〈森友公文書改ざん〉「心は友だちだし、友だちはほっとかない」小泉今日子さんが夫を亡くした赤木雅子さんを応援する理由

 
立派!肩肘張らずにごくごく自然体で語る言葉は重い。『政治の話って言うけど、結局は自分の生活や人生の話』実はインタビュー会場の隅には赤木雅子さんも同席していた。この言葉を聞いて思わず涙ぐんでいた。
 
 
 アイドルとしてデビューし41年。“KYON2(キョンキョン)”の愛称で知られ、俳優として歌手として活躍中の小泉今日子さん(57)。その小泉さんが、最近発売されたコミックス(漫画の単行本)に推薦の言葉を寄せた。

「トッちゃんが生きていた時間、マサコちゃんが生きている時間。その尊さを絶対に忘れてはならない人たちは、今どんな時間を過ごしているのだろう。」

 漫画のタイトルは、『 がんばりょんかぁ、マサコちゃん 』(小学館)。『週刊ビッグコミックスピリッツ』に去年から連載され、この10月に完結した。6年前に発覚し、時の安倍政権を揺るがせた「森友学園への国有地巨額値引き」という現実の事件が舞台になっている。

 不当な値引きの経緯を隠蔽しようと財務省が手を染めた「公文書改ざん」。そこに不本意ながら巻き込まれ死に追い込まれていく公務員の「トッちゃん」。彼が遺した告発の文書をもとに真相に迫ろうと動き出す妻の「マサコちゃん」。理不尽な出来事に翻弄されながらも奮闘する姿を描いている。

 小泉さんは、主人公のモデル・赤木雅子さん(52)と、この事件をきっかけに知り合いになった。なぜ雅子さんを応援するのか? 推薦文に込めた思いとは? 現実の近畿財務局職員、赤木俊夫さんが遺した告発の「手記」を『週刊文春』でスクープしたフリー記者の相澤冬樹が話を聞いた。
 
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漫画だからこそ表現できること
――小泉さんは連載中からずっとこの漫画を読んでいたそうですね。

小泉今日子(以下、小泉) はい。この事件に最初から関心を持っていましたので、「ああ、あの赤木さんのお話だ」と思って、ニュースで知った記憶をなぞりながら読んでいました。事件はすごく重たい話ですけど、漫画っていいですね。

 画力というか、絵に現実の出来事を上回る力があって、物語にすごく入っていきやすかったという印象です。人間ドラマだなという感じがしました。

――漫画のここを読んでほしいとか、オススメのところはありますか?

小泉 やっぱり回想シーンかな。俊夫さん(トッちゃん)が元気な頃の、きれいな景色の中に雅子さん(マサコちゃん)と2人でいるところとか。バスの中で2人が偶然乗り合わせて、山の上から街の景色を眺めるシーンがすごく好きでした。
 
――そのシーンには、「平凡すぎますか? これじゃあ漫画になりませんよね…」というセリフが書かれています。

小泉 そういうユーモアも結構ありますよね。

――あのシーンはエピソードとして実際にあったことなんですよ。

小泉 すごく穏やかな2人の時間ですよね。その後の、俊夫さんが追い詰められていく中での張り詰めた時間というのと、すごく緩急があって。ホッとしたり、ドキッとしたりっていうのが表現されていますよね。

 それとコミックスの表紙のカラーがすごい。すごくいいんです、色使いが。

――3巻とも、マサコちゃんとトッちゃんの夫婦が明るい表情で描かれています。

小泉 2人の上にどれも空が広がっているんですよねえ。2人はいつもって感じで。本当に普通の人に起きたことだと伝わってきます。

「私も事件の真実を知りたいと思っていた」
――小泉さんが赤木雅子さんと知り合うきっかけは何だったんですか?

小泉 雅子さんが相澤さんと『私は真実が知りたい』(文藝春秋)という本を出した時です。私も事件の真実を知りたいと思っていたので、この本について書かれていたSNSに「いいね」したんですよ。そしたら雅子さんがそれに気づいて、私にお手紙をくださったんです。

 それを見て、「この人は一対一でちゃんとお付き合いしようとする人なんだな」と思ったので、私もそうしようと思ってお返事を書きました。それからLINEを交換したりして連絡を取り合って、直接お会いすることになりました。

 実はそれより先に、ドラマのお話があったんです。『新聞記者』という、赤木さんの事件をモデルにしたNetflixのドラマです。その中で雅子さん役として最初、私にオファーされていたんですが、「雅子さんの気持ちに寄り添いたい」という私の考えと、制作側がしていることがずれていってしまったので、途中でお断りしたんです。そういういきさつも雅子さんの耳に届いていたようで、それで実際に会って気持ちが通じ合ったのではないでしょうか。
 
――小泉さんが雅子さんを応援するのはどうしてなんでしょう?

小泉 やっぱり最初の「一対一でくるんだな」っていう時に、私も一対一で返したから……。そうなったらもう心は友だちだし、友だちはほっとかないですよね。そういう感じがあります。こっちも一線を越えて一対一で向き合わなきゃなって覚悟して返事をしたので、もう「仲間」とか「友だち」とかいう言葉に近いんですね、私が感じている感情が。



 “キョンキョン”に「友だち」と呼んでもらえる。こんなうれしいことがあるだろうか? 実はインタビュー会場の隅には赤木雅子さんも同席していた。この言葉を聞いて思わず涙ぐんでいた。

 

「政治の話って言うけど、結局は自分の生活や人生の話」反発を受けた小泉今日子さん(57)がそれでも発信を続ける理由〈森友公文書改ざん〉

 
 
 アイドルとしてデビューし41年。“KYON2(キョンキョン)”の愛称で知られ、俳優として歌手として活躍中の小泉今日子さん(57)。その小泉さんが、最近発売された「森友学園への国有地巨額値引き」という現実の事件を舞台にしたコミックス『 がんばりょんかぁ、マサコちゃん 』(小学館)に推薦の言葉を寄せた。

 小泉さんは、主人公のモデル・赤木雅子さん(52)と、この事件をきっかけに知り合いになった。なぜ雅子さんを応援するのか? 推薦文に込めた思いとは? 現実の近畿財務局職員、赤木俊夫さんが遺した告発の「手記」を『週刊文春』でスクープしたフリー記者の相澤冬樹が話を聞いた。

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推薦文に込めた想い
――実際に会ってみた雅子さんの印象はいかがでしたか?

小泉 すごくユーモアがあって、楽しい会話をたくさんしてくださったけど、でもやっぱり、そこにいくまでの孤独な思いだとか悔しさだとか悲しみって、もう私なんかが想像できるものじゃないんだろうなと。

 でもこうして私に明るく接してくれるという強さ。ウィットに富んだ話を聞いていると、そういう時間が俊夫さんと雅子さんの間にずっと流れていたんだろうな。そんなことを想像しながらお喋りしていました。

――そういうご縁があってコミックスに推薦の言葉を寄せてくださったわけですが、これはどういう思いで書かれたんでしょうか?

小泉 この事件も誰かにとっては過ぎていってしまう出来事かもしれないけど、当事者のそれぞれにそれぞれの人生、時間っていうのが確実にあって、それを軽々しく扱ってほしくない。そう軽いものだと思ってほしくないというのが、この漫画を読んだ感想でした。それぞれに本当にドラマがあって、人生があるという気がしたので、このように書きました。

 雅子さん自身がおっしゃっていること、訴えていることは、みんなが思っている以上に大きなテーマだと思うんです。最愛の人を亡くしてしまって、その原因がうやむやなまま、すべてのことが進んでいると私には見えます。夫を亡くした悲しい人というだけではなくて、そんな思いをほかの人には味わってほしくないとか、大きなテーマを持っている気がします。
 
――推薦文にある「その尊さを絶対に忘れてはならない人たち」というのは、どういう人のことを考えているんですか?

小泉 これは、実際に事件に関わっていた人たちはもちろんですけど、事件をすぐに忘れていってしまう人たち、最初は関心を持っていたけど時がたつと忘れてしまいがちな私たちみんなも含まれているという気がします。

 そういう意味でもですね、漫画って、すごくとっつきやすいというか、理解しやすいじゃないですか。絵で私たちの想像力を補ってくれて、こういうことだったんだな、こういう感じだったんだなっていうのが伝わってきます。いろんな表現で訴えていくってすごくいいことだと思いました。

 
――魚戸おさむさん(漫画家)の画風もあるかもしれませんね。

小泉 そうそう、絵にすごい力があります。ちょっと笑っちゃったりするような会話をする2人の姿がかわいかったり楽しかったりもするから、いい夫婦だなっていう気持ちになりますしね。

「政治の話って言うけど、結局は自分の生活や人生の話」 
……小泉今日子さんは、様々な政治的・社会的問題について自分の考えを発信することで知られている。3年前、時の安倍政権が、“官邸の守護神”とあだ名された黒川弘務東京高検検事長(当時)を検察トップの検事総長に据えようとして検察庁法改正案を提出したと批判された時のこと。小泉さんはTwitter(現・X)で反対の意思を繰り返し表明した。

 その後、世論に反対意見が巻き起こって改正案は撤回に追い込まれたが、小泉さんは「政治的発言が多い」と反発も受けた。この漫画も森友事件という政治的事件を背景にした内容だ。批判を招くとわかっている発信をなぜ続けるのだろう?

小泉 なぜなんでしょうねえ。私、90年代に自分が作った曲を今ライブでやってるんですけど。当時25、6から30歳くらいで、オノ・ヨーコさんの『女性上位万歳』をカバーしてました。自分でもそういう歌詞を書いていたので、言いたいことを言うのは元々なんじゃないですかね。

 今はSNSっていうものがあるから発信しやすくなったということでは。昔って音楽をやる人、音楽そのものの中に思想とかメッセージってすごくあったと思うんです。坂本龍一さんとか、忌野清志郎さんとか、みんなそうでしたよ。

 政治の話って言うけど、結局は自分の生活や人生の話だと思うんです。それを発信しないのはおかしいと逆に思ってて。国民的な問題についての個人的な発言じゃないですか。

 検察庁法改正案の時、大きなうねりになって若いアーティストの人も参加したけど、ばあっと叩かれて発言を消したりということがありました。若い人はそれでいいけど、私が消したら駄目だなって。ちゃんと立ってる大人も必要だという気がするから。自分に関わること、自分が感じることは普通に発言するのが普通のことだと思います。
 
インタビュー終了後、無言で両腕を大きく広げ…
 小泉さんはかつて読売新聞で書評を連載していた。雅子さんはそれを夫婦で一緒に読むのを楽しみにしていたという。目の前で「友だち」として語ってくれた小泉さんに、雅子さんは感謝の気持ちを伝えた。

「夫も喜んでいると思います。『マサコちゃん、よかったなあ』って。この部屋の中に夫も来ているような気がするんですよね。『マサコちゃんばっかり、いいなあ』って言ってるかも」

 俊夫さんは、今年亡くなったミュージシャンの坂本龍一さんのことが大好きだった。その坂本さんと親交があったという小泉さんは、雅子さんに語りかけた。

「俊夫さん、あちらで坂本さんのコンサートに行ってるんじゃないですか。坂本さんの訃報を聞いた時、俊夫さんのことをふっと思ったんです。大好きな先輩ですごく優しい方だったから、一緒にお話ししてるんじゃないかなって……」

 インタビューが終わり、帰途につく小泉さんと、見送りに後を追う雅子さん。小泉さんは出口の前で急にくるっと体ごと振り返り、雅子さんと正面から向き合った。しばらく見つめた後、無言で両腕を大きく広げ雅子さんに近づくと、体に腕を回しギュッと抱きしめた。一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに抱きしめ返す雅子さん。そのまま30秒ほど2人で抱き合っていただろうか? 小泉さんが腕をほどいて離れると、雅子さんはつぶやいた。

「私、もうこれで死んでもいいかも……」

 すると小泉さん、何事もなかったように冷静な表情で、

「ダメよ、ダメダメ。……見送りはここでいいですから」

 そう言い残すと、一人颯爽と夜の闇へ歩み去っていった。アイドルの“カリスマ”を漂わせながら。ドラマの1シーンのような鮮やかな別れだった。

相澤冬樹
 
 

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『がんばりょんかぁ、マサコちゃん』第19話


 
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