長年の自民党政権の地方を見捨ててきた弊害が今顕著に表われているのではないだろうか。

 

能登半島での地震「最悪の想定されていなかった」
 そもそも「陸の孤島」である能登半島での備えは十分だったのか。神戸大の室崎益輝名誉教授(防災計画)は「能登半島で三つの断層が同時に動く地震が起こる最悪の想定が認識されていなかった」と指摘する。

 半島や山岳部で救助隊がすぐ到着できない地域は他にもある。「本来は発生直後から大量の人員を派遣しないといけないが、直後には深刻な被害状況がつかめず、初動が遅れたことは問題だ。避難所での資材の備蓄なども想定が十分ではなく、阪神大震災や東日本大震災などの教訓が学ばれていなかった」として、こう戒める。

 「国も地方自治体も油断があったのかもしれないが、陸の孤島で大災害が起きた際の対応が今後問われる」

 

 

 能登半島地震発生から15日で2週間。岸田文雄首相が「総力を挙げる」とした政府の対応が問われている。家屋倒壊による生き埋め多発で「時間との闘い」となる中、自衛隊や消防は適切に派遣されたのか。司令塔である首相官邸の危機対応は十分だったのか。交通網寸断で陸の孤島となった半島での救助作戦も検証が求められている。(森本智之、曽田晋太郎)

 

◆「総力を挙げて」と首相は言うけれど
 「総力を挙げて一人でも多くの方を救命、救助できるよう全力で取り組んでほしい」。生存率が急激に下がる「発生72時間」を目前にした4日午前、岸田文雄首相は非常災害対策本部の会議で閣僚らに指示した。

 

 だが、その要を担うはずの自衛隊の派遣を巡っては批判が噴出している。時事通信によると、秋田県の佐竹敬久知事は9日、「対応が少し後手後手だ」と批判。2日目に1000人、3日目に2000人、5日目に5000人と派遣規模を段階的に増やしていることについて「最初から1万人規模の投入が必要だった」「東日本大震災を経験したものとして非常にはがゆい」と訴えた。

◆部隊を小出し、旧日本軍に例えられ
 熊本地震(2016年)では3日目に1万4000人余を投入しており、この違いも批判に拍車をかけた。立憲民主党の泉健太代表は、ガダルカナル島の戦いで部隊を小出しにして敗退を続けた旧日本軍になぞらえ、「逐次投入になっており、遅い」と指摘した。

 7日には、陸上自衛隊第1空挺(くうてい)団が千葉・習志野演習場で米英など計8カ国でヘリなどを使う「降下訓練始め」を行い、SNSなどで「こんな時に行わなくても」などと批判を受けた。航空自衛隊は埼玉・入間基地で20日に予定されていた航空祭を、災害派遣活動を理由に中止している。

◆こんな時に陸自幕僚副長ら靖国集団参拝も判明
 陸自を巡っては、小林弘樹陸上幕僚副長(陸将)ら数十人が9日、靖国神社に集団参拝していたことも判明。宗教の礼拝所を部隊で参拝することを禁じた事務次官通達に違反している可能性があるとして、防衛省は調査を始めた。災害対応とは直接関係ないかもしれないが、「総力」を挙げている最中のはずだけにきまりが悪い。

 「逐次投入」批判について政府側は、能登半島全体が被災して道路が寸断されるなど陸の孤島となった点を示し、「道路の復旧状況など見ながら受け入れ人数を増やしていった」(木原稔防衛相)と反論する。

◆東日本大震災では3日目で10万人体制

 

 

 阪神大震災の対応に当たった陸上自衛隊の冨澤暉(ひかる)・元陸上幕僚長も「災害対応は隊員を送り込んで終わりではない。どこに宿泊するか、水や電源など補給は確保できるか、現地の状況が確認できなければ、二次災害の可能性もあり、大量動員はできない」と理解を示す。元陸自レンジャー隊員で災害出動の経験もある井筒高雄氏も「能登半島はもともと交通アクセスが限られている上、被災で余計にルートの確保が難しくなった。初日に1万人を突っ込むことはできないだろう」と述べる。

 一方、防衛ジャーナリストの半田滋氏は「情報収集が先決なのは事実だが、今回は発生直後からヘリが現地に飛んでいた。なぜこんなに人員の増強がモタモタしているのか。後手に回っている」と指摘。岸田首相が現在も被災地に入っていない対応も疑問視。「東日本大震災の時は安全保障政策が弱点と言われていた民主党政権で、それもあってか2日目に5万人、3日目には10万人体制とした。熊本地震も安倍晋三首相のトップダウンが見えた。今回は岸田首相をはじめとする政治家の危機感が感じられない」

◆「5日の晩に届いたおにぎりの消費期限が5日だった」
 「支援をいただいて本当に助かっているが、5日の晩に届いたおにぎりの消費期限が5日だった。これを次の日に被災者に届けるのはいかがなものかと思い非常に悩んだ。ぜひ、消費期限の少し長いものとか、できるだけ早い段階での物資の輸送をお願いしたい」

 6日に開かれた石川県の災害対策本部員会議で、大森凡世・能登町長は、混乱する現地の様子をこう訴えた。

◆「司令塔として機能していない首相官邸」
 被災地のニーズを把握し、「プッシュ型」で積極的に支援するとしている首相官邸。だが、政府関係者や被災地を取材する経済ジャーナリスト小倉健一氏は「岸田首相が政府内や地元との調整なく、現場を無視してトップダウンで対応を決めているため、混乱を来している。官邸の司令塔としての役割が機能していない」と指摘する。

 

 

 小倉氏によると、出所不明の孤立者リストのチェックや、被災地のニーズを把握する「御用聞き部隊」編成などの指示もあったという。「首相は低迷する内閣支持率を何とか持ち直そうとするのに一生懸命。被災者のためではなく、自分や政権のために行動する姿が透ける」

 当の岸田首相は「私自身が陣頭指揮を執る」として、地震発生後、連日政府の非常災害対策本部会議に出席。防災服姿で記者会見などにも臨んでいる。

◆5日には経済団体の新年会に参加
 一方、5日には経済団体の新年会に参加。「震災対応に万全を期すため、政府総力を挙げて取り組んでいる」と述べつつ、賃上げや投資、株価の上昇に言及した。

 地震対応の遅れも指摘される中だったが、官邸内の雰囲気はどうだったのか。ある自民党関係者は「当初から官邸はピリピリしている。首相はやれることは全力でやるという姿勢だ」と解説。ある官邸関係者も「緊張感を持って、淡々といろんな対応を考えている」と説明する。

◆半島という特殊な地域、危機管理甘く
 だが、政治ジャーナリストの泉宏氏は「半島という特殊な地域での危機管理の認識が甘く、やるべきことが遅きに失している。官邸の危機管理体制が穴だらけであることを国民に印象付けてしまった」と指摘。「政府は危機管理体制を検証し、可及的速やかに『半島有事』の対応策を示すべきだ」と語る。

 

 

 今回は、消防も発災直後から被災地での救助、救急活動を実施。総務省消防庁の災害対策本部の発表(消防のみの集計)では、12日発表の最新の救助人数は計359人、搬送人数は計1818人。

◆能登半島での地震「最悪の想定されていなかった」
 そもそも「陸の孤島」である能登半島での備えは十分だったのか。神戸大の室崎益輝名誉教授(防災計画)は「能登半島で三つの断層が同時に動く地震が起こる最悪の想定が認識されていなかった」と指摘する。

 半島や山岳部で救助隊がすぐ到着できない地域は他にもある。「本来は発生直後から大量の人員を派遣しないといけないが、直後には深刻な被害状況がつかめず、初動が遅れたことは問題だ。避難所での資材の備蓄なども想定が十分ではなく、阪神大震災や東日本大震災などの教訓が学ばれていなかった」として、こう戒める。

 「国も地方自治体も油断があったのかもしれないが、陸の孤島で大災害が起きた際の対応が今後問われる」

 

◆デスクメモ
 阪神大震災直後、市役所の隅で毛布をかぶり、ぼうぜんとしていた消防隊員が忘れられない。現在は消防も警察も自衛隊も応援態勢が整い、救助機材も充実。だが、今回は交通の途絶に年始や降雪の悪条件も加わっている。現場の人々を支える上層部の判断がこれまで以上に問われる。(本)

 

 

どうなってる?国の「防災予算」 災害大国の日本、この使い方で本当にいいのか 防衛費は過去最高だけど…

 
 能登半島地震は発生から10日以上たってもなお、被害の全容がはっきりせず、孤立地域が存在する状態だ。災害大国の日本で、改めて防災の重要性が浮かび上がる。防衛費は2024年度当初予算で約7兆9000億円と過去最高を記録したが、防災関係の予算はどの程度なのか。災害を巡る予算運用は適切になされているのだろうか。(西田直晃、岸本拓也)
 
◆今のトレンドは「下り坂」
 内閣府は各省庁の毎年度の防災関係予算を積算し、防災白書で発表している。
 
 最新の23年版の同白書によると、23年度は約1兆6000億円で、22年度の約3兆円の半分程度。ただ、23年度分については当初予算段階の速報値で、国土交通省の担当者は「防災関係予算は、災害発生時に事後の補正予算などで対応するのが一般的」と説明する。今後、補正予算や予備費からの支出が上積みされ、確定値となる見通しだ。
 
 
 グラフにしてみると、過去に二つの山があり、現在は下り斜面にいるようにみえる。
 
 最大のピークは阪神大震災直後の1995年度。前年度から急増し、過去最多となる約7兆5000億円に上った。その後は減少傾向にあったが、東日本大震災直後の2011年度には再び増加に転じ、約4兆7000億円に達した。能登半島地震により24年度は再び増加する可能性が高い。
 
◆「研究予算」は一貫して2%以下
 内閣府は防災関係予算を4項目に分類している。各種災害や防災・減災の調査研究を指す「科学技術の研究」、防災施設の整備や建物の耐震化、訓練や教育といった「災害予防」、地盤沈下対策や治水・治山事業などの「国土保全」、被災者の生活再建支援や災害復旧事業を含む「災害復旧等」だ。
 
 年度を追って防災関係予算の使途の内訳を4項目別にみると、「災害復旧等」が自然災害の動向次第で1~7割と上下する一方、「科学技術の研究」は一貫して2%以下で推移する。「災害予防」の比率が増加傾向にあるとともに、かつては関係予算の4~6割を占めていた「国土保全」は1~2割程度にとどまる。
 
 
 「昭和期に自然災害を防ぐための土木工事が求められたが、公共事業が右肩下がりになってきた1990年代後半以降は防災関係の工事も相対的に減っている」と国交省の担当者。東日本大震災以降、災害予防の重要性が増したのは、発生を前提に被害軽減を図る「減災」の考え方が広まったことも大きいという。
 
 一般会計予算に占める防災関係予算の割合をみてみると、災害対策基本法が成立した60年代に比べて低下している。集計が始まった62年度には8.1%だったが、22年度は2.2%にとどまった。
 
◆予算を集約した資料は「この白書しかない」
 内閣府の担当者は「大きな災害が発生すると、防災関係予算が増やされ、全体の予算に占める割合も大きくなる」と話すが、長期的な割合の低下傾向の説明としてはすっきりしない。
 
 
 さらに「防災関係予算と一口に言っても、年度ごとにどの範囲を含んでいるかの違いもある。国立機関の独立行政法人化で集計から除外された事業などもある」(担当者)とも。
 
 なお、防災関係予算を集約した資料は「この防災白書しかない」という。災害大国・日本の防災関係予算の全体像はつかみづらい印象だ。
 
◆減災、復興、強靱化…本当に適切に使われていたのか
 過去の災害を振り返ると、防災や減災、震災復興などの名目で多額の予算が使われてきた。ニーズに沿って適切に使われてきたのかというと実態は怪しい。
 
 例えば、西日本豪雨などを受け、2018〜20年度の計画で実施された国土強靱(きょうじん)化緊急対策事業を巡り、会計検査院が昨年5月、緊急輸送道路でない道を無電柱化するなど、目的外の支出が計672億円あったと指摘した。東日本大震災のときも、各省庁が復興との関係が疑わしい事業を復興予算に潜り込ませ、「便乗」と批判された。
 
 
 能登半島地震では、政府は23年度の一般予備費から、被災者支援のために約47億円を支出することを決めた。自然災害などに備え、使途を決めずに毎年、予算計上されている予備費は約4666億円残っており、必要に応じてここから追加支出していくという。さらに政府は24年度予算案を変更して予備費を現状の5000億円から1兆円に倍増させる方向で検討している。
 
◆また「予備費」 ずさんな運用で多額の繰り越しも
 予備費は国会審議を経ないで政府の裁量で支出できるが、たびたびその使途が問題視されてきた。新型コロナ禍の20年度にそれまで数千億円程度だった予備費を10兆円超に拡大。その後、物価高対策やウクライナ問題にも使途を広げた。会計検査院も昨年9月、多額の予備費が繰り越されるなど、ずさんな予算運用があったと指摘した。
 
 
 今回の予備費支出について、白鷗大の藤井亮二教授(財政政策)は「震災の復旧にどれだけ費用がかかるか見通せない状況で予備費を使うのはやむを得ない」と理解を示しつつ、野放図に拡大しないように歯止めが必要と指摘する。
 
 「政府は新年度予算で、『一般予備費』を倍増すると報道されているが、一般予備費の増額は政府への白紙委任を広げるだけ。能登半島地震の対応に使途を制限する『特定予備費』とするべきだ。予備費の使用はやむを得ない場合に限定し、傷んだ地域経済の立て直しなど必要な予算は、補正予算を編成して国会の審議を経た上で執行することが求められる」
 
◆住宅の耐震化が急務 何が必要なのか
 一方、能登半島地震を巡っては、石川県の地震被害想定が1998年から更新されず、県が2022年9月から想定の見直しを進めていたさなかに地震に見舞われた。古い木造住宅を中心に大きな被害が生じたことを踏まえると、適切な現状分析に基づいて予算を効果的に使い、住宅の耐震化などの対策を推進する重要性が高まっている。
 
 名古屋大の福和伸夫名誉教授(建築耐震工学)は、能登半島で住宅耐震化が進んでいなかった理由を「耐震化は住宅の建て替えが中心。だが、高齢者が多い過疎地では『次住む人がいないから』となかなか進まない。国も自治体も私有財産である民間の建物に対して強く言えず、結果的に過疎地ほど耐震化は遅れている」と指摘し、「まず実情を知り、国民の間で耐震化を進めようと意識を高めていくことが大事だ」と説く。
 
 
 第一歩として、耐震基準を改定した国の責任で全国の住宅や建物を耐震診断して、その結果を公表するよう提案する。「自分の家や普段利用する建物が安全なのか、国民には知る権利がある。安全への意識が高まれば、行政は耐震化への予算を支出しやすくなる。耐震補強だけでなく、耐震シェルターの設置など、できる範囲で対策を進めるきっかけにもなる」とした上で、こう呼びかける。
 
 「南海トラフ地震の想定被災地域は、能登半島地震の25倍、揺れの震度は一つ上がる。住んでいる人は100倍以上だ。いま本気で耐震化をやらないと取り返しが付かなくなる」
 
◆デスクメモ
 厳しい冷え込みの中、避難生活を強いられる被災者が多数いる。支援のための迅速な財政措置を望む。だが、野放図であってはならない。被害の甚大さを鑑みると、備えの大切さも痛感する。防災の予算が効果的に使われているか。誰もがわが事として目を光らせることが重要だ。(北)