「派閥の裏ガネ作り」
東京地検特捜部が自民党をターゲットに「怒濤の攻め」をくり出している。

柿沢未途代議士が、江東区長選挙に絡んで区議らに現金を渡したという公職選挙法違反(買収)容疑の捜査は、12月13日の臨時国会閉会後、立件に向けて動きが本格化する。柿沢氏は11月30日付で、後援会向けに「自民党に転じた私が地元に受け入れてもらうための(区議選の)陣中見舞いだった」とする文書を配布し、区長選との関係を否定した。

 

他方で、派閥パーティー券の収入を収支報告書に記載していなかったとする政治資金規正法違反容疑の捜査は、不記載問題が常態化した「派閥の裏ガネ作り」に進展したことで局面が変わった。
特に悪質なのは最大派閥の安倍派で、所属議員がノルマ以上に集めた分を派閥と議員の双方が報告書に記載せず、その総額が1億円以上に達することが明らかになった。税務署に申告せず、使途のハッキリしない完全な裏ガネ。国民に対する許しがたい背信行為だ。

安倍派以外の派閥も悪質さの軽重はあっても同様の問題を抱える。特捜部は全国から応援検事を集め、リクルート事件並みの大捜査網を敷いて、派閥の会長、事務総長、会計責任者、対象となる議員を軒並み聴取する方針だ。派閥政治の終焉につながるかもしれない。

「週刊現代」2023年12月16日号より
 

 

<崖っぷちの「崖田首相」>“増税クソメガネ”のイメージ払拭に岸田首相が秋の臨時国会で「減税解散」も。だが10・22補選で議席を失えば党内求心力はさらに低下か

 
 
2023年度(1月~12月)に反響の大きかった政治記事ベスト10をお届けする。第10位は、岸田政権の支持率が低下する中、永田町に出回った「解散に踏み切るかもしれない」という怪文書などの真実に迫った記事だ(初公開日:2023年10月4日)。岸田首相を揶揄する「増税メガネ」「増税クソメガネ」といったワードがトレンド入りする中、総選挙に突っ込むことになるのだろうか。岸田文雄首相が10月20日から開かれる臨時国会の中で、解散に踏み切るのではないかという観測が永田町で強まっている。自身の評判も政権支持率も低いのに、どうして選挙に打って出ようとするのか。その背景には、なんとしてでも来秋の総裁選で再選したいという岸田首相の勝手な思惑がある。

2023年度(1月~12月)に反響の大きかった政治記事ベスト10をお届けする。第10位は、岸田政権の支持率が低下する中、永田町に出回った「解散に踏み切るかもしれない」という怪文書などの真実に迫った記事だ。(初公開日:2023年10月4日。記事は公開日の状況。ご注意ください)

崖っぷちの岸田首相を“崖田首相”と揶揄する文書も
前総務会長の遠藤利明氏が岸田首相に臨時国会での冒頭解散を進言した――。

そんな怪文書が9月29日、永田町に出回った。文書では岸田首相のことを、内閣改造後も支持率が上がらず崖っぷちだからか、「崖田総理」と表現。
遠藤氏が“崖田総理”に直電し、「予算委員会で加藤鮎子こども政策担当大臣、土屋品子復興大臣の答弁は見られたものではない」と主張。総理は「補正を通してから(解散)」と返したが、話しているうちに遠藤氏の言葉を聞くだけになったという。

遠藤氏は2021年の自民党総裁選で岸田陣営の選対本部長を務め、岸田首相誕生のために奔走した盟友だ。

たしかに、加藤氏は大臣就任後から政治資金収支報告書のミスや、親族への政治資金の還流疑惑が続出しており、土屋氏も「特定帰還居住区域」を「特定帰還移住区域」と言い間違えたほか、選挙ボランティアに報酬を渡していたとする疑惑を週刊新潮が報じている。

臨時国会に補正予算を提出し、予算委員会の審議で両大臣が答弁に立つことが増えれば、これらの疑惑について追及されるのは必至で、政権が倒れかねないと遠藤氏は思ったのだろう。そのため、臨時国会では補正予算の審議はせず、岸田内閣のボロが出る前に解散すべきと直言したと見られる。
 
減税案をともに考えたのは木原幹事長代理
一方、岸田首相は29日、臨時国会に補正予算を提出すると明言した。永田町では解散があるとしたら補正予算が成立した直後になるという観測が強まっている。ただ、岸田政権の支持率は依然として低いままだ。

報道各社が行った世論調査では内閣改造後も支持率は上がらず、それどころか毎日新聞と産経新聞の調査では支持率が下がる結果に。

要因としては、岸田首相が党内基盤の安定を優先したあまり、政権の中心メンバーが変わらなかったことや、過去に政治資金問題を引き起こした小渕優子氏が選対委員長に抜擢されたことなどが挙げられる。だが、そもそもトップの首相本人に人気がないことも大きいだろう。

X(旧Twitter)上では岸田首相を揶揄する「増税メガネ」「増税クソメガネ」が何度もトレンド入りした。

10月から始まったインボイス制度によって、これまで年間売り上げ1000万円以下で消費税が免税となっていた零細事業者も、その多くが今後は消費税を納税することとなり、実質的な増税となっているからだ。

岸田首相はこれまでも、防衛費の大幅増額のために法人税、たばこ税、復興所得税の増税を決めており、「異次元の少子化対策」の財源をめぐっては社会保険料の上乗せが検討されている。

今や「岸田といえば増税」の感すらある岸田首相だが、官邸はそのイメージ払拭に躍起だ。岸田首相は9月25日、10月に取りまとめる経済対策の5つの柱を発表するなかで、「成長力強化に向けて賃上げ税制の減税制度の強化」「特許などの所得に対する減税制度の創設」「ストックオプションの減税措置の充実」と、「減税」という単語を連発した。

まるで自身についた「増税」のイメージを「減税」によって中和しようとしているかのようだ。

永田町関係者は「“増税クソメガネ”というあだ名がつけられていることは岸田首相自身も気にしている。今回、減税を前面に出して発信しているのも、週刊誌報道を受けて官邸を去った後もなお側近として影響力を持つ木原誠二幹事長代理とともに考えたと言われている」と語る。

総務会長が「減税解散総選挙」を示唆?
これに呼応するかのように森山裕総務会長は10月1日、北海道北見市での講演で岸田政権が減税を検討していることについて触れ、「税に関することは国民の審判を仰がなければならない」と述べた。

防衛費増額のための増税を決めた際には国民の審判を仰がなかったことを考えると、何とも都合のいい解釈だが、まるで減税解散総選挙を示唆するような発言に永田町の警戒感は高まっている。

なぜ、岸田首相のイメージ転換を図ってまで、早期解散が模索されているのか。それは、来年秋の自民党総裁選までの間に内閣改造をするタイミングがなく、今のままでは不人気内閣を抱えたまま総裁選に突入することになってしまうためだ。

内閣改造は国会が開いていない閉会中に行われることが多いが、そうすると来秋までの間には今年の臨時国会後(=冬)と、来年の通常国会後(=夏)しかない。

今年の冬は再び改造するにしては早すぎるし、来年夏は9月に総裁選が控えていて、再選した後に組閣することが一般的であると考えると、このタイミングの改造も考えにくいだろう。

支持率が上がらないまま、不人気内閣を引っ張って来秋の総裁選を迎えれば、「岸田首相では選挙を戦えない」と総理総裁の座から引きずり降ろされる可能性がある。

現在の衆議院議員の任期は2025年10月なので、総裁選から間もなく総選挙があることを考えると、自民党議員が岸田首相を見る目は当然厳しくなる。

岸田政権を待ち受ける“国民の審判”
そうならないためには早いうちに解散総選挙をし、内閣を一新するとともに、衆院選を総裁選から遠ざける必要があるわけだ。それならば、臨時国会で大型経済対策の裏打ちとなる補正予算を成立させ、国民の関心を集めた直後である、11月に解散してしまうのが一番いいと見られる。

冒頭に触れた怪文書にもあったように、現状の新大臣には不祥事や失言のリスクも伴う。不人気内閣となってしまったからには、とっとと解散してしまったほうがマシという考え方も根強いだろう。

だが、事がそう上手く運ぶとは限らない。

岸田首相が声高に宣伝している「減税」は主に企業が対象で、国民が実感できるものとは程遠く、「増税クソメガネ」のイメージ払拭するのも簡単ではない。

さらに10月22日には衆院長崎4区と参院徳島・高知選挙区で補欠選挙が予定されており、自民党が1つでも議席を落とすことになれば、自民党内での岸田首相の求心力が一気に低下し、解散どころではなくなる可能性も十分にある。

何より、補正予算成立後の解散には、岸田首相が「来年秋の総裁選で再選したい」という個人的な思惑しかない。それを見透かされれば、岸田政権には手痛い“国民の審判”が下ることになるだろう。

取材・文/宮原健太

集英社オンライン編集部ニュース班