「政治資金パーティー問題」は単なる「不記載」なのか?安倍派幹部の「虚言」か、マスコミの「歪曲報道」か
前者であれば、この事件について、昨年12月以来報道されてきた「裏金報道」は、虚偽とまでは言えないが、実体とは大きく異なり事実を歪曲する報道だったことになる。逆に、後者であれば、安倍派幹部は、この期に及んでも、今回の事件の核心部分について重大な「虚偽説明」をしていることになる。
この点は、国民にとって、日本の政治・社会に大きな影響を生じさせる重大な事項であり、検察当局は、起訴された国会議員、会計責任者等の公判を待つまでもなく、現時点で明らかにできる事項だけでも説明をすべである。
それをしないのであれば、法務大臣が一般的指揮権(検察庁法14条本文)に基づいて、本件に対する適切な対応を行うよう検察当局に指示すべきであろう。
東京地検特捜部が、昨年12月から、全国からの応援検事数十名を動員し、かつてない大規模捜査体制で行ってきた、自民党各派閥の「政治資金パーティー裏金事件」、先週金曜日(1月19日)に、「裏金受領国会議員」3名、派閥と議員の政治団体の会計責任者ら5名の8名が起訴(略式起訴を含む)され、捜査は概ね終結したと報じられた。
これを受け、不起訴処分となった安倍派(清和政策研究会)の幹部が、次々と記者会見を行い、「会計責任者が起訴された刑事事件に関することについての言及は控える」と言いつつも、今回の事件に対する説明を行った。
塩谷立座長は、
「(安倍派事務局長側の)誤った説明など長年にわたる事務的なミスリードにより、所属議員事務所の誤った処理をさせた」
と説明し、また、前事務総長の西村康稔氏は、X(旧ツイッター)で、
「清和会の収支報告書の作成と提出は、会計責任者である事務局長において行ってきており、収支報告書に記載しないことについても、長く慣行的に行われてきたようでありましたが、私たち幹部も、今回の問題が表面化するまで知りませんでした。」
「事務局から関係政治団体の収支報告書への記載は不要だとする旨の説明が過去からなされていたと聞いていますが、このため、いわゆる裏金作りなどの意図はなかったであろうに、特に所属の若い議員に大きな傷を与えてしまった」
などと述べて、「裏金作り」の意図を否定している。
これら安倍派幹部の説明は、「政治資金の寄附」として、安倍派と所属議員の政治団体の政治資金収支報告書に記載すべきであった、(記載しておけば何の問題もなかった)のに、(何らかの事情で)記載しなかったという「収支報告書の記載上の事務的な問題」であった、との点で一致している。
その説明のとおりであるとすると、そもそも今回の問題は、「政治資金パーティー券のノルマ超の売上」について、安倍派から所属議員に「裏金」が供与されたということではなく、通常の収支報告書に記載する「表の政治資金」と同様の性格の寄附が行われ、それが、通常の政治資金と同様に使われただけだったことになる。
そもそも、収支報告書で公開しない前提で資金をやり取りし、実際に、その事実を収支報告書で公開しないということ自体が政治資金規正法上、全く許されないものであることは明らかだ。
しかし、それが、常に、実質的に「裏金」と評価されるとは限らない。一般的には、「裏金」というのは、単なる「収支報告書への不記載」にとどまるものではない。「表に出さない金」「領収書不要の金」であり、少なくとも「政治活動費」として使途を公開することに支障があるからこそ「表の政治資金」とは区別して扱うものである。
私の検事時代での経験で言えば、20年前、長崎地検次席検事時代に捜査を指揮した自民党長崎県連事件では、県連幹事長が、収支報告書で公開する「表の寄附」と公開しない「裏の寄附」とを区別してゼネコンから献金を受領し、「裏金」は、表に出せない飲食代等に費消していたこと、年に1回開催する県連政治資金パーティーの収入の一部を収支報告書に記載しないで「裏金」化し、党本部から招いた党幹部への数百万円に及ぶ高額のお土産品の購入代に充てるなどしていたことが明らかになった。
そういうものが典型的な「裏金」であり、それは資金を受け取る時点で、表の金とは明確に区別して管理され、使用するのが通常だ。
キックバックを行う当事者双方が、そのような「裏金」と認識して授受したのであれば、その趣旨と、それを所属議員事務所でどのように取り扱うかについて、所属議員が認識していないことはあり得ない。
安倍派幹部の説明は、「ノルマ超のパーティー収入のキックバック」が、上記のような「裏金」であることを全面的に否定するもので、それが真実だとはにわかに信じ難いのであるが、仮に、そうであったとすれば、昨年12月から約1か月半にわたって、日本の政界に大激震を生じさせ、令和のリクルート事件」とまで言われたこの「事件」とはいったい何だったのか、ということになる。
当初、神戸学院大学上脇博之教授が、自民党各派閥の政治資金パーティーにおいて、パーティー券を購入した政治団体側の収支報告書記載では20万円超となっているのに、派閥の収支報告書には記載されていないものが、5派閥で合計約4000万円あるという「形式的な違反」について告発が行われたことを受けての東京地検特捜部の捜査が、「キックバック裏金事件」に発展していった段階で、各派閥、特に安倍派の会計責任者は、どのように供述していたのか、それを受けて「キックバック」を受領していた議員の事務所の会計担当者の聴取が行われた際には、どのような供述が行われていたのか。
安倍派から所属議員へのキックバックを「収支報告書に記載しない」ということの意味が、「通常の政治資金と同様に扱うが、単に収支報告書に記載しない」という趣旨なのか、「裏金」として、通常の資金とは異なる領収書不要の金として扱ってよい、つまり「自由に使ってよい金」という趣旨なのか、安倍派事務局長と所属議員の会計担当者は、どのように供述していたのか。
その頃から、安倍派から所属議員に「裏金」がわたっていた、との報道が行われるようになり、松野博一官房長官についても「1000万円裏金受領」が報じられ、国会での野党側の追及に「答弁差し控え」を繰り返した松野氏は官房長官辞任に追い込まれた。そして、その後、岸田文雄首相は、安倍派の大臣・副大臣8人全員を事実上更迭する事態に至った。
この際の報道のキーワードとなったのが「裏金」であり、その政治資金パーティーのノルマ超売上のキックバック問題が、単なる収支報告書の不記載ではなく、「裏金」の実体があるからこそ、そのような言葉が使われているだろうと誰しも思ったはずだ。
このような情報が安倍派側からは出ようがなく、検察側からのリークである可能性が高いが、リークしたかどうかはともかく、検察側が、もし「裏金」ではなく単なる「不記載」だと認識していたのであれば、非公式で行われる東京地検次席検事の定例会見等において、その点を是正するのが当然であろう。
改めて考えてみると、今回の事件では、安倍派幹部や所属議員にキックバックされた「裏金の金額」が連日のように報じられてニュースや新聞紙面をにぎわし、世の中は、その「裏金」に対して怒りを爆発させたが、その割には、キックバックされた「裏金」の使途の話が全く報じられない。また、逮捕された池田佳隆衆議院議員の被疑事実でも、在宅起訴された大野泰正参議院議員の起訴事実でも、「虚偽記入」とされているのは、収入欄に、キックバックされた「安倍派からの寄附」を記載しなかったことだけだ。支出欄の虚偽記入は全く問題にされていない。結局、それらには、「裏金」の実体は全く含まれておらず、寄附についての不記載だけの問題であるようにも思える。
しかし、一方で、もし、単なる「収支報告書不記載」に過ぎなかったのであれば、もともとは形式的な違反に過ぎなかった上脇氏の告発事件の検察捜査で派閥の会計担当者の聴取が行われるようになった際に、自民党側が動揺し、騒ぎが大きくなっていたのはなぜなのか、特に、自民党側の認識や状況を正確に把握しているはずの政治ジャーナリストの田崎史郎氏などは、当初から、
「この事件は大事件になる。『令和のリクルート事件』」になる」
と述べていた(12月3日、BS朝日「激論クロスファイア」)。
しかも、全国から、年末年始休暇返上で数十人もの応援検事を集めた大規模捜査体制で捜査が行われたことからしても、「裏金」の実体があったことについて当事者の供述がなく、単なる「不記載事件」としての証拠しかなかったとは思えない。
安倍派幹部が、口を揃えて説明しているように、単なる「不記載」であり、裏金の実体はないのか、それとも、これまで報道されてきたように、通常の政治資金とは異なる「表に出せない金」としての「裏金」なのか、それは、事実上終結した検察捜査の中で、安倍派の事務局長の供述、所属議員の会計責任者等の供述によって明らかになっているはずである。
前者であれば、この事件について、昨年12月以来報道されてきた「裏金報道」は、虚偽とまでは言えないが、実体とは大きく異なり事実を歪曲する報道だったことになる。逆に、後者であれば、安倍派幹部は、この期に及んでも、今回の事件の核心部分について重大な「虚偽説明」をしていることになる。
この点は、国民にとって、日本の政治・社会に大きな影響を生じさせる重大な事項であり、検察当局は、起訴された国会議員、会計責任者等の公判を待つまでもなく、現時点で明らかにできる事項だけでも説明をすべである。
それをしないのであれば、法務大臣が一般的指揮権(検察庁法14条本文)に基づいて、本件に対する適切な対応を行うよう検察当局に指示すべきであろう。
郷原信郎
1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『歪んだ法に壊される日本』(KADOKAWA)『単純化という病』(朝日新書)『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。
自民・西村康稔氏 深夜にXで裏金事件説明「私自身は把握しておらず」「歴代会長と清和会事務局長の間で」
19日午後11時18分のポストでは「東京地方検察庁により、清和会の会計責任者と所属国会議員2名が起訴されたとの報道がありました。報道によれば、この問題に関し、私を含む清和会の幹部議員については、立件に至らなかったとのことです」と報告。5年間で100万円の還付を受けていたことに、「私自身は把握しておらず、私の政治団体の収支報告書は適正に作成・提出されているものと認識しておりました」「政治資金について、今まで以上に適正に処理をしていくよう、スタッフ含め私自身も、猛省し、今後さらに厳正に対応していく所存です」などとつづった。
また、20日午前零時35分のポストでは、安倍派の裏金問題について詳細に説明するとして「清和会主催の政治資金パーティー収入の還付にかかる処理は、歴代会長と清和会事務局長との間で、長年慣行的に扱ってきたことであり、会長以外の私たち幹部が関与することはありませんでした」「収支報告書の作成と提出は、会計責任者である事務局長において行ってきており、収支報告書に記載しないことについても、長く慣行的に行われてきたようでありましたが、私たち幹部も、今回の問題が表面化するまで知りませんでした」などと投稿した。
西村氏は2021年10月~22年8月、事務総長として、会長の細田博之前衆院議長や安倍晋三元首相を支えた。
◇西村氏のポスト全文
19日午後11時18分。
1.清和政策研究会(清和会)の政治資金パーティーの問題に関し、本日(1/19)、東京地方検察庁により、清和会の会計責任者と所属国会議員2名が起訴されたとの報道がありました。報道によれば、この問題に関し、私を含む清和会の幹部議員については、立件に至らなかったとのことです。
2.今回の問題については、私自身も、清和会の幹部の一人として、けじめをつけるべきと判断し、昨年12月14日に、経済産業大臣の職を辞し、検察当局からの求めに応じて捜査に全面的に協力してまいりました。
このたび当局の捜査につき一定の結論が示されましたが、このような状況に至ったこと、国民の皆さまの政治不信を招いたことを改めてお詫びする次第です。
3.本日夜に、記者会見を開き説明を行いました。とり急ぎ報告させていただきます。
まず、私の政治団体において、清和会から5年間で100万円の還付を受けていたことが分かりました。
私は、秘書に対し、ノルマ分を売ればいいと伝えていましたので、これら清和会からの還付金について、私自身は把握しておらず、私の政治団体の収支報告書は適正に作成・提出されているものと認識しておりました。
しかし、今回の件が報道されるようになってから、あらためて確認したところ、上記の還付金を受けていたとのことでした。
その還付金について、担当秘書の判断で、東京で年に数回開いている私自身の政治資金パーティーの収入の一部として計上していたとのことでした。政治資金として活用していたということです。
したがって、「個人の所得」とか、いわゆる「裏金」となっていたということは一切ありません。
4.しかし、検察当局による捜査に協力する中で、還付金は「清和会からの寄附として記載すべきであった」とのご指摘を受けましたので、当局からのご指摘を真摯に受け止め、これに沿って、収支報告書における収入項目の訂正を行います。政治団体の収入総額が変わることはありません。
5.政治資金について、今まで以上に適正に処理をしていくよう、スタッフ含め私自身も、猛省し、今後さらに厳正に対応していく所存です。
いずれにしても、国民の皆様からの政治への信頼回復に向けて、原点に立ち戻り、取り組んでいく考えです。
20日午前零時35分
1.清和政策研究会(清和会)の政治資金パーティーの問題に関し、詳細について説明したいと思います。
清和会では、従前から、パーティーのノルマ分を超える売り上げについて、各議員事務所に還付することを行ってきたとのことです。
こうした政策集団から各議員の関係政治団体へ寄附する還付自体は、政治団体間の寄附として適法でありますが、この還付(寄附)を収支報告書に記載しなければならないところ、清和研が記載しなかったことから、法令に違反していると認定されました。
2.この清和会主催の政治資金パーティー収入の還付にかかる処理は、歴代会長と清和会事務局長との間で、長年慣行的に扱ってきたことであり、会長以外の私たち幹部が関与することはありませんでした。
また、清和会の収支報告書の作成と提出は、会計責任者である事務局長において行ってきており、収支報告書に記載しないことについても、長く慣行的に行われてきたようでありましたが、私たち幹部も、今回の問題が表面化するまで知りませんでした。
しかしながら、この還付(寄附)を収支報告書に記載しないという取扱いが、長年にわたり続けられてきたことにより、国民の皆様の政治不信を招いたことについて、私自身、清和会幹部の一人として深くお詫び申し上げます。
3.また、事務局から関係政治団体の収支報告書への記載は不要だとする旨の説明が過去からなされていたと聞いていますが、このため、いわゆる裏金作りなどの意図はなかったであろうに、特に所属の若い議員に大きな傷を与えてしまったことについて、幹部の一人として大変申し訳なく思っております。
4.なお、令和4年の還付金については、安倍会長の意向を踏まえ、幹部の間で、還付を行わない方向で話し合いが行われていたものの、結果的には、一部の所属議員に、現金での還付が行われたようです。
会計責任者の刑事裁判に関わることなので、これ以上の詳細を記すことは差し控えますが、私が、還付や収支報告書への不記載を指示したり、了承したことはありません。
また、私は、令和4年8月10日の経済産業大臣就任を機に清和会の幹部から離れたため、その後の経緯については全く承知しておりません。
20日午前零時38分
いずれにせよ、このような結果になってしまったことについて、安倍総理に対し、大変申し訳なく思っております。
清和会は解散することを決定しましたが、まずは国民の皆さまの政治への信頼回復に向けて、説明責任をしっかりと果たしたいと思います。
その上で、安倍総理の強いご意志であった、憲法改正、拉致問題の解決、積極財政など、日本の将来のために、全力で取り組んでいきたいと思います。
【速報】自民・茂木幹事長「政治家が責任持つ制度を作らなければいけない」 派閥の政治資金パーティーめぐる裏金事件
その上で、「会計責任者で終わらせない、秘書で終わらせない、きちんと政治家が責任を持つような制度を作っていかなければいけない」と話しました。
また、自民党では政治刷新本部で派閥のルールなどについて議論が進められていますが、茂木氏は「派閥の政治資金であっても、今後は党が責任を持って関与する仕組みを作る。派閥がお金や人事のための集団だと見られることがないよう、党主導で新たな仕組みを作って抜本的な是正策をとっていきたい」と強調したほか、派閥の政治資金パーティーについては「これだけ厳しい目が向けられている中で、このまま続けるということにはならない」との考えを示しました。
また、今回、会計責任者などが立件された安倍派、岸田派、二階派の責任者に対しては、速やかに説明責任を果たすよう要請していると明らかにしています。