芸能界が発売にビビる「ジャニーズ告発」あの本の冒頭部分を先行公開《音楽プロデューサー・松尾潔の爆弾本》

 
 旧ジャニーズ事務所(現SMILE―UP.)の性加害問題でマスメディアの沈黙が指摘されたが、もう一つ、沈黙していると言っていい業界がある。音楽業界だ。楽曲の制作・発売という面で密接な関係にあるにもかかわらず、ミュージシャンらがこの問題で強いメッセージを発した記憶がない。そんな中、平井堅やケミストリーのプロデュース、EXILEへの楽曲提供などで知られる松尾潔さんは、この問題についてメディアで発言を繰り返す数少ない「業界人」の一人だ。
 
その姿は凜として正義感を持って発言する姿勢は輝いている。目の前の損得ではなく、音楽会、芸能会が思う事を素直に語ることができる社会にと民主主義の原点を知っている方でもある。
 
 
 
 
哲学者・斎藤幸平氏は、この本をこう推薦する。「学び、変わり、声を上げる言葉には、未来への希望と力が溢れている」

EXILE、東方神起から天童よしみまで、時代を刻む楽曲を手がける音楽プロデューサー・松尾潔氏は、昨年7月、ジャニーズ事務所への発言をラジオで行ったところ、業務提携先の芸能事務所から契約解除された。山下達郎が所属する事務所だったことから、大きな話題を呼んだが、この松尾氏が、一連のジャニーズ問題と芸能のあり方を論じた書『おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来』が、1月11日、講談社から刊行される。

発売前から芸能界に衝撃が走るこの「爆弾本」の中身を、先行公開しよう。

パレスチナ危機とどちらが?
パレスチナが危機にある。2023年11月上旬時点で、ガザ地区の死者はパレスチナ側が1万1000人以上、イスラエル側も1200人以上におよんでいる(双方の当局発表の累計数)。かの地の問題に詳しく、行動する哲学者として知られる鵜飼哲・一橋大学名誉教授が発した「中東は第一次世界大戦が終わってない地域」(サンデー毎日2023年11月5日号)という言葉には身震いを覚える。自分がこの問題の理解からほど遠いところで生きてきた事実を、否応なく突きつけられるからだ。
 
2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻も、まだ終わりが見えない。怒りや悲しみの感情を抱いてしまうのは、きっとぼくだけではないだろう。世界は途轍もなく広く、とんでもなく複雑で、どうしようもなく厄介だ。
世界情勢を伝えることにくらべれば、それ以外のニュースなんてすべて取るに足らないもの―そんな認識からか、政治と経済以外のニュースにほとんど関心を示さない人は結構いるものだ。ぼくが生業とするエンターテインメントの世界も、まさに関心の外に位置づけられることが珍しくない。これは自虐的になって言うのではない。論より証拠、コロナ禍の初期に、時の権力者によって「不要不急」と断じられたではないか。

ジャニー喜多川の性加害での死
ぼくの知る高名なジャーナリストは、ジャニーズ問題についてはメディアの責任が大きいと不満を隠さない。「旧ジャニーズ事務所への忖度が過ぎる」という責任論ではない。世界情勢が緊迫化してキーウやガザでは尊い命が次々に失われているのに、なぜメディアはジャニーズ問題ごときにこれほど時間を割くのかと憤っているのだ。性加害なんて瑣末な問題だろう、と。

2023年秋、旧ジャニーズ事務所は死の濃厚な気配とともにあった。50代のジャニーズJr.元レッスン生が、40年前、ジャニー喜多川氏からの性被害を母親に打ち明けたところ、母親はひと月後に遺書を残して自殺したと告白した。また、「当事者の会」に所属していた40代の男性が、大阪府箕面市の山中で遺書らしきメモを残し死亡していたことがわかった。

ガザ地区で戦火に失われた命と、ジャニー喜多川氏からの性被害が原因で失われた命の重みに、元来差はない。あるとすれば距離感、あるいは遠近感が生みだす錯覚ではないか。情報の送り手であるメディアもそうだが、情報を受ける側もまた遠近両用の感性を磨きつづけなければならない。

だからぼくは言うのだ。芸能と社会的公正を地続きで考えよう。ジャニーズ問題とパレスチナ危機を同じ口で語ろう。政治の話をしたばかりのその声で、あまやかなラブソングを歌おう。ベトナム戦争の時代にあって「何が起こってるんだ(“Whatʼs going on”)」と問いかけ、すぐに「心ゆくまで愛を交わそう(“Letʼs get it on”)」と歌ったマーヴィン・ゲイのように。

アフリカン・アメリカンの彼が得意とした楽式のひとつが、コール・アンド・レスポンスだ。「掛け合い」といってもいい。もうおわかりだろう。ぼくのコールに読者のみなさんのレスポンスが発せられるとき、この楽式は初めてうつくしい完成を見る。
 
NGリスト作成直後に起こったこと
2023年10月2日の記者会見には怒号が飛び交った。

「東山さん、井ノ原さん、質問させていただけないでしょうか! 先ほどから当ててもらえないんですけど! 皆さんには質問に答える義務があると思います!」

「フェアじゃない」
「(自分が指名されないのは)茶番だ」
「ルール守れよ」
「順番だろ」
「司会がちゃんと回せ!」
「また会見はあるのか」

(以上、発言はすべて「WEB女性自身」2023年10月3日投稿記事から)

10月4日、NHKは、ジャニーズ事務所(現SMILE-UP)から会見の運営業務を依頼されたFTIコンサルティングが、会見に先がけて特定の記者を指名しないようにする「NGリスト」を作成していたと報じた。
 
これに対し、ジャニーズ事務所は翌5日、「弊社の関係者は誰も関与しておりません(略)誰か特定の人を当てないで欲しいなどというような失礼なお願いは、決してしておりません」と声明を発表する。

だがすぐに、その声明の真偽を問う論議が湧き起こった。無理からぬことだ。仮にその声明がNGリストの存在を知っていたうえでのものだとすれば、ジャニーズの被害者救済への誠実な姿勢や、人権尊重責任の本気度が疑われる。声明の通り知らなかったとすれば、企業としての危機管理能力に大きな疑問符がつく。
 
この時点で確かに言えることがひとつあった。ジャニーズがNGリストの存在を知っていようがいまいが、FTIが独断で作成したのであれば、これこそが巷間言われている「取引先企業によるジャニーズへの忖度」そのものではないか。つまり、かつてない多くの人びとが、かの有名な「J忖度」の最新事例をリアルタイムで目撃したことになる。

5日夜になってもジャニーズ事務所はNGリスト作成への非関与を主張していたが、FTIの担当者は讀賣新聞の取材に応じ、会見の進め方について同事務所と調整していたことを明らかにした。NGリストだけでなく「指名候補記者リスト」も作成していたと認め、「意識が低かったことを痛切に感じている。弁解の余地はない」と語った。

まさに、詰んだ瞬間、だった。
 
東京オリンピックとジャニーズ事務所
2020年5月25日。安倍晋三首相は、首都圏1都3県と北海道で続いていた新型コロナウイルス対策のための緊急事態宣言を解除した。日本に暮らす人びとに諸方面で大きな影響を与えた同宣言が全国で解除されたのは、およそ1ヵ月半ぶりのことだった。

それを見届けるように、翌6月に東京都千代田区大手町に開館したのが、Otemachi One(大手町ワン)である。三井物産と三井不動産が進めてきた大手町の再開発のなかでも最大の目玉となるこの大規模複合施設は、オフィスのほかホテル、宴会場、会議場、多目的ホール、飲食店まで擁するもの。地下鉄大手町駅に直結、並び立つ三井物産ビル(地上31階地下5階)とOtemachi Oneタワー(地上40階地下5階)の両棟を、一体化した低層部が結ぶ。

三井物産ビルのデザインが水平調で温かみを感じさせるのは皇居側という位置を意識してのこと。一方、日比谷通り側のOtemachi Oneタワーは地面から天空に向かって凜と伸びる垂直線を強調したデザイン。両棟が併せて「伝統と革新」を表現していることは、ぼくのような建築の素人にも一見して容易にわかる。

タワーの3階部分と頂部6フロアを占めるフォーシーズンズホテル東京大手町は、満を持して9月に開業した。最も安い部屋でも一泊料金が10万円を超えるラグジュアリーホテルだが、開業計画の前提に東京オリンピック需要があったのは言うまでもない。

当初2020年に開催が予定されていた東京オリンピック。その開催に執着を感じていた者は、エンターテインメント業界にも少なくない。だがその最たる存在となれば、ジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川(本名喜多川擴)氏ということになるだろう。

2013年9月、東京開催が決定してまだ3週間の時点で、ジャニー氏はいち早く五輪に向けての新グループ構想を公表している。2018年10月には、あくまで仮名としながらもそのグループ名を「2020(トゥウェンティートゥウェンティー)」とし、のちにSnow Manの一員として人気者になるラウール(当時15歳)を含むジャニーズJr.の9名をメンバーとして発表。最終的には40名の大所帯グループを目指していると報じられた。

だがジャニー氏は、1年遅れの五輪開催も「2020」のデビューも見届けることなく、2019年の夏に逝った。享年87。
 
「ジャニーズ会見の「怒号」と「擁護記者」の不思議な相関を改めて考える」
 
 

あの10月のジャニーズ会見とは何だったか…Jに楽曲提供もしていたプロデューサーが綴る真実《話題書「おれの歌を聞け」先行公開》

 
 東京新聞記者の望月衣塑子氏は、今回の本をこう推薦する。「性加害を告発する時代の鼓動と、自由と権利を求める音楽が響き合う。新たな歌を全身で感じてほしい」
 


 

ひとつだけ、音楽と同じくらい大切にしてきたものがある。(松尾潔)

 
【松尾潔のメロウな木曜日】#66

 元日に発生した能登半島地震により被災されたみなさん、ならびにそのご家族やお近い方々に心からのお見舞いを申し上げます。みなさんの安全と被災地の一刻も早い復興を心よりお祈りするとともに、復興に尽力されている方々の安全も願ってやみません。
 
 2日の朝は不思議な初夢で目が覚めた。ぼくはよく北海道物産展が開かれるようなデパート催事場らしきスペースにいた。50脚ほど置かれたパイプ椅子のひとつに座って。連れはいない。そもそも客の姿はまばらなのだ。スペースの奥には、ステージと呼ぶには貧相なせいぜい高さ20センチ程度の演壇。会議卓には音響機器が設置されていた。

「ダメだよ、やっぱり。ぜんぜん客来ねぇし。今どき音楽評論家のイベントなんて誰が来る!」不機嫌丸出しのダミ声で悪態をつきながらぼくのところにやってきたのは、さっきまで喉をきつめに絞った作り声で「ワンツーワンツー」とマイクチェックに精を出していた男。このあと始まるイベントの主役である。シャイニーな素材の黒シャツは長年のトレードマークだろうか。派手な柄のパンツに裾をインして若ぶってはいるが、腹部のなだらかな曲線は彼が経た歳月を誤魔化せてはいない。どうやらぼくとは長い付き合いらしく、口を衝いて出るのは身も蓋もない愚痴ばかり。ぼくは適当な相槌を打って聞き流すのだが、評論家も特段それを責めるふうもない。きっとそれがふたりのいつものやりとりなのだろう。

 開演時間が迫ってもいっこうに客が増える気配はない。「いまどきオンライン配信もないイベントなんてよ」評論家の愚痴はエスカレートし、ほぼ呪詛といって差し支えないほどの粘性を帯びはじめている。ぼくの慰めの言葉も尽きる寸前だ……その瞬間、ゴゴゴーッという地鳴りがして催事場がはげしく揺れた。これはもしかして――。

■その素性は見当がつく

 平時ならともかく、夢分析のフロイトを持ち出すまでもないだろう。元日の夜、ぼくは寝る間際までくり返し地震関連のニュース映像を観ていたのだから。気になるのは評論家であり、イベントの行方である。のっぺらぼうではなかった気がするが、懸命に記憶をたどっても風貌をはっきりと思い出すことはできない。だがその素性は見当がつく。20代のころは音楽ライターを名乗っていたぼくの「ありえたかもしれぬ人生」だろう。沢木耕太郎のすぐれた映画評集のタイトルに倣って言うなら「使われなかった人生」か。

 一介のブラックミュージック好きの若者だったぼくは、学生のアルバイト感覚で音楽専門誌に寄稿をはじめ、FMラジオの選曲、ディスクジョッキー、そして楽曲制作に関わるようになった。流れに逆らう舟のような航路は、むろん意図した結果ではない。すべてはなりゆき。半分言葉遊びでいうなら、〈なりゆき〉がそのまま〈なりわい〉になっただけのこと。ぼくが、若いころに耽溺したものだけでなく新譜を追いかける愉しみを今なお手放さないタイプの音楽ファンであることは、今年で足かけ15年のNHK-FM『松尾潔のメロウな夜』のリスナーならよくお分かりだろう。

 ひとつだけ、音楽と同じくらい大切にしてきたものがある。それは〈音楽のような時間〉。「時間」は「自由」と言い換えてもいい。こればかりはなりゆきまかせとはいかない。自覚的な行動と自発的な言葉なしには実現も維持もむずかしい。スマートな生活者とは到底呼びがたいぼくは、そのむずかしさに気づくのに長い時間を要したけれど。

 2022年9月から続けてきた本連載は、そんな気づきを自分なりの表現で実況するものに他ならない。この連載に福岡RKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』での発言等を加え、新たに多くを書き下ろした本を来週11日に上梓する。書名は『おれの歌を止めるな』。ぼくが滅多に使うことのない一人称「おれ」をタイトルに入れた意図は、実際に同書を手に取って確かめていただきたい。

 以上、初夢に思うことと、それと地続きの新著について。そして今日、ぼくは56歳になった。

(松尾潔/音楽プロデューサー)
 

 

《証拠画像入手》「チケット150枚おねだり」日本テレビがジャニーズ事務所から便宜供与「キンプリ、Snow Manもファックス1枚で入手可能」

 
 
 日本テレビが旧ジャニーズ事務所に対し、所属アーティストの舞台やコンサートなどのチケットの手配をしてもらう便宜供与を受けていたことが「 週刊文春 」の取材で分かった。

 昨年、ジャニー喜多川氏による元ジャニーズJr.らへの性加害は、ようやく国内の主要メディアで報じられ、世間に広く知られることとなった。「週刊文春」が1999年に報じ、裁判でも真実性が認められたにも関わらず、なぜ沈黙を続けたのか。民放各局はそれぞれ検証番組を制作している。
 
検証番組で触れられなかった便宜供与
 日本テレビでは、10月4日放送の「news every.」の中で、藤井貴彦アナウンサーが次のように述べた。
「日本テレビ社内では、ジャニーズ事務所を特別扱いする空気が20年以上に渡って醸成されてきました」

 だが、この検証番組でジャニーズ事務所から受けていた便宜供与については一切触れられていなかった。

 日テレ関係者が明かす。

「ジャニーズのコンサートといえばプラチナチケット。ファンクラブの会員でも抽選になり、なかなか当たらない。それが、朝の情報番組の『ZIP!』の芸能デスクを務めるMさんに頼めば、1人2枚まで手配してくれる。Mさんは(ジャニーズ事務所元副社長の)白波瀬(傑)さんにファックスで依頼。チケット代は支払いますが、ファンクラブ会員でも滅多に手に入らないチケットが取れました」

“便宜供与”について日本テレビに確認すると…
「週刊文春」は白波瀬氏宛のファックス画像を入手した。それらによると2022年初めから1年半で150枚ものチケットを依頼しており、プラチナチケットと呼ばれるKing&PrinceやSnowManといった人気グループからジャニーズJr.の公演まであらゆるタレントのものがあった。さらに、M氏が依頼したチケットの内容を記録したノートの画像も入手。チケットの融通が長年にわたって行われていることがわかった。

 日本テレビは取材に対し、「関係者を通じて、チケットを購入したことはございます」と事実関係を認めた。

 またSMILE-UP.(旧ジャニーズ事務所)も「通常の宣伝活動の一環で、日本テレビに限らず、関係者の方々に費用負担や枚数制限などの条件の下で、チケットをお取りさせて頂くことはございます」と答えた。

 1月9日(火)12時配信の「 週刊文春 電子版 」および、1月10日(水)発売の「週刊文春」では、M氏への直撃取材、ファックスやチケットノートの画像を公開する。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年1月18日号)