「世界一危険な普天間飛行場の危険性除去」を理由に辺野古新基地の建設が進められてきたはずだが、20年以上たっても「普天間」の危険性は放置されたままだ。

その普天間飛行場では、滑走路のかさ上げや兵舎整備などが加速している。前泊教授は「普天間飛行場は返還どころか恒久使用に向けた整備強化が進んでおり、政府の主張は矛盾していないか」と指摘している。

辺野古の軟弱地盤 辺野古沿岸部東側の埋め立て予定地の海底に、「マヨネーズ並み」と評されるほどの軟らかい粘土層が広がっている。最深で海面下90メートルにまで及ぶ。防衛省は2015年に軟弱地盤の存在を把握していたが、その事実を伏せてきた。政府が存在を認めたのは、土砂投入を始めた翌月の19年1月。防衛省は「地盤改良すれば建設可能」として、大幅な設計変更を行った。県は承認せず、国との間で法廷闘争に。国は知事に代わって変更を承認する「代執行」の手段を取り、地盤改良工事に着手した。地盤改良は、海底に約7万本の砂くいなどを打ち込み、地盤を固める。予定通り工事が進んだとしても、普天間返還は30年代半ば以降となる見通し。

 

 

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古(へのこ)移設に向けて、政府は、設計変更を不承認とした県に代わって「代執行」という手段を取り、辺野古沖に広がる軟弱地盤の改良工事を強行した。

沖縄県民が反発を強める中、軟弱地盤が広がる辺野古沖では10日、地盤改良に向けた作業が始まった。

ただ軟弱地盤の対応を巡っては、増大する工事費や設計変更の決定プロセスなど、これまで指摘されてきた疑念は残されたままだ。政府が言うように、辺野古移設が唯一の解決策なのだろうか。(中沢誠)

◆地盤強度、別地点のデータから推計
辺野古沖の地盤改良の工事は難工事が指摘されている。

辺野古沖では、軟弱地盤が最も深いところで海面から90メートルの深さにまで達しているからだ。90メートル級の地盤改良工事は世界でも例がない。

にもかかわらず、防衛省は、軟弱地盤が最も深い「B27」地点の地盤強度を調べないまま設計変更を行い、地盤改良工事を進めようとしている。

B27地点には巨大な護岸が建つ。地盤の強度が足りなければ護岸が崩壊する恐れもある。

沖縄県が、防衛省の設計変更を不承認とした主な理由も、最深部のB27地点で地盤強度を実測していない点にある。

 

防衛省は、B27地点の地盤の強度を実測せず、なぜか最大で750メートル離れた他の3地点のデータから強度を推計して設計している。再調査を求める声が国会でも出ているが、防衛省は応じていない。
辺野古工事を検証している新潟大の立石雅昭名誉教授(地質学)は、「リスクの高い地点なのに調査しないほうが不自然。意図的に避けているとしか思えない。技術検討会は、政府にお墨付きを与えるためだけにあるのか」といぶかる。

◆受注業者からお墨付き委員に800万円
防衛省が「B27地点で実測せずとも問題はない」とする根拠が、設計変更に当たり、助言を得た技術検討会の委員の意見だ。

地盤などの専門家である技術検討会の委員らは「近傍の地点から強度を推定する方法は間違ったものではない」と防衛省の見解を支持。設計変更にお墨付きを与えた。

ただし、技術検討会の委員らの意見には、客観性や公正性の点から疑念がぬぐえない。

 

 

設計変更にお墨付きを与えた委員の一部が、辺野古関連工事の受注業者から奨学寄付金を受け取っていたからだ。

受注業者からの資金提供の金額は、本紙の情報公開請求で判明しただけで、2019年9月の委員就任までの5年余りで3人が計570万円、就任後も2人が計230万円に上っていた。

技術検討会委員への資金提供について、木原稔防衛相は国会で追及されると、「各委員の研究活動が、技術検討会の議論の公正性、中立性に影響があるものと考えていない」と反論した。

設計変更に向けた産官学の密接ぶりは、資金提供だけではない。

技術検討会の委員の中には、辺野古工事の設計を請け負った業者の社内検討会議のメンバーに名を連ねていた人もいた。辺野古工事に当たって、1年余りにわたって業者に指南していた。

公共事業に詳しい専門家は「まるで出来レースだ」と、設計変更の決定プロセスに疑問を投げかける。

 

 

◆膨らむ工事費、既に4000億円以上
辺野古工事では、軟弱地盤の改良工事が手つかずの2022年度末時点で、既に4312億円が投入されている。

一方で工事の進捗を見ると、事業全体の埋め立て土量2020万立方メートルのうち、4年余りで埋め立てた量は14%。しかも、これまで埋め立ててきた場所は、工事がしやすい水深の浅い海域だ。

 

 

防衛省は4年前、軟弱地盤対策のため総工費を9300億円に引き上げた。

難易度が高く、かなりの費用がかかると見込まれる軟弱地盤の工事が始まってもいない時点で、すでに総工費の半分近くを使い切ったことになる。

当初、防衛省は新基地建設の総工費に関して、政府は「少なくとも3500億円以上」と見積もっていた。

辺野古沖の埋め立て予定地の海底に軟弱地盤の存在が明らかになると、地盤を固める大がかりな改良工事のため、総工費を2.7倍の9300億円に引き上げた。工期も当初5年と見積もっていたが、設計変更の承認後さらに9年3カ月かかると見直した。大幅な設計変更に、当時の河野太郎防衛相は「無理のない工程だ」と強調していた。

「事業進捗からすると、2兆をも超えて3兆も超えるかもしれない」。これまで国会でも、工費膨張の恐れは、たびたび指摘されている。ただし、国会の質疑を見ても、政府が「これから幾らかかるのか」との問いに正面から答えた形跡は見当たらない。

防衛省は2023年度、辺野古関連で631億円(歳出ベース)を計上。2024年度予算案にも、軟弱地盤工事着手を見越して予算を盛り込んでいる。

辺野古予算は底なしの様相を帯びている。

 

 

◆米軍も疑問「ドローンの時代に不要」
日本政府は「米軍普天間飛行場返還には、辺野古移設が唯一の解決策」と繰り返してきた。しかし、米軍内部からは、政府の主張を覆すような発言が聞こえてくる。

2023年11月、沖縄に駐留する米軍が開いた報道機関向けの説明会でのことだ。

沖縄の地元メディアの報道によると、報道陣に対し、米軍幹部が滑走路の長さなどから「軍事的な観点では(辺野古よりも)普天間の方が優れている」と発言。辺野古沖の軟弱地盤についても「修正できなければ軍事的な影響を与える恐れもある」と述べたという。

 

 

前泊博盛・沖縄国際大教授(安全保障論)も、米軍側から辺野古移設への疑念を耳にしている。

「(辺野古新基地は)何のために造っているのか。ドローンの時代には使えない不要な基地だ」。2023年3月、新基地建設の視察に訪れた米軍幹部が、周囲にこんな言葉を漏らしていたという。

この「辺野古不要」発言を在沖縄米軍関係者から聞いたという前泊教授は、軍事的合理性の観点から「司法判断の前に、四半世紀前に計画された新基地建設は防衛政策上、今も有効なのか再検証は必要」と説く。

「世界一危険な普天間飛行場の危険性除去」を理由に辺野古新基地の建設が進められてきたはずだが、20年以上たっても「普天間」の危険性は放置されたままだ。

その普天間飛行場では、滑走路のかさ上げや兵舎整備などが加速している。前泊教授は「普天間飛行場は返還どころか恒久使用に向けた整備強化が進んでおり、政府の主張は矛盾していないか」と指摘している。

辺野古の軟弱地盤 辺野古沿岸部東側の埋め立て予定地の海底に、「マヨネーズ並み」と評されるほどの軟らかい粘土層が広がっている。最深で海面下90メートルにまで及ぶ。防衛省は2015年に軟弱地盤の存在を把握していたが、その事実を伏せてきた。政府が存在を認めたのは、土砂投入を始めた翌月の19年1月。防衛省は「地盤改良すれば建設可能」として、大幅な設計変更を行った。県は承認せず、国との間で法廷闘争に。国は知事に代わって変更を承認する「代執行」の手段を取り、地盤改良工事に着手した。地盤改良は、海底に約7万本の砂くいなどを打ち込み、地盤を固める。予定通り工事が進んだとしても、普天間返還は30年代半ば以降となる見通し。

 

 

主張

大浦湾で着工強行

新基地は破綻 不当工事やめよ

 沖縄県の米海兵隊普天間基地(宜野湾市)に代わる同県名護市辺野古の新基地建設で、防衛省沖縄防衛局が10日、大浦湾側の埋め立て工事を強行しました。斉藤鉄夫国交相が大浦湾側の埋め立て予定海域にある軟弱地盤の改良工事に必要な設計変更の承認を代執行したのを受けたものです。新基地建設に反対する沖縄県民の負託に基づき玉城デニー知事は設計変更を認めてきませんでした。県の反対を無視した工事強行に何の道理もありません。強く抗議します。

埋め立ては難航必至

 今回強行された埋め立て工事の設計変更は、大浦湾の埋め立て予定海域で見つかったマヨネーズ並みとされる軟弱地盤の改良工事を追加するため沖縄防衛局が申請したものです。公有水面埋立法に基づき県知事の承認が必要ですが、デニー知事はジュゴンやサンゴをはじめ大浦湾の豊かな自然環境の保全や地盤沈下など災害の防止に十分配慮されておらず、いつ完成するかも不確実で普天間基地の危険性の早期除去にはつながらないとして不承認を貫いてきました。

 

 これに対し岸田文雄政権は行政不服審査制度を乱用し、沖縄防衛局の申し出に基づき国交相が知事の不承認を取り消す裁決をするなど、なりふり構わぬ手段でデニー知事に承認を迫ってきました。岸田政権の主張を追認する不当な司法判断も続き、最終的には知事の処分権限が奪われ、国交相による代執行が強行されました。これは初の代執行であり、憲法が保障する地方自治の本旨や民主主義の理念を否定する強権発動でした。

 

 着工は強行されたものの、軟弱地盤の改良工事を含め大浦湾側の埋め立て工事は難航必至です。

 

 防衛省は、設計変更に基づく埋め立て工事と基地の施設建設に9年3カ月かかるとの見通しを示しています。このうち大浦湾側の地盤改良工事の期間は4年1カ月とされています。林芳正官房長官は10日の記者会見で「本日の工事着手が(9年3カ月の)起点に当たる」と述べました。さらにその後、新基地を米軍に提供する手続きなどに約3年が必要で、全体では約12年かかるとしています。

 

 今後、12年もかかるということ自体、「普天間飛行場の一日も早い返還につながる」との岸田政権の主張に反するものです。

 

 しかも、軟弱地盤は最深で海面下90メートルです。国内の作業船で地盤改良をできるのは70メートルまでで1隻しかないとされます。未改良の部分を残したまま埋め立てる計画ですが、専門家は沈下の危険を指摘しています。難工事は避けられず、今後も複数回の設計変更が必要になるとされます。約4年で終わる保証は全くありません。

 軟弱地盤の改良のため約7万1000本の砂杭(すなぐい)などを打ち込む予定で環境破壊も不可避です。

普天間無条件返還を

 費用も際限がありません。防衛省は総工費の見積もりを9300億円としています。うち埋め立て工事は3600億円です。しかし、2022年度末の埋め立ての進捗(しんちょく)率は14%ですが、支出は既に見積もり額の47%に達しています。単純計算で埋め立ての完成には1兆2200億円かかります。

 

 新基地計画の破綻は明白です。工事を直ちに中止し、普天間基地の無条件撤去を求める対米交渉こそ必要です。

 

軟弱地盤に着工強行

辺野古・大浦湾側 地方自治踏みにじり

 

 

 

 沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設をめぐり、政府は10日、軟弱地盤が広がる大浦湾側の地盤改良工事に着手しました。午後0時15分ごろ、沖合に停泊する石材を満載した台船から2台のパワーショベルが石材投入を開始。同日の作業は約3時間続きました。

 

 昨年12月28日、国が同工事のための設計変更を、県の権限を奪う「代執行」の強行で「承認」したのに伴うもので、新基地建設反対の民意や地方自治を踏みにじる暴挙です。玉城デニー県知事は判決を不服として同27日に最高裁に上告しています。

 今回始まったのは護岸を建設するためのケーソン(大型のコンクリート製の箱)などを置く海上ヤードの建設工事。パワーショベルが投入する石材を台船からすくい上げるたびに粉じんが舞い上がっていました。

 大浦湾は多様な生態系が存在する世界でも有数の貴重な海です。海上で監視行動を行っていた「ヘリ基地反対協議会」の海上行動チームメンバーの女性(64)は「生態系を破壊している。本当にひどい自然破壊行為だ」と憤りました。

 林芳正官房長官は10日の記者会見で、工期は9年3カ月とした上で、「本日の工事着手がこの起点にあたる」と説明。しかし、最深90メートルにおよぶ軟弱地盤改良は難工事であり、実際はさらに長期にわたることは確実です。

 「ヘリ基地反対協議会」共同代表の東恩納琢磨さんは完成の見通しも立たないままの着工強行は「むちゃくちゃだ。費用も国の言う9300億円では済まない。県民は納得していない。これからも座り込みを続ける」と力を込めました。

ただちに中止せよ
小池書記局長 抗議のコメント

 

 日本共産党の小池晃書記局長は10日、大浦湾の埋め立て工事強行に強く抗議する次のコメントを発表しました。

 辺野古新基地建設をめぐり、政府は10日、軟弱地盤が広がる大浦湾の埋め立て関連工事に着手した。

 政府は昨年末、軟弱地盤の改良工事に伴う設計変更申請に関し、国が県の承認権限を取り上げる代執行にふみきった。地方自治法に基づく代執行は初めてのことである。民主主義と地方自治をふみにじる国の強権発動に全国で反対と疑問の声が上がっている。

 しかも、2013年の埋め立て承認の際に付された留意事項に基づき、工事の実施設計について県との事前協議が義務付けられているにもかかわらず、それさえ無視して着工したものであり、到底許されるものではない。

 政府は工事をただちに中止し、県との話し合いに応じ、普天間基地の無条件撤去にふみきるべきである。