岸田文雄政権が消費税のインボイス制度導入を10月1日に強行してから約3カ月です。一方的な値引きや単価切り下げ、仕事の打ち切りをはじめ取引関係の悪化や免税事業者いじめなどで多くの小規模事業者・フリーランスが苦しんでいます。制度の複雑さも混乱に拍車をかけています。現場に負担と苦難を強いるインボイスを一刻も早くなくすことが必要です。

 

 

消費税の正体
今年10月に始まったインボイス制度は、さまざまな事務作業を増やし、事業者の経理コストを上昇させていると言われる。「どうしてこれほど細かい計算が必要なのか」と不満をため込んでいる人も多いだろう。

じつは筆者も、本質的には、ここまでの細かい事務を通しての納税は必要ではないと考えている。それには「そもそも消費税とはどのような性質の税なのか」という問題が深く関わっている。

 

今年2月の内閣委員会で興味深い質疑があった。消費税に関する質問に財務省の大臣政務官が、
「(消費税は)預かり金的な性格でありまして、預かり税ではありませんというような答弁を過去ずっと財務省はさせていただいております」

と答弁したのだ。

この答弁のポイントは、「預かり金的」という言葉と「預かり税」という言葉の違いだ。「預かり税」とは、消費者から預かった税金をそのまま事業者が納めるというタイプの税金だ。「預かり金的」というのは、「預かり税に似ているものの、実際のところ少し違う」という微妙なニュアンスを持つ。どういうことなのか。

消費税の「税の帰着」問題
多くの人は、消費税率が上がると、消費者が増税分を100%負担すると思っているのではないか。だがこれは誤解だ。

消費税率が0%のとき、1000円で販売していた定食があるとしよう。消費税率が10%になったとする。このとき、店側が増税分の100円を消費者に転嫁して1100円で販売できるとは限らない。飲食店の市場は競争が激しいからだ。

たとえば増税後、店側が税込み価格を1023円にすると、100円のうち23円分しか消費者に転嫁できず、残りは事業者などが負担することになる。

 

消費税の負担は、消費者に100%転嫁できるとは限らず、残りは事業者などが負担しているという点がポイントである。このような問題を、経済学では「税の帰着」問題と呼んでいる。

消費税のこうした特徴ゆえ、財務省は従来から、消費税の性質を示す表現に細心の注意を払い、「預かり金的」という言葉を用いているのだ。消費税の負担が消費者に100%転嫁できるなら、消費税は「預かり金的な性質を持つ税」でなく、「預かり税」となるためである。

消費税は「第2法人税」
「預かり金的」という微妙な言葉は、財務省が頻繁に用いる「消費税は、価格への転嫁を通じて最終的には消費者が負担することが予定されている税」という表現と一体になっている(傍点をふった部分が重要だ)。

そもそも消費税は事業の付加価値(売り上げ|仕入れ)に課税するものだ。じつはその課税ベースは、法人税とそれほど異なるものではなく、実質的には「第2法人税」という見方が正しい。

 

消費税が「預かり税」でなく、「第2法人税」のような性質を持つのであれば、納税のためには現在のような細かい計算は必要なく、シンプルな計算でかまわないはずだ。

経理コストの上昇や第2法人税という性質を総合して考えるのならば、いっそのこと、軽減税率制度やインボイスを廃止し、低所得者には定額給付を行い、消費税率を単一税率にしてしまうという選択もあるのではないか。今後の議論の深化を注視したい。

 

 

主張
混乱インボイス
現場に苦難強いる制度なくせ

 

 岸田文雄政権が消費税のインボイス制度導入を10月1日に強行してから約3カ月です。一方的な値引きや単価切り下げ、仕事の打ち切りをはじめ取引関係の悪化や免税事業者いじめなどで多くの小規模事業者・フリーランスが苦しんでいます。制度の複雑さも混乱に拍車をかけています。現場に負担と苦難を強いるインボイスを一刻も早くなくすことが必要です。

仕事なくす未登録業者も
 消費税の納税額は、年間売り上げにかかった消費税から、仕入れにかかった分の消費税を差し引く「仕入れ税額控除」を行って算出します。

 インボイスを登録していない免税事業者との取引では「仕入れ税額控除」ができません。免税事業者と取引すると仕入れにかかった消費税を負担しなくてはならないことから、取引をめぐり混乱とトラブルが頻発しています。

 インボイス登録していない飲食店がインボイス登録番号の入った領収書の発行を客から求められ、出せないと言うと「インボイスを取っていないなら、飲食代を10%値引きせよ」と迫られる事態も起きています。領収書が必要な接待に使う客が多いため、泣く泣くインボイス登録をした業者や、「インボイスを登録していない自分のところと、もう1軒だけにピタッと仕事が来ない。でも登録しても消費税なんて払えない」という悲痛な声も上がっています。

 インボイス制度を考えるフリーランスの会が行った制度開始1カ月実態調査(10月20日~31日)では、回答者の7割近くが「事業の見通し悪い」「廃業検討」などと答えました。「インボイス制度について相談できる人がいない」との回答も半数を占めました。

 インボイスに対する批判の広がりの中、政府は2026年9月までは、1万円未満は消費税の計算上インボイスを必要としない「少額特例」や、納税額を売り上げにかかる消費税の2割に抑える「2割特例」を創設しました。しかし、仕組みが複雑で、情報も錯綜(さくそう)しています。税務署が書類の扱いを間違って教えたために、特例を受けられなくなる人も出かねない危険が生じるなど大混乱です。

 財務省はインボイス導入の理由を「適正な課税のため」だと強調し、国民への煩雑な事務負担の強化を当然のように言います。しかし、政権党の自民党はどうでしょうか。主要派閥は政治資金パーティー収支を巡り、国民に公開するために厳格性・透明性が求められている政治資金収支報告書の未記載・虚偽記載を繰り返していました。安倍派は組織ぐるみで億単位の裏金をつくり、国会議員に多額のキックバックをしていました。

自民にこそ厳正な対処を
 安倍派では本来のパーティー収入が記された資料とは別に、議員への還流額を反映させた資料を作成していたと報じられています。民間企業で「二重帳簿」や収入隠しが発覚すれば、脱税で重加算税の罰則がつきます。厳正対処が必要なのは自民党の違法行為です。抜け穴をなくし、企業・団体献金の禁止に踏み切るべきです。

 インボイスでの消費税増収分を「少子化対策」財源にあてると言う首相に、子育て世帯をはじめ物価高に苦しむ国民の批判が上がっています。消費税減税を実現する政治への転換が急務です。