議員 岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」(以下、「祝う会」)というパーティーだ。

 案内状には、発起人として広島県知事、広島商工会議所会頭11人の名が記されており、会費は「1万円」となっていた。当日の様子は新聞各紙で報じられ、「県内政財界から約1100人が集まった」とされている。

 政治資金規正法では、〈政治資金パーティーは、政治団体によつて開催されるようにしなければならない〉と定められており、パーティーなどの事業ごとに収入を政治資金収支報告書に報告する義務がある。しかし、岸田首相の資金管理団体「新政治経済研究会」や、同氏が代表を務める「自民党広島県第一選挙区支部」など関連政治団体の政治資金収支報告書には、「祝う会」を開催したことについての記載がなかった。

 一方、「自民党広島県第一選挙区支部」の寄付の欄には、「衆議院議員 岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」なる団体から約322万円の寄付があったことが記載されていた。その代表として記されていたのは、後援会長であり「岸田文雄後援会」という政治団体の代表でもある伊藤學人氏(株式会社イトー会長)。

 だが、取材班がキーマンである伊藤氏に聞くと、「知らーん、そんなもん。ワシが寄付したことになっとん? パーティーに出席したのは間違いないが、会計については全く知らない」と回答した。さらに同氏の詳しい説明を聞くと、収支報告書に記載された団体が“ダミー団体”である疑いも浮上してきた。

 なお、「衆議院議員 岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」なる団体は、法人登記もされておらず、総務省や広島県選挙管理委員会にも政治団体の届け出はなされていなかった。

 問題のパーティーをめぐっては、集めたとみられる収入と記載された「322万円」にも不審な点があるなど、さらなる疑惑も持ち上がっている。

 1月22日発売の『週刊ポスト』では疑惑の詳細やキーマンの証言、岸田事務所の回答などを詳らかに報じる。岸田氏は自らの疑惑にどう答えるのか──。
 
 

<社説>自民裏金事件を考える それでも政治は正せる

 
 《治安の悪化に困り果てた町長は犯罪者集団に防犯対策の強化を話し合うよう求めた》。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件をきっかけとする政治改革の動きを例えるために、ほかに適切な比喩があるだろうか。国会議員が自らを取り締まり対象とする法律をつくる矛盾にほかならない。

 党総裁の岸田文雄首相が設置した政治刷新本部のメンバー38人のうち28人は党内六つの派閥に属する。うち5派閥はパーティー収入を過少報告したとして刑事告発され、捜査の結果、安倍、二階、岸田各派の会計責任者らが政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪で在宅・略式起訴された。

 法律を守らない派閥に属する議員たちが集まって再発防止策を議論するのだから「期待しない」人が75%(共同通信世論調査)に達するのも無理はない。刷新本部は26日の通常国会召集前に中間取りまとめを決定する。2週間足らずの議論で抜本的な改革案が示せるというのだろうか。

◆派閥解消と復活の歴史
 政治腐敗の根を断つには、裏金の温床となった派閥の政治資金パーティーをなくすだけでなく、派閥自体を解消することが国民に分かりやすい。法改正は必要なく、派閥が自ら解散すれば済む。

 派閥頼みの政権運営を続けてきた首相が自ら率いた岸田派の解散を率先して表明したのは政権維持のための捨て身の選択だろう。

 政治刷新本部の議論では党として派閥を解消するか賛否が割れており、仮に派閥解消を決めても本当に実行できるのかは疑わしい。自民党の歴史は派閥解消と復活の歴史でもあるからだ。

 1988年に発覚したリクルート事件の翌年に党議決定した「政治改革大綱」は、無理な資金集めや内閣・党人事への介入を派閥の弊害に挙げ、総裁や副総裁、党三役らの派閥離脱を「派閥解消の第一歩とする」決意を示した。政治資金パーティーも派閥などによる開催自粛の徹底を明記した。

 党の分裂を経て93年に下野した後、94年に党改革の一環で派閥解消を打ち出し、各派閥事務所も閉鎖したが、議員グループとして生き残り、徐々に復権していく。

 派閥重視の岸田首相は昨年12月まで岸田派会長にとどまり、麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長は今も自分の派閥を率いる。派閥順送り人事が繰り返され、各派は年1回パーティーを開いてきた。

 志を同じくする議員が集い、議論を深めることは否定しない。派閥に新人議員を教育する機能があるとしても、数の力で政策や人事を曲げることは是とできない。

 自民党は派閥解消を断行し、真の近代政党として生まれ変わる必要がある。政治刷新本部では、これまで派閥が担ってきた人事調整や議員教育などの機能を、党が担うための統治機構改革について議論を深めるべきではないか。

 政治資金の透明性を高める法改正も急務だ。裏金に手を染めても有力議員なら罪に問われないのでは「法の下の平等」が揺らぐ。野党や公明党は規正法に違反した会計責任者だけでなく議員本人も処罰される連座制の導入を唱え、自民党にも同調する意見がある。実効性のある法改正を求める。

 政治資金パーティーの規制も最優先課題だ。企業・団体がパーティー券を購入すれば、法が禁じる議員個人や派閥にも献金できるに等しい。企業・団体へのパーティー券販売を禁じるべきだ。
 
◆政治資金は使途公開を
 政党が議員個人に支出する政策活動費は使途公開の義務がなく、不透明極まりない。国会議員に毎月100万円が支給され、使途報告の義務がない調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)と合わせ、使途公開を強く求める。

 自民党はこうした政治資金改革に難色を示してきたが、それが許される状況とはとても思えない。国会が金権腐敗政治を正せなければ「国権の最高機関」「唯一の立法機関」に値しない。

 こうした状況を招いた責任は私たち有権者にもある。眼前の腐敗にまみれた議員たちを選んだのは私たち自身だからである。

 希望は、有権者には自らの代表を選ぶ権利があることだ。4月には国会議員の補欠選挙、25年夏には参院選、同年秋までには衆院選があり、期待を裏切った政党や議員を退場させることができる。

 金権腐敗を嘆き、絶望するだけでは状況を変えられない。国会や政府の動きを注視し、声を上げ、選挙権を行使する。その積み重ねが政治を正すと信じる。
 
 

派閥解散の二階俊博氏 秘書の在宅起訴前日に地元で「立件されるのは二階氏の長男か」と緊張が走った理由と、立件当日に「三男から届いたメール」

 
 
 自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる政治資金規正法違反事件で、東京地検特捜部は国会議員3人、3派閥の会計責任者を立件したが、世耕弘成・前自民党参院幹事長ら安倍派幹部の7人や二階俊博・元党幹事長を立件しなかった。
 
「トカゲの尻尾切り」の終幕だが、地元・和歌山県下で暗闘を繰り広げてきたこの二階氏・世耕氏という2人の大物に焦点を合わせると、「二階氏がさらに攻めに転じる構図が強まった」との見方が浮上している。どういうことなのか。

 政治資金収支報告書への3500万円の不記載の容疑で二階事務所で略式起訴されたのは、永田町で二階氏の“かばん持ち”として随行してきた私設秘書の梅澤修一被告だ。

 地元の和歌山県御坊市で「40年間、二階さんを見てきた」と語る共産党の元県議、楠本文郎氏はこういう。

「二階さんは過去に何度も『政治とカネ』の問題が出ましたが、そのたびにすんでのところで危機をくぐり抜けてきた。百戦錬磨で、本人の責任が問われないよう、万全の備えをしてきたはずです」

 実際、立件された二階派の会計責任者と二階氏との間で共謀は認められなかった。和歌山の地元の二階ウォッチャーたちの間でもこの点は折り込み済みだったとはいえ、立件前日の1月18日木曜日、彼らの間で静かな衝撃が走っていたようだ。そのことを、たまたま県内で取材をしていた筆者は感じ取った。

立件される秘書は誰だ
 きっかけは「二階氏秘書も立件へ」と報じた1月18日の朝日新聞の報道。実際に略式起訴されることになる梅澤氏とは違う、“別の人物”がターゲットではないかとの見方が瞬間的に浮上していたからだ。自民党関係者が解説する。

「二階氏の議員関係団体は、総務省に届け出がある〈新政経研究会〉と県庁に届け出がある〈自由民主党和歌山県第3選挙区支部〉の2つ。後者の自民党支部の会計責任者は後援者である地元企業の社長ですが、前者のほうの会計責任者は二階氏の長男・俊樹さんなのです」

 仮に、俊樹氏が刑事事件の当事者となれば、今後の和歌山県政界に大きな影響が及ぶ可能性があるため、関係者に緊張が走っていたわけだ。

 二階氏の選挙区である和歌山2区(旧3区)には「2つの火種」がくすぶってきた。一つ目は、首相への野心を隠さず衆議院への鞍替えを画策してきた参議院議員の世耕氏と、世耕氏が狙う選挙区を地盤とする二階氏のつば迫り合いだ。

「二階王国」の奪取を狙う世耕氏にとって、「強み」としてきた安倍氏の後ろ盾を2年前の暗殺事件で失ったうえ、さらに今回の一件で衆議院に転じるハードルは高くなった。クリーンさや論理的な語り口が一定の評価を得てきたが、1500万円もの不記載が明らかになった。「秘書に任せきりの状況だった」と繰り返した弁明は有権者の常識とはかけ離れている。

 今回の事件が影響を及ぼしそうな二つ目の火種は、“ポスト二階”をめぐる兄弟間の後継レースだ。3人の息子に恵まれた二階氏。なかでも和歌山政界で国会議員に勝るとも劣らない存在感を示してきたのが、長男で50代後半の俊樹氏だ。

 その俊樹氏について、和歌山県政では二階氏の一期先輩にあたる元公明党県議で、今は県域の情報誌「和歌山〈21政経フォーラム〉」を主宰する渡辺勲氏はこう語る。

「俊樹君は地元の二階事務所を長年仕切ってきて、父・俊博を当選させてきたのは自分だという自負を持っています。ただ、そのせいか、まるで自分が父・俊博そのものであるかのような態度で市役所や地元の人に接していたことから、これに反発するサイレントマジョリティが形成された経緯がある」

 そう渡辺氏が述懐するのが2016年の御坊市長選だ。黒子の立場から一転、表舞台にデビューしたが、二階氏の支持者が二分され、二階氏の影響力を背景に大勢の国会議員を動員するも、俊樹氏は現職に敗れた。

長男か、三男か
 その後、二階氏後継として有力視されるようになったのが、全日本空輸の元社員という経歴で、10年ほど前から二階事務所入りした40代後半の三男の伸康氏。

「体格も大きく威圧感のある俊樹さんに比べると、伸康さんは物腰は柔らかい」と、両者を知る人たちは口を揃える。事情通はこういう。

「数年前、俊樹さんに、伸康さんについて質問したことがあるんですが、“旅人みたいな者”という言い方で語っていましたよ。2人の間には緊張感があるんだと感じた」

 兄弟間の暗闘が見え隠れするなか、地元が朝日新聞の報道に一瞬過熱したのは、俊樹氏が立件され公民権停止となるなら、兄弟間の後継レースに終始符が打たれるか──そんな観測へとつながるからだろう。

 ただ、前述の通り立件されたのは、俊樹氏ではなく、東京の随行秘書。一方で、「事務所の金のことは俊樹氏が握っている」という話も聞いてきた。

 俊樹氏は不記載を知っていたのか。そんな問いを胸に1月18日、筆者は、和歌山市から特急くろしおに乗って1時間。紀伊半島南西部の御坊市に俊樹氏の自宅を訪ねたが、残念ながら不在で、家人は「いつ帰ってくるかわからないんです」と話した。また三男・伸康氏を訪ねて御坊市の隣の田辺市の二階事務所にも足を運んだが、事務所は無人だった。

 それぞれ置き手紙を残したが、反応があったのは、翌19日午前、手紙に気づいた事務所スタッフから連絡を受けたという伸康氏のメールだった。

「現下の事案について、世間をお騒がせしている状況につきまして、深くお詫び申し上げます。(略)私自身が本日は上京しており、お訪ねいただきながらご対応が出来ない事、申し訳なく思います」

 検察の処分発表後の19日夜、二階氏は会見で「派閥が何か悪いことしたり金をごまかしたりしたわけでも何でもないんだもん」と強気な言葉を口にして見せた。派閥解消の決断も、「人はまた集まってくる」という不敵な余裕にすら見える。実際、岸田・麻生・茂木派の主流三派の連合が瓦解したことで、非主流派に甘んじてきた二階氏が反転攻勢のきっかけつかんだようにも見える。

 会見の最後、笑みさえうかべて見せた二階氏の視線には、後継者である息子たちの脅威となりえた世耕氏のつまずきも、はっきりと映っていたに違いない。

◆取材・文/広野真嗣(ノンフィクション作家)