ケンイチの手にはバインダーとシステム手帳が握られている。
座るなりバインダーとシステム手帳をテーブルに置く。
「早速、用意したんでね」
「はい、でも使うことを忘れることが多くて」
ケンイチがため息交じりにいう。
「最初からはうまく使えないよ。言われたことを実行することがいいところだよ」
「それくらいしかできないから」
本当に素直だ。
ADHHという生きづらさを抱えながらも大切に育てられたのがわかる。
ケンイチは24歳。
大学卒業した社会人2年目。
精神科クリニックにADHDの診断をうけている。
ADHDに効くと言われているコンサータ―を服薬してるが
変わらないからカウンセリングルームにやってきた。
一度だけ両親に会ったことがある。
温厚で優しそうな人たちだった。
「私たちは生きていてくれさえすればそれでいいのですが…」
弱弱しい父の声が聞こえる
これまでに2回、自殺未遂をして救急搬送をされたことがあったらしい。
2回とも部屋で首を吊っていたところを父が見つけた。
発達障害を抱える人は前ぶれがなく消えようとする。
致死率が高い手段を選ぶことが多い。
2回とも生還できたことは幸運だった。
「息子はどうしても何とかしたいらしくて」
父はテーブルに頭がつくくらいに下げる。
それに合わせるように母も球を下げる。
その強い想いたじろぐ。
その期待にこたえられるか自信がない。
「できるかぎることをさせてもらいます」
耳障りの良いことを言って終わりにする。