ネット上で誹謗中傷されていた女子プロレスラーの木村花さん(享年22)が急死したことを受け、“SNS規制”に動きだした安倍政権。高市早苗総務相は、発信者の“特定”を容易にするなどの制度改正を急ぐと表明し、自民党も三原じゅん子参院議員を座長とする対策プロジェクトチーム(PT)を立ち上げた。

 安倍政権の狙いは明らかだ。「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグが立ち上がるなど、SNSのネットデモに痛い目に遭っている安倍政権は、一気に規制を強め、うるさい政権批判を封じこめるつもりだ。

 しかし、ネット世論は安倍政権の脅しに怯えるどころか、反撃に出ている。28日に朝から広がり始めた「#政権批判は誹謗中傷ではない」のハッシュタグは、一時、国内トレンドの1位となり、ツイート数はわずか半日で9万を超えた。

〈主権者国民が政権を監視し、批判するのは当然の権利じゃないの?〉

〈誹謗中傷という言葉を政権批判の封じ込めに利用しようとしてる連中がいるんですよ〉

〈自民党がヘイトスピーチプロジェクトチームを立ち上げて最初に提案したのが「国会前のデモを取り締まりましょう」なんだから、自民党にネットの誹謗中傷対策なんてさせたら、政権批判を誹謗中傷認定して言論弾圧に走るに決まっている〉

 実際、安倍政権にSNS規制を許したら、政権批判を誹謗中傷扱いするのは目に見えている。

 2014年8月の自民党の「ヘイトスピーチPT」の初会合で高市政調会長(当時)は、国会デモについて「仕事にならない状況がある」と騒音扱いしていた。

 さらに、ネット上では「政権批判」について、安倍首相自身の過去の「主張」まで掘り起こされている。菅直人元首相から名誉毀損で訴えられた安倍首相は、首相批判が名誉毀損になることについて〈民主主義の根幹たる表現活動が萎縮する結果となる〉と裁判で抗弁していたのだ。自分が政権批判するのは許されるが、他人が批判するのは規制する、では、さすがに通らないだろう。

■長年の悪政で批判的視点が鍛えられた

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。

「安倍政権は公文書を改ざんし、“官邸の守護神”を検事総長に就けるために、ルールを破って黒川さんの定年延長までやった。この7年間、何度も悪事を目の当たりにして、国民は政権に対する批判的な視点が鍛えられたのだと思います。ですから、誹謗中傷の規制を口実にしたSNS規制の裏側にある魂胆についても、とっくに見抜いているということです。しかも、検察庁法改正案の強行成立を断念に追い込み、声を上げれば政治が変わるという成功体験をしたばかりです。安倍政権がSNS規制という形で表現の場に手を突っ込んでくることに強く反発するのは当然です」

 SNS規制を強化しようとしたら、ネットデモに反撃され、返り討ちに遭うだけだ。