この論理はダメ。金権政治根絶のため、パーティー券購入も含めた企業・団体献金の全面禁止や政党助成金廃止をしなければこの問題は又起きる。自力で政治活動ができない政党とは言えないのでは??

 

 

自民党内の裏金疑惑によって、再び「政治とカネ」に対する国民の信頼は地に落ちた。どうすればこの問題を根絶することができるのだろうか?政治腐敗研究の分野で有名な論文の内容を基に考えてみたい。(イトモス研究所所長 小倉健一)

裏金疑惑がある安倍派9人が

「政治刷新本部」のメンバーに


 自民党の最大派閥である安倍派を中心とする裏金問題が発覚し、岸田文雄首相は1月10日、再発防止に向けた新しい組織「政治刷新本部」を自民党内に発足させた。
 5億円を超える裏金があるとされる事件で政権幹部を担った人物が次々と捜査を受けている事態において、12月上旬には炎上していた案件に対して、何を悠長なことをやっているのかと怒りを感じた国民も多いのではないだろうか。とりあえず早急に組織だけは立ち上げておいて、中身は後から考えればいいだろうに。岸田首相の支持率が低い理由も分かる気がする。

 その上、政治刷新本部のメンバーの正当性にも早速、疑問の声が上がっている。メンバー38人の中で、疑惑の渦中にある安倍派が最多の10人を数え、しかもそのうち9人に裏金疑惑があるからだ。さらに、フランス・パリへの自称「研修旅行」で「エッフェル姉さん」とやゆされて大炎上した、松川るい氏までその名を連ねており、大いに物議を醸している。

 

日本を含めて民主主義の下では、国民が政治家の決定に影響を与えることができる。しかし、政治家の決定がいつも国民の意向を反映していると感じる人は少ないだろう。

 日本政治の腐敗を感じるのは今回の裏金キックバック問題だけではない。「ブライダルまさこ」と大炎上した自民党の森まさこ議員がぶち上げた、「少子化・インバウンド対策」だという「外国人が日本で挙げる結婚式の補助金」。過疎地域にそびえる立派過ぎる役所。前述のエッフェル姉さんご一行による自民党女性局の自称「研修旅行」など…。国民の目が届く範囲だけでもこれだけの腐敗が進んでいるのだから、国会議員全体ではどれぐらいの規模になるのか想像もつかない。

 政治とカネを巡る問題が常に起き続けている現状を見ると、やはり権力は腐るものなのだなあと感じざるを得ない。では、どうすれば、抜本的な改革ができるだろうか。

政治資金の透明性を高めても

「全くダメ」な理由とは?


 いま、日本では「政治資金の透明性を高めよ」という議論が沸騰している。そこで先行研究を調べてみると、透明性を高めるだけでは全くダメだという結論にぶち当たった。

 今回は、2018年に学術雑誌「Journal of Public Economic Theory」に掲載された「透明性は政治腐敗を減らすか?(Does transparency reduce political corruption?)」をひもといてみよう。この論文は発表後、すでに19以上の学術論文に引用されている。政治腐敗研究では有名な論文だ。

 

内容を簡単にいえば、以下の通りだ。

 透明性を高めることが政治腐敗を減らす解決策だとよく言われている。しかし、この論文はそれに異議を唱えている。「たしかに透明性を高めることで腐敗は減少するかもしれないが、実際には腐敗に使われる賄賂の金額が増える可能性があるということ」だという。

「透明性が低いシステムでは、市民が政治家に影響を与える動機付けがあまりない。その結果、腐敗者は政治家に影響を与えるためにそれほど努力する必要がない。腐敗は広がるが、賄賂の額は低いのだ。一方、透明性が向上すると市民は力を得るので、腐敗者の影響に対してより積極的に立ち向かう。しかし、腐敗者も反撃し、賄賂の額が増える」

「透明性を高めることが悪い政策だと言っているわけではない。透明性が高まれば、政治家がより効率的な行動を取らざるを得なくなるので、期待される厚生が増加する。ただ、透明性の向上は、政治家の権力の影の価値をも高める。腐敗者はその権力に影響を与えるために、これまで以上に多くの賄賂を支払う準備ができているので、期待される賄賂は増加する」

 簡単に言えば、政治家がどんなお金の流れで収入を得て、どんな政策決定をしているかが国民に分かるようになると、不正をしようとする人たちは奮起してさらに頑張ってしまうということだ。当然ながら、裏金キックバックの問題において、国会内でおそらく透明性を高める議論や法改正が行われるだろう。しかし、それだけでは不十分であり、むしろ汚職を広げる可能性があるということになる。

政治とカネの透明性を高めても

完全な情報を把握するのは難しい


 どうしてこのようなことが起きてしまうかというと、結局のところ、政治家についての完全な情報を国民は得ることができないためだ。

 例えば、実際に起きている話としては、政治家が乗っている運転手付きのリムジンが、実はタクシー会社のもので、その会社の取締役に政治家のきょうだいが就任している、といったものがある。その政治家のきょうだいのための社用車であるが、きょうだいが自由に使ってよいことから実態上は政治家事務所の車となっている。わざわざ秘書の車の名義まで確認するメディアはほとんどない。

 また、ある会社が業務委託として契約した人物を、政治家事務所に「無報酬のボランティアスタッフ」として送り込んでいるケースもある。その人物が正社員の場合もあるが、その場合はフルタイムで政治家事務所で働いていることと整合性が取りにくい。一方、業務委託なら簡単な報告を日々するだけで問題は起きないようだ。

 政治家のカネの一部分を透明にしたところで、いたちごっことなって腐敗がなくなっているのかどうかが分からないというのが、私の実感だ。むしろ狡猾(こうかつ)な世襲政治家がどんどん有利になっていくリスクが高い。

「競争効果」と「効率効果」で

政治の腐敗を根絶する


 では、現状の腐敗を根本からなくすためには、どうすべきなのか。その答えは、この論文にも登場する「競争効果」と「効率効果」にある。

 まず、競争効果を利用することについてだ。

 例えば、ある企業が政治家にお金を払って特定の政策を実行してもらおうとする。これが汚職だ。企業はその政策が自分たちに利益をもたらすから、政治家に影響を与えようとするわけだ。

 一方で、私たち国民の側も政治家の行動に影響を与えたいと思っているが、私たちの目的は公共の利益を守ることだ。

 ここで競争効果が登場する。それは国民が「企業の提供する金銭的な価値と同等かそれ以上の影響力」を政治家に与えないと、汚職が起こる可能性があるということだ。つまり、私たち国民が政治家に対して襟を正す十分な動機を提供しなければ、政治家はお金を払う一部団体の方へと引き寄せられていってしまうことになる。

 今回の裏金問題でいえば、こうした裏金問題を起こした連中を完膚なきまでに、評判から名誉から何から何までたたき落として後悔させるしかない。そうすれば、2度と裏金問題を起こそうと思わないだろう。

 次に、効率効果だ。効率効果とは、国民と企業のどちらが政治家に対して魅力的な報酬を与えられるかによって、政治家の政策が左右される現象のことだ。例えば、政治家が、ムダとしか考えられない補助金を出さないことを公約し、それが実行されたときに国民が投票や支持を約束することができれば、政治家は「効率的な」政策を採用しやすくなるということだ。

 米国では、ほとんどの共和党議員が「任期中のあらゆる増税に反対する」という署名を行っているが、実際、この過酷な約束を実行すると、政策効果のない補助金などに支給する財源などなくなってしまう。しかし、共和党議員がこの署名をすると、選挙で保守系団体の強力なネットワークによる支持が得られ、選挙で優位になることは有名な話だ。

 その結果、ムダな政策の原資も腐敗も絶たれていく。日本でもこうした政党が生まれることを期待しよう。

 さて、今回の話をもう一度整理すると、以下のような結論に至るのではないか。

(1)透明性は高い方がいいが、政治資金の透明性を高めても腐敗はなくならない

(2)不正や腐敗には、厳しい姿勢で徹底的に臨む。やってしまったことを政治家に激しく後悔させる。今回は関係ないが、これからやりかねない政治家たちを震え上がらせる必要はある

(3)補助金や規制など腐敗を生む政策を原則しない、させない社会風土をつくっていく

 この三つで、日本は腐敗政治から立ち直ることができるだろう。