<自民裏金疑惑>安倍派幹部立件見送りも、ほくそ笑む岸田首相…「邪魔者は排除できた」「二階さんにも恩を売った」「支持率も少しだけアップ…」

 
相変わらずの低空飛行ではあるが、SNSで広がる「岸田離れ」とは真逆の民意が示された形だ。意外とも思える狡猾さでのらりくらりと政権運営を続ける岸田首相。ただ、その視線の先に国民がいないことだけは確かだ。
 
 
「#検察は巨悪を眠らせるな」「#検察仕事しろ」1月中旬、X(旧ツイッター)にはこんな書き込みが溢れた。多くが「日本最強の捜査機関」の異名を持つ東京地検特捜部への怨嗟の声だ。「リクルート事件」以来ともいわれる一大疑獄事件となった自民党の政治資金パーティーを巡る裏金疑惑だが、最終的に安倍派(清和政策研究会)の幹部の立件を見送る方針が伝えられ、世間の怒りが沸騰している。

「岸田さんは最も邪魔だった勢力を排除することができた」
「岸田さんの思い通りの展開なんじゃないですか」

こう苦笑いするのは、政界事情に精通する与党のあるベテラン秘書である。

「今回の事件が『岸田政権を揺るがす』という人もいますが、とんでもない。岸田さんは政権を運営する上で最も邪魔だった勢力を排除することができた。厄介払いができたというのは、言うまでもなく、安倍派のことです」
 
 
総勢99人が所属する自民党最大派閥の安倍派は、岸田首相にとって政権運営のカギを握る勢力だった。実際に「数は力」とばかりに同派は政権発足当初から影響力を発揮。安倍晋三元首相亡き後は結束力に陰りが見えたものの、閣僚や党役員の顔ぶれを見れば、首相ですらその存在を無視できないのは一目瞭然だった。
象徴的だったのは、「五人衆」と呼ばれた安倍派幹部の処遇だ。

岸田首相は2021年10月の第1次政権を皮切りに、2021年11月、2022年8月、2023年9月とこれまでに3度組閣しているが、松野博一氏は一貫して官房長官を務め続けた。西村康稔氏は要職の経産大臣を務め、萩生田光一氏は党内で各政策を議論する部会をまとめる政調会長の任に。世耕弘成、高木毅両氏もそれぞれ参院幹事長、選対委員長といずれも重要なポストを割り当てられていた。

だが、そんな彼らのキャリアが暗転したのが、件の「政治資金」を巡る疑惑だった。

「『特捜部が派閥のカネを洗っている』という噂が永田町に一気に広がったのが昨年11月末ごろ。当初から安倍派の金額が突出しているといわれていましたが、捜査対象になっている具体的な名前が出回り出したのは12月に入ってからでした」(全国紙政治部記者)

派閥から課されるパーティー券の販売ノルマの超過分を、議員側に戻す資金の環流が「キックバック」として報じられ、党全体に危機感が広がった。パーティー券購入者のうち、個人は5万円、団体は20万円以下の購入者は無記名とすることが可能になるなど、政治資金規正法の不透明な実態が明らかになったからだ。
 
「早くカタがついて欲しいというのが正直なところだよ」
特捜部の捜査リストに名前が上がらず、今回の問題では、比較的ダメージが小さいとみられている茂木敏充幹事長率いる茂木派(平成研究会)の中でも危機感は広がっていた。

「うちの場合、日歯連事件で政治資金では痛い目に遭っているから、派閥へのカネの『入り』と『出』については、きっちりと収支報告書に記載するようにしていた。パーティーのノルマ超過分の戻しは派閥からの寄付という形で処理していたが、それもキックバックといわれるとはなはだイメージが悪い。早くカタがついて欲しいというのが正直なところだよ」と声を潜めるのは、同派のある中堅議員だ。

日歯連事件とは2004年に発覚した疑獄事件。日本歯科医師連盟での汚職事件に端を発し、橋本龍太郎元首相ら平成研の幹部に日本歯科医師会側から1億円がヤミ献金として流れていたことが発覚し、会長の橋本氏の辞任に発展するなど、同派は壊滅的な打撃を受けた。

当時と同じように政権への逆風が強まるなか、岸田首相は昨年12月14日に松野氏をはじめとする安倍派の4閣僚を交代させる人事を断行し、局面打開を図った。このころには特捜部の捜査の狙いが徐々に明らかになってきていた。

「安倍派で危ないのは10人、と具体的な数字も出るようになった。内訳は安倍派の事務総長経験者に加えて、不記載のキックバックが4000万円以上の高額になる議員だ、と一斉に情報が回りました。同じタイミングで浮上したのが、『不記載を認めないと身柄を取られることもあり得る』という噂。いま思えば特定の議員への警告の意味合いも込めて検察がリークした情報だった気もしますが…」(前出の政治部記者)

衆院議員の池田佳隆容疑者(57)の周辺が騒がしくなったのもこのころだ。特捜部は1月7日、池田容疑者らを政治資金規正法違反(虚偽記載)の疑いで逮捕。キックバックを受けた資金に関する証拠隠滅を図るなど悪あがきを続けた末に、在宅起訴が通例とされるなかで「異例」ともいえる身柄拘束に至ったのである。
 
9月の総裁選も乗り切って長期政権を築くのでは
一方、岸田首相は、民衆の中で高まる政権への批判の声を受け、政治資金制度の見直しを図るための党内組織「政治刷新本部」を立ち上げる意向を表明した。しかし、メンバーとなった安倍派の所属議員10人のうち9人に「不記載」が発覚するなど政治不信の払拭には至っていない。政権は、じりじりと追い詰められているようにも映るが、前出のベテラン秘書は異なる見方を示す。

「これまでの流れは、岸田さんのプラン通りにほぼ進んでいるのだろうと思います。思惑通りに安倍派を排除したし、二階(俊博元幹事長)さんも抑え込んだ。というのも、安倍派とともに捜査対象になっているとされる二階派では、安倍派のような資金環流は行われず、派閥内で資金をプールし、そのほとんどを二階さんが握っていたといわれているからです。特捜部は二階さんを所得税法違反の線で狙っていたようですが、どうやら捜査は本丸にまでは及ばなさそうです。

官邸と特捜部が捜査の落としどころについて擦り合わせているとすれば、二階さんに恩を売った形です。菅(義偉元首相)さんが、派閥解消を訴えて目立っていますが、政権をひっくり返すほどの大きなうねりは起こせていないし、安倍派も壊滅して自分の地位を脅かすようなライバルは当面出てくる気配はない。この調子なら9月の総裁選も乗り切って、長期政権を築くのではないかと見ています」

この見立てを裏付けるように、NHKが1月12~14日に行った最新の世論調査では岸田内閣の支持率が昨年12月から3ポイント上昇し26%。共同通信の13、14日の調査でも昨年12月から5ポイント上がって27.3%だった。

相変わらずの低空飛行ではあるが、SNSで広がる「岸田離れ」とは真逆の民意が示された形だ。意外とも思える狡猾さでのらりくらりと政権運営を続ける岸田首相。ただ、その視線の先に国民がいないことだけは確かだ。

※「集英社オンライン」では、政治資金パーティー券のキックバックによる裏金疑惑でついての情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。

メールアドレス:
shueisha.online.news@gmail.com

X(Twitter)
@shuon_news


取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
 
 

裏金疑獄「安倍派7人不起訴」で広がる落胆…検察は“ファッショ批判”に耐えられるのか

 
 政治生命を失いかけている安倍派の「灰色5人衆」が息を吹き返したら、検察は返り血を浴びることになるんじゃないか。
 
 
 
 自民党派閥の裏金疑獄をめぐり、世間に落胆と怒りが広がっている。政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で捜査している東京地検特捜部が、最も悪質な安倍派の「5人衆」ら幹部7人を不起訴とする方針だと一斉に報じられたからだ。

 時効が未成立の2018年からの5年間でこさえた裏金は、安倍派が約6億円、二階派が2億円超。巨額だ。にもかかわらず、両派の会計責任者と、4000万円超をネコババした安倍派3議員だけが立件される見通しだという。「令和の空騒ぎ」なんて冗談じゃない。

「特捜部は全国から応援検事を集めて50人規模で臨んできましたが、その態勢も19日で一区切り。26日には通常国会が召集される。タイムリミットが迫る中、派閥の実務を仕切る事務総長経験者らの共謀を問うのは厳しいとの判断に傾いているようです」(司法関係者)


 販売ノルマ超過分のパーティー券収入を還流や中抜きで裏金化した安倍派では、会長だった安倍元首相が22年春に中止を言い出したものの、一部議員が反発。安倍死去後、「5人衆」の西村前経産相や世耕前参院幹事長、下村元文科相ら幹部と会計責任者が対応を複数回協議し、8月に継続が決まったとされる。

 いずれのタイミングでも西村氏が事務総長だったことから「総理になりたい男」の立件は不可避とみられてきたが、雲行きは怪しい。

 
不起訴=クリーンにはならない

   政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。

「検察リーク報道の過熱もあり、渦中の安倍派幹部は要職を追われた。臨時国会会期中に閣僚4人、副大臣5人、政務官1人、党執行部の3人が辞表を出す異常事態に陥った。検察が引き金を引いたも同然なのに、幹部を誰ひとり立件しないのなら、政治に介入しただけ。検察ファッショのそしりは免れません。もっとも、不起訴=クリーンにはならない。ロッキード事件で立件を免れた面々は『灰色高官』と指をさされ、有罪となった佐藤孝行元総務長官は11年後に悲願の初入閣を果たしたものの、世論とメディアの猛批判にさらされて12日で辞任に追い込まれた。グレーな記憶をとどめておくのも重要です」

 どっこい、連中は胸をなでおろしているようだ。

「昨年末に検察から任意聴取された秘書はゴリゴリやられたとコボしてはいたものの、収支報告書の訂正で決着しそうだと言っていた。楽観ムードが漂っていたところに池田佳隆衆院議員らが逮捕され、一様に気をもんでいましたが、一息つけそう」(安倍派関係者)

 政治生命を失いかけている安倍派の「灰色5人衆」が息を吹き返したら、検察は返り血を浴びることになるんじゃないか。

 

政治刷新本部のメンバー38人の中で、これまでカネの問題を指摘されたのは20人 岸田首相はなぜこんな人選をしたのか

 
 朝日新聞の衝撃的なスクープ記事だった。1月13日の朝刊1面トップに「刷新本部 安倍派9人裏金か 参加10人中 数百万~数十万円」との記事が掲載された。自民党派閥の政治資金パーティー事件を受けて設置された「政治刷新本部」は、再発防止策のとりまとめなど“自民党の信頼回復”を担うことが期待されていた──にもかかわらず、である。

 ***
 
 最大派閥の安倍派では、所属議員にパーティー券の販売ノルマが科されており、これを超えた売上が“裏金”に化けていたのはご存知の通り。朝日新聞は裏金を得ていた疑いのある9人の安倍派議員を実名で報道した。

《本部長代理の岡田直樹・元地方創生相、副本部長の野上浩太郎・元農林水産相、幹事を務める佐々木紀、上野通子、太田房江、松川るい、吉川有美の5氏、事務局次長の藤原崇、高橋はるみの2氏の計9人に、裏金の疑いがあるという》

 これだけでも世論は沸騰したが、さらに岸田文雄首相の次の発言が火に油を注いだ。13日午後、記者団の取材に対応し、人選に問題はないとの考えを示したうえで、「特定の人間を排除するというような排除の論理は適切ではない」と9人を擁護。メンバーの交代は行わないと明言したのだ。

 刷新本部の初会合が開かれたのは11日、当初から国民はメンバーの顔ぶれにア然としていた。政治資金パーティー事件での裏金問題は「政治とカネ」がその本質であるのは言うまでもない。国民は当然、「クリーンな政治」「政治資金の透明化」を求めている。

 刷新会議のメンバーは全員で38人。ところが、この中には、ご自身が「政治とカネ」の問題で追及された政治家がかなりの数に達するのだ。

 まず朝日新聞が報じた9人が全体の38人に占める割合を計算してみると、23・6%という結果になる。

 だが、今回の政治資金パーティー事件とは別に、公職選挙法や政治資金規正法の抵触などが疑われた議員が5人もいる。内容は後で詳述するが、こちらの割合は13・1%になる。

 さらに、全国紙など主要メディアに「問題のある政治献金」と報道されたことがある議員は7人。こちらの割合は18・4%だ。

 これらを合計すると21人になるが、朝日新聞が実名報道した9人の中には過去に政治資金規正法に抵触する疑いが報じられた“重複議員”が1人おり、これが参議院議員の太田房江氏だ。よって合計は20人となり、全体に占める割合は52・6%に達する。

 刷新本部のうち何と半数以上が「政治とカネ」の問題について“脛に傷を持つ”政治家なのだ。国民がメンバーの顔ぶれに怒るのは当然だろう。

 具体的に見てみよう。本部長代行を務める幹事長の茂木敏充氏については、2018年に週刊新潮が「地元有権者に線香や衆院手帳などを配布しており、公職選挙法違反の可能性がある」と報じた。

 本部長代理を務める選対委員長の小渕優子氏も14年、週刊新潮が「地元有権者が参加した東京・明治座の『観劇会』で収入より支出が上回っており、政治資金規正法違反の可能性がある」と指摘した。
 
運動員が買収容疑で逮捕された元大臣
 東京地検特捜部は翌15年、約3億2000万円の収支を政治資金収支報告書に記載しなかったとして、小渕氏の元秘書2人を政治資金規正法違反罪で起訴。一審の東京地裁は有罪判決を下し、これが確定した。一方、小渕氏は不起訴だった。

 特捜部が家宅捜索を行った際、複数のハードディスクが電動ドリルで破壊されていたことも注目された。これを踏まえ、日刊スポーツ(電子版)は11日、「『ドリルの使い方でも指南?』小渕優子氏の自民党『政治刷新本部』メンバー入りにSNS疑問の声」という辛辣な記事を配信している。

 副本部長を務める元デジタル大臣の平井卓也氏は、00年に支援者2人が公職選挙法違反(買収、事前運動)の疑いで逮捕。05年にも運動員2人が同法違反(供応、事前運動)の疑いで逮捕されている。政治資金パーティーについても、22年に政治資金収支報告書の不記載を巡って刑事告発されたが、高松地検は不起訴処分とした。

 衆議院議員の島尻安伊子氏は15年、「10年に行われた参議院選の前、顔写真や名前を記載したカレンダーを有権者に配ったが、政治資金収支報告書に記載がなかった」と刑事告発された。

“エッフェル姐さん”もメンバー



 参議院議員の太田房江氏は、大阪府知事だった07年、母親や親族が住むマンションを自身の政治団体の事務所として経費計上していたほか、府内の中小企業経営者が作る懇親会の会合に11回出席し、講演の謝礼として計883万円を受け取っていたことが判明した。

 1回あたりの謝礼が50万円から100万円という額には多くの批判が寄せられ、太田氏は3選を目指した府知事選への出馬を断念。そして今回、朝日新聞のスクープ記事でも裏金疑惑が報じられた。

 全国紙など主要メディアに「問題のある政治献金」と報道されたことのある議員については2人を紹介しよう。総務会長の森山裕氏は15年、談合のため鹿児島県の指名停止措置を受けた複数の業者から献金を受け取っていたことが発覚。幹事長代理の木原誠二氏は14年、自分の寄付金を自身の資金管理団体に還流させ、所得税控除など税優遇を受けていたことが判明している。

 また、参議院議員の松川るい氏は昨年、フランス研修の日程や内容、その様子を伝えるSNSへの投稿が批判された。公職選挙法や政治資金規正法とは直接的には関係がないとはいえ、「研修費用を適切に使ったか」という観点から見ると、これも立派な「政治とカネ」の問題だ。そして彼女は、朝日新聞が報じた9人の裏金疑惑議員の1人でもある。
 
 
挙党一致を演出した可能性
 刷新本部には3人の派閥のトップが含まれているほか、渦中の安倍派から10人の議員が参加していることも当初から問題視されていた。多くのメディアが「この顔ぶれは国民にケンカを売っているようなものだ」「岸田首相は支持率を自分で下げにいった」といったSNSの投稿を紹介した。

 政治アナリストの伊藤惇夫氏は、刷新本部のメンバーについて「スピード違反を繰り返してきた悪質ドライバーが、よりによって交通指導員に任命されたような、そんな強い違和感を覚えます」と言う。

 国民の反発は事前に予想できたはずで、だからこそ「よりによって自民党は、なぜこんなメンバーを集めたのか」という疑問が湧く。

「岸田さんは挙党一致体制を演出したかったのでしょう。党役員をずらりと並べ、小泉進次郎さんなど一般的には人気のある議員も起用しました。ただし、今のところ刷新本部が思い切った改革案を示せるとは思えません。注目したいのは最高顧問に麻生太郎さんと菅義偉さんが任命された点です。派閥や『政治とカネ』の問題を巡って、2人の意見は正反対と言っていいでしょう。抜本的な提言に向けて、とりまとめができるとは考えられません。さらに、それこそが岸田さんが狙っていることかもしれません」(同・伊藤氏)
 
 
弥縫策に終わる可能性
 最高顧問を務める麻生太郎副総裁は麻生派のトップであり、派閥の解消については否定的だと言われている。一方、同じく最高顧問の菅義偉前首相は無所属であり、派閥の解消に向けて早くも積極的な姿勢を見せている。まさに水と油だ。

「麻生さんと菅さんの意見を両方とも国民に示すと、刷新本部で活発な議論が行われているように見せることができます。ただし、最終的には水と油ですから、議論はどこまで行っても平行線でしょう。『結論は出ない』という結論が出ても不思議ではありません。刷新本部が何らかの改革案を提示するにしても、非常に小手先の一種の弥縫策(びほうさく)に終わる可能性があると思います。もし岸田さんが抜本的な改革を望んでいないとしたら、刷新会議のメンバーは理想的な顔ぶれなのかもしれません」(同・伊藤氏)

 政治資金パーティー事件が明るみになってから、1989年に自民党がまとめた「政治改革大綱」に再び注目が集まっている。その内容は、現視点から見ても有効な提言だ。

 全文を紹介する紙幅はないが、国会議員の「資産公開法」の制定なども提案されている。政治資金は「ガラス張りの透明度」を実現すべきだと指摘。派閥のパーティーも収支の明確化のため規制が必要だと明記した。
 
 
“カミソリ後藤田”と岸田首相の違い
 背景にあったのは、リクルート事件が発端となった自民党へ強く吹く逆風だった。当時、首相だった竹下登氏は危機感を強め、党内に政治改革委員会を設置。会長は“カミソリ”のあだ名で知られた後藤田正晴氏が務めた。当時、伊藤氏は自民党の職員で、委員会のスタッフに任命された。

 こんな立派な改革案が存在するのだ。岸田政権は大綱に書かれたことをそのまま実行すればいいだけのように思える。しかし、岸田首相は刷新本部をわざわざ設置した。どのような狙いがあるのだろうか。

「政治改革委員会について振り返ると、竹下さんは後藤田さんに全権を委任し、後藤田さんは4カ月をかけて大綱を取りまとめました。その歴史的評価は様々ですし、94年に政治改革四法として可決されるまでの間、妥協や拡大解釈による骨抜きが繰り返され、原点の精神は相当に歪められました。とはいえ、大綱が今の時代にも充分に通用する完成度を持っていることは間違いありません。一方、岸田さんは、月内までに中間取りまとめと論点の整理を行うよう刷新会議に指示しました。後藤田さんと比べると、あまりにスケジュールが早すぎます。しかし、ここに岸田さんの狙いを解く鍵があると思います」(同・伊藤氏)

 
“カミソリ後藤田”と岸田首相の違い
 なぜ岸田首相は議論を急ぐのか、伊藤氏は「岸田さんの視界が捉えているのは怒っている国民の姿ではなく、1月26日に招集される通常国会だからでしょう」と言う。

「イギリスの選挙制度などを参考にし、後藤田さんは練りに練って大綱をまとめました。その後の政治改革を巡る議論の叩き台としては充分すぎる内容で、だからこそ自民党は大綱を党議決定しました。一方の岸田さんは『通常国会で野党に文句を言われない』ために刷新本部に取りまとめを指示したとしか思えません。何しろ岸田さんは今に至るまで“派閥”の一語を絶対に口にせず、“政策集団”としか言わないのです。派閥政治の問題点を抜本的に改革しようと決意を固めた首相なら、そんな小手先の言い換えはしないでしょう。刷新本部の議論が野党に対するアリバイなのだとしたら、結論など出ないほうがいいということにもなります」


 
「ある議員が“森喜朗氏が指示”と証言」 自民党裏金問題、特捜部の最後の狙いは森元総理か
 
 
自民党裏金問題で衆議院議員の池田佳隆容疑者(57)が4千万円超の裏金のキックバックを受けていた事件に関連して、池田議員と安倍派の元会長である森喜朗元総理大臣(86)、参院安倍派会長の世耕弘成前参院幹事長(61)ら12人が政治資金規正法の不記載罪などの疑いで1月9日に東京地検に刑事告発された。森元総理が聴取を受ける可能性は――。

 ***
 
 政治資金規正法のような形式犯でバッジの身柄を取ることはなかろう。そう高をくくっていた永田町の住民は新年早々、特捜部が繰り出した予想外の一手に度肝を抜かれたに違いない。

約4800万円が不記載
 自民党の清和政策研究会(安倍派)所属の池田議員が1月7日、柿沼和宏政策秘書(45)と共に特捜部に政治資金規正法違反(虚偽記載)の容疑で逮捕されたのである。

「池田議員は資金管理団体『池田黎明会』の代表、柿沼秘書はその会計責任者を務めています。二人は共謀して、直近5年分の政治資金収支報告書に、派閥から還流を受けた政治資金パーティー収入のノルマ超過分合計4826万円を寄付収入として記載しなかった疑いがあります」

 とは社会部デスク。

「池田議員は任意の聴取で還流分については記載義務のない“政策活動費”と言い張り、捜査に非協力的だった。加えて、問題発覚後に収支報告書を勝手に訂正していたことも当局の心証悪化を招いていた。極め付きは特捜部が先月、池田議員の関係先を捜索する前に、関係先にあった記録媒体が破壊されていたこと。以上を踏まえて、特捜部は池田議員らに証拠隠滅等の恐れがあるとみて、逮捕に踏み切ったのです」
 
ある議員が“森さんが指示”と証言
 かくして一連の事件で初の逮捕者が出るに至ったのだが、こうした動きに戦々恐々としているであろう人物がいる。清和会の“後見人”として、2012年の引退後も政界に隠然たる影響力を及ぼしてきた森元総理だ。

 実際、特捜部は森元総理に重大な関心を寄せている。

 清和会関係者が声を潜めて明かす。

「あるベテラン議員は、任意の事情聴取の中で自身と森さんとの関係や5人衆と森さんとの関係などについて根掘り葉掘り聞かれたと言っています。その議員は担当の検事に“表向きは5人衆の集団指導体制で、彼らが派閥の運営を取り仕切っている形にはなっている。しかし、実際には森さんが5人衆にあれこれ指示し、差配している”と証言したそうです」

「一連の意思決定に森元総理が関わっていないはずがない」
 だが森元総理は、派閥の裏金問題に具体的にどう関わっていたというのか。先の社会部デスクが言う。

「注目を集めているのが、22年分のパーティー収入に関する還流です。その年は生前の安倍晋三元総理が還流を問題視して、一度は中止を決めていた。ですが所属議員から反対の声が相次ぎ、安倍元総理の死後、事務総長の西村康稔前経産相(61)が還流の再開を決めたのです。特捜部はその再開指示の証拠となる書類も入手しています」

 さらに続けて、

「西村氏は還流分について、議員個人が開催するパーティーの収入として収支報告書に記載すれば問題はないだろうという考えでした。しかし、22年8月に高木毅前国対委員長(68)に事務総長が代わると、結局、従前どおり裏金として処理することになった。この西村氏と高木氏の一連の意思決定に森元総理が関わっていないはずがない、と特捜部はにらんでいるのです」
 
森元総理の聴取も
 特に、高木氏は週に何度も“森詣で”を行ってきたことで知られている。加えて、

「かねて地元政界関係者の間では、高木氏は国務大臣への推薦を得るために森元総理に多額のカネを上納したのではないかとの疑惑がささやかれていた。高木氏は1千万円超の裏金を受け取ったともいわれており、最終的に高木氏らの裏金が森元総理に流れていないとも限らない。全容解明のために、特捜部が森元総理の聴取に乗り出してもおかしくはありません」

 元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は、

「池田議員が連休明けを待たず、早い段階で逮捕されたのはなぜか。事務総長経験者や他の幹部を追及するために、本気度を示す狙いもあったと思います」

 森元総理は現在、東京都心の「介護付き有料老人ホーム」に隠棲している。部屋によっては億単位の入居料が必要な24時間介護付きの超高級施設に寝起きしながら、心休まらぬ新年を過ごしているのではないか。

週刊新潮 2024年1月18日号掲載