これは自衛隊の隠蔽した密室主義の中で起きた事件。人権を無視した暴力犯罪をきっちり調査し、改善すべき大きな課題。今までに声に出せなかった人々がいた。その思いを共有するときである。

 

 

訓練中に性被害に遭ったと告発している元自衛官の女性が立憲民主党の会合に出席し、「同じような被害者が出る」と、再発防止を訴えました。

五ノ井里奈さん

「このままじゃ、絶対同じ被害者が出る。徹底的に第三者に調査してもらって、厳正な処分と謝罪を望んでいる」

元陸上自衛官の五ノ井さんは去年8月、訓練中に複数の男性自衛官から性被害に遭ったと訴え、被害届を出しました。しかし、嫌疑不十分で不起訴処分になったため、検察審査会に不服を申し立てています。

10日の立憲民主党の会合で五ノ井さんは、「同じような被害者が出る」として、第三者による調査委員会の設置のほか、自衛隊でのセクハラ教育の充実など、再発防止を訴えました。

五ノ井さんに賛同する署名は現在およそ6万8000にも上り、五ノ井さんは今月末にも、集めた署名を防衛省に提出する予定です。

 

 

※AERAdot.はその被害について、7月14日に配信した記事<<22歳元女性自衛官が実名・顔出しで自衛隊内での「性被害」を告発 テント内で男性隊員に囲まれて受けた屈辱的な行為とは>>で詳報している。

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「複数の男性隊員が見ていて恥ずかしくて、嫌だったので抵抗したのですが、男性隊員の力にはかないませんでした。もう逃げられないと思ったので、諦めて、ただ終わるのを待っていました。その時、横にいた上司2人は(その様子を見て)確実に笑っていました……」

 五ノ井さんは、集まった多くの議員やメディアの前で、2021年8月3日の訓練中に受けた性被害の状況を、そう告白した。

 今回のヒアリングでは被害後の自衛隊側の対応について話した。まず、被害後、自衛隊の総務・人事課にあたる「一課」に報告。一課長が部隊に対して取り調べをしたところ、「(21年)8月の件については証言が出てこなかった」とされたものの、「今までのセクハラの件については証言があった」と、日常的なセクハラを認めたことを五ノ井さんは明かした。その後、五ノ井さんは、警務隊に強制わいせつ事件として被害届を提出し、9月18日に人形を使った現場検証を行った。

 五ノ井さんはこう話す。

「この時、『訓練があるので、すぐには該当の人物には取り調べができない』と警務隊に言われ、(捜査が)1カ月ほど長引いていました。その1カ月だけでも、記憶が段々薄れていくと思いました」

 検察庁から結果の知らせが来るのを待っていたが、連絡は来なかった。時間の経過だけでなく、事件として立件されているのか不安が募った五ノ井さんは、22年4月に検察庁に連絡した。

「いつ書類送検されたのかを聞くと、『今年(2022年)に入ってから』と言われました。検察官からは、『五ノ井さんの証言は正しいと思うけど、もし(部隊の)20人が見ていない、やっていないと言ったら、難しくなってくる』とも言われました」(五ノ井さん)

 そして5月31日、嫌疑不十分で関係者は不起訴処分になった。五ノ井さんは追加の証拠を伴い、6月7日付で検察審査会に再審査を申し立て、現在その結果を待っている。

 ヒアリングのあとの質疑応答では、ハラスメントの相談窓口が自衛隊にあるかを問われた。

 五ノ井さんによると、入隊してすぐに受ける前期教育では専門家によるセクハラ・パワハラに関する教育があり、相談窓口もあることを知っていたという。

 だが、五ノ井さんは、被害を相談しなかった。

「理由は、(相談しても)動きが遅いから機能しないということを、周囲から聞いていたので、被害にあった時に相談しようとは思いませんでした。自衛隊は上下関係の社会なので、下の階級は順序通りに、一つずつ上の階級に報告しなければなりません。階級を飛び越えて、上に相談すると、後から問い詰められます。結局、部隊の中で、一つ上の階級の人に言ったところで、揉み消されて終わってしまいます」(五ノ井さん)

 ヒアリングを行った立憲民主党・長妻昭議員は、7月に2回、防衛省に対して厳正な調査を文書で要請していた。防衛省人事教育局服務管理官からの回答には、「本件につきましては、部隊において揉み消しを行っているなどの疑いも指摘されていることから、客観性・公正性を確保するため、当該部隊ではなく、その上級部隊において調査を行っています」とあった。

 この回答について、長妻議員は言う。

「防衛省の文書に『揉み消し』と書いてある。これは非常に深刻だと思います。危惧されるのは、懲戒処分にもいろいろな段階があり、軽い懲戒処分を年明けくらいに出して、それでお茶を濁すこと。これは絶対にあってはならないと思います」

 

 五ノ井さんの告白後、同様に被害にあっている自衛隊員からも声が上がってきていることを受け、長妻議員は「ここで、一気に全部の膿を出し、まっとうな組織に変える思いで取り組んでいきたい」と語気を強めた。弁護士を含めた第三者委員会による調査を行い、自衛隊内に蔓延るハラスメント被害の全容を明らかにしていくべきだと、訴えた。

 外交防衛委員会の小西洋之議員は、防衛省に「性暴力委員会」を設置するなど、再発防止策について検討したいと話した。

いた防衛省の担当者にこう投げかけた。

「私は東日本大震災に遭い、陸上自衛隊の方に助けていただいたことを本当に感謝しています。だからこそ、こういう被害を経験して、本当に残念でした。このままでは、また同じ被害者が出ると思います。かつて同じ中隊で働いていた女性隊員が、今でも私と同じように被害にあっているという証言が出ています。第三者委員会による徹底的な調査と、厳正な処分、謝罪を望みます。もっと女性隊員が安心して勤務できる環境を作って欲しいと思います」

 第三者委員会による公正な調査を求めるオンライン署名(Change.org)は、67903人(8月10日時点)集まり、賛同の輪が広がっている。署名は8月末まで集め、防衛大臣に提出する予定だ。署名と同時に「自衛隊内におけるハラスメントの経験に関するアンケート」も実施している。9日までの中間結果では、自衛隊に所属した経験がある人がハラスメントを受けた件数は99件だった。そのうち59人は女性で、8割以上がセクハラおよびマタハラを受けたと回答した。

 

 Change.orgによると、ハラスメントの具体例は60人以上から自由記述による回答があった。一部を抜粋する。

「2019年頃、2年間だけ陸上自衛隊でした。入隊してすぐの訓練で日本酒を一気飲みさせられました。『上司からもらったお酒を残すな』と言われました。その時、私は18歳でした」(20代、陸上自衛隊、女性)

「妊娠初期の頃、当直勤務をしていたのですが、上司から『妊娠しても5カ月までは当直についてもらわないとね』と言われました。4日間の当直勤務明けに体調が悪くなりました。その影響でメニエール病を発症し、今でも治療を続けています」(20代、陸上自衛隊、女性)

「防大の指導官に、任官の不安を相談した際に『自衛隊は男ばっかりだから、より取り見取りだぞ。たくさんやって、いい男を見つけて子どもを産めばいいぞ。女は使えないけど、チヤホヤされるからとりあえず任官してみろ』と言われた。また、寝室に侵入され、下着を盗まれた際には、盗まれるような思わせぶりな態度をとるのが悪いと言われた」(20代、防衛大学校、女性)

「2014年頃着隊して、初めての泊りがけの宴会で、男性先輩方が盛り上がり、浴衣を脱がせ合う流れになり、『お前も脱げよ』と腕を引かれて、やり玉にあげられそうになった。私が持参していたカメラで、いつの間にか男性隊員たちがお互いを取り合っていた。データは絶対に見たくなかったので、当時の先任に渡して消去してもらった」(20代、航空自衛隊、女性)

「PKOの参加希望について先輩と話した時、『お前みたい(背が低くて力が無い)のは、性処理要員にしか使えないから無理(笑)』と言われ、フォローのつもりか『PKOに連れて行くのは、間違いがないようにブスしか連れていけない(笑)』などと言われたことがある」(40代、航空自衛隊、女性)

「私は男性ですが、隊内浴場で同性愛者の男性に身体の関係を持ち出されました。他にも、浴場で身体を洗っている時に同じ小隊の男性自衛官に陰部を身体に押し当てられました。その時は、嫌とは言えず、笑って誤魔化しましたが、いま考えるとありえないことだし、自衛隊はチームワークが大切なので、こんなことあってはならないです」(20代、陸上自衛隊、男性)

「後期教育隊で、清掃の時間に班長に清掃終了の確認をお願いしたところ、『指摘事項が見つかったら、1枚ずつ服を脱げ。脱ぐ服が無くなったら、下の毛を班員に抜かせる』と言われました。指摘事項が服の枚数を超えたため、それが実行されました」(20代、陸上自衛隊、男性)

 五ノ井さんの勇気ある告発は、多くの被害体験者に声をあげることを促しただけにとどまらない。この先、高い志を持つ有能な隊員や、将来のなり手を守ることに、大きく貢献するはずだ。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

 

 

発信者:五ノ井 里奈 宛先:岸 信夫(防衛省 防衛大臣)

 私は五ノ井里奈といいます。22歳で、今年の6月27日まで陸上自衛隊に所属していました。

 私が自衛隊を辞めざるを得なかった理由は、訓練中に性被害があったこと、そして私の被害報告に対して真摯な対応をして頂けなかったことにあります。

 私が性被害を実名・顔出しで告発するに至った理由は、私の所属していた部隊で隠蔽や口止めが働いているという証言を得たからです。このままなかった事にされれば次の被害者が出てしまうと思い、覚悟を決めて、声を上げる事にしました。まず、私が受けた被害についての再調査と謝罪を求めると共に、再発防止の為にも声を上げていきたいと思っています。

 今回再調査を希望している事件について、経緯をお話しします。

 自衛隊に入隊してからセクハラは日常的に受けていましたが、私が告発を決意したのは、2021年8月3日に起きた性被害でした。訓練場所の宿舎で、先輩の男性隊員3名が、かわるがわる私の首をキメて押し倒し、私の股を広げ、陰部に性器を何度も押し当てるようにして、腰を振ってきたのです。その様子を見ていた男性隊員は他にも十数名いたのにも関わらず、止めてくれる隊員はおらず、笑ってみている状態でした。

 私の被害申告を受けて、自衛隊の総務・人事課にあたる1課が取り調べをしましたが、目撃していた男性隊員は、誰も証言してくれませんでした。このままではいけないと思った私は、自衛隊内での犯罪捜査を専門とする警務隊に被害届を出し、取り調べをしてもらった結果、強制わいせつ罪で検察庁に書類送検になりました。検察官の取り調べでは、

「五ノ井さんの証言は真実なものだと思うけど、20人が見ていない、やっていないと言ったら難しくなってくる」

 と言われました。そして2022年5月31日、不起訴という結果が出ました。不起訴理由が知りたかったので、検察官に、電話をして聞いてみたところ、

「『首ひねり』という技で倒すまでは見ていた人も、やったと言っていた人もいるけども、腰をふったという証言が出ていない」
「客観的な証拠がないので五ノ井さんの証言だけでは立証するのが難しいため、不起訴にしました」

 と言われました。
 その後、6月7日に検察審査会に不服申立をし、現在、結果を待っているところです。しかし、その審査はいつまでに結果が出るのかも分かりません。

 長妻昭議員のツイート( https://twitter.com/nagatsumaakira/status/1547756046986641409 )では「事実関係の調査を行っている」と回答されていますが、私のところにはなにも連絡がきていません。また、各メディアの記者さんも防衛省や自衛隊に問い合わせをしてくれていますが、誰がどの様に再調査しているのかは、当事者の私でさえ分からない状況です。



 事実を明らかにするため、第三者委員会による、公正な調査をするよう、防衛省に求めます。

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 自衛隊の中での性被害やハラスメントは、相談することも難しく、なかなか表にでてきません。そのため、被害経験を集めるgoogle formをつくりました。お預かりした声は、プライバシーに注意した上で、しかるべきかたちで発信していきたいと思っています。こちらもぜひ、ご協力ください。

https://forms.gle/9SQqxSikFxtSCi1F8