そもそも、安倍元首相が還流廃止を言い出した意図も判然としない。特捜部が聴取した安倍派議員に対し、「キックバックの一部を森元首相に上納していなかったか」と聞いているとの情報もある。東京五輪汚職をめぐり、特捜部の遺恨はくすぶる。小悪も巨悪も眠らせないでほしい。国民の切なる願いだ。

 

 

通常国会が26日に召集される運びとなり、自民党派閥の政治資金パーティー収入裏金化事件をめぐる東京地検特捜部の捜査はいよいよ大詰めだ。とりわけ安倍派(清和政策研究会)の汚いカネの流れをどこまで解明できるのか。

政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で事務方の会計責任者の立件が確実視される中、西村康稔前経産相や下村博文元文科相ら幹部が再び任意で事情聴取を受けたという。オーナー気取りだった森元首相に対する包囲網がどうやら狭まっているようだ。

◇ ◇ ◇

西村氏と下村氏は、ともに派閥の実務を取り仕切る事務総長経験者。販売ノルマを超えたパーティー券収入をそれぞれの議員にキックバックする裏金スキームを把握していたとみられている。還流と一部議員による「中抜き」を合わせた安倍派の裏金は、時効が未成立の2018年からの5年間で約6億円。特に西村氏については、会長だった安倍元首相の意向でキックバック廃止を決定し、安倍元首相の死去後に撤回した際の事務総長だった。一昨年のことだ。

「還流廃止と復活のタイミングで事務総長だった西村氏は、報告や了承などといった事務方とのやりとりがどうしたって避けられず、共謀の構図をとらえやすい。立件は不可避でしょう。証拠固めのための再聴取にしても、下村氏にまでまた聞くのは腑に落ちない。本人を挙げるというよりは、別の狙いが透けて見える。裏金スキームが動き出した当時の清和会会長だった森氏の関与の度合いを調べ上げるためではないか」(司法関係者)

18年1月以降の事務総長は、下村氏→松野博一前官房長官→西村氏→高木毅前国対委員長の順。キーマンとは言えない下村氏が再び呼ばれたのは、森元首相との因縁ゆえか。

小悪も巨悪も眠らせるな
総理総裁への野心をたぎらせる下村氏は安倍元首相死去後に会長就任をもくろんだが、シャシャリ出てきた森元首相があの手この手で阻止。森元首相に土下座したエピソードを暴露し、西村氏ら「5人衆」をさんざっぱら持ち上げ、下村氏を中枢から徹底的にパージした。

「森さんは引退後も億単位のカネを集め、とかく資金力を誇ってきた。カネに対するこだわりは強く、会長昇格を狙った塩谷立座長に『カネはあるのか?』と詰め寄ったほど。安倍さんの鬼籍入り以降、中ぶらりんの清和会を事実上取り仕切ってきたのは森さんです。ポスト岸田の座を狙う西村氏がこれ見よがしの忠誠心で森さんに逐一報告していたのは想像に難くない。森さんから蛇蝎のごとく嫌われ、痛めつけられた下村さんは事情をよく知る一人なのも間違いないでしょう」(自民党関係者)

そもそも、安倍元首相が還流廃止を言い出した意図も判然としない。特捜部が聴取した安倍派議員に対し、「キックバックの一部を森元首相に上納していなかったか」と聞いているとの情報もある。東京五輪汚職をめぐり、特捜部の遺恨はくすぶる。小悪も巨悪も眠らせないでほしい。国民の切なる願いだ。

 

 

【独自】安倍派で複数の閣僚経験者が「中抜き」か 自民党「裏金」事件

 
 
自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金事件で、ノルマを超えた分を派閥に納めない、いわゆる「中抜き」が、安倍派の下村博文元文科大臣や丸川珠代元五輪担当大臣ら閣僚経験者の側にもあったことが分かりました。

安倍派をめぐっては、政治資金パーティーの収入の一部が派閥側から議員側にキックバックされ、政治資金収支報告書に記載されず、過去5年間でおよそ5億円が裏金になっていた疑いがあります。

このキックバックとは別に、ノルマを超えた収入を派閥に納めず、議員側が手元で管理していた「中抜き」が、少なくともおよそ8000万円あることが分かっています。

その後の関係者への取材で、こうした「中抜き」が、安倍派の事務総長も務めた下村博文元文科大臣側におよそ500万円、丸川珠代元五輪担当大臣側にもおよそ700万円あることが新たに分かりました。

安倍派所属 丸川珠代 参院議員
「(Q.ご自身はキックバックや裏金、中抜きはあったんでしょうか)…」

丸川氏は、JNNの取材に答えませんでした。

JNNは改めて、下村氏・丸川氏側に書面で取材を申し込みましたが、期限までに回答はありませんでした。

安倍派では、「中抜き」が10数人の議員側で行われていて、東京地検特捜部は、収支報告書に記載しなかった経緯などを調べているものとみられます。
 
 

20代支持率が「50%→10%」に急落…岸田政権によって「若者の自民党離れ」がついに始まった根本原因

安倍、菅時代の「貯金」を全て使い果たした
 
 
若者層の支持政党に変化が生じている。ライターの平河エリさんは「若者の自民党支持率が急落している。岸田政権は安倍、菅時代の貯金を食いつぶしたようだ」という――。

■「ジリ貧」の岸田政権と自民党の支持率

 岸田政権が、低支持率にあえいでいる。

 毎日新聞の世論調査(12月16~17日)では16%、時事通信(12月8~11日)では17.1%と、複数の世論調査で10%台の支持率となり、多くの政治関係者に衝撃を与えた。

 同じくして、自民党の支持率も低下している。朝日新聞世論調査(12月16~17日)では支持率23%と、自民党の政権復帰後最低の支持率を更新するなど、少なくとも2012年からの自民党政権では最も定位の水準にあることは間違いないだろう。

 原因は一つではない。岸田内閣自体の支持率はジリ貧で、2022年末から低下傾向にあった。春先から夏にかけて、ウクライナ訪問などの外交成果により一定持ち直したものの、そこから再び内政に目が向いたことで再び低下トレンドに入っていた。それに加えて、今般の自民党における派閥の不祥事により、ついに自民党にまで火がついた格好だ。

■「岸田おろし」で総選挙に突入か

 自民党は内閣支持率が落ち込むと「○○おろし」という形で看板の架替えを行い、「ご祝儀相場」が残っている間に解散総選挙を打ってしのぐ、という戦略を取る。

 典型的なのは、まさに岸田内閣だろう。支持率低下にあえぎ、衆参の補選や横浜市長選で破れた菅義偉前首相は総裁選に出馬することを阻まれ、退陣を表明。就任と同時に岸田文雄新首相は解散を宣言し、議席こそ減らしたものの、絶対安定多数を確保するなど事実上勝利した。

 このような状況を踏まえると、岸田首相で総選挙に突入する可能性は低いと見るのが永田町のコンセンサスだ。しかし、今回に関しては、前回の菅義偉内閣とは異なり、自民党自体の支持率が大きく低下するトレンドに入っている。つまり、自民党自体の比例得票数などにも影響する可能性は否めない。

 また、仮に総裁選を行うとしても、安倍派・二階派が動けない以上、岸田派・麻生派・茂木派など、岸田政権を支えた派閥が主導して総裁選びが進むことになる。新総理の人選によっては、刷新感は薄れることになるだろう。

■安倍、菅時代の貯金を使い切った岸田政権

 岸田政権の支持率低下の特徴は何か。一つは、若年層の支持を急速に失っていることだ。

 安倍政権時、メディアでは盛んに「若者の保守化」が唱えられていた。選挙の出口調査でも、10代20代の支持率は底堅いことが示されていた。

 初期の岸田政権も、例外ではなかった。2021年の解散時には「なぜ若者は自民党に投票するのか?」という記事が掲載されている。

 これによれば、自民党に投票する割合が最も高かったのは10代であり、続いて20代と、若年層による自民党の指示が底堅かったことが顕著だ。NHKの出口調査によれば、最盛期の2017年には20代投票者の50%が、比例で自由民主党に票を投じていた。

 岸田政権の支持率が低下し始めて以降の世論調査では、全く異なる結果が出ている。例えば、時事通信が10月に実施した世論調査では、岸田内閣の支持率は26.3%であるが、そのうち29歳以下の有権者は10.3%と、極めて低い数値となっている。60歳代、70歳以上は30%を超えているのと対象的である。

 安倍政権・菅政権においては、支持率が上下するものの、概ね若年層からの支持が底堅かった。岸田政権は、その貯金を失い、若年層の支持を失った結果、支持率の底が抜けていったと言える。

 これらのことを考えると、「若者の保守化」というよりも、単に安倍晋三元総理が個人としての人気が高かったことと、野党第1党である民主・民進・立憲の忌避感が高かっただけであり、根本的な「岩盤支持層」は高齢層であったことがわかる。

 与野党の第1党はどちらも、世論調査では高齢層の支持を中心としていると言えるだろう。

■自民党の次に人気な国民民主党

 では、新興政党はどうか。「若年層人気」という観点で、興味深い世論調査がある。

 12月のNHK世論調査では、世代別の支持率がグラフとして公表されたが、国民民主党が39歳以下の支持率で自民党についで2番目の支持率となったことが話題になった。

 国民民主党は党首である玉木代表が積極的にYouTubeなどでの発信を行っており、ネットを通じた知名度の向上に一役買っていると言えるだろう。

■世論調査と実際の得票の「差」

 年代や普段接しているメディアによって、政党支持は大きく変わる。

 JX通信/選挙ドットコムの調査では、ネット調査と電話調査それぞれの数字を発表している。2023年12月の電話調査では、自民党の支持率は23.9%だが、ネット調査では9.3%だった。立憲民主党の支持率も、電話調査では11.6%だが、ネット調査では2.2%と、大きな乖離(かいり)がある。

 ネット調査は主に50代以下の層が多く、電話調査は高齢者層が主だ。精度の面では、自ら回答するネット調査にはややバイアスがかかる可能性があるが、ネット世代の意識を理解する上では重要である。

 近年、国政選挙などでは、立憲民主党の獲得議席数が情勢予測より下回る傾向が続いており、他方で国民民主党は情勢予測では厳しい結果が出るものの、それを上回る結果を出すことが多い。

 電話調査などを中心にした情勢報道で拾いきれる民意と、実際の得票の間の乖離が、拡大していると見るべきなのではないだろうか。

■働き盛りを押さえる維新、捉えられない立憲

 とはいえ、「若年層」の中にも大きな差がある。NHK調査では「39歳以下」となっている(39歳は「若年」ではないだろう)が、10代、20代、30代のそれぞれで支持傾向は異なるし、当然ながら1年経てば年代層も入れ替わっていくため、傾向は流動的に変わるからだ。

 比較のために、2022年7月の共同通信の調査を見てみよう。

 立憲民主党は50代以下の層からの支持が薄いが、特に低いのは30代と40代で、「働き盛り」の層からの支持が低いことがわかる。逆に10代からの支持は比較的高い。

 2021年の朝日新聞による衆院選の出口調査でも、10代の17%が投票したと答えたのに対して、30代は14%と低い傾向だ。

 日本維新の会は30代から50代までの働き盛り・壮年層の支持が厚いことがわかるが、10代、20代の支持は比較すると低い傾向にある。朝日の出口調査でも、40代が17%に対して10代が8%となっている。

 国民民主党は、年代が下がるほど支持が高まる傾向にあり、特に10代と20代の支持が厚い。

 テレビを中心として、(特に関西圏における吉村洋文知事、橋下徹元代表などの露出で)知名度を上げた維新と、YouTubeなどのネットを中心として知名度を伸ばしてきた玉木代表の違いが出ているとも言え、興味深い。

■若者支持率では維新と肩を並べるれいわ

 さて、通常であればこのような原稿は、次のように続くことが多い。

 「立憲民主党は高齢者の支持に偏っており、政策的に若者の支持を得られていない。批判ばかりという印象が強く、何かを変えてくれるというイメージを与えられていない。ネット上の極端な意見の有権者ばかりの声を聞くのではなく、もっと若年層のリアルな声を聞き、政策に反映させない限り、永久に与党に勝つことはできない」と、このような具合である。

 政治記事を積極的に読む方なら一度は耳にしたことがある意見ではないか。

 上記のような意見は正しいのだろうか。これを考えてみたい。

 年代別の支持率は、政策的な正当性を補強する論拠として使われることがある。とりわけ、野党第1党である立憲民主党(あるいはその前身の民主・民進)に対する批判的文脈を補強するデータとして使われることが多い。そして、その対比になるのは、自民党であったり、国民民主党であったりする。では、それ以外の政党を見ていこう。

 ここまで触れていないが、れいわ新選組は各種調査で40代以下の支持が厚い。先程のNHKによる年代別調査でも、詳しい数字は公表されていないものの、20代では維新と同程度の支持を獲得していた。

■YouTubeの登録者数はれいわがダントツ、次いで参政党

 れいわ新選組のYouTube公式チャンネル登録者数は28.3万人と、他党と比較しても際立って高い。自民党が13万人であり、国民・玉木代表の個人チャンネルでも13.8万人であることを考えれば、その2倍以上となる(肉薄しているのは22.5万人の登録者を誇る参政党くらいか)。

 ネットでの発信力が若年層の認知度・支持率に大きく貢献しているのではないか。

 れいわ新選組に次いで、23万人のYouTube登録者数がいる参政党も見逃せない。参院選の若年層を分析した記事では「参政党に投票した人を年代別に見ると18、19歳では6.9%、20代は5.9%、30代では4.8%と若い世代ほど支持を広げていました」との記述がある。参政党はYouTubeだけではなくTikTokなどでも支持を広げ、テレビではほぼ主張が取り上げられないにもかかわらず、一定の支持率を得たわけだ。

 このように見ていくと、政策的な方向性より「どのようなメディアを見ているか」という点のほうが、政党支持に大きく影響しているのではないか。

 前述のような「批判ばかり」というようなイメージも、テレビ的、あえて言うならワイドショー的な価値観で、そのようなネガティブな認知すら持っていない若年層も少なくない。

■なぜ政策のないガーシーが30万票も集められたのか

 すでに「なつかしニュース」のようになってしまったが、昨年参議院選挙に出馬したガーシーのYouTube登録者はおおよそ120万人だった。個人名での得票は28万票の得票である。これをどう捉えるか。

 ガーシーの10倍以上の登録者がいるYouTuberやインフルエンサーは複数存在する。彼らが出馬したとして、10倍の得票、つまり200万~300万票が獲得できるのか。そう簡単にはいかないだろうが、考えてみる価値はあるだろう。

 政策的な方向性がほとんどなく出馬したガーシーが30万近い得票を獲得できたことを考えれば、「政党」や「政治家」としての体裁を整え、拒否感を消す工夫をすれば、既成政党に対抗しうる台風の目となる可能性は十分にあるのではないか。

 これまでの時代も全国比例には多数のタレント候補者が立候補してきた、アントニオ猪木氏のように政党を立ち上げたケースも存在する。

 時代が異なるのは、個人の人気がメディアでの影響力に直結するということだ。

■ネットを足掛かりに党勢を拡大するミニ政党

 かつては、いくらテレビで人気の有名人でも、その人気はテレビなどの規制メディアを通じてしか発揮できなかった。つまり、「政治家」という枠にハマったとき、その力は大きく制限されてしまうわけだ。

 しかし、インフルエンサーは違う。彼らは自ら発信できるメディアを持ち、支持する人にタイムリーに主張を届ける力を持つ。そして、公選法による規制を除けば、メディアのように横並びになることなく、かなり自由に活動することができる。

 重要なポイントは、1年経つごとに新聞・テレビなどのマスメディアの影響力は落ち、インターネット、あるいはSNSの影響力は上がっていくということだ。

 当たり前だが、今の10代は10年経てば20代になる。10年後の60代は今の50代である。今の50代のSNS利用頻度を考えれば、高齢層を含めてインターネットが唯一有権者にリーチする手段になってもおかしくない。

 すでに、参政党やNHK党など、ネット発の政党が参議院の比例得票により議席を獲得し、国会で足がかりを作っている。

 これが加速していけば、党首の影響力を中心とするミニ政党の全体的な得票が底上げされ、既成政党が圧迫されていくことになる。

■自民、立憲は「語りかける力」がない

 ここまで書くと、「有権者は政策など見ていない」というようなシニカルな意見の記事だと誤解されるかもしれない。

 しかし、国民民主党・玉木代表や、れいわ新選組・山本太郎代表は、ネット上でも繰り返し政策を説明し、直接有権者に語りかけている。イメージや認知度だけではなく、政策が浸透していることが、ネット世代の底堅い支持になっているのではないか。

 自民党の支持率低下、そして立憲民主党のネットでの支持の弱さも、政策をどうこうという以前に「語りかける力」のなさが見抜かれている、とも言える。

 これからの選挙においては、有権者に直接語りかける力と発信力、両方が求められるのではないか。

 ポイントは、自民党や立憲民主党は党首が頻繁に変わる上に、党内にさまざまな意見がある総合政党であるということだ。このような点は、党首イコール政党である政党に比べて大きなディスアドバンテージになる。

 自民党は政府与党としてのアドバンテージがあるが、立憲民主党は腰を据えて、長期目線で代表の発信力強化に取り組む必要があるのではないか。首のすげ替えでメディアが取り上げてくれる時代は終わったとも言える。

■環境変化に適応した政党だけが生き残っていく

 ネット発の政党は「ミニ政党」といった規模であり、まだまだ国会において大きな影響力を持つには至っていない。この傾向が拡大していけば、ネット発の政党が大きなムーブメントとなり、政局を動かしていく日は遠くないだろう。

 比例代表や基礎自治体など、数%の得票率でも議席が獲得できる選挙と違い、原則50%近くの得票が求められる日本の小選挙区制や都道府県議会の下で、どの程度まで勢力を伸ばせるかはわからないが、10年スパンで考えれば大きな変化が起きることは見えている。

 ミニ政党がさまざまな方面から拡大していけば、極端な意見をそれぞれが言い合うだけの、対話を欠いた議会になる可能性は少なくない。しかし、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一、生き残るのは変化できる者である」というダーウィンの言葉通り、環境に適応したものだけが生き残っていくのではないか。

 未来を予測するのは難しいが、年代別の政党支持率は、明日の議会の姿を示している、と言える。



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平河 エリ(ひらかわ・えり)
ライター
主に政治分野、議会政治などの仕組みについて、各種媒体にて執筆する他、YouTubeなどで配信を行う。著書に『25歳からの国会 武器としての議会政治入門』(現代書館)。2020年尾崎咢堂ブックオブ・ザ・イヤー大賞(演説部門)。京都府京都市生まれ。早稲田大学卒。
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プレジデントオンライン
 
 

岸田首相には失礼ですが「異次元の少子化対策」よりも「いい方法」があります!…経済のプロが激怒する「国民の賃金」が上がらない本当のワケ

 
 
賃金が上がらない、日本の真実
 物価上昇で苦しかった状況は、今年も続くかもしれません。特に中小企業の賃金は、大幅に上がる状況ではありません。
 
 「永田町の政治家たち」に告ぐ、日本を没落させた「政治の不作為の真実」』で指摘したとおり、それは政治的な不作為によって引き起こされたと言っても過言ではないと思います。

 日本の潜在成長率は、2022年のデータで0.5%です。アメリカの1.8%、カナダの1.5%、ドイツの0.9%と比べると大きな開きがあります。

 日本の生産性が低い最大の原因は、全体の企業数で99%を占め、労働者の7割を雇用している中小企業にあります。中小企業白書(2023年版)によれば、従業員1人あたりの付加価値は、製造業の大企業が1460万円であるのに対して、中小企業が542万円と実に2.7倍もの開きがあります。同じように、非製造業の大企業が1305万円、中小企業が524万円と、2.5倍の開きがあるのです。

 これでは、中小企業は大企業並みに賃金を上げることができません。では、なぜこれが政治的不作為の結果なのか、説明していきましょう。

過剰なインフラが生産性を低下させた
 まず、バブル崩壊後の90年代以降の国や自治体の動きから考えてみます。

 バブル崩壊後に、国や自治体は景気を下支えするために一時しのぎの公共工事を繰り返してきただけで、それらの政策は潜在成長率を高めることにはほとんど寄与してきませんでした。

 インフラの総量を示す公的固定資本ストックは、日本がGDP比で126%であるのに対して、アメリカが61%、ドイツが45%にすぎません。人口減少が加速していく過程で、道路・空港・港湾などを現状のまま維持しようとすれば、コスト負担と非効率性が高まっていくだけでしょう。

 国土交通省や総務省の推計によれば、全国のインフラの維持管理・更新費は2021年時点で5兆円をゆうに超えています。当然のことながら、20年後、30年後にはこの費用は膨らんでいくことになり、最大で12兆円にまで拡大する見込みだということです。

 インフラの更新だけでも困難なのは明白であるため、国土交通省は自治体に対してインフラの取捨選択を促しています。しかし、しがらみが多い自治体ほどその動きは逆行する傾向が強いといえそうです。

 今になっても政治は、インフラを増やしても国民の所得が増えなかったという事実を真摯に受け止めず、利権がらみの支出を削ろうとしません。

 これが最大の政治的不作為と私は考えています。

 私たちの子どもの世代のことを考えれば、「新しい道路をつくろう」とか「鉄道を延伸しよう」とか、無責任で愚かな考えは出てこないはずなのです。

 では、どうすればいいのでしょうか。
 
先送りできない「中小企業対策」
 やるべきことは、極めてシンプルです。人口減少という大きな足枷がある中で、潜在成長率を大幅に引き上げようとしたら、生産性を引き上げていく以外に方法はありません。要するに、中小企業の生産性を大幅に引き上げることが必要不可欠となるというわけです。

 さらに中小企業の中でもフォーカスを当てるべきは、小売業・飲食業などで従業員が5人以下、製造業・運輸業などで従業員が20人以下の小規模企業です。

 日本の生産性が他の先進国と比べて低いのは、企業全体に占める小規模企業の割合がもっとも高い状況にあるからです。小規模企業は、日本の企業全体の90%程度を占めていて、実に雇用全体の25%も担っているのです。

 日本とアメリカの生産性における格差は、とくに小売店・飲食店などサービス業の分野で生まれています。これらサービス業の分野では、日本とアメリカの両国で就業者数がもっとも多いのですが、従業員が10人未満の事業所数のシェアは日本が80%、アメリカが50%と大きな隔たりがあります。

 ですから、日本のサービス業がアメリカの同業と同じ稼ぎを得るためには、優に2倍以上の従業員を雇っている計算になるのです。

 大企業の割合が大きいアメリカと比べて、生産性で大きな差が生まれるのは当然のことなのですが、日本では中小企業が投資を尻込みしないように、デジタル投資や省力化投資をシェアするという仕組みづくりが求められているような気がします。

日本人に必要な「学びなおし」
 それに加えて、さらに潜在成長率を引き上げようとしたら、1人当たりのGDPを引き上げていくほかありません。要するに、勤める企業の規模に関係なく、働き手1人1人の生産性を向上させるため、恒常的な「人への投資」が必要不可欠だということになります。

 具体的に言い換えれば、国・自治体・企業が協力して「学びなおし」を広く普及させることです。日本は人への投資額が官民そろって先進国の中で最低水準にあるので、これはできるだけ早く是正しなければならないでしょう。

 遅まきながら日本でも、キャリアアップ支援事業として学びなおしを公的に支援する取り組みが始まったばかりです。学びなおしを通じて転職ができたら、最大で56万円の支援を受けられるということです。

 ただ残念なことに、その予算が753億円と規模が小さすぎます。経済対策の優先順位として、生産性の引き上げに関する対策は、もっとも予算を厚くしていい分野だと考えております。公共事業費に使い残しが数兆円も発生しているのですから、1兆円規模の予算をあててもいいのではないでしょうか。

 学びなおしを通じて新しいスキルが身につけば、転職先で給与が増えるチャンスが広がります。それと同時に、仕事への熱意が上がり、生産性がいっそう向上する可能性も高まっていきます。

 その結果として、国民全体の所得が底上げできれば、将来に対する不安も緩和し、少子化対策にもなるはずです。
 

岸田首相に提言します!
 ところが岸田文雄首相は、優先すべき生産性の向上策より「異次元の少子化対策」を強く推進しています。国民の大半はこの少子化対策が単なるバラマキになりかねないと気づいてます。これでは、これまで政治が犯してきた「不作為」と何ら変わりがありません。

 私は、岸田首相が進める「異次元の少子化対策」よりも、生産性向上のほうが少子化対策には大きく寄与すると確信しております。

 岸田首相には、こういった意見にも耳を傾けてもらいたいところです。

 
中原 圭介(経済アナリスト)