発足早々に何かと話題を集めている菅内閣だが、今後どのような政治手腕をみせるのか。その施政方針を、ブレーンのメンバーから読み解いてみた。AERA 2020年11月9日号では、菅首相のブレーンとなる成長戦略会議と内閣官房参与の顔ぶれを紹介しつつ、そこから見える方向性を専門家らに聞いた。

 

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●菅首相の主なブレーン(敬称略)

<成長戦略会議の有識者メンバー>
金丸恭文・フューチャー会長兼社長
国部 毅・三井住友フィナンシャルグループ会長
桜田謙悟・SOMPOホールディングス社長
竹中平蔵・慶応大名誉教授、パソナ会長
デービッド・アトキンソン・小西美術工藝社社長
南場智子・ディー・エヌ・エー会長
三浦瑠麗・山猫総合研究所代表、国際政治学者
三村明夫・日本商工会議所会頭

<内閣官房参与(カッコ内は担当分野)>
飯島 勲・元首相秘書官(特命)
平田竹男・早大教授(文化・スポーツ健康・資源戦略)
木山 繁・元国際協力機構理事(経協インフラ)
西川公也・元農林水産相(農林水産業振興)
今井尚哉・元首相補佐官兼首相秘書官(エネルギー政策等)
高橋洋一・嘉悦大教授(経済・財政政策)
宮家邦彦・立命館大客員教授(外交)
岡部信彦・川崎市健康安全研究所所長(感染症対策)
熊谷亮丸・大和総研チーフエコノミスト(経済・金融)
中村芳夫・経団連顧問(産業政策)
村井 純・慶応大教授(デジタル政策)

 京都大学大学院の藤井聡教授は安倍内閣で6年間、参与を務めた。参与が、政府とまったく同じ方向を向いていたら意味がないと藤井教授は考えている。助言の必要がないからだ。藤井教授自身は、10%への消費増税に強く反対する意見を各所で表明していたこともあって18年末に参与を退職したが、今回の顔ぶれをどうみるか。

「外交担当の宮家邦彦氏の対米政策や、経済・財政政策担当の高橋洋一氏の構造改革路線など、従来の政府の考え方に沿った人選がされているようです。安倍内閣は実は緊縮内閣だったので、そういう意味では経済・金融担当で消費減税の強力な主張者である熊谷亮丸氏の考え方とも一致しています」

 

 安倍前首相のアベノミクスでは、日本銀行と連携した「金融緩和」(第1の矢)、政府支出で仕事や所得を増やす「財政出動」(第2の矢)、企業などが活動しやすくする「成長戦略」(第3の矢)を打ち出した。

「参与と成長戦略会議のどちらの顔ぶれからも、トータルでは第2の矢を少し引っ込めて、第3の矢をさらに前に出している、というイメージを受けます」(藤井教授)

 参与でもう一人注目したいのは岡部信彦氏だ。新型コロナでは、政府の専門家会議やその後の分科会で対応にあたってきたが、徹底的なPCR検査の実施には抑制的な考えだったとされる。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師はこう話す。

 「国立感染症研究所OBの岡部先生は、厚生労働省の“お抱え”と言える存在です。この人事は、菅首相には医療についてのブレーンがいないと告白しているのと同じです。コロナ対策が迷走を続ける可能性が大です」

 独自のブレーンがいないと考えているのは、政治評論家の有馬晴海さんも同じだ。

「主に政局で生きてきた菅首相が急にトップに立っても、政策を一緒に構築できる人がいません。だから安倍前首相から引き継いだりテレビに出ている人たちからつまんだりして、なんとなく後押ししてくれそうな人を置いているのだと思います」

 日本学術会議問題で波乱含みの船出となった新政権。官僚人事などでも強権的な一面をのぞかせる菅首相だが、ブレーンたちとの付き合い方も注目だ。

(編集部・小田健司)

※AERA 2020年11月9日号より抜粋