「海外の要人は前職や元職であってもVIP扱いになる。飛行機はファーストクラス、宿泊先も東京都心の一流ホテルでスイートルームが用意される」「最高級スイートに宿泊すれば、1泊当たりの料金は300万円前後にもなる」

 

 

円安、値上げ、癒着、国葬問題…ここにきて総理大臣「岸田文雄」に全国民が感じている失望感

 
 第2次岸田改造内閣が発足して1ヵ月も経たないうちに内閣支持率が急落を続けている。



 毎日新聞世論調査(8月20日~21日)では、支持率が前回調査から16ポイント減の36%となった。また、朝日新聞世論調査(8月27日~28日)でも、支持率は10ポイント下がり47%と、50%の大台を割り込んだ。

 そんな中にあって、岸田内閣の重要閣僚の1人、西村康稔経済産業相の福島県への出張をめぐって、経済産業省の福島復興推進グループが作成した文書が物議を醸している。その詳細は、前編記事『「世界美人図鑑」で“炎上”の、西村康稔大臣にまた物議…流出した「取り扱いマニュアル」書かれた驚愕の中身』で著した通りだ。

 岸田内閣は今、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題、安倍元首相の国葬をめぐる経緯と30億円近くかかるとみられる総費用の問題、そして、新型コロナウイルス感染者の「全数把握」に関する混乱で三重苦にあるが、打開策はあるのだろうか…。

 
拍子抜けだった岸田首相復帰会見

 当の岸田首相は、新型コロナウイルス感染の療養から復帰した8月31日、記者会見に臨んだ。

 旧統一教会と閣僚をはじめとする自民党議員との関わりについて、「党総裁として率直にお詫びする」と述べ、今後は関係を断つ考えを示した。

 しかし、安倍元首相の国葬に関しては、「(国会の閉会中審査に出席して)丁寧な説明に全力を尽くす」「国葬にかかる費用の全体像については、できるだけ早く示すよう努力する」と述べるにとどめた。

 旧統一教会問題こそ、会見に先がけて開かれた自民党役員会で、関係を一切持たないことを党の行動指針に盛り込んだのを受けて、世論の批判を和らげようと頭を下げて陳謝したが、国葬にした経緯や総費用に関しては、ほぼゼロ回答。踏み込んだ発言は皆無だった。

 国葬に関しては、8月26日、国費から2億5000万円の支出を閣議決定している。しかし、これには、各メディアが伝えてきたとおり、海外要人の警護や警備にかかる費用、宿泊や飲食といった接遇に関する費用は含まれていない。

 そこに、自民党の二階俊博前幹事長が無造作に語った「葬式に30億円もかかるのか」発言が広まり、「これはまずい」との声が自民党内にも拡がっている。

 9月27日午後2時、日本武道館で催される安倍元首相の国葬には、アメリカからハリス副大統領、オバマ元大統領、インドからモディ首相、ドイツからメルケル前首相らの参列が確実視されている。

 海外の要人は前職や元職であってもVIP扱いになる。飛行機はファーストクラス、宿泊先も東京都心の一流ホテルでスイートルームが用意される。

 仮に、ホテルオークラの最高級スイートに宿泊すれば、1泊当たりの料金は300万円前後にもなる。

 過去の例を見れば、「即位の礼」でVIPの滞在関係費に50億円が支出されているが、安倍元首相の国葬でも、海外の要人の滞在関係費を全て日本側が持つとすれば、それに近い経費が飛んでいくことになるだろう。

 近く国会の閉会中審査に岸田首相が出席して質疑に答える場合、旧統一教会問題で言えば、自民党が全所属国会議員に実施したアンケート結果の公表、安倍元首相の国葬で言えば、費用の概算と財源ぐらいは明らかにすべきだ。

 思い起こせば、先の菅内閣の政権末期、内閣支持率が3割、不支持率が6割と、支持と不支持が1対2の割合となった。岸田内閣も、参議院選挙に勝って「黄金の3年間」になるどころか、菅内閣と同じような支持率をたどりつつある。

 そこに、前編で記した西村経産相の取扱マニュアルまで明るみに出れば、さらに厳しさを増すのではないだろうか。

 岸田首相は、安倍元首相の国葬に伴う海外の要人との会談で「外交の岸田」をアピールする腹積もりだが、中国から王岐山国家副主席クラスが、そして台湾から安倍元首相の葬儀と同じ頼清徳副総統が来日した場合、難しい対応を余儀なくされる。

 このように、三重苦どころか四重苦や五重苦に直面する中で、少なくとも旧統一教会問題と安倍元総理の国葬問題だけはクリアしなければ、秋の臨時国会で集中砲火を浴び、過去最大規模となりそうな防衛費増額問題など大事な議論すらできなくなる。
 
 
 
着々と習近平3選への準備が進む中国


 こうした中、中国共産党は、習近平総書記の3選がかかる5年に1度の党大会を、10月16日に開催することを決めた。

 これは5年前、習総書記が「神」のごとく崇拝された党大会と同時期に当たる。党大会の開催が11月にずれ込むようだと、それだけ党内で暗闘が続いていることを意味し、3選が危ぶまれると見ていたが、同時期であれば、3選に向けた地ならしが順調に進んでいると考えていい。

 習総書記は、共産党の重鎮が集い、習指導部の政治運営の是非などを議論する夏の北戴河会議で、長期政権への反対論を封じることに成功したのであろう。

 これにより、前回と同じ時期に開催される党大会は、習総書記のこれまでの「重大な成果」を全面的に総括し、習総書記が掲げてきた「共同富裕」(格差是正)や「中華民族の偉大な復興」(台湾統一)などの実現に向け団結をアピールする場になりそうだが、だとすれば、要注意である。

 このところ中国は、9月29日の日中国交正常化50周年に合わせ、日本側に秋波を送っている。その証拠が、8月17日、中国外交担当トップの楊潔篪(よう・けつち)共産党政治局員が、外交上、格下に当たる秋葉剛男国家安全保障局長と直接会談したことだ。

 日中国交正常化50周年は安倍元首相の国葬から2日後だが、ここで日中首脳オンライン会談がセットされる可能性もある。

 台湾へのブラフにかこつけ、日本のEEZ(排他的経済水域)にも弾道ミサイルを撃ち込んで間もないが、取って付けたような秋波は、日本を取り込み、日本とアメリカを中心とした中国包囲網にくさびを打ち込みたいという思いの表れである。

 そのような中国、とりわけ、長期政権を可能にする習総書記と渡り合うには、岸田首相に一定の求心力が必要になる。

 前編で著した、西村経産相の出張に伴う内部文書が私たちに漏れること自体、政権に緩みがあると言われても仕方がない。岸田首相には閣内や党内の引き締めともども、初心に帰って国民にきちんと説明する姿勢を望みたい。

清水 克彦(政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師)