派閥の終焉?

 

 

「馬糞の川流れ」という言葉をご存じだろうか。いきなり下品な言葉ですみません。

 これは平成初期の安倍派について金丸信が評した言葉だ。1991年に派閥の領袖・安倍晋太郎(安倍晋三の父)が亡くなると、安倍派では後継者争いが起き、分裂に直面した。

 

 跡目を狙うのは塩川正十郎、加藤六月、森喜朗、三塚博の4人。マスコミでは「四天王」と呼ばれていた。

《四天王は不仲で知られ、党内最大派閥・竹下派の会長だった金丸信が「安倍派はバラバラ、馬糞の川流れだ」と酷評したと伝わる。》(日経新聞2022年10月6日)

 このときは第2派閥だった安倍派だが、馬糞が川に流れるとバラバラになるように、安倍派も権力闘争で分裂するだろうという金丸流の予想だった。なんて下品な例えかと当時思ったが、実際にそうなった。

あれから30年以上が経った
 だからこそ、あれから30年以上経っても森喜朗は「(派閥の大きさを誇っていると)100人超えたら派が割れる」と政治資金パーティーのスピーチでも警鐘を鳴らしていたのだろう。

 そして現在。その政治資金パーティーがきっかけの裏金問題が安倍派と自民党を直撃している。皮肉すぎる。安倍元首相が亡きあと森喜朗が重用していた「5人衆」に裏金疑惑が刺さっている。安倍派の勢いは川に流れていくのか。歴史は繰り返すのか。

 さらに、疑惑の目は森喜朗自身にも向き始めている。各週刊誌が安倍派内の証言を載せ始めているのだ。

『安倍派現役幹部が激白「森喜朗さんから全て始まったんです」』(週刊文春12月21日号)

『「清和会5人衆」崩壊! “諸悪の根源”は「森喜朗元総理」』(週刊新潮12月21日号)

 安倍派(清和会)の創設オーナーとも言える森喜朗だが、森が派閥のトップだった頃から裏金作りはあったという証言。

「全ての元凶は森さん」
「全ての元凶は森さん。特捜部は森さんをちゃんと調べてほしい」(安倍派の元最高幹部、週刊文春)

「そもそも、この裏金作りだって森元総理の時代から連綿と続いてきたもの。本来は5人衆同様、捜査対象になって然るべき人物なのです」(清和会関係者、週刊新潮)

 新聞でも報じられている。

《森喜朗元首相が会長だった2004年の政治資金パーティーでは、ノルマを超えてパーティー券を販売した議員に収入の一部が還元され、資金の流れが収支報告書に記載されなかったと共同通信が05年に報じた。》(東京新聞12月13日)

 森派の事務局は「議員側が受け取った金は、党から派閥を経由した『政策活動費』。収支報告書に記載する必要はない」と疑惑を否定していた。

 

政治資金の「抜け穴」
 このことから、

《政策活動費とは(中略)政治資金の「抜け穴」。収支報告書の記載義務がなく、使途は分からない。》

 政治資金そのものの問題点を記事は指摘する。

 さらに毎日新聞の専門編集委員・伊藤智永氏は『森喜朗氏が語るとき』と書いた(12月16日)。

《安倍氏亡き後、すでに議員でもない森氏は、妙に生き生きと派閥運営に口をはさんできた。14日一斉に辞任・辞表提出した安倍派5人衆(松野博一、西村康稔、萩生田光一、高木毅、世耕弘成各氏)は全員、頻繁な「森氏詣で」を欠かさず、森氏も岸田人事への影響力を吹聴してきた。》

森喜朗のお膝元、石川県の地元紙では…
 森喜朗は地元紙「北國新聞」の連載でも影響力を誇示してきた。北國新聞で森が言っているとおりなら、

《5人衆が要職を占めていたのは全て森氏のお陰らしい。派閥事務総長ポストも、森氏の意向抜きには決まらなかっただろう。裏金は何のため、どこへ使われたのか。》(毎日新聞・同前)

 伊藤氏のコラムの最後は「森氏は車椅子に乗っているが、11日に東京で開かれた歌手・谷村新司氏を送る会にも現れた。まだお元気そうだ」と結ぶ。

今の日本は「森の国」
 森喜朗と言えば組織委員会の前会長を務めた東京五輪でも「部下」たちが次々に捕まり始めている。裁判になっている。

 推移は今後を見守るとしても、事実として言えるのは、政治家をとっくに引退した人物が今も政界の中枢に影響力があり、東京五輪汚職と言われるほど大問題になった組織でも数年前までトップだったことである。森喜朗にはかつて神の国発言があったが、まるで今の日本は森の国ではないか。

 ちなみに、森喜朗がご機嫌に喋っていた北國新聞の連載は11月26日で突然終了している。

《捜査との関連が囁かれています》(清和会関係者)

 と、週刊新潮(前掲号)には書かれている。森さんはお元気そうというなら「お話」を聞きたくなる。

朝日新聞が放つ「スクープ」が味わい深い
 さて最後に裏金報道における新聞の読み方にも触れておきたい。この問題では朝日新聞が「スクープ」を次々に放っている。しかしその見出しをみると味わい深いのだ。たとえばこれ。

 

『松野・西村・萩生田氏 更迭へ 高木氏も 世耕氏交代を検討 安倍派5人衆を一掃 裏金疑惑』(12月10日)

 この記事は当コラムでも5人衆を考えるうえで前回も引用したのだが、そのときから違和感が一箇所あった。それは「安倍派5人衆を一掃」という部分である。「一掃」ってかなりキツい表現だ。タブロイド紙や週刊誌ならともかく一般紙(朝日)の一面トップに「誰かの意思」もしくは「感情」が入っているみたいで違和感がある。

見出しに込めた「願い」
 ここでいう安倍派の「一掃」とは当然、岸田首相の意思を指す文脈だ。ところが後日、次の内容が読売新聞に書かれていた。

《一掃案は自民内で確かに一時検討されたが、首相は「そんな簡単な話ではない」と慎重な考えを周囲に示していた。しかし、報道などで独り歩きする格好となり、同派の中堅議員は「打倒岸田の始まりだ」などと猛反発した。》(12月15日)

 いかがだろうか。ここでいう「報道などで独り歩きする格好」とは朝日新聞の見出しのこと。つまり朝日新聞は岸田首相がまだ否定的なうちから「安倍派を一掃しろ」と朝日自身の願いを込めて見出しを打ったようにも思える。さらに安倍派を煽り、怒りを首相に向ける仕掛けにもなっている。見事に政局を焚きつけていないか?

 思えば「朝日新聞対安倍晋三」はずっと因縁の対決であった。朝日新聞を「口撃」する安倍首相という構図はよく見てきた。その意趣返しが今おこなわれているのだろうか?

 いずれにしても安倍派と自民党の「闇」が暴かれ始めた。政治家、新聞、検察。各方面の思惑と動向が見逃せないのである。

プチ鹿島

 

 

岸田首相「絶体絶命」のはずが"自信満々"のなぜ"鈍感力"で「任期完投」どころか再選も視野

 
 
2023年の大晦日を目の前にして、岸田文雄首相が「絶体絶命のピンチ」に立たされている。今年の漢字には「税」が選ばれたが、岸田首相は夏以降、「増税」と「減税」で迷走して国民不信を急拡大させ、内閣支持率は11年前の自民政権復帰以来の最低記録を更新し続けている。そこに降りかかったのが最大派閥安倍派の「巨額裏金疑惑」。総力態勢で臨む東京地検特捜部の捜査次第では、「政権崩壊への決定打」にもなりかねない事態となった。 

こうした政権を取り巻く状況の度重なる暗転に、苛立ちと焦りを募らせる岸田首相は、臨時国会閉幕翌日の12月14日に、安倍派中軸で党・内閣の要職を占める「5人衆」の事実上の更迭などに踏み切り、政権からの「安倍派一掃」という荒療治で、態勢立て直しを図る。

しかし、裏金疑惑での東京地検の捜査は国会閉幕後から一気に本格化、多額の裏金を受け取っていた議員の任意の事情聴取に続いて、今週中にも安倍派事務所や関係議員に対する強制捜査に踏み切る構えだ。このため、年末年始の中央政界は、裏金疑惑捜査で大混乱となるのは間違いない。

「火の玉」宣言の行く末は「火だるま」? 
こうした状況を「政権打倒の絶好のチャンス」(閣僚経験者)と勢いづく野党側は、立憲民主を先頭に1月中下旬の召集が見込まれる次期通常国会冒頭から、疑惑追及で政権を揺さぶる方針。東京地検は「国会召集までに裏金疑惑で安倍派幹部などを立件して捜査を終結する方針」(司法関係者)とみられるが、野党はその結果も踏まえて首相に早期退陣か衆院解散を迫る構えだ。

一方、自民党内でも石破茂元幹事長が、3月下旬と見込まれる2024年度予算成立後の首相退陣に言及するなど、党内の「岸田批判勢力」による岸田降ろしの蠢きが表面化した。これに対し岸田首相は、国民の自民不信に歯止めをかけるため「『火の玉』になって党改革を進める」と宣言したが、与党内にも「結局、火だるまになって燃え尽きるしかない」との厳しい声が広がる。
 
そうした中、臨時国会閉幕後に相次いで実施された主要メディアの世論調査でも、ほとんどが内閣支持率過去最低、不支持率過去最高というこれまでの記録をさらに更新した。「裏金疑惑捜査の本格化が想定される年末以降もこの流れは変わらない」(政治アナリスト)とみられており、今後の岸田首相の政権運営は「まさに八方ふさがり」となるのは確実だ。

にもかかわらず、岸田首相の周辺は「政権維持への自信は揺らいでいない」と強調する。「(岸田首相自身は)解散など考えずに淡々と必要な政策決定を積み重ねれば、9月末の総裁任期満了まで岸田降ろしは起きないと判断している」との読みからだ。

任期満了まで解散せず、総裁再選も視野に
確かに、「政治とカネ」で揺れ続けた自民党の歴史を振り返れば、「重大なスキャンダルで支持率が下がり続けても、国会も含めた政権運営が収拾不能の大混乱にならない限り、時の首相の政権維持は可能」(自民長老)とされる。

要するに「岸田首相にとって解散しない限り辞める必要はない」(自民長老)わけだ。

しかも岸田首相は、「解散しないまま総裁選に出馬すれば、再選の可能性もあると考えている」(側近)という。

というのも、次期総裁選について「戦わせていただく」と出馬を明言している高市早苗経済安保相は、「党内保守派の支持は得られるものの、肝心の安倍派は崩壊状態で、岸田首相との対決に勝てる可能性は少ない」(政治アナリスト)との見方が少なくないからだ。
 
さらに、各種世論調査で例外なく「次期首相候補のベスト3」に名前を連ねる小泉進次郎元環境相、石破茂元幹事長、河野太郎行革担当相の3氏によるいわゆる「小石河連合」でも、石破氏が出馬した場合、麻生、茂木両派に加え安倍派の支持が得られず、河野氏の出馬は「麻生氏が許さない」とされ、しかもその背後に菅義偉前首相の影がちらつけば、「菅氏を嫌う麻生、茂木両派を軸に党内多数の支持獲得は望み薄」(自民長老)というのが実態だ。

このため、「裏金疑惑」の発覚を受けてメディアがあの手この手で報じる“早期政権崩壊説”と“永田町の常識”との間には、「大きな乖離がある」(同)とみられ、だからこそ岸田首相も、「流行語に例えれば『どうする文雄』ではなく、『とにかく明るい岸田』にしか見えない」(首相経験者)というのだ。 

もちろん「(岸田首相の考えは)まさにとらぬ狸の皮算用。大胆な政治改革決断などで国民の信頼が戻らない限り、再選などあり得ない」との指摘も多いが、官邸周辺からは「岸田首相の鈍感力は並み外れている」(側近)との声も漏れてくる。

家康の「遺訓」をどう受け止めるのか
折しも、今週日曜の17日は、NHK大河ドラマ「どうする家康」の最終回だった。戦国時代という大乱世に身を挺して終止符を打ち、足掛け3世紀にわたる太平の世を実現したのが徳川家康だ。

その家康の遺訓として知られるのは「人の一生は 重荷を負うて 遠き道を行くがごとし」で始まり、締めは「おのれを責めて 人をせむるな 及ばざるは過ぎたるよりまされり」との言葉だ。今回の「どうする家康」に先立つ昨年の大河ドラマは「鎌倉殿の13人」だったが、岸田首相は「何があっても欠かさず観続けた」(側近)とされる。

「歴史好きで大河ドラマファン」(同)は当然、家康の遺訓も知っているとみられる。それだけに、永田町関係者は「岸田首相は、遺訓に込められた家康の心情をどう受け止めているのかが秘かな注目点」と皮肉交じりで指摘する。
 
その一方で、ここ数週間、多くのメディアが政局そっちのけで報道し続けたのが、アメリカ・大リーグの大谷翔平選手の球団移籍を巡る話題。なかでも、ロサンゼルス・ドジャースへの移籍会見で大谷選手が明かした愛犬の名前の「デコピン」は、すぐさまX(旧Twitter)でトレンド1位となった。

この「デコピン」は日本語で、ウィキペディアで検索すると「対峙した相手の額を中指で弾く行為の総称」とある。だとすれば、「野党だけでなく、多くの国民が今、岸田首相のおでこを指で弾きたいはず」(政治アナリスト)とも揶揄されている。

国民感情との「ミスマッチ」で政治不信拡大
岸田首相は16日から18日までの3日間、東京・迎賓館などで開催された日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟9カ国の首脳らによる特別首脳会議の議長役として、高揚した表情で首脳外交にいそしんだが、メディアの冷淡な報道ぶりばかりが目立った。

さらに、それに先立つ15日の「安倍派一掃」の交代人事翌日の初閣議前の閣僚応接室でも笑顔をはじけさせ、その表情を放映したテレビニュースには、ネット上に「危機感がなさすぎ」「脳天気にしか見えない」などの怒りの書き込みが相次いだ。

こうした「国民感情と岸田首相の言動とのミスマッチが、事態の悪化につながっている」(閣僚経験者)のは否定しようがなく、「(岸田首相が)それを“鈍感力”で乗り越えようとすれば、国民の政治不信拡大は必至」(同)であることは間違いなさそうだ。