極寒の被災地に防災服一枚で乗り込んだのも、また「やってる感」のパフォーマンスにしか映らない。リーダーシップも「聞く力」もない宰相では、被災地の不安は増すばかりだ。

 
「今更来たのか」「励ましが足りない」──。被災者も冷ややかな視線を向けた。岸田首相は14日、能登半島地震が元日に発生してから14日目に初めて現地入り。石川県輪島市と珠洲市の避難所を訪れ、避難者の声に耳を傾けたが、現場の視察時間はたったの90分以下。パフォーマンスのような駆け足視察で必要な支援を把握できたのかは甚だ疑問だ。

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「大変な状況が続いているようですが、全力で引き続き頑張るので心を強く持ってください」

 避難者550人が滞在する輪島市立輪島中学校を訪れた岸田首相は、被災者にそう呼びかけた。発災以来、「被災者に寄り添う」と繰り返している割に、どこか他人事だ。「皆さまの未来に向けて希望が持てるように努力する」と胸を張ったが、不安と寒さに震える被災者の心に届いたのかどうか。

 大事なのは被災者が今、直面している問題をいち早く解決することだ。視察は首相自らが現場のニーズを確認し、被災者支援や避難所の環境改善などに生かす目的だったが、視察当日の動きを見ると、とてもじゃないがニーズ把握に万全を期したようには見えない。

 岸田首相は14日午前9時31分、空自輸送機で石川県小松市の空自小松基地に到着。陸自ヘリで輪島市の空自輪島分屯基地を訪問し、自衛隊員や警察・消防への激励を8分で済ませると、松村防災相や同県の馳知事も同行して輪島中へ徒歩で移動。輪島中での滞在時間は、わずか25分だった。

 一部の教室などを回って切り上げた岸田首相の背中を見つめ、被災者のひとりは「体育館で皆を大声で励ませば、心持ちも違うのに」と不満がった。

 
防護服一枚ににじむ「やってる感」

   その後、岸田首相は陸自ヘリで被災現場を上空から約26分にわたって視察。そのまま珠洲市へと移動し、約310人が身を寄せる同市立緑丘中学校を訪問した。こちらも滞在25分で切り上げ、そそくさと石川県庁へ足を向け、午後4時24分に石川を後にした。

 視察後、岸田首相は県庁内の会見で「被災者のためにできることは全てやるとの決意のもとで、現下の震災対応、被災者の生活と生業の再建支援に全力で、取り組んでいく」と強調。今月中にも1000億円超の予備費の使用を決定する意向を表明した一方で、被災現場の視察は避難所2カ所への訪問と上空からの確認だけ。合わせて正味1時間半に満たない。

 それでいて「きめ細かく対応を考えていかなければならない」と神妙に語っていたのだから、いかに言行がチグハグなことか。

 ジャーナリストの横田一氏がこう言う。

「ただでさえ初動対応が遅れたのだから、まずそのことを謝罪したうえで被災者の言葉に耳を傾けるべきではなかったかと思います。石川県内では2万人近くが避難生活を余儀なくされています。たった2カ所の避難所を回り、それぞれ30分に満たない意見交換で、どうやって被災者のニーズを把握できたというのでしょう。被災者支援や医療の専門家への聞き取りも十分に行うべきでした。全体的にあまりにも短い視察で、とても『被災者に寄り添う』姿勢は見受けられません」

 極寒の被災地に防災服一枚で乗り込んだのも、また「やってる感」のパフォーマンスにしか映らない。リーダーシップも「聞く力」もない宰相では、被災地の不安は増すばかりだ。

 

尾木ママこと尾木直樹さん「一体どこまで被災者の命と人権を軽んじてるのか」津波浸水想定区域への仮設住宅建設に怒り

 
 
 教育評論家の尾木ママこと尾木直樹さんが13日、自身のブログを更新。能登半島地震で甚大な被害が出た石川県珠洲市、輪島市で仮設住宅の建設が始まったが、一部はハザードマップの津波の浸水想定区域にあることについて、「一体どこまで被災者の命と人権を軽んじてるのか」と怒りをあらわにした。

 「被災者の命を軽視し、津波をなめてる!?」とのタイトルで投稿した尾木さん。「イヤ~ ビックリ ビックリ いくら土地がないとは言っても珠洲市と輪島市 仮設住宅をハザードマップで『津波』地域に指定されている場所に何十戸も建設するという」と記すと、止まらなくなった。

 「一体どこまで被災者の命と人権を軽んじてるのか!」「どこまで自然、津波をなめてるのか」「ハザードマップで警戒せよと薦めておきながら、それを自分で無視するのですから文字通り『天に唾する』決定ではありませんか!」と列記。「何か今回の激震災害への支援策にはとりわけ政治の対応が遅く貧し過ぎませんか?」と疑問視した。

 両市は山間部が多く、仮設住宅の建設に適した広い平地の確保が難しいという。
 
 

「生活の足 再開早く」

被災「のと鉄道」 住民切実

 
(写真)のと鉄道・穴水駅で発災時に停車したままの車両=13日、石川県穴水町
 
 石川県七尾市と穴水町を結ぶ「のと鉄道」。奥能登につながる唯一の路線です。駅舎の損壊や、線路がゆがむなど1日の能登半島地震で甚大な被害を受けました。運転再開の見通しは立たないといいます。地域住民からは「一日も早い復旧を」と願う声があがっています。

 「のと鉄道」の終着駅である穴水駅。駅前の住宅地でプロパンガス屋を営むAさん(48)の家に遊びにきていたヤチさん=東京在住(仮名、52)は、穴水町の魅力について「悔しいくらいに星空がきれいなところ」と語ります。年に数回、Aさんの家がある能登を訪れるために「のと鉄道」を利用しているといいます。正月休みに訪れていたときに被災しました。「高齢者も多い地域だから、(生活の足として)なくてはならない存在」だと話します。

 フォトスタジオを経営するBさん(73)、Cさん(70)。車で移動することが多い夫妻も鉄道が地域にとって大切な存在だといいます。甚大な被害を受けた穴水町。学校再開の見通しも立たないことからBさんは「もし、地域の子どもたちが七尾にある学校へ通うにしても鉄道がなければ」と話します。

 通勤や通学の利用客が多いという「のと鉄道」。再開を望む声がある一方、穴水駅のホームには車両が発災時に止まったままの状態が続いています。ヤチさんは「能登は気候がコロコロ変わって読めないところ。なかなか進まないのでは」と話します。(田中智己)