【国民年金の納付期間5年延長へ】平均寿命まで生きれば受給額は増える見込みだが“受給開始年齡70才に後ろ倒し”の改悪もあり得る

 
弱い立場の人を淘汰する極限の施策。社会的能力、力の弱い人たちは危機的状況では乗り切れない。でも他人を当てにするな。自己責任で生きろ。そうなると高齢者は低賃金で働らかづをえない。そこで生き残った人は強い人達だけで次の新しい統治機能を作っていく。その手足にさせる最も分断と差別を強要する危険なものだ。
 
 
「定年退職したら、老後は夫婦ふたりで悠々自適な生活を」──若い頃に思い描いていたそんな未来予想図が、途方もない絵空事になってしまったと頭を抱える人は多いのではないだろうか。

「老後資金2000万円問題」が世間を騒がせてから早くも5年。総務省の統計によると、65才以上世帯の貯蓄額の中央値は1677万円で、全体の14.4%は貯蓄が300万円未満と、「悠々自適な老後」を過ごせるだけの金額を用意できている人はほんのひと握り。その上異常な物価高のせいで貯蓄もままならず、年金を最後の頼みの綱としている人は少なくない。

 だが2024年以降、その年金にさえ“大改悪”が加えられようとしていることをご存じだろうか。

 将来の年金水準の見通しを示す「財政検証」が今夏にも行われる予定で、現在、それに向けて「国民年金保険料の納付期間を5年延長する」という案が検討されているのだ。

 いま、国民年金は20才から60才までの40年間納付して、原則65才から受給開始となっているのは知っての通り。現行制度では月1万6520円、40年間で総額792万9600円の保険料を払っている計算になる。だがもしこの改定案が実現すれば「65才までの45年間」保険料を払わなければならなくなるのだ。

「年金博士」ことブレイン社会保険労務士法人代表の北村庄吾さんは「5年間でざっと100万円ほどの負担増になる」と説明する。

「5年間で支払う年金保険料は99万1200円になり、年間に換算すると約20万円にもなります。仮に月収25万円で年収300万円とすると、毎年年収の7%近い負担です。

 年収240万円なら約8%、200万円なら約10%ものお金が国民年金保険料として国に“持っていかれる”ことになるのです」
 
 
受け取れる年金は増えるのか?
 5年間で約100万円。それだけの金額を新たに負担することになるとすれば、当然、気になるのは「受け取れる年金は増えるのか」。

 現行制度では、65才から年金の受給を開始すると、満額で年間79万5000円を受け取れる。「5年延長」が実現した場合、現在と同様の水準とすると、受給額は年間89万4300円になるので、1年あたり約10万円増えることになる。

 トータルで約100万円多く払って年約10万円増えるということは、単純計算で「いままでより10年長生きしないと元が取れない」とも言える。

 果たしてこれは得なのか、損なのか。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが言う。

「例えば、年金の受給開始年齢である65才から女性の平均寿命である87才までの22年間、年金を受け取るとすると、現行制度における受給総額が約1749万円なのに対し、5年延長すれば約1967万円になり、受け取る額は約220万円増える試算です」

 つまり、平均寿命まで生きることができれば、増えた保険料(約100万円)を差し引いても、受給額は約120万円増えるということ。

 だが、これはあくまでも「受給開始が65才のまま」と仮定した場合の話。保険料の納付期間が65才まで5年延長されることで、原則65才となっている受給開始年齢も5年後ろ倒しになり「70才から受給開始」になる可能性も大いにあり得ると、北村さんは言う。

「2000年の改正で受給開始年齢を原則60才から65才に引き上げたとき以上に、年金財政は苦しくなっています。まずは経過措置として受給開始年齢を67才や68才に引き上げ、最終的には70才から受給開始が原則になるのではないでしょうか」(北村さん・以下同)
 
 もしそうなれば、女性の平均寿命の87才まで生きたとすると、年金を受け取れる期間は70才から87才までの17年間。総額約170万円の増額となり、多く払った保険料を差し引くと約70万円のプラスだ。

 だがここで「70万円でも、ちゃんと増えるならよかった」と安心してはいけない。もし、この計算の通りに受給額が増えたとしても、受け取り開始が70才では、自由に使える時間はほとんど残されていない可能性が高いからだ。

 心身が自立し、自分の意思で生活できる「健康寿命」は、女性が75才、男性は73才。もし受給開始が70才になれば、受け取った年金を自分で使える期間はたった3~5年しかないということになる。また、納付も受給も5年延長されれば、その間も働いて収入を得る必要が生じる。

「収入がなければ65才までの年金保険料を納められない。いままで以上に自力での貯蓄が重要になるのはもちろん、健康な限り働き続けることを前提とした制度改正案だと言えます。

 実際、公務員は2024年以降段階的に65才定年に引き上げられることが決まっており、いずれ民間もそれに続くでしょう。この改正案は“60才を超えても働き続けて国にお金を納めてくれ”という国からのメッセージだと思います」

【*本文中の年金保険料および年金額はすべて令和5年度の金額をもとに試算】

※女性セブン2024年1月18・25日号