安倍派キックバック議員の一覧表や二重帳簿も提出? 金額上位ランキング表にあった3議員とは

 

 

 とうとう派閥の事務所に東京地検特捜部のメスが入った。12月19日、特捜部は自民党の清和政策研究会(安倍派)と志帥会(二階派)の事務所をそれぞれ家宅捜索した。派閥のパーティー券販売でノルマを超えた分について、派閥から議員にキックバックし、そのカネを政治資金収支報告書に記載しなかった政治資金規正法違反の容疑だ。長期政権を敷いた安倍晋三元首相とそれを支えた二階俊博元幹事長という超大物を“直撃”したのだ。着々と進む捜査だが、国会議員の逮捕や起訴はあるのか、幹部議員の立件は……。国民が注目している。

 

 家宅捜索が入った直後、安倍派の衆院議員が悲鳴を上げるようにこう話した。

「パソコンや帳簿など、段ボール箱で10箱くらいはもっていかれたようだ。事前に強制捜査に入るタイミングは報道されていたのでそこまで慌てることはないが、これだけニュースになると頭が痛い。ただ捜査妨害はしていない。どこかの誰かのようにハードディスクをドリルで破壊するようなことは絶対にない」

 特捜部は強制捜査に乗り出す一方で、この日も安倍派の国会議員らから事情を聴いている。

「国会に近い3つのホテルも使いながら、議員が目につかないように調べているようだ」

 と特捜部出身の弁護士や前出の安倍派の衆院議員はそう話す。

■二重帳簿やランキング表も

 一方、安倍派側は、検事総長も有力視されていた元敏腕検事の弁護士を中心に、ヤメ検弁護士たちが対応している。彼らは、2019年7月の参院選で2900万円を100人の広島県議や地方議員、有権者に配った罪に問われ有罪判決が確定した河井克行、案里夫妻の弁護もチームで対応した。自民党からの信頼も厚いとみられる。

 安倍派は捜査段階で、会計責任者らがパーティーやキックバックについても詳細な資料を特捜部に任意提出している模様だ。

「キックバックした議員の一覧表、金額上位のランキング表、政治資金収支報告書に記載するための会計書類と、実際の売り上げを記した二重帳簿のようなものもあった。ランキングにはいつも報道されている3人の名前があった」

 と自民党幹部が打ち明ける。

 

 なかでも注目されるのは、キックバックの金額がベスト3とも言われている大野泰正参院議員、谷川弥一衆院議員、そして池田佳隆衆院議員の3人だ。

 池田氏はすでに5年間で4千万円以上のキックバックを受け、政治資金収支報告書に記載していない疑いがある。12月に入り、事件化が濃厚になると、3200万円分を政治資金収支報告書に訂正する届けを出している。

「池田氏と政治の話はほとんどした記憶がない。年中、自分と派閥のパーティーのことばかり考えているようだった」

 と話すのは、池田氏の地盤である愛知3区の支援者Aさん。スマートフォンを取り出し、

<次回の派閥のパーティー、前回同様の数でOKでしょうか>

 と池田氏から送られてきたメールを見せてくれた。

■決めぜりふは「安倍首相とツーショットが撮れるかも」

 池田氏は家業の化学薬品会社を引き継ぎ、日本青年会議所(JC)でも熱心に活動し、2006年には会頭を務めた。その後、池田氏は自民党の公認を得る。そして愛知3区から出馬し、12年に初当選。安倍晋三元首相の長期政権時代に誕生し、不祥事などが相次いだ“魔の4回生”とも呼ばれる「世代」だ。

 Aさんがこう話す。

「池田氏から問題になっている派閥のパーティー券を何度も買いました。お決まりが『安倍首相とツーショットが撮れるかも』でした。実際は安倍元首相との写真なんて無理ですよ。池田氏の政治資金収支報告書を見たことはないが、私が支払ったパーティー券代が書かれていないのなら嫌な感じです」

 Aさんによると、池田氏はAさんに対して、派閥のパーティー券を売ってくれたらキックバックするとの提案をしたことがあるという。

「『20枚売ってくれたら5枚分はキックバックします』と言ってきたことがあります。パーティー券を山のように持って歩く姿に“パー券大魔王”と呼ぶ人もいました。パーティー券を売るときに『パー券を売れば派閥の評価も高まり出世できる。当選回数が自分より少ない議員もすり寄ってきて、大臣の椅子も近くなる』と話していたことが印象に残っています。議員バッジをつけているんだから政治をしっかりやれよと言ってもパーティー券の方が大事って感じでしたよ」

 とAさんはいう。

 また、愛知3区の自民党の地方議員の一人は匿名を条件に、

「池田氏から『パー券を売ってくれ。キックバックを渡すから』と依頼を受けたことはありました。他の地方議員にも同じような話を持ち掛けていた」

 と打ち明けた。

■“萩生田氏イチの子分”

 池田氏は、キックバックの事件が報じられると雲隠れした。

 記者も議員会館の事務所を訪ねたが、まったく応答はなかった。電話をしても通じず、Aさんから池田氏の携帯電話を記者の前で呼び出してもらったが、それもダメだった。

 なぜ池田氏が“パー券大魔王”と呼ばれるほど、大量のパーティー券をさばけたのか。

 政調会長を近く辞任する、安倍派「5人衆」の萩生田光一氏の存在を指摘する声が少なくない。

「池田氏は萩生田氏のイチの子分というほど親しくしていた。池田氏は萩生田氏に紹介を受けた企業や個人にもパー券を売っていた。その分は池田氏が一度、派閥からキックバックをもらい、萩生田氏に渡していたという話を何人もの派閥のメンバーが指摘している。特捜部の捜査が進み、池田氏の全容が解明されてくると萩生田氏もどうなのか」

 と安倍派の衆院議員。

 

 そうなると、池田氏のキックバック分も「二重帳簿」となりかねない。今後の捜査について、元東京地検の落合洋司弁護士は、

「派閥が二重帳簿をつけていたとなれば、パソコンや携帯電話を押収する。それが強制捜査です。河井夫妻の事件で、私は、カネをもらった側、広島の地方議員に選任されて弁護をしましたが、あの時も押収したパソコンや携帯電話が重要な証拠になった。河井夫妻がカネを配った一覧表などがパソコンから出てきて、携帯電話の位置情報などでより補強されて立件となりました。今回も、特捜部は二重帳簿やキックバック不記載の経緯、指示、承諾などをパソコン、携帯電話などからさらに詰めていこうとしているのではないでしょうか」

 との見方を示す。

「特捜部の調べを受けた際に携帯電話の情報を任意提出した」

 とAERA dot.の取材に話す安倍派の議員秘書もいた。

■カネの流れ、帰属をどこまで特捜部が立証できるか

 特捜部は、安倍元首相の「桜を見る会」では強制捜査をせずに秘書らだけを略式起訴としたのは記憶に新しい。だが、今回は状況が大きく違う。

 落合弁護士は、

「特捜部は派閥の事務総長クラスの幹部をやるか、無理ならキックバックの金額が大きい上位3人とか5人を立件するか、今後はどちらかに絞ってくるはず。金額が大きい池田氏はターゲットになるはずです。ただ、キックバックのカネがどの政治団体で処理されるはずだったのかがポイントです。カネの流れ、帰属をどこまで特捜部が立証できるかでしょう。安倍元首相の『桜を見る会』は大騒ぎされたが強制捜査をせず、検察は最初から小さく収めるつもりだったはずです。今回、ガサに踏み切ったというのは、議員バッジを取るくらいの覚悟だとみられます。安倍派の事務総長クラスが立件となれば略式起訴では済まず、裁判になる可能性が大きいです。ここまで大きくなって、『桜を見る会』のように秘書だけの立件では世論がおさまらないでしょう」

 と話している。

(AERA dot.編集部・今西憲之)

 

 

安倍派・二階派を強制捜査

自民党政治を終わらせよう

政治の責任で真相解明し 法の大穴ふさげ

小池書記局長が会見

 
 
 東京地検特捜部が自民党の「清和政策研究会」(安倍派)と「志帥会」(二階派)の事務所に強制捜査に入ったことを受け、日本共産党の小池晃書記局長は19日、国会内で記者会見し、「自民党全体が組織ぐるみで、システマチックに裏金づくりをしていたというものだ。極めて重大であり、戦後最悪の金権腐敗事件だ」と批判しました。

 小池氏は、問題の事件の悪質さについて、1994年に「政治改革」と称しながら企業・団体によるパーティー券購入を認めた政治資金規正法改定が行われたことに触れ、「その『法の大穴』をくぐって、企業から賄賂をもらうのではなく、自民党側が錬金術のように資金をつくったのが今回の事件だ」と指摘。リクルート事件やロッキード事件などの企業側から賄賂が提供され政治がゆがめられた事件とは異なる悪質さがあると強調しました。

 さらに、岸田文雄首相が「捜査の進展とともに、全容や原因、課題などが明らかになると認識している。推移を見ながら必要な対応を講じていきたい」と述べているが、「まるで人ごとで、検察の捜査に丸投げだ」と批判。「自民党総裁として真相解明の陣頭指揮に当たり、徹底した改善をする責任がある」と述べました。

 また、自民党の茂木敏充幹事長が「大変遺憾だ」と言いながら、「(キックバックは)自制・自粛すべきではないか」と発言していることにも触れ、「出口で『自粛』すればいいという話ではなく、入り口からシャットアウトする必要がある」と指摘。「パーティー券を企業や団体が購入することを禁止するという形でシャットアウトする―『法の大穴』を完全にふさぐことが政治の責任だ」と述べました。

 その上で、「ロッキード事件の時には、検察の捜査とともに国会が国政調査権を発動し、検察と国会が『車の両輪』となって真相解明が進んだ。証人喚問なども含めて徹底した国会としての役割の発揮が求められている」と強調。野党各党に協力を呼びかけていくと表明しました。

 記者から岸田政権の退陣について問われた小池氏は、「これだけ重大な事件が起きている以上は“責任を取って総辞職を”という声が上がるのは当然だ」としつつ、「自民党の中での政権のたらい回しでは問題は解決しない。大臣の辞職や内閣総辞職だけでは解決しない段階にきている。自民党の政治を終わらせることが必要だ」と強調しました。

 また、日本共産党が国会に提出した「企業・団体献金全面禁止法案」について各党に協力を呼びかけるかと問われ、「野党各党に党としての提案も示し、賛同を求めていきたい」と述べました。

 

「証拠隠滅されない?」検察が家宅捜査を安倍派に“予告”も影響がないワケ…過去には“ドリル優子”事件も

 
自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題で、東京地検特捜部は12月19日、政治資金規正法違反の疑いで安倍派と二階派の事務所に強制捜査に入った。

 去年までの5年間で安倍派はおよそ5億円、二階派は1億円を超えるパーティー収入が政治資金収支報告書に記載せずキックバックされた疑いがあるという。

 「特捜部は、すでにそれぞれの派閥の事務担当者や、安倍派の議員本人などから任意で話を聞いていますが、全容解明には、強制捜査が必要と判断したものとみられます。しかし、“19日”と日付まで明らかになった状態で特捜部が家宅捜索に入る方針を固めたことが事前に報じられたことで、小渕優子氏の“ドリル事件”を思い出し、証拠隠滅を危惧する声もSNS上で上がりました」(政治部記者)

 裏金を捻出する目的で政治資金収支報告書に巨額の虚偽記載をし、元秘書2人が有罪判決を受けた9年前の「ドリル事件」。検察の捜索前に、事務所のパソコンのハードディスクが電気ドリルで破壊されていたため、小渕氏は今でも“ドリル優子”の汚名をそそげていない。

 実業家のひろゆき氏もX(旧Twitter)で次のように疑問を呈した。

 《安倍派・二階派事務所、きょうにも強制捜査へ 東京地検特捜部が方針固める。強制捜査の予告って、「捜査が入るので、今のうちに証拠はドリルでぶっ壊しておいてね」という証拠隠滅の手伝いになると思うけど、なんで予告するんだろう?》

 検察の捜査に詳しい、大手メディアの社会部キャップは、今回の“事前予告”について次のように解説する。

 「今回の件は、事前に会計責任者などからすでに話を聞いて、資料の任意提出も受けているので、19日の強制捜査は形式的なものです。主要な資料は結構前にすでに任意で出させてるらしいので、事前に捜査日時が判明しても、もうダメージはないです。早い段階で、清和会の会計責任者から資料を持ってこさせています」

 すでに行われている任意の捜査の際は、“事前予告”があったわけではないという。

 「昔、ドリル事件がありましたけど、実際立件されるのは事務員みたいな会計責任者です。証拠隠滅すると結構まずいことはわかっている。結局、派閥の指示で上からやらされてるので、下も自分が証拠隠滅しても全然意味がないっていうか、要は“指示された通りやってただけです”ってことで、今回は素直に捜査に協力していたみたいです」

 つまり、ひろゆき氏も懸念する捜査の“予告”は、今後の行方には影響はないということのようだ。

 「収支報告書はほぼオープン情報なので、そことの突き合わせはもう隠しようがない。あとは、具体的にメールとか派閥でメモ作ったかどうかっていう話は、おそらく最初に出させているので、あまりダメージはないでしょう。19日からの強制捜査は、どっちかというと聴取の方です。

 証拠物とかは、事実上もう押収してあるので、追加で押収するものもあるでしょうけど、“強制捜査で押収”って形にしないと、目録上は任意だと後で“返してくれ”と物理的には言えてしまうので、そこからこれまであるやつも強制にして押収という形にするわけです。なので形式的な捜索という感じですね」

 とはいえ、議員まで立件するのは難しいという。

 「明確に指示してるメールとか、そういうものが出てくれば話は別ですが、議員本人が共謀していたことが立証できないと難しい。今回は不記載のキックバックが3000万円以上の人が3人ぐらいいるようです。その3人は金額が多いことで悪質だということで、去年、薗浦健太郎が同じようなやり方で、3000万円で略式起訴され公民権停止になったので、同程度にはなるんじゃないかといわれていますが、逮捕まではおそらくない見通しです」

 トカゲの尻尾切りで終わらないように、検察の本気に期待したい。