「医療は医者と患者双方の信頼関係で成り立つのに、オンライン資格確認制度が邪魔をしている。改めて法改正による義務化を議論するべきで、法律にできないのなら従来の保険証による確認も続けるべきだ」

 

 政府は2023年末、現行の健康保険証を2024年12月に廃止し、マイナンバーカードに一本化する方針を改めて表明した。マイナ保険証を巡っては政府が昨年4月、医療機関にオンラインによる資格確認を義務化。これに対し、医師らが対応義務がないことの確認などを求める訴訟を起こしている。訴訟では、義務化を省令によって定めることの違法性や医師らの権利を侵害する違憲性の有無が争われている。(山田祐一郎)

 


◆「義務化の国会審議は不十分」
 「オンライン資格確認の義務化は、国会の十分な審議がないまま(省令の)療養担当規則に載せられた。国民不在の制度づくりをやめさせなければいけない」。2023年12月7日、東京地裁での第4回口頭弁論後に行われた記者会見で、原告側の東京保険医協会の中村洋一副会長がこう訴えた。

 

 同年2月、医師と歯科医師274人が東京地裁に提訴。3次提訴まで行われ、原告は1415人に増えた。
 

 

◆「医療活動の自由に対する権利侵害」と訴え
 争点は、医療保険の加入状況など患者の「資格情報」について、オンラインのシステムで確認するよう医療機関に義務付けた際、政府が健康保険法の改正ではなく、省令である療養担当規則による変更という手法を使ったことの是非。
 

 原告側は、省令は法律による委任を受ける必要があるが、今回の義務化の根拠となる項目は、同法の委任を受けているとは言えないと主張。憲法上保護された医療活動の自由に対する権利侵害だと訴えている。
 

 

◆「対応に違憲、違法性はない」と国側は反論
 請求棄却を求める国側は、法律が省令に委任する例として、児童福祉法や生活保護法などがあることを挙げ、今回の対応にも違憲、違法性はないと反論。「省令において規定することも厚生労働大臣の裁量に委ねられている。国会で議論がされたか否かによって訴訟の結果が左右されるものではない」と主張する。

 

 次回期日は2月29日。弁護団の二関辰郎弁護士は「健康保険法の言い回しを巡る解釈について反論していく」と会見で説明した。
 

 

◆「マイナ保険証は利便性と真逆のことが起きている」
 また原告側は義務化後、医療機関の窓口でオンライン資格確認が機能せずに、患者の資格確認ができないトラブルが相次ぎ、健康保険法の目的や基本理念に反する事態が生じていると強調する。訴訟で全国保険医団体連合会(保団連)が実施したアンケートでのトラブル事例を紹介。だが、国側は「あくまでアンケート結果であり、直ちに『重大なトラブル』の具体的内容や実態が明らかになるとは言えない」と主張した。
 

 会見に出席した保団連の竹田智雄副会長は「本来であればアンケートは、国がやってしかるべきプロセスではないか。強引な義務化に医師は戸惑っている。1万人以上の医師に対する調査であり、現場の声だ」と調査結果を軽視する国の姿勢を批判した。「マイナ保険証の利用率は5%もない。利便性を訴えているが、真逆のことが起きている。予定通り保険証を廃止していいのか」
 

 

◆識者「医者と患者の信頼関係を制度が邪魔」
 保団連の最新の全国調査では、約6000件の回答のうち、オンライン資格確認に関するトラブルがあったと回答したのは58.4%。内容は「名前や住所に●(黒丸)が表示される」「資格情報の無効がある」「カードリーダーでエラーが出る」などだった。
 

 マイナンバー制度に詳しい清水勉弁護士は「本来は、オンライン資格確認の義務化は法律の改正で行われるべきだが、大きな混乱が生じる懸念から政治的な解決法として省令によって定めた」と指摘する。結果的にトラブルが相次ぎ、現場が混乱している事態にこう意見する。「医療は医者と患者双方の信頼関係で成り立つのに、オンライン資格確認制度が邪魔をしている。改めて法改正による義務化を議論するべきで、法律にできないのなら従来の保険証による確認も続けるべきだ」