「『原発をやめる』という政治家に、国民が投票行動をすれば本当にやめられる。皆さんが私の分身となって、原発の危険性を広めてほしい」

 

 

 関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の運転差し止め訴訟で、2014年5月に運転を認めない判決を出した元福井地裁裁判長の樋口英明さん(71)が、13日に茨城県つくば市内で講演した。20年前に原発計画が凍結された石川県珠洲市の地震被災に触れ、「原発反対の市民運動のおかげでこうして講演会ができる。当時の人たちに感謝しなければいけない」と語った。(青木孝行)

 元日の能登半島地震では、珠洲市付近を震源とするマグニチュード(M)7・6、最大震度7を観測し、同市内も震度6強の揺れに襲われた。

 珠洲市ではかつて、北陸、中部、関西の三つの電力会社が共同で原子力発電所の建設を計画。候補地の一つだった同市高屋町は、今回の震源地域に隣接する。「珠洲原発」は地元住民の間で建設に対し賛否が分かれ、電力自由化による競争激化などもあり、03年12月、3社は計画の凍結を表明した。
 

 講演で樋口さんはまた、国による原発再稼働の動きに関し「脱原発運動の一番の敵は、私たちの心の中にある『原発は難しい問題』という先入観です」と語った。原発は人が管理し続けなければならず、管理できなくなった場合、事故の被害は極めて甚大になる。樋口さんはそれを踏まえ、「地震大国」の日本では「原発はやめるしかない」との理解に至ると述べた。

 そのうえで、約200人の聴衆に「『原発をやめる』という政治家に、国民が投票行動をすれば本当にやめられる。皆さんが私の分身となって、原発の危険性を広めてほしい」と呼びかけた。

 

 

 今回の講演は、樋口さんが主人公の映画「原発をとめた裁判長そして原発をとめる農家たち」(92分)の上映会(上映&講演会実行委員会in茨城主催)に合わせて開かれた。

 講演後には、東京電力福島第1原発事故による自主避難者で福島原発被害東京訴訟原告の鴨下美和さん(53)や、原発事故損害賠償群馬訴訟の原告、丹治杉江(たんじすぎえ)さん(67)らと樋口さんとのパネルトークもあった。

<ひぐち・ひであき> 1952年、三重県鈴鹿市生まれ。京都大法学部卒。83年に判事任官。福岡、静岡、名古屋などの地裁・家裁、大阪高裁などで勤務。2014年5月に福井地裁で、裁判長として大飯原発差し止め判決を出し、15年4月には高浜原発再稼働差し止めの仮処分を命じた。17年8月、名古屋家裁を最後に定年退官。津市在住。

 

 

能登半島地震でマスコミが映さない原発の「不都合な真実」 ずさんな避難計画を隠そうとする政府と電力会社 古賀茂明

 
 
 先週に続いて、あまり知られていない原発の「不都合な真実」をもう一つ紹介しよう。

 それは、原発周辺住民などのために作られている原発災害避難計画は原子力規制委員会の「審査」を受けていないということだ。

 普通の人は、国が再稼働を認めるからには、ちゃんとした避難計画があり、その計画は、政府が言うところの「世界最高水準の」基準に従って規制委が審査していると思うだろう。だが、実際には全く違う。規制委は、避難計画にはノータッチなのである。
 したがって、ほぼ全ての計画が全くいい加減な「なんちゃって避難計画」になっている。信じられないかもしれないが、それが真実だ。

 今回の能登半島地震では、地震と津波、火災による家屋の被害とともに、広範囲に及ぶ道路が、土砂崩れ、亀裂、陥没、隆起などで寸断された。津波で港が被害を受け、海岸が隆起した地域もあった。

 そのため、人や物の移動が陸路でも海路でも困難になったり、長時間孤立したりする地域も出た。

 先週のコラムでも書いたとおり、北陸電力志賀原発では大事故は起きなかったが、想定を超えた揺れが確認されたり、そのほかにもいくつかの重大なトラブルが起きたりして、また、敷地内の道路などで亀裂や段差が生じたという報告もなされた。

 原発事故につながるような大きな地震があれば、こうした事態になることは誰でも予想できる。

 当然のことながら、それに対応するための対策がとられているはずだ。

 では、具体的には、どのような対策があるのだろうか。

 原発災害の際の避難計画は、各自治体が策定することになっている。そこで、志賀原発が立地している「志賀町原子力災害避難計画」をネットで検索してみた。平成29(2017)年11月付の資料だ。

 読んでみて呆れたのだが、避難手段を記載した箇所の冒頭に、

「避難にあたっては、災害の状況に応じ、自家用車をはじめ、自衛隊車両や国、県、町の保有する車両、民間車両、海上交通手段などあらゆる手段を活用する」

 と書いてある。要するに、主たる移動手段は「自動車」としているのだ。ご丁寧に自家用車で避難できない人はバスで運ぶとまで書いてある。避難ルートは国道・県道などとし、警察・消防が避難誘導を行うそうだ。
 
 
 今回の地震を見れば、この計画が全く役に立たないことがよくわかるだろう。ほとんど笑い話のようだが、笑い事ではすまない。ことは多数の人命に関わる問題なのだ。

 こんな杜撰な計画を真面目な顔をして住民に提示している志賀町はとんでもない自治体だと思う人もいるかもしれない。志賀町の町長も町会議員も町役場の職員も本気でこの計画で大丈夫だと考えていたのだろうかということが疑問に思えるだろう。

 しかし、全国の原発立地地域の自治体が作った避難計画は概ねこの程度のものだ。実は、彼らもこんな計画は絵に描いた餅であることはよく知っている。しかし、原発を動かさないと地域にお金が入ってこないので、やむなく作っているということだ。
 
彼らから見れば、それも住民のために仕方なくやっていることなのだろう。

 逆にいうと、住民のためにやむなくやっていることで後から責任を問われるのは割に合わないと思う自治体の長も多い。

 そこで、国が助け舟を用意した。

 内閣総理大臣が議長を務め、全閣僚などからなる「原子力防災会議」という、閣議とほとんど同じメンバーの政治的な集まりでお墨付きを与える仕組みを整えたのだ。これにより、避難計画はおかしいと言われても、「いえいえ、これは総理大臣のお墨付きを受けたものです」と反論できる。責任逃れにはうってつけだ。

 そういう仕組みになったのは、民主党政権下で原発規制を作る時に、あえて、避難計画を規制委の審査の対象外としたことによる。

 だが、そんなおかしなことをしたのはなぜか?

 それは、避難計画を規制委の審査対象とすれば、専門家のチェックが入り、その結果、承認される避難計画は皆無となる。なぜなら、大きな地震で原発災害が起きた時、道路などが寸断されるリスクがない地域などなく、その場合、住民を短時間のうちに避難させることが不可能だからだ。つまり、まともな避難計画は作れないということを意味している。

 仮に、規制委が避難計画を審査することになれば、どう考えても、承認されるとは考えられない。つまり、日本の原発は全て止まり、廃炉にするしかなくなる。

 しかし、当時原発規制について協議していた与党民主党と野党自民党には共通の利益があった。自民党は原発利権を守りたい。民主党は最大の支持基盤である連合(電力総連など原発関連の有力な組合を傘下に有する)の支持を失いたくない。両者の思惑が一致して、原発を動かすために避難計画を規制委の審査対象外としてしまった。

 避難計画を規制委の安全審査の対象外とすることは、極めて不合理である。

 第一に、住民の避難ができない可能性があるのであれば、原発から放射能が漏れることは絶対に許さないという安全基準にしなければならない(それは原発を禁止するのと同義である)。

 第二に、避難はできても時間がかかるということであれば、その時間が経過するまでの間は事故があっても放射能が漏洩しないような設計にしなければならない。メルトダウンは稼働中なら2時間で起きる。フィルターベント(事故の際、原子炉格納容器内の圧力が高まって破損する恐れが生じた場合に、フィルターを通すことで放射能の濃度を下げたうえで蒸気を外部に逃がす装置)で放射能を外に放出するまでの時間を長くするためには、格納容器や原子炉建屋の容積を大きくする必要がある。避難にどれくらい時間がかかるかがわからなければ、設計基準が決められないはずだ。

 いずれにしても避難計画と設計基準は論理的に切り離せないのだ。

 米国では、住民の避難ができないケースが想定されれば、原発の稼働は許されないという規制になっている。

 現に、ニューヨーク州のロングアイランドに新設されたショアハム原発が、1984年に完成したものの、稼働直前になって避難計画に難ありという理由で稼働が許されず、一度も動かないまま廃炉にされた。東京電力柏崎刈羽原発や志賀原発と同じ沸騰水型の出力約80万キロワットで、建設コストは60億ドルにも上ったが、住民の安全の方が優先された。これが正しい原発規制のあり方だ。

 日本の原発規制は極めて歪んでいる。原発再稼働が全ての前提になっており、再稼働の妨げになるものは、考慮しないということが平気で行われているのだ。規制委は、住民の安全を守るためではなく、原発を動かすことを第一目的とした機関となっている。これは、規制委ができた時からわかっていたことだ。

 2012年当時、最大の課題は、福島事故の完全な収束であった。具体的には汚染水の処理問題が喫緊の課題だった。しかし、規制委は、規制基準の策定を最優先し、最低2年は必要と言われる中で約半年という短期間で規制基準を作った。これは、規制基準がないと審査ができず、原発再稼働ができないからだ。その結果、汚染水問題は放置された。

 今回、志賀原発で大事故が起きなかったのは本当に幸いだった。だが、それで喜んでいるわけにはいかない。

 現にさまざまなトラブルが原発内で生じ、また周辺道路も一時通行ができなくなった。震源が少しずれていれば、もしかすると大惨事になっていたかもしれない。

 住民の反対で頓挫した珠洲原発の建設計画も、当時は地震でも大丈夫だという話だった。もし、計画が実現して珠洲で原発が稼働していたら、壊滅的な被害が生じ、周辺住民は避難できず大惨事となっていたことだろう。

 今回の地震に際し、マスコミには当初、原発周辺の現場に足を運んで取材する様子が見られず、1月5日ごろになるとようやく写真などが報じられるようになったが、報道としては極めて小さな扱いでしかなかった。

 忖度しているのかなと思ってテレビ局の複数のディレクターなどに聞くと、驚くべきことに、スタッフで原発のことを気にかけていた人はほとんどいなかったという話だった。原発にカメラを出そうと提案をしても、人手もカメラも足りない中で、原発にカメラを出してどうするのだと言われるだけだと最初から諦めたという人もいた。忖度でもなんでもない。ことの重大性の理解がないのだ。報道の劣化が如実に表れた場面である。その結果、原発関連のニュースは今も極端に少ないという状況が続いている。

 これは、政府や電力会社にとっては嬉しい話だ。

 今頃、志賀原発では、敷地内で亀裂や段差の修復や故障した機器の復旧が進んでいるだろう。周辺道路の修復も優先して行われるはずだ。

 その結果、1カ月も経たないうちに、志賀原発は、一見何事もなかったかのような外見に戻る。2月になれば、北陸電力の方から、現地を撮影してくださいという案内があるかもしれない。大被害を出した能登半島地震でも、ほとんど無傷だった志賀原発という絵が流れれば、原発再稼働に追い風が吹く。

 1月26日から通常国会が始まる。そこで、野党には、この原発の問題を重点的に取り上げてもらいたい。その際、避難計画を規制委の審査対象に含めることを提案し、法律の改正案を提出するところまで踏み込むことが必要だ。

 政府の側にそれを拒否する理屈はない。今までは、国民が知らなかっただけだが、今回はこの問題に関心を集めることができる。千載一遇のチャンスである。

 そして、避難計画が規制委の審査対象になれば、現在稼働中の原発を含めて、おそらくほとんどの原発を動かすことが認められなくなるはずだ。

 ただ、心配なことがある。それは、電力労組や原発メーカー関連の組合などを傘下に置く連合が立憲民主党に圧力をかけることである。今のところ、同党は、今回の地震を受けて、避難計画を規制委の審査対象に加えよという話はしていない。

 先週指摘した原発の耐震性の問題よりも、はるかにわかりやすく、反対する理屈がほとんど考えられないこの問題を取り上げた方が勝算がある。

 脱原発には反対でも、まともな避難計画を作れということに反対する人は少ないだろう。

 私は、この問題を真正面から取り上げれば、必ず原発を止めることにつながると確信している。
 

 

志賀原発、完全復旧に半年以上 再稼働審査、さらなる長期化も

 
 
能登半島地震で震度7を記録した石川県志賀町に立地する北陸電力志賀原発は、重要施設に安全上の大きな被害はなかったが、外部電源の一部は今も使えず、北陸電は完全復旧に少なくとも半年以上かかるとの見通しを示す。9年に及ぶ再稼働審査のさらなる長期化は必至で、同社が目指す早期稼働の道のりは険しい。

「断層を確定するにも年単位、審査はそれ以上の時間がかかる」。10日の記者会見で、原子力規制委員会の山中伸介委員長は、現在審査中の志賀原発2号機の見通しに言及した。

志賀原発は運転停止中だったが、今回の地震で1、2号機の変圧器配管が破損し、外部電源5回線のうち2回線が使えなくなった。変圧器からは約2万リットルの絶縁油が漏れ、一部が海に流出。使用済み燃料を冷やす貯蔵プールの水も飛散し、1号機では一時冷却ができなくなった。
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13年前に起きた東京電力福島第1原発事故では地震によって外部電源が失われ、津波で発電所内が浸水、全電源を喪失した。この結果、原子炉を冷却する機能が停止、メルトダウン(炉心溶融)につながった。今回の地震でも地震発生から約1時間後に最大3メートルの津波が到達したが、原発の敷地は海抜11メートルの高さにあり、さらに4メートルの防潮堤が設置されていたため浸水被害はなかった。

だが、想定外もあった。原子力規制庁によると、地震の揺れの大きさを示す加速度が、原子炉建屋の基礎部分で設計上の想定をわずかに上回った。東西方向の0・47秒周期の揺れに対し、1号機では957(想定は918)ガル、2号機では871(同846)ガルを観測した。

原発は建物や設備ごとに揺れやすい周期があり、構造物の揺れの大きさもそれぞれ想定が異なる。ただ、今回観測された周期帯は原子炉建屋など重要施設への影響はなく、規制庁も「安全上の問題はない」としている。

能登半島地震は150キロに及ぶ活断層がずれ動いて起きたとの見方が強まり、未知の断層と連動した可能性も指摘されている。震源近くでは地盤の隆起が確認され、志賀原発でも海側にある物揚場の舗装部が沈下し、最大35センチの段差が生じた。

原発の安全対策を定めた新規制基準では、原子炉直下に活断層が存在する場合、運転ができなくなる。北陸電は平成26年に2号機の再稼働に向けた審査を規制委に申請。敷地内断層が活断層か否かを巡り議論が長引いたが、北陸電は新たな評価手法を導入し昨年3月、「活断層ではない」との主張が認められたばかりだった。今後の審査でも周辺の活断層との連動性などを検討するが、北陸電がこれまで想定した断層帯の評価に見直しを迫られる可能性もある。(白岩賢太)

「耐震評価に反映すべき」 東電、関電、東北電は…

能登半島地震では新潟県に立地する東京電力柏崎刈羽原発でも、使用済み燃料プールの水があふれたが、異常は確認されなかった。10日には地元住民と東電関係者らが意見交換する会合が開かれ、安全性に関する質問が住民側から相次いだ。東電側は「能登では活断層が海岸線ぎりぎりにあった。同じような隆起を起こす断層は確認されていない」と説明した。
 
地震発生時、保有7基のうち5基が稼働中だった関西電力は、揺れが原子炉を自動停止させる基準を下回り、施設内の異常も確認されなかったため、福井県にある高浜原発1~3号機と大飯原発3、4号機の稼働を継続した。他の2基は定期検査で停止中だった。

ただ、7基が集中する若狭湾周辺にも多くの断層が存在する。関電は今回の地震の分析結果や志賀原発の被害状況などを情報収集し、「耐震評価などに反映すべき知見が確認された場合には適切に対応する」としている。

志賀原発と同様に半島に立地する東北電力女川原発(宮城県)では、重大事故発生時に地震で多くの建物が倒壊し、周辺住民の屋内退避が困難になる事態も想定される。13日に同原発を視察した原子力規制委員会の山中伸介委員長は「放射線防護ができる施設の充実を考えないといけない」との認識を示した。(白岩賢太、牛島要平)