たたかいは続く
 工費をめぐっても、埋め立て完了14%の段階で、すでに半分近くが支出されていることが明らかになっており、今後、どこまで膨らむか分かりません。民意とデニー知事の判断を無視した工事はいずれ破綻に直面せざるをえません。辺野古新基地の完成は不可能です。

 「新基地反対の民意はみじんもぶれることはない」。デニー知事は記者団に、力強く訴えました。民意がある限り、辺野古新基地をめぐるたたかいは、これからも続きます。

 

 

12月20日、国が沖縄県に変わり手続きを執行して辺野古の埋め立てを進めようという「代執行」裁判の判決がありました。繰り返された国と県の法廷闘争。そこに見えるのは、民意が置き去りにされてきた苦悩の歴史です。

辺野古埋め立て 「国の代執行」認める判決
辺野古新基地建設をめぐって、大きな節目となる代執行訴訟の判決。

その日、沖縄を包んだ、降りしきる雨と冷たい風の中で、県民は待っていた。
判決は、国の主張を全面的に認め、その受け入れを命じる、沖縄県にとって厳しいものだった。

「沖縄を馬鹿にするなよ!」

名護市辺野古は、オスプレイも離着陸する世界一危険とされる普天間基地の移設先だが、2019年に行われた埋め立ての賛否を問う県民投票で、反対が投票総数の7割を超えた。

▼賛成 19.0%

▼反対 71.7%

計画では、およそ152ヘクタール埋め立てられ、V字滑走路は1800メートルに及ぶ。

その先端部分である大浦湾で、マヨネーズ状と言われる軟弱地盤が見つかり、国は、県に地盤の改良に必要な設計変更を申請。それを沖縄県が承認せず裁判となったが、最高裁で県の敗訴が確定した。

 

それでもなお承認しない県に代わって、国が承認を執行しようと玉城知事を提訴したのが今回の代執行訴訟だ。

国と沖縄県、双方の主張は真っ向から対立してきた。10月末に行われた口頭弁論の開廷前。

玉城デニー沖縄県知事

「住民の意思に沿って行政を行い、その行政権限を国は奪ってはならない。そう書いてあるのが憲法の地方自治の本旨なんです。それを話し合いもせず、言うことを聞かないから『お前は退いてろ』と言わんばかりに権限を取り上げて、我々の未来を埋め立てようとしている」

支持者

「デニー知事頑張れ!」

そう背中を押されて、知事が入廷した。

代執行訴訟の口頭弁論は、国側から始まった。

国側の主張

「設計変更申請を沖縄県が承認しないのは違法である」

「代執行以外の方法によって是正を図ることが困難であることは明らかである」

「承認しない状態を放置すれば、我が国の安全保障と普天間飛行場の固定化の回避という重要課題に関わるから、著しく公益を害する」

一方、被告である玉城知事が弁論で強調したのは、対話と民意だった。

玉城知事陳述

「対話によって解決を図る方法を放棄して、代執行に至ろうとすることは到底認められません」

「今日に至るまで、国は米軍基地の抜本的な被害軽減のための外交交渉を行わず、

県外移設の選択肢を政治的な理由から排除してきました。基地のもたらす深刻な被害に日常的にさらされながら、このような国の姿勢を見てきたからこそ、沖縄県民は辺野古新基地建設に反対しているのであって、何が沖縄県民の公益かの判断は、国が押し付けるものではなく、沖縄県民が示す民意こそが公益とされなければなりません」

裁判は、県側の弁論の後、あっけなく閉廷。即日結審した。

行政官として最高裁判決に従うべきか、辺野古反対の民意を背負った政治家としてあるべきか。玉城知事は、そのはざまで苦悩したという。

沖縄大学名誉教授の仲地博さんは、その苦悩と沖縄の主張の意味をこう話す。

仲地名誉教授

「法治国家であれば最高裁の判断に従うべきだというが、法治国家はもちろん大事です。しかし憲法はもう一つの価値を保障している。わざわざ一章を設けて地方自治の保障を規定した。地方自治を実践する地としての沖縄が、現代の日本における沖縄の価値なんだろうと思います」

 

歴代沖縄県知事 抗いの歴史
沖縄が地方自治のありようを最初に問うたのは、28年前に遡る。

1995年、当時の大田昌秀沖縄県知事は民有地をアメリカ軍用地として強制使用するための手続きである代理署名を拒否し、村山総理に訴えられた。

地方自治体は国の下請け機関とされ、国から委任された事務を拒否するのは不可能といわれた時代に風穴を開けたと評された。それは、地方分権の動きを牽引することになったという。

仲地名誉教授

「(大田元知事は)人権、平等、地方自治実現の意識を大変強く持っておられた。沖縄は自己決定権ができない歴史を持ってるものですから、自治の主張というのも知事の中に強い信念としてあったということです」

そして、大田氏は、最高裁でこう意見陳述した。

大田知事陳述(1996年7月)

「安保条約が日本にとって重要だというのであれば、その責任と負担は全国民が引き受けるべきではないかと思っています。そうでなければ、それは差別ではないか、法の下の平等に反するではないかと県民の多くは主張しているのです。地方自治の本旨に照らして、沖縄の未来の可能性を切り拓くご判断をしてくださいますよう」

大田知事陳述後会見(1996年7月)

「差別的処遇を受けているというような方策をとっていただきたくないということ、基地問題の解決のありようは、日本国全体の将来の問題に結びつくんじゃないかと」

だが、最高裁は、その訴えを退けた。その後、大田氏は、民有地使用の手続きに応じることになる。抗議する反戦地主らにこう釈明した。

大田知事(1996年9月13日)

「ここは一歩下がって、政府と協力しながら、いまの産業の問題とか雇用の問題とか。総合的にやることによってしか基地問題の整理縮小はできないというのが、6年やって来て、そういう判断、認識を持たざるを得なくなってきている」

そう判断するに至った理由のひとつが、当時の橋本龍太郎総理の言葉にあった。

橋本龍太郎総理(1996年9月10日)

「今日まで沖縄県民が耐えて来られた苦しみと負担の大きさを思う時、私たちの努力が十分なものであったかについて、謙虚に省みるとともに、沖縄の痛みを国民全体で分かち合うことがいかに大切であるかを痛感しております」

政府は、基地の整理縮小推進などの努力に加え、沖縄政策協議会という対話の場の設置や、沖縄振興のための調整費50億円を提示したのだ。

大田県政で知事公室長などを務めた高山朝光さんは、大田氏の判断の背景をこう振り返る。

元沖縄県知事公室長 高山朝光さん

「大田知事が期待した本気度なんですよ。橋本総理は本気になってきた。(代理署名を)拒否されながら、全省庁を挙げて沖縄のために何ができるか、というのを各省庁に取り組ませた」

水面下であった政府側とのやりとりを明かす。

元沖縄県知事公室長 高山朝光さん

「裏でね、知事の思いをもう少し和らげる方法として、振興策なり、そういうことで何かないかと打診を受けた。しかし、知事の思いはそんなもんじゃありませんと。取引じゃありません。沖縄の問題を政府として実際に正面からこれに取り組むかどうかという、その姿勢が問われているんですと」

その後、対話を重ねたのが、当時の国と県の関係だった。

それを振り返る大田氏の言葉が残っている。

大田元知事(2016年6月取材)

「今考えますとね、日本政府に橋本総理や梶山官房長官のようにですね、沖縄問題について理解のある方々がいればね、少しは良くなるんですが、全くそれがないですね、残念ながら」

そう語ったのは、大田氏が亡くなる一年前のこと。そのころ、同じように国と法廷闘争に入っていたのが翁長雄志前知事である。

前任の仲井眞知事による辺野古埋め立て承認(2013年12月)を、翁長知事が取り消した(2015年10月)ことで、国は代執行によって承認の状態に戻そうと提訴した。

翁長知事(2015年11月)

「沖縄県民にとっては、銃剣とブルドーザーによる強制接収を思い起こさせるものであります。埋め立ての承認および取り消しの審査権限は沖縄県知事にあります。政府から私が適法に行った承認取り消しを違法と決めつけられるいわれはありません」

大田氏以来の国に提訴された知事の陳述は、19年の時を超え同じ訴えだった。

翁長知事陳述(2015年12月)

「日本には、本当に地方自治や民主主義は存在するのでしょうか。沖縄県のみに負担を強いる今の日米安保体制は正常と言えるのでしょうか。国民の皆様全てに問いかけたいと思います」

その後も国との裁判が繰り返される中、翁長氏は、2018年、病に倒れた。

妻・樹子さんは、知事に当選した夜の翁長氏の言葉を、今も忘れないでいる。

翁長知事の妻・樹子さん

「国は言うことを聞いてくれない。たぶん裁判所も僕たちの味方にはなってくれない。じゃあ、どうするか。闘う姿をみんなにみてもらうしかないわけ。必死になって抗う姿を県民と全国民と全世界に見てもらうしかない。政府に押しつぶされる姿をみんなに見てもらう、これしかないなと」

沖縄の対話要請とこの国の政治
それでも、後を継いだ玉城知事は、再三にわたり対話を求めてきた。

玉城知事 河野外相に対話要請(2019年6月)

「問題解決のために沖縄県との真摯な対話の場を作っていただきますよう」

玉城知事 岸防衛相に対話要請(2020年10月)

「問題解決に向け県との対話に応じていただきたいと考えています」

玉城知事 西銘沖縄担当相に対話要請(2021年10月)

「岸田総理の所信表明においても丁寧な説明、対話による信頼を地元のみなさんと築くとおっしゃっている。格段のお力添えを」

玉城知事 岡田沖縄担当相に対話要請(2022年9月)

「問題解決に向けた沖縄県との対話に応じていただくとともに」

しかし、問題解決に向けた対話は実現しなかった。

松野博一官房長官(2023年10月)

「政府と沖縄県との対話については現時点で具体的な予定はないものの、基地の負担の軽減を図るため全力で取り組んでいく考えであります」

同じ時間に、沖縄県庁では…

玉城知事

「政府が誠意をもって県と対話による協議で解決を図ろうとしたのは橋本政権のころだと思う。翁長知事、および私の現在においては、政府のそういう姿勢、つまり問題を解決しようという姿勢での対話協議を行っているということはない」

翁長氏も、沖縄に対する政権の姿勢をかつてと比較し嘆いていた。

翁長知事の妻・樹子さん

「あの方(橋本元総理)たちは、本当に古い沖縄を、戦前・戦中・戦後の沖縄をよく知って下さっていて、結局やることは今の政府と変わらない。けど、その苦しみを知ろうとして下さる姿勢があったから我慢ができたって、翁長は言ってたの。今の方たちはそれが一切ない。日本全国、それで助かるんだから沖縄にあって当たり前だろうと。あんなふうに一緒に苦しんでくださって、申し訳ないと本当に思って下さっているのがひしひしと感じられるから、同じことをするのでも我慢できたんだよって言ってたの」

辺野古埋め立て 民意と公益
「国による代執行を許さない」「沖縄を再び戦場にさせない」。辺野古問題のみならず、南西諸島の軍備増強に危機感を抱く沖縄では、県民集会が相次いでいる。

大浦湾のすぐそばに暮らす渡具知武清さん。声を上げ続ける意義をこう話す。

渡具知武清さん

「まだまだ足りないっていうのが元にあるんだけど、力不足もあるし、一人じゃどうしようもできないから一緒に頑張ろうねと団結もできるし」

渡具知さんは、2004年から毎週土曜日にキャンドルを灯して、辺野古の基地のゲート前に家族で立ってきた。きれいな海を守りたい、その一心で始めた小さな抵抗だった。

当初2300億円とされた総工費予算は、現在9300億円。すでにその半分近くが使われ、さらに費用が膨らむ可能性が指摘されていることに、妻・智佳子さんは憤る。

渡具知智佳子さん

「もっと他にいい方法があるんじゃないのっていうのに耳も貸さないで、ここが唯一って言って、どんどんみんなの税金をつっこんでいくっていうのは、日本の政治って何かなと思います」

そして、今後、代執行が他の地域でも起きる可能性を危惧する。

渡具知武清さん

「何も手出しするなということですからね。沖縄はこれがまず初めてだから、問題ができるとこういうことで全部決着をつけるというか。何のための民主主義か」

許田正儀さん

「沖縄だから代執行っていう言葉自体が出てくるのかなって思ってね」

辺野古に暮らす許田正儀さんは、かつて移設を容認していた。だが、いま、少数を切り捨てる民主主義に疑問を抱いている。

許田正儀さん

「(沖縄は)日本の国民の中でわずか1%ですよ。100万人余りの県と1億2千万の日本国民にね、わずか1%の民主主義では覆せない。だけど、意思っていうのは尊重してもいいじゃないかと思います」

スーパーを経営し、自らを保守的な立場だと言う許田さん。

アメリカ兵らとも交流を持ち、ベトナム戦争時からキャンプシュワブの恩恵を受けてきたと話す。気持ちは揺れ続けたが、いま、長い混迷と政府の姿勢によって、心が定まった思いでいる。

許田正儀さん

「代替施設が出来て、騒音に悩まされて環境的に住めない地域になってしまうとね、みんなで頑張ればなんとかなれたのかなって、そういうことをふと考えますよ。自分のことはもうどうでもいい。孫たちのことを考えるとね、どんな環境の辺野古になってるんだろうと思いますよ」

渡具知さん一家は、いまも毎週末、キャンドルを灯して基地の前に立つ。

活動を始めた時、長女の和紀さんは2歳だった。

長女・和紀さん

「ブーイングされたこともあるんですけど、沖縄の未来を守ることに何の間違いがあるんですかっていうのは自分にも言い聞かせてるし、大浦湾に住んでる絶滅危惧種も含めて2000種類以上の生物たちの命を守ることもちゃんと含めて、それが“命どぅ宝”(命こそ宝)じゃないかなって」

繰り返された国と県の法廷闘争に思う。

長女・和紀さん

「根本的なところから、ちゃんと話し合っていくべきじゃないかっていう。私たち人間はそこを忘れているんじゃないか」

そして、12月20日、判決の日―。

判決は、国の主張を全面的に認め、沖縄県に対し、25日までに国の設計変更申請を承認するよう命じた。

判決

「被告の承認しないという意思は、明確かつ強固というほかなく、代執行以外の措置で是正をはかることは困難である。被告主張の『対話』は、その方法に当たるとはいえない」「最高裁判決で法令違反との判断を受けた後も、これを放置していることは、それ自体社会公共の利益を害するものといわざるを得ない」

沖縄の民意については…

判決

「歴史的経緯等を踏まえれば、沖縄県民の心情は十分に理解できるところではあるが、法律論としては公益を当然に考慮しうるものとはいい難い」

判決は民意を公益と認めなかった。

年明けにも、この海を埋め立てる工事が始まる。今後、最高裁で県が逆転勝訴しない限り、工事は止まらない。

 

 

 

辺野古・代執行強行

国策の下 民意踏みにじる

それでも新基地完成は不可能

 
(写真)28日に発行された辺野古新基地建設設計変更の承認書
 
 官公庁の仕事納めとなった28日の午前10時ごろ、東京・霞が関の国土交通省の一室で、A4の紙1枚、たった5行の「承認書」が、同省から防衛省沖縄防衛局の職員に手渡されました。

 沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設をめぐる玉城デニー知事の権限が奪われ、防衛局が斉藤鉄夫国交相から、辺野古・大浦湾の地盤改良工事を「承認」された瞬間です。

「国に逆らうな」
 「国策の名の下に、代執行という国家権力によって、選挙で沖縄県民の負託を受けた知事の処分権限を一方的に奪うことは、多くの県民の民意を踏みにじり、憲法で定められた地方自治の本旨をないがしろにするものだ」。デニー知事は同日、発表したコメントで痛烈に批判しました。

 さらに「国と地方公共団体との関係を『対等・協力の関係』とした地方分権改革の成果を無にし、『上下・主従の関係』に逆行させるものにほかならない」として、日本の地方自治そのものへの否定的影響に強い危惧を示しました。

 「国の言うことに逆らうな」―。こうしたあしき先例を残した岸田政権の罪はあまりにも重い。しかし、どんな強権をもって工事を承認したとしても、最深90メートルに達する広大な軟弱地盤の改良が進むわけではありません。

 そもそも、地盤改良をめぐる最大施工実績は国内で65メートル、海外でも70メートル、国内の作業船の最大能力も70メートルまでしかありません。

 大浦湾に投入される土砂は全体の8割以上を占めています。地盤改良には7万本以上の砂ぐいを打ち込むという前例のない難工事であり、国の「代執行」を認めた福岡高裁那覇支部の不当判決(12月20日)でさえ、新たな設計変更の必要性が生じ、そのたびに訴訟となる可能性を指摘。国と県の「対話」による解決が望ましいとしています。

たたかいは続く
 工費をめぐっても、埋め立て完了14%の段階で、すでに半分近くが支出されていることが明らかになっており、今後、どこまで膨らむか分かりません。民意とデニー知事の判断を無視した工事はいずれ破綻に直面せざるをえません。辺野古新基地の完成は不可能です。

 「新基地反対の民意はみじんもぶれることはない」。デニー知事は記者団に、力強く訴えました。民意がある限り、辺野古新基地をめぐるたたかいは、これからも続きます。(小林司)