きょうの潮流
 

 そこは戦場でした。兵士同士がぶつかりあう最前線。食べ物も少なく、電気もない。寒さ厳しい冬のある夜、戦闘に疲れ果て休んでいると相手の塹壕(ざんごう)から歌声が聞こえてきました

 

▼それは「きよしこの夜」。いつしか、両軍の塹壕から合唱のようにクリスマスの歌が暗い夜空に流れていきました。翌朝、両兵士がゆっくりと歩み寄り、握手を交わします。「メリークリスマス」

 

▼また一緒に歌ったり食べ物を分けあったり。家族の写真を見せあい、記念写真をとる人も。そして、笑顔のサッカーが始まりました―。1世紀前の第1次世界大戦で争ったイギリス軍とドイツ軍の間であったクリスマス休戦です

 

▼この話は兵士たちの写真や手紙などで裏付けられ、語り継がれてきました。日本でも昨年、絵本作家の鈴木まもるさんが紹介しています。『戦争をやめた人たち』と題して。残念ながら戦争は今も世界で起こっているが、戦争をやめることができるのも人だと

 

▼クリスマスを前に鳴り響く爆音や銃声。ガザでは死者が2万人をこえ、住民は深刻な医療危機や飢餓に直面しています。鈴木さんがこの絵本のあとがきの絵を描いているとき、ロシアのウクライナ侵攻が始まりました

 

▼また戦争を始める人間がいる現実にがく然としながら、戦争することよりも強い、人の優しさと想像力が描きたくて完成させました。最後の絵には世界中の人びとが手をつないでつくった輪の真ん中にメッセージが込められています。「この星に、戦争はいりません」

 

 

 

ガザで戦闘「継続」再び明言 米大統領にイスラエル首相

 

 

 【エルサレム共同】イスラエルのネタニヤフ首相は23日、バイデン米大統領と電話会談し、イスラム組織ハマス掃討の目標達成までパレスチナ自治区ガザで戦闘を続けると再び明言した。バイデン氏は民間人保護の重要性を訴えた。イスラエル軍のハガリ報道官はガザ南部で地上侵攻を拡大し、南部最大都市ハンユニスで地下施設への作戦を続けていると語った。

 軍はハマス指導者らが南部の地下に潜伏中とみて追跡している。ハレビ参謀総長はハンユニスに入り「まだやることがある」と語った。ハマスも抗戦しており、10月下旬に地上侵攻を開始後のイスラエル軍兵士の死者は140人を超えた。軍は武器の製造や調達を担うハマスの責任者をガザ南部ラファで22日に空爆で殺害したと表明した。

 ハマスは23日、イスラエル軍の攻撃後、人質5人を担当するグループと連絡が取れなくなり、人質は死亡したとみられるとの声明を出した。

 ガザ保健当局は23日、10月に戦闘が始まって以降のガザ側の死者が2万258人となったと発表した。1日で201人増えた。負傷者は5万3千人以上。イスラエル側の死者は約1200人に上る。

 

 

「ウクライナ戦争が止まらない原因」はアメリカにあった...メディアが決して明かさない「ウクライナ支援が“投資”である本当の理由」と「ヤバすぎる欺瞞」

 
 
連日、止まらないウクライナ戦争やイスラエルによるガザ攻撃に関するメディア報道が続いている。その内容や解説に耳を傾けると一定の理解が得られる一方で、誰もが抱く大きな疑問、「なぜ民間人の惨たらしい死につながる戦争が止まらないのか」「人命尊重と言いながらアメリカはなぜ真逆の行動を取っているのか」「そもそも最強のはずのアメリカは何をしているのか」―といった素朴な疑念について、明快な答えが語られることはなく、私たちはいつもやきもきさせられている。

そうした、現在起きている世界情勢の真実を理解する鍵として、「戦争の経済的な側面」から見えてくる真実について、評論家の塩原俊彦氏に解説いただいた。
 
ポール・ポースト著『The Economics of War』の日本語訳は2007年に刊行された。この『戦争の経済学』を一読して痛感したのは、「戦争で失われた人命の価値」を、(戦争による死者数)×(戦争時点での1人当たりの人命価値)として求める経済学の「冷たさ」であった。

それでも、戦争に経済コストはつきものであり、経済負担の重さが戦争抑止手段の一つなのはたしかだろう。その意味で、戦争の経済的影響を冷静に評価する試みを否定すべきではない。

巨大な軍需産業の意図にかなった「下準備」とは
ポーストは、戦争の経済的影響を評価するためのポイントとして、
1.戦争前のその国の経済状態

2.戦争の場所

3.物理・労働リソースをどれだけ動員するか

4.戦争の期間と費用、そしてその資金調達法

の4つをあげている。これらは、戦争が与える心理的影響と、戦争にかかる実際の資金という現実的影響を考えるうえで役に立つ。

このポーストの分析手法で重要なのは、現実的影響だけでなく、心理的影響に注目している点だ。たとえば、ウクライナ戦争の勃発が人々におよぼした心理的影響は、人々を「怖がらせる」とか、「怯えさせる」という「効果」をもち、安全保障関連の支出増大を促す。世界中で武器や軍備への歳出が増え、それによる軍需産業の利益は莫大になる。逆にいえば、戦争を起こせば、大いに得になると皮算用する連中が世界の片隅にたしかに存在する。そうした連中が多いのは巨大な軍需産業を抱えるアメリカだ。そして、彼らの目論見は成功しつつある。

ウクライナでいえば、2014年2月21日から22日に起きた、当時のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領を武力で国外に逃亡させた事件(米国の支援する反政府勢力によるクーデターだが、欧米や日本のメディアは「マイダン革命」とほめそやしている)以後、クリミア半島がロシアに併合され、東部ドンバス地域で紛争状態に陥ると、むしろ米国の政治家や諜報機関などの中には、ウクライナとロシアの紛争の火種を大きくし、戦争を巻き起こそうとする連中がたしかにいた。
 
たとえば、「2015年以来、CIA(中央情報局)はウクライナのソヴィエト組織をモスクワに対抗する強力な同盟国に変貌させるために数千万ドルを費やしてきたと当局者は語った」と「ワシントン・ポスト(WP)」は報道している。このCIAの関与はロシアとの戦争のためであり、ウクライナ戦争をアメリカが準備してきた証でもある。ロシアがウクライナ戦争を領土侵略のために起こしたとみなすのは、あまりにも短絡的な思考なのだ。

「ウクライナ支援」は「米国内への投資」?
ここでは、このポーストの分析手法をヒントにして、アメリカの行う「ウクライナ支援」の経済的側面に注目したい。理由は簡単だ。このところ、ジョー・バイデン大統領や国防総省は、「ウクライナ支援」が「米国内への投資」とさかんに言い始めているからだ。「投資」であるならば、どう儲かるかについて分析する必要があるだろう。

その前に、バイデン大統領の発言を確認しておきたい。EU米首脳会議の前夜に当たる2023年10月20日、バイデン大統領はアメリカ国民に向けた演説『Remarks by President Biden on the United States’ Response to Hamas’s Terrorist Attacks Against Israel and Russia’s Ongoing Brutal War Against Ukraine』で、「明日(10月21日)にイスラエルやウクライナを含む重要なパートナーを支援するための緊急予算要求を議会に提出する」とのべた直後に、「これは、何世代にもわたってアメリカの安全保障に配当金をもたらす賢明な投資であり、アメリカ軍を危険から遠ざけ、我々の子供や孫たちのために、より安全で平和で豊かな世界を築く助けとなる」と語った。
 
さらに、11月18日付の「ワシントン・ポスト」において、彼は、「今日のウクライナへのコミットメントは、われわれ自身の安全保障への投資(investment)なのだ」と明確にのべている。

ほかにも、国防総省はそのサイトに11月3日に公表した「バイデン政権、ウクライナへの新たな安全保障支援を発表」の中で、「ウクライナへの安全保障支援は、わが国の安全保障に対する賢明な投資(smart investment)である」とはっきりと書いている。

どうして「ウクライナ支援」が「賢明な投資」なのかというと、実は、「ウクライナ支援」といっても、実際にウクライナ政府に渡される資金は米国の場合、ごくわずかだからだ。米戦略国際問題研究センターのマーク・カンシアン上級顧問は、2023年10月3日、「「ウクライナへの援助」のほとんどは米国内で使われている」という記事を公表した。

それによると、これまで議会が承認した1130億ドルの配分のうち、「約680億ドル(60%)が米国内で使われ、軍と米国産業に利益をもたらしている」と指摘されている(詳しい分析は拙稿「「米国内への投資」を「ウクライナ支援」と呼ぶバイデン政権」〈上、下〉を参照)。

12月20日の記者会見で、アンソニー・ブリンケン国務長官は、米国のウクライナ支援の90%は国内で使用され、地元企業や労働者の利益となり、米国の防衛産業基盤の強化にもつながっていると説明した。

アメリカがウクライナ戦争の継続を望む真の理由
米軍のもつ古い軍備をウクライナに供与し、国内で新しい軍備を装備すると同時に、欧州諸国のもつ旧式軍備をウクライナに拠出させ、新しい米国製武器の輸出契約を結ぶ。こうして、たしかに米国内の軍需産業は大いに潤う。

それだけではない。戦争への防衛の必要性という心理的影響から、諸外国の軍事費は増強され、各国の軍需産業も儲かるし、アメリカの武器輸出も増える。

他方で、「ウクライナ支援」に注目すると、欧州諸国や日本はウクライナへの資金供与の多くを任されている。どうやら、これらの国は「ウクライナ支援」が本当の意味での「援助」になっているようにみえる。この「支援」が「投資」か「援助」かの違いこそ、米国が「ウクライナ支援」に積極的な理由であり、ウクライナ戦争の継続を望む「本当の理由」と考えることができるのだ。

「ウクライナ支援」の美名のもとで、本当の「援助」は欧州や日本にやらせ、米国だけは「国内投資」に専念するという虫のいいやり口が隠されている。それにもかかわらず、欧米や日本のマスメディアはこの「真実」をまったく報道しようとしない。

では、アメリカは具体的にどのように「戦争の長期化」に寄与するように働きかけたのか。そこには巧妙な「ナラティブ」が存在した。
 
 

「ウクライナ戦争の長期化」を望んだのはアメリカだった…バイデン政権が2度潰した「和平のチャンス」

 
和平を拒んだのはアメリカ
こう考えると、なぜウクライナ戦争の和平が実現されず、長期戦になっているかが理解できるはずだ。現に、バイデン政権は過去に二度、ウクライナ和平の契機を潰した(これも、米国に気兼ねしてメディアが報道しないため、あまりに無知な人が多い)。米国内への投資のためにウクライナを援助する以上、ウクライナ戦争を停止するわけにはゆかないのだ。なぜなら軍需産業の雇用が増え、バイデン再選へのプラス効果が出ているからである。再選のためなら、バイデン大統領は手段を選ばない。

第一の和平の契機は、2022年3月から4月であった。ウクライナとロシアとの第1回協議は2022年2月28日にベラルーシで行われ、第2回協議は3月29日にイスタンブールで行われた。ここで課題となったのは、

1.ウクライナの非同盟化、将来的に中立をどう保つのか

2.ウクライナの非軍事化、軍隊の縮小化

3.右派政治グループの排除という政治構造改革

4.ウクライナの国境問題とドンバスの取り扱い

である。

第2回会合の後、双方が交渉の進展について話し、特にウクライナは外部からの保証を条件に非同盟・非核の地位を確認することに合意した。たしかに和平に向けた話し合いが一歩進んだのである(なお、プーチン大統領は2023年6月17日、アフリカ7カ国の代表に18条からなる「ウクライナの永世中立と安全保障に関する条約」と呼ばれる文書を見せた。TASSによれば、文書のタイトルページには、2022年4月15日時点の草案であることが記されていた。保証国のリストは条約の前文に記載されており、そのなかには英国、中国、ロシア、米国、フランスが含まれていた。つまり、相当進展した条約が準備されていたことになる)。
 
しかし、2022年4月9日、ボリス・ジョンソン英首相(当時)がキーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と会談、英首相はウクライナに対し、120台の装甲車と対艦システムという形での軍事援助と、世界銀行からの5億ドルの追加融資保証を約束し、「ともかく戦おう」と戦争継続を促した。

この情報は、ウクライナ側の代表を務めたウクライナ議会の「人民の奉仕者」派のダヴィド・アラハミヤ党首が、2023年11月になって「1+1TVチャンネル」のインタビューで明らかにしたものだ。もちろん、ジョンソンの背後にはバイデン大統領が控えており、米英はウクライナ戦争継続で利害が一致していた。

それは、ゼレンスキー大統領も同じである。戦争がつづくかぎり、大統領という権力は安泰であり、2024年3月に予定されていた選挙も延期できる。だが、戦争継続は多くの市民の流血を意味する。そこで、和平協定を結ばないようにするには、理由が必要であった。

「ブチャ虐殺」が与えた影響
こうした時系列と文脈の中でブチャ虐殺を考えると、興味深いことがわかる。ここでは、ロシアの有力紙「コメルサント」(2022年4月6日付)の情報に基づいて、ブチャをめぐる「物語」(ナラティブ)を紹介してみよう。

ロシア軍がブチャから完全に撤退したのは3月30日のことだった。その翌日に撮影されたビデオをみてほしい。アナトリー・フェドリュク市長は、同市の奪還を喜びながら宣言している。だが、なぜか集団残虐行為、死体、殺害などには一切触れていない。むしろ、明るい表情でいっぱいであることがわかるだろう。
 
ところが、ロイター電によると、ブチャ市長は、4月3日、ロシア軍が1ヵ月に及ぶ占領の間、意図的に市民を殺害したと非難したと報じた。これらの時系列が真実だったとして、なぜ、撤退直後ではなく数日後に急に虐殺を非難しはじめたのか。ロシアとの戦争継続のための理由づけとして、ブチャ虐殺が利用されたと一面的には考えることもできる。和平交渉を停止して、戦争を継続する理由としてブチャ虐殺は格好の題材となる。少なくともこんな「物語」(ナラティブ)を想定することができるのだ。

これに対して、2022年4月4日付の「ニューヨーク・タイムズ」は、キーウ近郊のブチャで民間人が殺害されたのは、ロシアの兵士が町を離れた後であったというロシアの主張に反駁するための衛星画像を報じた。これが正しい見方であったとして、しかし同時にこれらの資料が市民殺害の実行犯までを特定することもできないのも事実だ。そしてロシア軍によるブチャ虐殺という物語が伝播するにつれて、ロシア代表が何を言っても、国連安全保障理事会で彼の主張に耳を傾ける者はほとんどいなくなった。
 
信憑性が疑われているイスラエル政府の主張
その後は実際にわれわれが目撃した通り、バイデンおよびゼレンスキーの訴えた物語は欧米の人々の心を強く打ち、和平交渉の話どころではなくなってしまった。

ここで注意喚起しなければならないのは、イスラエルがガザ最大の病院、アル・シファ病院に軍隊を送り込んだ理由としてあげた、

1.五つの病院の建物がハマスの活動に直接関与していた

2.その建物は地下トンネルの上にあり、過激派がロケット攻撃の指示や戦闘員の指揮に使っていた

3.そのトンネルは病棟の中からアクセスできる

といった情報の信憑性が疑われている点だ。これらに関する「ワシントン・ポスト(WP)」の報道によると、

1.国防軍が発見したトンネル網に接続された部屋には、ハマスが軍事利用した形跡はなかった

2.五つの病院の建物は、いずれもトンネル・ネットワークとつながっているようにはみえなかった

3.病棟内部からトンネルにアクセスできたという証拠もない

という。
 
つまり、イスラエル政府が提示した証拠は「不十分であった」のだ。つまり、イスラエル政府は「嘘」をでっち上げたと考えることができるのであり、同じことはウクライナ政府においても、どの政府にとっても可能である。少なくとも国際社会でまことしやかに報道される「物語」が、完全なる真実だと信じることはできないのだ。
 
統合参謀本部議長の和平提案を無視したバイデン
第二の和平の契機は、2022年11月、停戦交渉の必要性を示唆したマーク・ミリー統合参謀本部議長(当時)の和平提案をバイデン大統領が無視した出来事に示されている。

ウクライナ軍が南部の都市へルソンからロシア軍を追放し終えた直後の11月6日に、ミリーはニューヨークのエコノミック・クラブで講演し、「軍事的にはもう勝ち目のない戦争だ」と語った。

さらに、翌週、ミリーは再び交渉の機が熟したことを示唆した。記者会見で彼は、ウクライナがハリコフとヘルソンからロシア軍を追い出すという英雄的な成功を収めたにもかかわらず、ロシアの軍隊を力ずくで全土から追い出すことは「非常に難しい」とまで率直にのべた。それでも、政治的解決の糸口はあるかもしれない。「強者の立場から交渉したい」とミリーは言い、「ロシアは今、背中を向けている」とした。

だが、バイデン大統領はこのミリーの提案をまったく無視したのである。ウクライナの「反攻」に期待した「ウクライナ支援」が継続されたのだ。その結果、2022年のロシア侵攻以来、ウクライナでは1万人以上の市民が殺害され、その約半数が過去3カ月間に前線のはるか後方で発生していると国連が2023年11月に発表するに至る。

もう一度、はっきりと指摘したい。バイデン大統領は「米国内への投資」のために「ウクライナ支援」を継続し、ウクライナ戦争をつづけ、同国市民の犠牲をいとわない姿勢をいまでも堅持している。彼にとっての最重要課題は、彼自身の大統領選での勝利であり、そのためには、米国の軍需産業を儲けさせ、雇用を拡大することが優先事項なのである。

その後のアメリカのさらに不可解な選択は、現在のウクライナ戦争やガザでの状況につながっている。
 
 

「確実に失敗するウクライナの反転攻勢にこだわった」「イスラエルに武器支援」…“バイデン政権はあきらかに人命を軽視している”といえる理由

 
反攻作戦の失敗は自明だった
こうなるとゼレンスキー大統領もバイデン大統領も和平を望んでいないように思えてくる。まず、ゼレンスキー大統領はあえて自ら和平への道を断った。2022年9月30日、ウクライナ国家安全保障・国防評議会の決定「プーチン大統領との交渉が不可能であることを表明すること」を含む決定を同日、ゼレンスキー大統領は大統領令で承認したのである。この段階で、彼は自ら和平交渉への道筋を断ち切ったのである。
 
他方、バイデン大統領は負ける公算の大きかった反攻作戦にこだわった。だからこそ、2022年11月段階でのミリーの提案を無視したのである。反攻作戦がだめでも、とにかく戦争を長引かせれば、米国内への「投資」を継続し、米国内の労働者の雇用を増やすことができるからである。大統領再選につながるのだ。

2023年9月3日付で、ジョン・ミアシャイマーは、「負けるべくして負ける ウクライナの2023年反攻」という長文の論考を公開した。なお、彼は私と同じく、2014年2月にクーデターがあったことを認め、そこに米国政府が関与していたことをはっきりと指摘している優れた政治学者だ(「2014年2月22日、アメリカが支援し、親ロシア派の指導者を倒したウクライナのクーデターは、モスクワと欧米の間に大きな危機を招いた」[John J. Mearsheimer, The Great Delusion: Liberal Dreams and International Realities, Yale University Press, 2018, p. 142]。

この日の出来事をクーデターであったと早くから的確に指摘しているのは、日本では私くらいだろう[拙著『ウクライナ・ゲート』社会評論社, 2014])。この尊敬すべきミアシャイマーがなぜ反攻が「負けるべくして負ける」と主張しているのかというと、過去の電撃戦と呼ばれる戦い方法の比較分析から導かれる結論だからである(詳しい説明はミアシャイマーの分析記事を参考にしてほしい)。

ここで強調したいのは、「ウクライナ軍で電撃戦を成功させる任務を負った主要部隊は、訓練が不十分で、特に機甲戦に関する戦闘経験が不足していた」点である。とくに、開戦以来イギリスが訓練してきた2万人のウクライナ兵のうち、わずか11パーセントしか軍事経験がなかった点に注目してほしい。「新兵を4~6週間の訓練で非常に有能な兵士に変身させることなど単純に不可能」であり、最初から負けはみえていたと考えられるのだ。

だからこそ、2023年7月23日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、「ウクライナの武器と訓練不足がロシアとの戦いで膠着状態に陥るリスク 米国とキーウは不足を知っていたが、それでもキーウは攻撃を開始した」という記事を公表したのである。
 
人命を顧みないバイデン政権
バイデン政権が人命を顧みないことは、2023年12月8日、ガザでの即時人道的停戦を求める国連安全保障理事会の決議案に拒否権を発動したことによく現れている。2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃に対して、イスラエル軍が過剰な自衛権を行使する事態に陥っているにもかかわらず、あくまで「イスラエル支援」をつづけるバイデン政権はパレスチナの市民の人命を軽視している。
 
表面上、救援物資の輸送などで人道支援への努力をしているようにみせかけながら、他方で、国務省は12月8日の午後11時、議会の委員会に対し、1億600万ドル以上に相当する戦車弾薬1万3000発のイスラエルへの政府売却を推進すると通告した。この武器輸出は迅速化され、議会にはそれを止める権限はない。

国務省が中東への武器輸送のために緊急事態条項を発動したのは、2019年5月にマイク・ポンペオ国務長官がサウジアラビアとアラブ首長国連邦への武器売却を承認して以来はじめてのことであり、この動きは議員や国務省内部の一部のキャリア官僚から批判を浴びた。

『戦争の経済学』という視角からみると、パレスチナやウクライナの人命価値はアメリカ人のそれよりもずっと低いのだろうか。少なくとも、バイデン大統領はそう考えているようにみえる。そんな身勝手な判断ができるのも、アメリカが覇権国として傍若無人な態度をとりつづけているからだ。世界の警官である覇権国アメリカには、逆らえないのである。
 
覇権国アメリカの「悪」
『戦争の経済学』のいう心理的影響は、もちろん、日本にも波及している。2022年に国家安全保障戦略、 国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書を策定した岸田文雄政権は、反撃能力の保有、南西地域の防衛体制の強化といった威勢のいい方針を打ち出している。

2023年度~2027年度の防衛力の抜本的強化のために必要な5年間の支出額は、約43兆円程度とされる(円安を考慮すれば、大阪万博よろしく60兆円にも70兆円にもなりかねない)。たとえば、日本政府はアメリカから巡航ミサイル「トマホーク」なども購入する予定だ。気になるのは、1980年代前半に運用されているトマホークにはさまざまな種類があり、在庫のトマホークを大量に買わされるリスクが大いにある点だ。

オーストラリア政府は、海軍のホバート級駆逐艦のために、米国から約13億ドルで200発以上のトマホーク巡航ミサイルを購入することを決定した。そのトマホークについて、2023年12月に公表された米海軍研究所の論文は、「速度が遅く、射程距離も比較的限られているため、戦時中は一斉射撃の回数が増え、艦の弾倉をすぐに使い果たしてしまう可能性がある」とはっきりと指摘している。豪州も日本も、米国の軍需産業の絶好の「餌食」になっているのである。

それだけではない。日本政府は、12月22日にも改正する防衛装備移転3原則と運用指針に基づき、国内で製造する地対空誘導弾パトリオットミサイルを米国に輸出する。レイセオン社からライセンスを受けて、米軍のパトリオット用のミサイルを製造している日本側は、数十基のパトリオットミサイルを米国に輸出し、その分を米国からウクライナに輸出する。これは、軍需産業が政府と一体化して儲けを優先している(ウクライナ戦争で武器需要を高め、ウクライナへの直接輸出をいやがる日本のような国の意向を米国政府が調整し、事実上、ウクライナへの武器輸出を増やす。つまり、日米政府は武器製造の増加で協力し、国内の軍需産業を儲けさせている)証拠といえるだろう。

世界には、「悪い奴ら」がたくさんいる。どうか、そうした「悪」に気づいてほしい。そのために、これから随時、このサイトにおいて、覇権国アメリカの「悪」という視角から論考を掲載したい。なお、この視角から徹底した米国批判を展開したのが拙著『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社, 2023)である。