裏金議員に対して国民が選挙で審判を下すことだ。安倍派に所属して漫然と裏金を受け取っていた国会議員、また、幹部として裏金作りを主導していた大物議員らに、次の選挙で「違法行為は許さない」という民意を示す必要がある。国会議員の責任を追及する存在はなにも検察だけではない。

 

 

政治家の資金パーティーにいますぐ課税せよ
自民党が派閥の政治資金問題で揺れている。

筆者はこの問題への対応の一つとして、政府が政治資金パーティーを「消費税の課税対象」とすることを提案したい。

まず問題の経緯を振り返ろう。『しんぶん赤旗』が'22年秋、自民党派閥のパーティー券収入が過少記載ではないかという旨の疑惑を取り上げた。

その後、この疑惑に関心をもった神戸学院大学の上脇博之教授が約3ヵ月かけて調査を行い、過少記載の確信をもち、東京地検に刑事告発した。

同教授の調査では、自民党の5派閥で'18年から約4000万円の過少記載をしたとしているが、現在、過少記載で裏金化が疑われる総額は約5億円との報道も出ている。

 

ロッキード事件('76年発覚)やリクルート事件('88年発覚)のような大規模な政治資金問題は30年以上も起こっていなかったが、今回の事件はそれに匹敵するほどの大騒ぎとなっており、「令和のリクルート事件」と呼ぶ人々もいる。

特に厳しいのが国民の反応だ。ロッキード事件で、田中角栄首相(当時)に渡ったのは5億円ほどとされる。当時の5億円は現在の価値で28億円程度と考えられ、大騒ぎになったのは理解できる。だが、今回の発覚で裏金化が疑われているのは総額5億円で、個別の議員になると最大でも数千万円。規模が異なる。
にもかかわらず、国民の視線が厳しいのはなぜか。その理由はネット上に溢れる国民の声に示されている。象徴的なのが、「国民にインボイスを求めておきながら、自分たちはザル法か」といった批判だろう。

周知のとおり、'23年10月から、軽減税率への対応のために適格請求書を必要とする制度、すなわち「インボイス制度」が始まっており、事業者の負担が増す状況にある。インボイスの導入は、数百円の取引でも、事業者間のやりとりを透明化する効果をもつ。収入も過少申告を行えば、税務当局からペナルティを受ける。にもかかわらず、議員はパーティー券収入が過少記載でも許されるのか―といった批判が噴出しているのだ。

 

テレビ番組で、政治資金収支報告書につける領収書について、自民党のOB議員が「100円、200円、300円、そんなものの領収書が本当に必要なのかって気がする」と発言したため、ネット上で炎上したが、当然だ。インボイスの導入で事務コストが増している事業者も多いなか、国民の感情を逆なでするだけである。

この問題を解決するため、岸田文雄首相が取るべき対策は一つしかない。それは、政治資金規正法の抜本改正だが、昨年12月13日の岸田首相の会見ではその明言はなかった。

いまの政治に必要なのは、一時的な所得減税のようなポピュリズム的な対応でなく、国民の批判に正面から向き合うことだろう。国民にデジタル化を求めるなら、まずは政治が率先して、政治資金の流れに関する情報を徹底的にデジタル化し、国民がすぐさまアクセスできるよう透明化する必要がある。

政治資金パーティーも、収益を上げる立派な事業なのだから、消費税の課税対象にすることも検討すればいいだろう。政治家たちも軽減税率やインボイスの問題が理解できるはずだ。

「週刊現代」2024年1月13・20日合併号より

 

 

〈裏金議員立件見送り〉安部派幹部の“死人に口なし戦法”を想定していながら、なぜ検察は巨悪を見逃すことになったのか。一網打尽とはいかない「裏金4000万円の壁」

 
 
「令和のリクルート事件」とも取り沙汰された自民党派閥による裏金事件。しかし、罪に問われるのはごく一部の議員に限られ、裏金システムを指揮していたはずの幹部は1人も立件されずに幕を閉じそうだ。その背景には、幹部らが「死人に口なし」と言わんばかりに、裏金の責任を亡き安倍晋三氏や細田博之氏に押し付ける責任逃れがあった。
 
一網打尽とはいかない「裏金4000万円の壁」
「公判の維持が難しい。幹部の立件はできないのではないか」

関係者によると、成人の日を含む3連休が明けたあたりから、東京地検特捜部でこういった声が漏れ始めたという。いったい何があったのか。

まず、今回の裏金事件の問題点は、安倍派などで開かれた政治資金パーティーについて、派閥に所属する国会議員がチケットを売りさばいた際に、ノルマ超過分の記録を一切つけずに各議員にキックバックされていたことにあった。記録をつけていないため、政治資金ではなく自由に使えるお金、つまり裏金となる。

政治資金パーティーの収入や支出は収支報告書にきちんと記録をつけなければならないと政治資金規正法で決まっており、裏金作りは明確な違法行為だ。

この組織的な裏金事件について、検察は2つのルートから議員らの立件を試みていた。1つは個々の議員が裏金を作っていたことに注目するルート。もう1つは派閥全体で裏金を作っていたことに注目するルートだ。

前者については、安倍派からキックバックされたお金を受け取った際に、きちんと記録をつけなかった各議員の責任が問われることになる。

しかし、そのうえでネックとなるのが、裏金作りを立件する際の金額の目安となっている「4000万円超」の壁だ。検察による捜査においては、4000万円を超えない、100万円や1000万円くらいの裏金作りは罪に問われず、見逃されるというのが慣例となっている。

国民に選ばれた政治家に対して検察が与える影響を抑制的にするために、こうした基準が実在するといわれるが、この基準で立件されるのは、すでに逮捕されている池田佳隆衆院議員のほか、大野泰正参院議員、谷川弥一衆院議員の3人に限られると見られ、幹部の罪を問うのは難しいとされていた。

そこで、検察が幹部らの責任を追及するために捜査を進めたのが後者のルートだ。
 
“死人に口なし戦法”は検察も織り込み済み
安倍派全体では5年間で約5億円の裏金作りがされており、それらが各議員にキックバックされていた。パーティー券収入の過少記載については、まずは事務方である会計責任者の罪が問われることとなる。
ただ、これだけの金額をシステム化して裏金作りに回していただけに、検察は安倍派幹部、とくに派閥実務を担う事務総長から明確な指示があり、共謀で罪に問えるのではないかとにらんでいた。

しかし、事務総長経験者らは事情聴取に対し、キックバックは「会長案件だった」と口を揃えた。つまり、今は亡き安倍氏や細田氏が決めていたとして、自らの責任を否定したのだ。

もちろん、こうした言い訳が出てくるのは検察も織り込み済みだった。そのため、捜査の対象を、安倍氏が亡くなったあとの出来事に絞り込んでいたのだ。

というのも、安倍氏は2022年4月にキックバックの運用に問題があるとして、裏金作りをやめるように指示していたといわれる。だが、同年7月に安倍氏が銃撃事件で亡くなったあと、8月ごろから中止されていた還流が復活していたのだ。

これは、安倍氏に近しかったジャーナリストの岩田明子氏が昨年12月13日の「ABEMA Prime」で明かしているのだが、朝日新聞も同月23日の朝刊で安倍氏が提案した還流取りやめについて具体的に詳報した。

これが事実だとすれば、安部派の事務総長らも「会長案件」という“死人に口なし戦法”で逃げ切ることはできないはずだ。検察は特に復活の議論を主導していたとみられる西村康稔前経産大臣周辺を“本丸”として捜査を進めていたという。

”裏金議員”は選挙で落とすしかない
しかし、最終的に立件は断念することとなってしまった。

関係者は「共謀を立証するための証拠に乏しく、検察は見送りを判断したそうだ。最終的に、裏金作りを主導していた幹部たちは罪に問われず、巨悪は見逃されることになった」と嘆く。

この結果に納得できる国民は少ないだろう。特に、裏金金額が4000万円に満たなかったという理由で、違法行為がありながら立件が見送られた安倍派議員は多数いる。実際に、事務総長経験者である西村氏のほか、松野博一前官房長官や高木毅前国対委員長も約100万円から1000万円超の裏金を作っていたとされている。

幹部議員にとっては“はした金”なのかもしれないが、一般国民にとっては大金だ。まともに働いて納税するのがバカバカしくなってしまう。

今回の事件を受けて自民党では政治刷新本部が設置され、裏金作りの舞台となっていた派閥の存廃などが議論になっているが、より重要なのは二度と同じような事件が起きないようにするための、政治資金規正法の厳格化、そして厳罰化だろう。

違法行為によって問われる罪が重くなれば、金額によって立件が見送りとなる現在の法運用を見直すことにつながっていく可能性がある。今後、こうした実効的な内容が出てくるのかどうか、自民党の動向を注視しなければならない。

さらに大事なのは裏金議員に対して国民が選挙で審判を下すことだ。安倍派に所属して漫然と裏金を受け取っていた国会議員、また、幹部として裏金作りを主導していた大物議員らに、次の選挙で「違法行為は許さない」という民意を示す必要がある。国会議員の責任を追及する存在はなにも検察だけではない。


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取材・文/宮原健太 集英社オンライン編集部ニュース班