“対話の習慣”を東アジアに

インドネシア政府と志位委員長が意見交換

 
 【ジャカルタ=井上歩】日本共産党の志位和夫委員長は20日、インドネシア政府のアダム・トゥギオ外相特別補佐官とインドネシア外務省で会談し、東南アジア諸国連合(ASEAN)の平和の地域協力の取り組み、ASEANインド太平洋構想(AOIP)、焦眉の国際問題について意見交換しました。
 
 
政府と市民社会が協力して
 志位氏は、ASEANが徹底した対話で東南アジアを「分断と敵対」から「平和と協力」の地域に変えるとともに、この流れを域外に広げ、東アジアサミット(EAS)での協力などを通じて戦争の心配のない平和の地域協力を推進していることに言及し、「日本で活動する私たちにとって大変心強い」と表明。その最新の到達点であり、インドネシアがイニシアチブをとったAOIPについて、「対抗でなく対話と協力」の推進、排除でなく包摂の追求、ASEANの中心性(自主独立と団結)を貫くなどの点で、「たいへん理にかなっており、現実に多くの国に賛同を広げています」と、この構想に強く賛同する立場をのべました。

 志位氏はそのうえで、日本共産党がこの間、東アジアに平和をつくる「外交ビジョン」を発表し、日本の国会、アジア政党国際会議(ICAPP)、日中両国関係の前向きの打開をめざす提言などでAOIPの推進を訴えてきた活動を紹介。この点で「AOIPの成功のためには、政府間のとりくみとともに、政党を含む市民社会の協力が不可欠だと思います。可能な協力を強く願っています」とのべました。

年1500回もの会合
 アダム氏は、AOIPへの支持に謝意を表明し、日本・インドネシア関係の発展に触れるとともに、ASEANとインドネシアがAOIPを提案したのは、「安定と繁栄がとても重要」だと考えているからだとのべ、安定によりASEAN諸国は社会・経済的な発展の恩恵を得られるということを強調しました。さらに、ASEANが東南アジアを超えてEASなどで域外の国ぐにとの連携を包摂的に進めているのは、「紛争の危険、火種があるもとで、“対話の習慣”を推進したいからです。対話により誤解や誤算を回避できます」と強調しました。

 志位氏が、「“対話の習慣”が前進の秘訣(ひけつ)ですか」と尋ねると、アダム氏は「少なくとも誤解や誤算を防止するうえで重要です」とのべるとともに、EASなど東アジアの平和の地域協力について、“対話の習慣”を推進するものであり、ASEANだけでなく域外諸国にとっても意義があるものとの考えを示しました。

 志位氏が、徹底した対話という点にかかわって、10年前、ASEAN事務局を訪問したさいに「ASEANでは域内で年1000回の会合を行っていると聞いて驚きました」とのべると、アダム氏は、「今では1500回以上です」と応じました。

 アダム氏はまた、AOIPを推進するうえでの政府と市民社会の連携について、地域の平和と発展にはすべてのステークホルダー(利害関係者)が貢献すべきであり、市民社会は“対話の習慣”のプロセスに貢献できるとの考えをのべました。

ガザ危機と核兵器禁止条約でも意見交換
 志位氏はガザ地区の人道危機について、インドネシアも提案国である即時の人道的停戦を求める国連総会決議(12日)を実施することが重要だと強調。アダム氏は「パレスチナ問題では私たちは国際社会が持続的な停戦を実現するために声を一つにすることを促しています」とのべ、ダブルスタンダード(二重基準)に反対するインドネシア政府の立場を表明しました。

 双方は核兵器禁止条約をめぐっても意見交換。「核兵器なき世界」へ各国やさまざまなステークホルダーが連携していくべきとの考えを共に表明しました。

 ASEANインド太平洋構想(AOIP) ASEANが2019年、インド太平洋を「対抗でなく、対話と協力の地域」にしようと提唱した外交指針。紛争の平和的解決を義務づけた東南アジア友好協力条約(TAC)を基盤にして、対立する米中を含め地域の各国が参加するインクルーシブ(包摂的)な多国間枠組みの中心となってきたASEANが、広域協力を主導するとしています。

 

ガザ 女性ら極限状態

イスラエル軍による暴力

女性問題センター アマール・スィヤムさん

 

 

 パレスチナのガザ地区当局などによるとイスラエル軍の攻撃で20日までに2万人以上が死亡しました。そのうち女性は6200人以上、子どもは約8000人が殺されました。女性を支援するガザのNGO「女性問題センター」代表のアマール・スィヤムさん(53)は、本紙の電話取材に対し、極限状態に追い詰められる女性たちの状況を語りました。(カイロ=秋山豊)

 

 イスラエル軍は、ガザの女性たちから夫と子ども、親、きょうだい、そして住まいを奪っています。多くの女性が夫を亡くし、経済的自立が深刻な課題となっています。

 彼女たちはお金がなく何も買えません。イスラエル軍の攻撃でそもそもガザでは市場さえなくなりました。まともな暮らしはありません。空爆下、女性は死を待つしかない状況です。

 私は女性の権利を守る活動家として女性に対するあらゆる暴力に反対して活動を続けてきました。ガザではイスラエルによる占領と封鎖下で経済状況が悪く、人口が密集する状況が、女性に対するドメスティックバイオレンス(DV)を引き起こす問題がありました。

 しかし、いまはこの戦争下、イスラエル軍がガザの女性に振るう暴力のほかに話すことができません。女性たちは極度の恐怖にさらされています。私たちは一瞬先にはもう生きていないかもしれないのです。イスラエル軍は最大の脅威です。

大勢のなか授乳 シャワーなく皮膚病
「人間の尊厳ない」

 

 私も北部ガザ市の自宅を追われ、今は南部ラファにあるNGOの建物の一室で妹家族とほかの住民と避難生活を送っています。親族とは連絡が取れず安否を確認できません。

 女性は食料も水も確保できず、プライバシーがない状況で暮らしています。住民が避難する学校では一つの教室に50人、60人、なかには70人が身を寄せています。

 女性は大勢がいる教室で着替え、食べ、寝ています。出産直後の女性は非常に不衛生な学校で赤ちゃんの世話をし、大勢が避難する教室で授乳しなければなりません。

 生理用ナプキンがほしいという要望を多く受けていますが、かなえられずにいます。何十日もシャワーを使えずにいます。皮膚病や婦人科の受診が必要な病気が広がっています。教室の一つをトイレに使っている学校もあります。人間の尊厳はありません。

 屋外のテントに避難している女性もいます。冬になり、雨が降ると寒さで眠りにすらつけません。調理用ガスがなくまきで火をたいています。この煙が呼吸器の病気をまねいています。

 イスラエルの行いは、ジェノサイド(集団殺害)であり、民族浄化です。その戦争犯罪はあまりに大きい。

 今すぐ停戦が必要です。国際社会がイスラエルとそれを支持する米国に圧力をかけ、停戦が実現しても、女性たちの困難は続きます。ガザは完全に破壊されて戻る家もありません。

 私たちは激しい攻撃のなかで、女性への心理カウンセリングもできなくなりました。無力さを覚えます。

 それでもどんなに極限の状況下でも、女性に寄り添い、暴力から守り、権利を擁護したい。状況の把握を続け、女性が何を必要としているか考え続けています。

 

 

ガザで非武装の11人射殺か イスラエル軍が戦争犯罪の疑い

 
 
 【エルサレム共同】国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は21日までに、イスラエル軍が地上侵攻するパレスチナ自治区ガザで、軍兵士が非武装のパレスチナ人男性11人を家族の前で射殺した疑いがあると発表した。「不法な殺害で戦争犯罪の疑いがある」として、イスラエル当局に調査を要求した。
 
 OHCHRが人権団体などの情報として伝えたところによると、軍は19日夜、ガザ北部ガザ市のリマル地区で、3家族がいた住宅を包囲。少なくとも11人の男性を連行、家族から見えるところで射殺したという。男性は20~30代。
 
 軍は女性らに銃撃したほか手りゅう弾を投げ、子どもを含む複数人が負傷したとしている。
 
 

イスラエル軍、ハマスの本部や事務所など結ぶ重要トンネル破壊…ガザ市中心部の高級住宅街に位置

 
 
【エルサレム=福島利之】イスラエル軍は21日、パレスチナ自治区ガザで、イスラム主義組織ハマスの本部や事務所、幹部の潜伏場所などを結ぶトンネルを破壊したと発表した。ハマスから戦略的な能力を奪うために重要だとしている。

 軍広報官によると、トンネルはガザ市中心部の高級住宅街にあった。ここ数週間かけて場所を捜索し、前日に発見した。

 地元紙エルサレム・ポストによると、ガザでの政治部門指導者ヤヒヤ・シンワル氏もこのトンネルを利用して移動し、ハマスの組織運営に当たっていた。イスラエル軍幹部は、ハマス指導者らが長期間にわたって避難できるよう機材を保管していたと指摘した。
 一方、ハマスは21日、イスラエル人の男性人質3人の動画をSNSで公開し、「我々は彼らを生かそうとしたがネタニヤフ(イスラエル首相)が彼らを殺すことを要求した」と主張した。イスラエルの人質解放を求める世論を喚起し、戦闘休止を引き出す狙いがあるとみられる。

 動画では、3人がそれぞれの名前などを書いた紙を手にカメラに向かって笑顔で語りかける様子が映されている。銃声や流血のアニメーションなどが流れ、最後に「3人はイスラエル軍の兵器で殺された」と画面に映し出される。

 3人は10月7日に拉致され、イスラエル軍が先週、ガザで遺体を収容していた。
 
 

来日中に戦闘勃発、帰れないガザの中学生 「広島のように復興を」

 
 
 パレスチナ自治区ガザ地区出身の中学生3人が10月に平和交流で日本に滞在中、イスラエル軍とイスラム組織ハマスとの戦闘が勃発したためガザに戻れなくなり、隣国に身を寄せる状態が続いている。3人を保護する国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の清田明宏保健局長(62)は「早く戦闘が終結し、戻れるようになってほしい」と願う。

 今回の交流は、難民に教育などを提供するUNRWAに対し、日本政府が支援を始めて70年になるのを記念して実施された。12月中旬にオンラインで取材に応じた清田局長によると、14歳の男女3人の中学生は9月末から、広島市などを訪れ、原爆資料館や平和記念公園などを見学したほか、原爆慰霊碑にも献花。地元の高校生らとも交流した。
 
3人は「(原爆投下後の)広島の状況はガザに似ている。ガザの人にも広島の状況を知ってほしい」などと感想を述べていたという。
 事態が一変したのは、3人が離日のため広島市から東京都内に移動していた10月7日。ガザを実効支配するハマスがイスラエルを越境攻撃し、これを機にイスラエル軍は空爆を開始した。

 3人は翌8日に日本を離れたが、戦闘が続くガザには戻れず、現在もヨルダンの首都アンマンに滞在。UNRWAがアンマンで難民向けに運営する学校に通っている。3人の家族はガザで避難生活中だ。清田局長によると、3人はガザへの帰郷を強く望み、現地の両親とも頻繁に連絡を取っているという。

 ガザの地元当局によると、ガザではこれまでの戦闘で1万9450人以上が死亡し、その約7割が子どもと女性だ。また人口の85%にあたる約190万人が避難生活を強いられている。

 被害は人道支援や医療の関係者にも及んでおり、UNRWAの職員約2万7700人のうち、医師2人を含む136人が死亡した。またUNRWAは戦闘開始前はガザで診療所22カ所を運営していたが、現在も開設しているのは8カ所にとどまる。攻撃を受ける危険性があるため、閉鎖を余儀なくされている。

 清田局長によると、3人は今も日本での体験を度々話題にしている。「今のガザはひどい状態だが、広島のように復興してほしい」「訪日は2カ月前だけれど何年もたったような気がする」などと話している。清田局長は「3人だけでなく、多くの人が帰る場所を失っている。日本が世界をリードする形で、人道支援や復興の手助けをしてほしい」と訴えている。【和田浩明】