志位和夫(日本共産党委員長)

 

 

 年内に行われる衆議院議員選挙に向けて、野党共闘の働きかけを積極的に進める日本共産党。新型コロナウイルス感染症の拡大や環境問題を背景に、資本主義の限界を指摘する声も上がる中、共産党はどんな日本の未来図を描いているのか。志位和夫委員長に話を聞いた。(『中央公論』2021年7月号より抜粋)
 

─共産党がめざす社会主義・共産主義とは。

 ざっくり三点ほど言いたい。

 一つは、資本主義の矛盾を乗り越えた社会ということです。今、世界で大問題になっている貧富の格差の拡大、地球規模の環境破壊、あらゆる矛盾の根源に「利潤第一主義」がある。生産手段を社会全体のものにすれば、生産の動機が、「資本の利潤を増やす」ことから「社会全体の利益」に変わってくる。これが社会主義的変革の中心です。

 二つ目は、その社会の最大の特徴は一言で言うとどうなるか。エンゲルスが最晩年に、社会主義社会の基本理念を簡潔に表現する標語を問われて、「各人の自由な発展が万人の自由な発展の条件であるような一つの結合社会」という『共産党宣言』の一節を挙げました。全ての人間がそれぞれの能力を自由に全面的に発展させることができる社会。これが私たちの理想なのです。

 そういう社会を作るカギは何か。マルクスが出した結論は労働時間の抜本的短縮です。それによって自由な時間がうんとできれば、人間は自分の能力を自由に全面的に発展させるために使うようになるだろう。社会主義に進めば、人間による人間の搾取がなくなり、「大量生産・大量消費・大量廃棄」など資本主義につきものの浪費がなくなることによって、今の生産力の水準であっても社会全体が遥かに豊かになり、労働時間を抜本的に短くすることができる。これがマルクスの展望でした。

 最後の三点目は、綱領にも明記したのですが、私たちのめざす社会主義・共産主義は、資本主義のもとで獲得した価値あるものを全て引き継いで発展させる。後退させるものは何一つないということです。例えば労働時間短縮など暮らしを守るルールは、全部引き継いで発展させる。日本国憲法のもとでの自由と民主主義の諸制度も、全て豊かに発展的に引き継いでいく。せっかく社会主義になっても資本主義より窮屈でさみしい社会になったら意味がないわけです。日本は発達した資本主義のもとですでに多くの達成を手にしています。それを出発点にして先に進むわけですから、ロシアとか中国とは全く違う計り知れない可能性がある。

 マルクスもエンゲルスも社会主義革命はヨーロッパの先進国から始まると考えていました。実際の歴史はロシアや中国など遅れた国から革命が始まり、それが前に進むうえでの大きな困難の一つになりました。そういう世界史的経験を踏まえて、私たちは綱領の中に、「発達した資本主義国での社会変革は、社会主義・共産主義への大道」だと書き込みました。これは世界のどこでも実現しておらず、その道に進み出した国もない。だから日本で進むなら人類初の挑戦になるのです。

 

覇権主義と人権侵害の中国
 

─ソ連や中国は発達した資本主義に至らなかったために、正しい社会主義に移行できなかった?

 そう単純でもないのですが、ロシアも中国も資本主義の発展が遅れていました。生産力の水準が低く、自由と民主主義の制度もない、人間の個性の発展も未熟な段階から革命がスタートしました。そういう弱点を革命の指導勢力が自覚し、自由や民主主義の制度を作っていく努力が必要でした。ところがソ連はとくにスターリン以降、大量弾圧で専制国家にしてしまった。中国も「文化大革命」、天安門事件など人権弾圧をやってきた。さらに、ソ連は覇権主義で領土を拡張していくという致命的問題がありました。中国も、東シナ海や南シナ海などでの覇権主義的行動が大問題です。覇権主義と人権侵害という大きな弱点のためにソ連はつぶれ、中国は深刻な矛盾を抱えていると私たちは考えています。

─最近、改めてマルクスの『資本論』が注目されています。

『資本論』には格差拡大や環境破壊がどうして起こるのか、どうしたら解決できるのかについても、二十一世紀に生きる内容がたくさんある。それが今、『資本論』が世界でも日本でも注目される理由だと思います。そしてどちらも解決の根本的な道は社会主義への変革だということが書いてあるわけです。

 際限ない格差拡大を解決するには「利潤第一主義」という狭い枠組みを乗り越えていく必要がある。そのためには資本の手に握られている生産手段、つまり機械や工場・土地などを社会全体の手に移す。生産手段の社会化によって経済を「利潤第一主義」の狭い枠組みから解放する。これがマルクスの考えです。『資本論』は、資本主義社会の矛盾の分析だけではなく、それを解決するために社会主義への変革が必要だと明らかにした革命の書なのです。

『資本論』の中には、環境破壊のメカニズムについても叙述があるんです。マルクスは人間の生産活動を自然と人間の「物質代謝」の中に位置づけるんですね。「物質代謝」は生物学の言葉で、生命体が外界からエネルギーや自分の構成要素になるものを取り入れて、いらなくなったものを外に捨てる活動です。同じように、自然と人間の関係も、労働を通じて「物質代謝」が行われていると。ところが、資本主義的な生産は「利潤第一主義」による産業活動によって自然と人間との「物質代謝」の前提になっている自然環境を破壊していく。それをマルクスは「物質代謝の攪乱」という言葉で特徴づけています。当時、自然破壊が進んだのは農業分野で、資本主義的な農業生産によって、土地の栄養分がなくなり荒れ地になる。環境の破壊が起こり、まともな「物質代謝」は成り立たなくなる。この告発は、今日の深刻な環境破壊への的確な警鐘といわねばなりません。

 もちろん現在の地球規模での環境破壊の深刻さを考えると、世界が社会主義になるまで待っていられません。まずは資本主義の枠内で環境破壊を抑える最大限の取り組みを行うことが待ったなしの急務です。それをやりつつ、同時に、社会主義に進んでこそ根本的解決の道が開かれるということを大いに訴えていきたいと思います。


野党協議の重点は「政権のあり方」
 

─四月の国政補選、再選挙は野党が勝利しました。衆院選に向けて野党の選挙協力は進んでいきますか。

 三つの国政選挙は大きな成果をあげました。自民党がかなり強い広島でも勝った。選挙の後に立憲民主党の枝野代表と党首会談をして、野党が一本化したことが勝利につながったという点で認識が一致しました。同時に、その場で私が言ったのは、今後の問題として、互いの力をさらに発揮する共闘にするためには、「対等平等」「相互尊重」の二つの基本姿勢が大事だということです。枝野代表からも相互に尊重することは大事だという発言がありました。共闘は政治的に立場が違うもの同士が一致点で協力するものです。立場の違いをわかったうえで互いに対等平等で、また互いにリスペクトしてこそ力が出る。

 私は、今後の協議について、野党間の選挙区調整だけではなく、「共通政策、政権のあり方、選挙協力の三つの分野で協議していきたい」と提起しました。枝野代表は、「政策については違うところも当然あるが一致する点もある。一致する点を明らかにする話し合いをしていきたい」と言われました。共通政策を政党間協議で作っていくことになったのは、大事な前進だと考えます。

 特に「政権のあり方」で前向きの合意を作ることが、本気の選挙協力を進めていくうえで大変に重要になってくると思うんです。自公政権を倒すということは当然一致する。では倒した後にどういう政権を作るのか。よく閣内協力か閣外協力かと聞かれますが、私は、一貫して「どちらもありうる」と言っています。それはパートナーとなる政党や市民団体の皆さんと相談して一致点で決めればいい。私が強調したいのは、閣内であれ閣外であれ、安保法制廃止と立憲主義の回復という大義を土台にして日本共産党を含む政権協力の合意ができれば、共闘の画期的な新局面を開くことになるということです。何より国民に向けて、野党の本気度が伝わると思いますよ。

 

(『中央公論』2021年7月号より抜粋)

 

憲法に違反する「政党助成金」は受取らない。共産党と名ばかりの覇権大国にも堂々と批判をする、野党共闘に関しては党利党略をは一切無しの政治を国民に取り戻すんだという一念の本気後。他党にはないものを一杯持っている清々しい政党。私は大好き!時々私の口から発してしまう「人っ子良すぎ」でも将来をきちんと見据えた共産党の姿勢を知っていての言葉。