「朝日新聞」の深刻な現状に驚愕する。今の朝日新聞の自由のない言論機関は衰退していった過去に繋がる。朝日新聞は敗戦時「大翼賛会に参加した反省を乗り越えて」という崇高な言葉を発し現在に至っているはず。その朝日新聞が過去を蘇るような事を、そして今日本がまさに分岐点に立っている時に、こんな時代錯誤、憲法違反である「言論統制」を犯してよいもであろうか。朝日新聞の姿勢に愕然としながら青木さんの著作を読みたいと今痛烈に感じている。
内田樹さん
「いままで言うべきことを言っていた人たちは、会社をどんどん去っています。新聞を読む人が減って、新聞社の売り上げが落ちているなかで、記者の言論活動まで規制するようになれば、権力を監視する新聞本来の目的を見失い、広告費をたくさん出すところにすり寄っていくことになりかねません。」
朝日新聞に著書“出版禁止”を出された社員が語る「新聞社の言論規制」調査で明らかになった「臆病になる新聞」
「いまの風潮が進めば、新聞社が報道の使命をはたせなくなってしまう」
そう危機感を募らせるのは、朝日新聞の青木美希氏だ。
そう危機感を募らせるのは、朝日新聞の青木美希氏だ。
特報部の記者として、福島原発事故後に手抜き除染問題をスクープするなど「新聞協会賞」を3度、受賞。2018年に出版した『地図から消される街』(講談社)では、復興途中の福島の被災者を取材し、大手メディアが伝えない“不都合な真実”に迫った。
「昔からずっと、エネルギー問題に興味がありました。そこに、福島原発事故が起きました。被災地では復興政策が進められていますが、本当に被災者のほうを向いた政策なのか、疑問を持ちました。それで、福島の方々に会いに行き、被災地で起きている事実を執筆したのが『地図から消される街』でした」
被災者の声を丁寧に救い上げた本は「貧困ジャーナリズム大賞」を受賞し、話題を呼んだ。
その後、青木氏は記者職から異動したが、自身のライフワークとして取材を続けていた。そして、次の本を出版しようというタイミングが訪れたのだ。
「2021年10月のことでした。今度は与党の国会議員にインタビューをし、『なぜ原発を止められないのか』 を聞いていくものでした。取材も終わり、会社に必要な出版の届けを出すと『この本を出すのは認められない』と言われたのです。
政治家の生の声を伝える内容に、何か問題があるとも思えないし、何がダメなのか分かりませんでした」
社員が本などを出版する際、会社への届け出を義務づけている企業は多いが、それは、社員の社外での言論活動を把握するためだ。
朝日新聞社でも、記者職、非記者職を問わず、出版自体は認められており、社員による出版も多い。出版を希望する際は、所属長への届け出が義務づけられており、出版内容をもとに会社が、それらを「職務」と「非職務」の2つに判断していく。
「職務」と判断されれば、朝日新聞社が関与する形で本が出版され、著作権も原稿料も会社に入ることになる。しかし、執筆した社員にも、会社から報奨金が支払われる。
一方で、「非職務」と判断された場合、朝日新聞社が関与しないものとして出版が認められ、執筆者が著作権を持ち、原稿料も社員に直接、支払われる。
そして、なによりも朝日新聞社では、届けを出せば、「職務」と「非職務」の判断は分かれるものの、出版自体が認められなかった前例がなかったという。
しかし、青木氏の場合は、出版自体に会社からストップをかけられたのだ。
「納得ができなかったので、何度も会社とやり取りをすると、文書でこんな内容が書かれた回答がありました。
『現在の業務の内容、量とのバランスに加え、関係する部門の業務内容、量とのバランスも考慮した結果、職務による社外活動は認められない』。
この回答を見たときにはびっくりしました」
青木氏は、記者職から異動していたために、取材先にアポイントを取る際には、先方に「朝日新聞」の取材ではないと断り、個人ジャーナリストとして申し込んでいた。インタビューも、業務に支障がないように、休暇を取ったうえでおこなっていた。
それにもかかわらず、朝日新聞社は青木氏の取材は「職務にあたる」と判断したうえで、だからこそ「勝手な出版は認められない」といった回答をしたというわけだ。
この判断に、青木氏はかなりの衝撃を受けたという。
「完全に個人の言論活動なんです。朝日の名前を使わず出版するのに、それでもダメだと言われたら、会社に所属する間は本を出せなくなってしまう。
私だけの問題ならまだしも、もしこんなことが新聞社で続くようなら、言論機関としての役割を果たせなくなっていくと感じました」
朝日新聞労組の組合員である青木氏は、同じようなケースが新聞社で起きていないか、「新聞労連」の特別中央執行委員に就任して、全国の新聞社で働く組合員にアンケート調査をすることにした。すると、ほかの新聞社でも、社外言論活動を規制する動きがあることが分かった。
「北海道新聞が、2016年2月から社外言論活動を規制する、と発表したことがありました。社外メディアに執筆などをする際には、7日前までに会社の許可が必要で、関係資料を会社に提出することも求められます。会社の肩書を使わなくても、(肩書の使用が)類推できるようであれば、処分する可能性もあるとの内容です。結局、社員たちが反対したため、この規則の実施は延期になりました。
アンケート結果を含むこうした内容は、6月3日に新聞労連が開いたシンポジウム『言論機関の自由を考える』で発表しました。政治権力を監視しないといけない新聞が、こうした、記者活動を規制するような規則を作ってはいけないと思います」
それにしても、なぜ新聞が社員の社外言論活動を規制するようになったのか。青木氏は、新聞社が萎縮しているからではないかと指摘する。
「外部から叩かれることを、怖がっているように思えます。批判に臆病になり、何でもまず社内でチェックしようとなる。私が記者から異動になった際、Twitterで『戸惑っています』とつぶやいたところ、ありがたいことに『青木を異動させないでほしい』との電話が会社に相次ぎました。すると、当時の上司から呼び出され、『発信した人の意図に反して、違う形で会社に好ましくない影響を及ぼす場合がある。ぜひ、気をつけてほしい』と注意されました。
しかし、誰かを誹謗中傷したわけではありません。自分が感じたことをつぶやいて、何がいけないのでしょうか。朝日の記者にはTwitterを開設している人が数多くいますが、こんなことでは何も言えなくなってしまいます」
青木氏は新聞の将来に警鐘を鳴らす。
「記者は記者職から配置転換されることをいちばん恐れますが、意見を言うと異動させられるリスクが増えるために、だんだんと意見を言わなくなります。
いままで言うべきことを言っていた人たちは、会社をどんどん去っています。新聞を読む人が減って、新聞社の売り上げが落ちているなかで、記者の言論活動まで規制するようになれば、権力を監視する新聞本来の目的を見失い、広告費をたくさん出すところにすり寄っていくことになりかねません。
新聞は、過去に国家と同調して、戦争に突き進んでいきました。同じ過ちを繰り返さないか、とても懸念しています。
幸いなのは、ものが言えなくなっている風潮を何とかしなければ、と思っている社員は朝日のなかにもいて、社内からたくさんの励ましのメールをいただいていることです。
私も、会社に残って努力をしていきたいと思っています。ただ、相手は強大な朝日新聞です。いち社員では弱い立場なので、この取材も、朝日新聞労組の活動のひとつとして、現状をお話しました」
朝日新聞社に、青木氏の出版を不承認にした理由などを尋ねたところ、「職務と判断した理由は社内規定に基づくものであり、個別案件の公表は差し控えます」(広報部)との回答があった。
『放送レポート』編集長の岩崎貞明氏が指摘する。
「記者がSNSで発信する機会が増えて、会社が社員の情報を管理する必要に迫られているのはわかりますが、青木さんは独自に取材をして本を出そうとしたわけです。本来なら会社の承諾も必要ないぐらいで、出版を止めるのは、表現の自由に踏み込み過ぎています。このように、経営側の事情で社内の言論を封殺していくのは、新聞社の自殺行為といえます」
一時は800万部を誇った朝日新聞の部数は、400万部近くまで減少している。朝日に限らず、新聞の凋落には歯止めがかからない。
記者のやる気がなくなり、紙面に読み応えがなくなれば、新聞はますます見放されることになるだろう。
(取材&文・形山昌由)
「昔からずっと、エネルギー問題に興味がありました。そこに、福島原発事故が起きました。被災地では復興政策が進められていますが、本当に被災者のほうを向いた政策なのか、疑問を持ちました。それで、福島の方々に会いに行き、被災地で起きている事実を執筆したのが『地図から消される街』でした」
被災者の声を丁寧に救い上げた本は「貧困ジャーナリズム大賞」を受賞し、話題を呼んだ。
その後、青木氏は記者職から異動したが、自身のライフワークとして取材を続けていた。そして、次の本を出版しようというタイミングが訪れたのだ。
「2021年10月のことでした。今度は与党の国会議員にインタビューをし、『なぜ原発を止められないのか』 を聞いていくものでした。取材も終わり、会社に必要な出版の届けを出すと『この本を出すのは認められない』と言われたのです。
政治家の生の声を伝える内容に、何か問題があるとも思えないし、何がダメなのか分かりませんでした」
社員が本などを出版する際、会社への届け出を義務づけている企業は多いが、それは、社員の社外での言論活動を把握するためだ。
朝日新聞社でも、記者職、非記者職を問わず、出版自体は認められており、社員による出版も多い。出版を希望する際は、所属長への届け出が義務づけられており、出版内容をもとに会社が、それらを「職務」と「非職務」の2つに判断していく。
「職務」と判断されれば、朝日新聞社が関与する形で本が出版され、著作権も原稿料も会社に入ることになる。しかし、執筆した社員にも、会社から報奨金が支払われる。
一方で、「非職務」と判断された場合、朝日新聞社が関与しないものとして出版が認められ、執筆者が著作権を持ち、原稿料も社員に直接、支払われる。
そして、なによりも朝日新聞社では、届けを出せば、「職務」と「非職務」の判断は分かれるものの、出版自体が認められなかった前例がなかったという。
しかし、青木氏の場合は、出版自体に会社からストップをかけられたのだ。
「納得ができなかったので、何度も会社とやり取りをすると、文書でこんな内容が書かれた回答がありました。
『現在の業務の内容、量とのバランスに加え、関係する部門の業務内容、量とのバランスも考慮した結果、職務による社外活動は認められない』。
この回答を見たときにはびっくりしました」
青木氏は、記者職から異動していたために、取材先にアポイントを取る際には、先方に「朝日新聞」の取材ではないと断り、個人ジャーナリストとして申し込んでいた。インタビューも、業務に支障がないように、休暇を取ったうえでおこなっていた。
それにもかかわらず、朝日新聞社は青木氏の取材は「職務にあたる」と判断したうえで、だからこそ「勝手な出版は認められない」といった回答をしたというわけだ。
この判断に、青木氏はかなりの衝撃を受けたという。
「完全に個人の言論活動なんです。朝日の名前を使わず出版するのに、それでもダメだと言われたら、会社に所属する間は本を出せなくなってしまう。
私だけの問題ならまだしも、もしこんなことが新聞社で続くようなら、言論機関としての役割を果たせなくなっていくと感じました」
朝日新聞労組の組合員である青木氏は、同じようなケースが新聞社で起きていないか、「新聞労連」の特別中央執行委員に就任して、全国の新聞社で働く組合員にアンケート調査をすることにした。すると、ほかの新聞社でも、社外言論活動を規制する動きがあることが分かった。
「北海道新聞が、2016年2月から社外言論活動を規制する、と発表したことがありました。社外メディアに執筆などをする際には、7日前までに会社の許可が必要で、関係資料を会社に提出することも求められます。会社の肩書を使わなくても、(肩書の使用が)類推できるようであれば、処分する可能性もあるとの内容です。結局、社員たちが反対したため、この規則の実施は延期になりました。
アンケート結果を含むこうした内容は、6月3日に新聞労連が開いたシンポジウム『言論機関の自由を考える』で発表しました。政治権力を監視しないといけない新聞が、こうした、記者活動を規制するような規則を作ってはいけないと思います」
それにしても、なぜ新聞が社員の社外言論活動を規制するようになったのか。青木氏は、新聞社が萎縮しているからではないかと指摘する。
「外部から叩かれることを、怖がっているように思えます。批判に臆病になり、何でもまず社内でチェックしようとなる。私が記者から異動になった際、Twitterで『戸惑っています』とつぶやいたところ、ありがたいことに『青木を異動させないでほしい』との電話が会社に相次ぎました。すると、当時の上司から呼び出され、『発信した人の意図に反して、違う形で会社に好ましくない影響を及ぼす場合がある。ぜひ、気をつけてほしい』と注意されました。
しかし、誰かを誹謗中傷したわけではありません。自分が感じたことをつぶやいて、何がいけないのでしょうか。朝日の記者にはTwitterを開設している人が数多くいますが、こんなことでは何も言えなくなってしまいます」
青木氏は新聞の将来に警鐘を鳴らす。
「記者は記者職から配置転換されることをいちばん恐れますが、意見を言うと異動させられるリスクが増えるために、だんだんと意見を言わなくなります。
いままで言うべきことを言っていた人たちは、会社をどんどん去っています。新聞を読む人が減って、新聞社の売り上げが落ちているなかで、記者の言論活動まで規制するようになれば、権力を監視する新聞本来の目的を見失い、広告費をたくさん出すところにすり寄っていくことになりかねません。
新聞は、過去に国家と同調して、戦争に突き進んでいきました。同じ過ちを繰り返さないか、とても懸念しています。
幸いなのは、ものが言えなくなっている風潮を何とかしなければ、と思っている社員は朝日のなかにもいて、社内からたくさんの励ましのメールをいただいていることです。
私も、会社に残って努力をしていきたいと思っています。ただ、相手は強大な朝日新聞です。いち社員では弱い立場なので、この取材も、朝日新聞労組の活動のひとつとして、現状をお話しました」
朝日新聞社に、青木氏の出版を不承認にした理由などを尋ねたところ、「職務と判断した理由は社内規定に基づくものであり、個別案件の公表は差し控えます」(広報部)との回答があった。
『放送レポート』編集長の岩崎貞明氏が指摘する。
「記者がSNSで発信する機会が増えて、会社が社員の情報を管理する必要に迫られているのはわかりますが、青木さんは独自に取材をして本を出そうとしたわけです。本来なら会社の承諾も必要ないぐらいで、出版を止めるのは、表現の自由に踏み込み過ぎています。このように、経営側の事情で社内の言論を封殺していくのは、新聞社の自殺行為といえます」
一時は800万部を誇った朝日新聞の部数は、400万部近くまで減少している。朝日に限らず、新聞の凋落には歯止めがかからない。
記者のやる気がなくなり、紙面に読み応えがなくなれば、新聞はますます見放されることになるだろう。
(取材&文・形山昌由)