麻生太郎財務相が14日発表した幹部人事は、予算編成を仕切り「次の次官」とされる主計局長への矢野康治氏の起用が最大のサプライズとなった。税制を担う主税局長からの横滑りは6年前に消費増税計画を控えて配置された田中一穂氏(現・日本政策金融公庫総裁)を除けば戦後例がない。

「間違っているのではないか」。今春、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて始まった2020年度第1次補正予算編成。矢野氏は経済産業省に乗り込み、政権に近い同省幹部が進めようとした中小企業向けの法人減税を撤回に追い込んだ。

利益の出ている企業を優遇しても弱者救済や景気の底割れ回避にはならないと論じた。矢野氏がその後、踏み切ったのは最大26兆円に上る納税と社会保険料の支払いを猶予する措置だった。

2012年の第2次安倍政権の発足後、菅義偉官房長官の秘書官に指名された。菅氏は矢野氏の直言をいとわぬ性格を評価している。安倍晋三首相も自身の地盤である山口県下関市を地元とする矢野氏の秘書官起用を一時、検討したとされる。

東大法学部卒ばかりの財務省で一橋大卒の経歴も目立つ。その抜てきを決めたのは麻生氏だ。

矢野氏と同じ1985年入省に可部哲生理財局長がおり、主計局長候補とみられていた。学校法人「森友学園」を巡る問題などで傷ついた組織の再建を担う官房長を動かしにくい事情もあり、麻生氏が次官コース最右翼の主計局長に選んだのは矢野氏だった。可部氏は国税庁長官に就く。

危機モードで国の借金はかつてない規模に膨らむ。異色の主計局長はどんな直言をするのか。

 

 

少し前の怪奇事件(?)

 

「官房長が行方不明」…財務省で“怪情報”が駆け巡ったウラ

 「官房長が行方不明」――。森友学園への国有地売却を巡る決裁文書改ざん問題で大揺れの財務省で14日午前、こんな怪情報が駆け巡り、永田町も巻き込んで大騒ぎになった。「前日13日に国会の委員会で答弁し、午後3時ごろに公用車で財務省に戻った記録はあるが、その後、行方がわからなくなった。14日も財務省に現れない」と解説され、省内で自殺者が出た直後だけに、「まさか」ということで騒ぎになったようなのだ。

  結局、14日午後になって、本人と連絡が取れ、所在が確認できたという。


 官房長というのは、霞が関の各省庁にあるポストで、官房部門の事務を取り仕切るのが仕事。官邸や他省庁との折衝や省内の人事の責任者でもある。財務省では“将来の次官”と目される重要ポストで、過去11代連続で官房長経験者が事務次官に就いている。

  行方不明とされた渦中の人物は矢野康治官房長(55)。1985年に一橋大経済学部を卒業し、財務省に入省。主税畑が長く、昨夏、主税局審議官から官房長に登用された。

 

 「矢野氏は菅官房長官の秘書官を務めたことがあり、菅長官に近い。官房長への抜擢は『官邸人事』と言われました。真面目で線の細いタイプなので『まさか』という動揺が走ったのだと思います。本人は『13日から風邪気味だった』と説明しているらしいが、そんな理由はどう考えてもおかしい。『決裁文書改ざん問題をめぐり官邸と裏工作をしていたのではないか』『心労がたたり倒れていたのではないか』などと噂されています」(財務省関係者)

■「財務省が大騒ぎ」裏を返せば……


 しかし、なぜ官房長が森友問題とリンクするのか? 財務省は14日も太田理財局長が国会で「当時の理財局トップは佐川局長で、佐川氏の関与の度合いは大きかったと思う」と答弁、改ざん問題は「理財局がやったこと」という立場だ。官房長が“自殺”する理由はないはずだ。


 「つまりそこが今回の問題の本筋だということですよ。官房長が行方不明で財務省が大騒ぎになるということは、裏を返せば、官房長が森友問題に深く関わっていると財務省内で認識されていることの証左。官房長は官邸との窓口です。やはり改ざんの指示は官邸から下りてきたのではないのか。くしくも行方不明騒動が、事の本質を浮かび上がらせたと言えます」(永田町関係者)

 森友問題は安倍夫妻問題だ。全ての責任を理財局と佐川氏に押し付けようなんて無理筋なのだ。